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81話 いつしかの《探訪者》たち

 《大迷宮》に入って半日もしないで十層に到達したテグスたちは、《階層主》が出る広間の前にある、小部屋状の場所へと入った。


「人が多いです」

「沢山待ってるの~」


 ハウリナとティッカリがテグスに呟いたように、そこの中には男女含めて十数人が。

 壁に背を預けたり、飲み食いしたりしながら、新しく入ってきたテグスたちへ控えめに視線を向けている。


「ですが開いてますよ、《階層主》へ続く扉が?」

「挑むために休憩しているのか、それとも……」

 

 テグスが《仮証》最後の日に蹴り入れられた時のように、他の人がやられる事で、コキト兵と戦いやすくなるのを待っているのか。 

 そのどちらでもいいかと思いつつ、テグスは彼ら彼女らからの視線を感じながら、先頭を切って先に進もうとする。

 するとその進路を塞ぐようにして、二人の男が立ち塞がった。


「おいおい。俺たちが待っているのが見えて無いのか?」

「そうだぜ、新人さんたちよぉ。順番抜かしはいけねぇよ?」


 歳は二十台に入るか入らないかと言う感じの二人の男。使い込まれた皮鎧を着てはいるが、手入れが雑なのか所々にカビが浮いている。

 明らかにテグスたちを下に見る態度に、テグスは鬱陶しげな視線を向けて、その顔に見覚えがある事に気が付いた。


「あの時、この先に蹴り入れてくれた人じゃないですか」

「ああ? なに言って――」


 そこでもう片方が、テグスが怒りの目で見ている事で思い出したのか、肘で軽く付いて発言を止めさせ、耳元へと口を寄せて何かを喋る。

 すると急に顔を怒りの色に染めて、テグスの胸倉を掴んだ。


「あの時のガキか。テメエの所為でな!」

「……なんですか、この手は?」


 あの時の何に怒っているのか分からないが、むしろ怒っても良いのはこちら側だろうと思いつつ。テグスは手が伸びてきたのを見て、箱鞘から短剣を抜いておき、胸倉を掴まれた瞬間に相手の腹へと切っ先をつけた。

