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70話 情報収集

 二日目の日が暮れて、テグスたちは少しヘトヘトになっていた。

 それもこれも、今日相手にした人狩りたちの集団の中に、護衛の兵士が付いていた時があって、一筋縄ではいかなかったからだ。

 流石にベックリア・メル・シェルケットという女騎士程に、熟練した相手はいなかったが、兵士だけあって撤退戦を無難にこなしてくるのが厄介で。

 兵士を出し抜けるようになったのが夕暮れ近くと、時間がかかってしまった。

 そのため、今日戦った相手の情報を知らせようと、テグスたちは《小三迷宮》近くにある《探訪者ギルド》支部へとやってきた。

 

「あれ、意外と少ない」

「昨日は、うるさいぐらいに賑やかだったです」

「《探訪者》が少しだけ居るだけなの~」


 昨日は隣の孤児院に居ても、《雑踏区》住民や《探訪者》たちの威勢のいい声で煩かったのが嘘だったかのように、今日の支部は静まり返っていた。


「おう、お前ら。厄介な相手が出たと聞いていたが、怪我はなさそうだな」


 支部の中を見回していたテグスたちに、そう声を掛けたのは職員のテマレノだった。


「この時間にいるなんて、珍しいですね」

「おいおい、俺の職分にはこの支部の防衛も含まれてるんだぞ。こんな時期だからこそ、出ずっぱりなんだろうが」


 そんな軽口を叩いてきたテマレノは、どうしたのかと視線でテグスに問いかけてきた。

 テグスはテマレノの方へと歩み寄りながら、今日一日やりにくい相手と戦ってきて疲れただろうからと、ハウリナとティッカリを孤児院に行くようにと指示する。


「先に行っているです」

「レアデールさんにも、ちゃんとお話しておくの~」


 特に支部の中には用事は無いので、二人は指示通りにすんなりと孤児院の方へと向かった。

 するとそれを見ていたテマレノは、意地の悪そうな笑みを浮かべて、テグスの方を見やった。


「最近はお行儀よく働いてたってのに、なんだなんだ、あの二人を遠ざけるって事は悪だくみか?」

「相手が相手なので。小ずるい事も用意しておこうかなって」

「そりゃそうだ。多くのやつらが、護衛の兵士どもに気後れして、《小迷宮》の中にまで逃げ込んじまったしな」

「兵士は手強いですけど、出し抜く事は出来ますし。それより《魔物》が居るのに《迷宮》の中に逃げたんですか?」

「《小一》から《小三》までは、大して強い《魔物》は出てこないからな。今頃ギュウギュウ詰めで、《探訪者》が迷惑がっているだろうよ。まあ、人狩りの時期が終われば。逃げ込んだ奴らの中の《迷宮》に慣れたやつが、《探訪者》になる事もあるからな。こちらとしては、目くじらは立てんよ」


 この支部と横の孤児院が、レアデールによって守られているのと同じように。恐らく《迷宮》の出入り口には、それなりに強い《探訪者》が配置されていて、人狩りたちを寄せ付けないようにしているのだろう。

 でなければ、出入り口を押さえられて、袋小路になってしまうのだから。


「そうそう、騎士に出会ったんですよ。見逃してもらったので、助かりましたけどね」


 この付近の近況の事を聞いていたながれで、テグスの方も今日あった出来事をテマレノに語った。

 すると『騎士』と聞いた瞬間に、テマレノの顔が驚愕に染まり、思わず閉口したようだ。


「……おいおい、マジで騎士様が出張って来たってのか?」

「本人が言ったのが本当ならですけど。女性の騎士で、名前がベックリア・メル・シェルケット。《正義の盾》っていうのが通り名らしいんですけど」

「《正義の盾》と言やぁ、この《迷宮都市》での《探訪者》の括りでいえば、《大迷宮》下層あたりの奴らと同じ強さだぞそいつ」

「知っているんですか?」

「知っているも何も。他の地域の《迷宮》を攻略して、神の祝福を受けた盾を手に入れ。その上に、綺麗な顔なもんだから。《ザルメルカ王国》の国民だけじゃなく、外に繋がりを持つここの《探訪者》の男連中の憧れの的だぞ。敵じゃない時に、こちら側に顔を見せたら、馬鹿どもが求婚しに走り寄るぞ絶対に」


