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54話 防具の完成

 三日目にティッカリの突撃盾が上がったが、防具が出来上がる二週間を、三人は《中四迷宮》の浅層での金稼ぎで過ごしていた。

 それは罠の材料を回収しながらだと、十層に到達する頃には夕方か夜になってしまうからだ。


「はぐはぐ。パンに焼いた《菱海栗》の中身をつけると美味しいです~」

「《大蜜蟻》の蜜を入れたワインも、良い味なの~」

「店員さん、料理の追加お願いします」


 と言う訳で、三人は《探訪者ギルド》の支部に併設された食堂にて、夕食を取っている最中だ。

 そして仲間となって時間が経ち、遠慮が薄れてきたティッカリによって。実は彼女が大酒呑みの大食家だと言う事が、この二週間の間に新たに判明した。

 武器を壊す上にこの調子で飲み食いするのを見ていたであろう、ティッカリの前の仲間の気持ちになれば。彼女から離れて行っても、しょうがないと思わせる姿である。


「良くお酒なんて飲めるです」

「この味が分からないなんて、お子さまかな~」

「エールはまだ分かるけど、ワインは蜜を入れても渋いよ」

「ふふ~ん。頑侠族の酒好きは~、この肌の色がワインとエールが染みて出来た、といわれるほどなの~」


 ぱかぱかと酒杯を空けていくティッカリを、テグスとハウリナは信じられない物を見る目で見ている。

 もっとも、酒はティッカリしか飲まないので、そのお代は彼女の懐からだけ払われる事にしていた。

 なので、ティッカリの飲酒を、テグスとハウリナは止める気は無い。

 

「は~い、追加の料理ですよー」

「店員のお姉さん~、お酒の追加をお願いなの~」

「もう。頑侠族の人が来ると、次の日のお酒の入荷が増えて困っちゃうー」


 言葉とは裏腹に、店員は笑顔で酒を取りに戻っていく。

 そうしてテグスとハウリナは料理を中心に、ティッカリは酒とその肴といった風に食事すすめ。

 そして食べ終えた三人は、馴染みになった宿へと向かっていった。

 