 そんな光景を見てか、テグスの胸倉を掴む男の仲間らしき数人が腰を上げようとして、何かを警戒して中腰のまま固まる。

 テグスが横目で後ろを確認すると、アンヘイラが矢を弓に番えて、腰を上げようとしていた彼らの方へと向けていた。

 そして男の隣に立つもう一人へは、ハウリナとティッカリが武器を握って睨みを利かせている。


「ここでやり合う気かよ?」

「どちらでも良いですよ。真っ先に死ぬのは、貴方で決まってますけど」

「人数はこっちが多いのに喧嘩を売るのか。来たばかりの新人のくせによ」

「始まったら真っ先にそちらが二人減るんですから、そんなに数は変わらないと思いますけどね」


 至近距離で背の大きい相手と目と目を合わせながらも、テグスは一歩も引く気はない。むしろ目の前の相手の生成与奪を握っているのだから、強気なぐらいだ。

 年下で体が小さなテグスが引く様子が無いと知った男が、突き飛ばそうとするかのように手に力を入れたのを感じて、テグスは短剣の切っ先を相手の腹へと更に押し込む。

 多少でも抵抗したら殺すと言わんばかりのテグスの態度に、男は顔を少し青くして、降参するようにテグスの胸倉を放した。


「へへっ、急に胸倉を掴んで悪かったよ」

「ついでに、前の事も謝ってください。蹴り入れて悪かったって」

「ぐっ……あの時は、悪かったよ。反省している」


 それは明らかに反省していない、その場凌ぎの言葉だとテグスは理解していた。

 ついつい短剣を腹へと突き刺そうかと思ったテグスだが、これからコキト兵と戦うのに体力を使うのも馬鹿らしいと、男に下がるよう顎で示す。

 年下に侮られたと思って顔色を赤く染めかけたが、隣の仲間に肩を押さえられて、へつらう笑顔を浮かべながらゆっくりと下がって行く。


「さて、僕らは行きますけど。先に行きたい人はいますか?」


 見ていただけで関係のない《探訪者》たちは首を横に振ってから、面倒事に巻き込むなと言わんばかりに無視を決め込み始める。


「と言う事ですから、先に進みますよ?」

「チッ。うっせぇ、早く行きやがれ」


 男の脇を抜けて、テグスたちは悠々とこの先へと歩いて行く。

 その途中でチラリと後ろを見ると、道を遮ったあの二人が何やら話しているのに気が付いたが、関係無いと無視する。

 そうして四人が《階層主》が出る広間に入り、壁を削っているような音と共に、小部屋との出入り口がゆっくりと塞がれていく。

 テグスは前を向いて、コキト兵が現れるのを待とうとして、塞がれ行く出入り口ががやがやとうるさい事に気がついた。

 振り返ってみると、閉じるのをこじ開けるようにして、先ほどの男二人とその仲間たちが無理矢理に入ってきた。


「……何してるんですか?」


 まさか《階層主》が出る場所で、《探訪者》同士で殺し合いをしている暇があると思っているのかと、テグスはいぶかしんで尋ねてみた。

 すると胸倉を掴んできた方の男が、愉快そうに顔をゆがめて、テグスたちへと口を開く。


「ここの《階層主》の特色は知っているよなぁ?」

「入ってきた人数に応じて、出てくる数が増減するんでしょ。知ってますよ」

「なら、いまここにいる人数は何人だ?」


 丁度その問い掛けと同時に、完全に出入り口が塞がる。

 テグスが数えてみると。テグスたち四人に、加えて男とその仲間たち八人。


「合計十二人ですね。それがどうしたんです?」

「十二匹に襲われて、お前らは生き残れるか?」


 何を言っているのか本当に分からずに、テグスは思いっきり眉根を寄せて考えてしまった。


「もしかして。出てくる《魔物》が僕たちの方しか襲って来ないとか、本気で思ってます?」

「おうよ。四人と八人。どちらが襲い易いかなんて、《魔物》ですら見ただけでわかるだろう。お前らが襲われて必死で戦って数を減らす間は、俺たちは防御に徹すれば良いって寸法よ!」


 そんな夢物語のような事を本気で信じているのかと、テグスは彼の仲間たちに視線を向けるが、全員が疑いなく信じている目をしている。


「……そう言う事なら、離れさせてもらいます」


 この空間の全周にある燭台の上に、独りでに火が出現して明りが確保されるのを見て、テグスは仲間を連れて可能な限り、彼らから遠くの壁際へと移動する。

 そうして火の光りが闇を完全に払しょくすると、中央部分に《魔物》が十二匹出現した。

 それらは子供のテグスとほぼ同じ背の高さに、成人を思わせる確りとした体格も筋肉があり、それぞれの紫色の肌の胸元と額には革鎧に似た防具を皮ひもで着けている、テグスがコキト兵と呼ぶ存在だ。

 それらは静かに闘志を燃やしているかのように佇み、視線をテグスたちとあの男たちへと交互へ向ける。


「「「「ギャアオオオオオオオオ!」」」」


 そして戦の前に人の兵たちが上げるように、大音声の鳴き声を上げて、各々の武器を振りかざす。

 少し見えただけで大剣、長剣、弓と矢、斧槍、ト股槍、大盾、などと多種多様な武器を持っているのが分かる。


「これはちょっと、大変な事になっちゃったね」

「大変で、すまないです」

「こうなったら、やってやるの~!」

「死の危険ですか、初めて《迷宮》に入って直ぐに」


 テグスは片刃剣と《補短練剣》を抜いて構え。ハウリナは黒棍を持っちつつ軽く足踏みして調子を整え。ティッカリは突撃盾を打ち鳴らして気合を入れ。アンヘイラは装備の数を確認してから矢を弓に添えた。

 こうして四対八対十二の戦いが始まった。




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