 そんな相手によく戻って来れたな、と感心したような視線を、テマレノはテグスへと向けている。


「さっきも言ったけれど、見逃してもらえたんですよ。なんか受け答えをしていたら、気に入ってもらえたみたいで。次はなさそうな事も言われましたけどね」

「まったく、大変な情報を持って来たもんだ……しかしそんな有名騎士まで連れて来ているとなると、随分ときな臭くなってきたな」


 なんであのベックリアが来ただけで、状況をきな臭いと判断したのか、テグスは不思議そうにテマレノの方を見る。


「騎士の任務が、取るに足らない奴隷商の護衛なわけあるか。普通に考えたら、仮に本当の奴隷商だとしても、護衛対象は王国内の大店の関係者だろうよ」

「でも、なんでまたそんな店が?」


 普通そういう大きな店というのは、業種がなんであっても、何本もの入手経路を持っているもの。

 例えで奴隷商の大店では、様々な理由と手法で奴隷にした人たちを、一定期間さえ貰えれば難なく一定量確保することが出来る。そして奴隷にした者の質を高めてから、特定の顧客に高値で売却する。

 なので態々《迷宮都市》まで来て、一山いくらで売り買しかできないような、《雑踏区》の住民をさらうなんて言う手間は、かかる仕事量に対して利が薄くてやる意味がないはずだ。


「それだけ奴隷が必要って事だろうな。それが国で行う生産活動が大規模になったからなのか。それとも戦争での肉の盾にするためなのかは知らんがな」


 随分と物騒な話に飛び火したなと、テグスは思わず顔をしかめてしまう。


「戦争をするなんて、噂でも聞いたことがないですけど?」

「おいおい。人を狩りに来ているのは、農業が盛んな王国だぞ。肥沃な土地はそれだけで、他国からしちゃ奪い取りたいものなんだ。それに王国が奴隷を売却する先の同盟国は、鉱山で有名な国だ。そちらだって奪い取れば、金が入る上に、武器の質の向上にだって利用出来る」

「つまりその二国は、周りの国から狙われているから、何時戦争が起きてもおかしくはないと」

「まあそういうことだな。加えて人狩りに軍や兵士を出す――もっと言や、指揮している貴族が、自分の馬鹿ガキをこの場所に送り込んだ時には、戦争の匂いがしてたんだろうさ」


 あくまでこれはテマレノの予想にしか過ぎない。

 でも、テグスはこの意見が、王国が軍まで動かして大々的に人狩りをしている、その理由の一片に入っているのではないかと、直感的に思った。

 そして国同士の関係と言うのは、なんて七面倒臭いのだろうと、庇護する国を持たない《迷宮都市》で育ったテグスはつい思ってしまう。


「そんな事よりだ。また『いたずらっ子』に逆戻りか?」

「今回は、逃走用じゃなくて戦闘用に使うんですけどね」

「前のと同じだと。《見掛岩》の破片なら、ごろごろあるが。それ以外は、方々の支部にいかねーと入手が難しいぞ」

「割高ですけど、《中一迷宮》の区画に行ってみる積りです。あそこなら、素材が沢山ありそうですし」

「ついでに《中四迷宮》に行って、罠の材料を買ったりするのか?」

「追い込み漁をするのは、住民の人たちにまかせますよ」


 テグスの過去の所業を知って揶揄してるテマレノ相手の、秘密含みの会派を終えたテグスは、外へと買い出しに出かける前に孤児院へと向かう。

 レアデールとお喋りしているであろうハウリナとティッカリに、買い出しにつき合う積りがあるかを尋ねるために。



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