 翌日、大量の酒を昨晩飲んだとは思えないほど、ティッカリは朝からシャンとしていた。


「ティッカリ、酒臭いです」

「そうかな~?」

「案外本当に、その肌は酒の色で出来ているんじゃないかな」


 しかし獣人で鼻が良いハウリナでなくても、ティッカリの身体からは酒の匂いが漂ってきているのが分かる。

 それを感じていないのか、ティッカリは自分の身体に鼻を向け、匂いを確かめて首を捻っている。

 酒臭い人の横で眠れる気がしなかったので、その背の高さの所為でティッカリは別部屋だったことに、この時ばかりはテグスは安堵していた。


「いらっしゃーい――って、お酒臭いわね。革やら浸け液やらの臭いのここでも分かるって、相当昨日飲んだの?」

「ええ~、匂うかな~? そんなに飲んだ覚えはないの~」

「あれだけ飲めば、普通は酔いつぶれるです」


 やって来た《ソディー防具店》にて、店主のメイピルにも、その酒臭さを指摘されてしまった。

 加えてハウリナの援護口撃に、ティッカリはしょんぼりと肩を落としてしまう。


「酒臭いのはしょうがないとして、防具は出来てますか?」

「そりゃあ、ちゃんと納期は守るわ。これがテグスので。鎧はティッカリちゃん、ハウリナちゃんの順ね」

「これが《突鱗甲鼠》の殻の鎧です」

「ちょっと見た目が違うかな~」

「ほらほら、ちゃんと着けてみなさい。不具合があるなら調整してあげるから」


 メイピルの勧めで、テグスは直ぐに腕に手甲をはめる。

 今度のは全体が薄茶色で、所々に濃茶が小さな丸でぽつぽつと浮かんでいる。

 大きさは変わらないが、やや重たくなった程度。

 軽く手甲を打ち合わせてみると、意外な事に木の板に似た硬い音が響き。《平硬虫》の殻で作った鎧に軽く当てると、鎧の方に薄っすらと傷がついた。

 前のよりは頑丈そうだと、テグスは十分に満足した。


「テグス、似合うです?」


 続いてハウリナの新調した鎧は、全体的な色合いは手甲のと同じな、腹の途中から上と背中を覆う半鎧。


「前のと違って鎧の面積が多いけど、動きに支障は無い?」

「うんと~~――うん、問題は無いです」


 その場でクルクルと周った後で前方宙返りをして、ハウリナは鎧が確りと身体の動きに合っているのを見せた。

 ハウリナのその動きを見て出来に納得したのか、メイピルは満足顔を浮べている。


「あの~、これで良いのかな~?」

「少し調整が必要ね。ちょっと待って、やってあげるわ」


 最後にティッカリの鎧は、何だか彼女の身体から浮いているように見えた。

 だがそれは調整不足だったらしく、メイピルが鎧の各部を指で弄ると、さっきの見た目が嘘だったかのように、ティッカリの身体にピッタリと合う。

 色合いは同じ薄茶色の中に濃茶の組み合わせだが、ハウリナの鎧に比べてより分厚く大きくなっている。

 具体的には、何枚もの殻を張り合わせて厚みを出し、それが胴と胸に加えて背中を覆い、肩当まで付いている。

 胸部の部分は、ティッカリの大きな胸の曲線を、そのまま写したような見事な造形で。鎧を着けていても息苦しさとは無縁に見える。

 そこに処置して色合いが薄くなった二枚の突撃盾と合わせると、重装歩兵を前にしたような威圧感があり。外観だけなら見事な防御役だ。


「違和感は無さそうで良かったわ。それで残ったので、こんなのも作ったんだけど、欲しいかしら?」


 メイピルが机の上に置いたのは、三つの頭部用の防具。

 見た目からして、素材は《突鱗甲鼠》の殻で、額から両側頭を通り後頭部までを覆う兜のようだ。

 頭頂部が開いているのは、ハウリナの頭上の獣耳の為に開けて見た目を統一したのか、それとも残った素材量の関係なのか。

 どちらにせよ、メイピルが三人の為に作ったと分かる兜だ。


「これから《中迷宮》そして《大迷宮》に行くのなら、頭部の防具は必須よ」

「被っても耳は出るんですね」

「耳が塞がれないのは良いです」

「頭部を守れると、安心で良い感じなの~」


 テグスだけでなく、他の二人の評価も上々だ。

 その様子を見て、メイピルも嬉しそうな笑顔を浮べる。


「気に入ってくれたみたいね。お買い上げってことで良いかしら?」

「うっ――はい。お買い上げです」

「まいど有り難う御座いま~す」


 満面の笑顔なメイピルに、兜の分を追加で銅貨を支払うと、余裕をみて多めに引き出していたお金が、全て吐き出されてしまう結果になった。

 懐具合を精霊魔法で調べているのではと、テグスは思わず勘ぐってしまう。


「大金を落としてくれたお礼に、《外殻部》以内に居る防具屋の知り合いの目録を上げる。毎度毎度、ここまで来るのは手間でしょう」


 植物製だと分かる薄茶色の紙に、メイピルは綺麗な字で知り合いだという人の名前と場所を書き連ねていく。


「かなり前の人もいるから、今でもそこにあるかは保障できないけど」

「《中町》や《下町》まで書いてくれているなんて、本当に助かります」

「ヨロイとカブトを、ありがとうです!」

「良い防具で、感動なの~」

「どういたしまして。これからも、たまには顔を見せに来てね」


 それぞれが礼を言った後で、三人はメイピルに見送られて店から立ち去っていった。

 そのあと直ぐに、早速新しい防具の具合を確かめると、ハウリナとティッカリが意気込み出したのに、テグスは待ったをかける。


「ティッカリがこんな酒臭いのに、迷宮に入るなんて駄目に決まっているでしょ」

「ティッカリ~~。酒はほどほどにするです!」

「だって~、今日はもう迷宮に行かないって思ってたの~」


 酒臭さは《魔物》や不埒者なを呼ぶ要因なので、今日は絶対に迷宮へは潜らないと、テグスは決めてしまう。


「それで、今日この後どうするかだけど」

「宿に戻って休むです」

「運動して、お酒を抜くの~」

「それも良いんだけど。《中一迷宮》区画に戻ってみない?」


 テグスの提案が意外だったのか、ハウリナとティッカリは首を傾げている。


「ティッカリは、《青銅証》に《中一迷宮》の印を貰ってないでしょ」

「はい。《中迷宮》は《中二》しか行ってないの~」

「だから防具の確認を含めて、《中一迷宮》の二十層まで行ってみようって事だね」

「二十層の《階層主》と、再び戦うです?」


 怪我を負った相手だというのに、戦いたそうなハウリナの言葉を聞いて、テグスは全員の装備を目で確認する。

 防具を更新して防御力が上がり、仲間に怪力巨躯のティッカリの加入と、彼女が持つ破壊力抜群の突撃盾の存在。

 それらを加味して考え、《晶糖人形》は戦えない相手ではないと、テグスは結論付けた。


「そうだね、再戦してみようか。それで苦戦せずに倒せたら、下層に行ってみるって事にしよう」

「わふっ、明日はガンバルです!」

「精一杯頑張るの~!」

「前祝に、たくさん料理を食べるです!」

「沢山のお酒を飲んで、英気を養うの~」

「料理は良いけど、お酒は程ほどにしないと、明日迷宮に行けなくなるよ」

「そうです。お酒は程ほどにするの!」

「ううぅ~、ほろ酔い程度にするの~」


 テグスとハウリナに指摘されて、ティッカリはしょんぼりと肩を落とした。




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