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52話 再びの《ソディー防具店》

 地上に帰還し、三人の《青銅証》に二十層到達の印が付き、獲ってきた《魔物》の素材がそれなりの値で売れた事は良かった。


「ええー、防具に出来ないんですか!?」

「出来ないとは言ってない。時間がかかると言っているんだ」

「かかるにしても、季節を一跨ぎするなんて、かかりすぎですよ!」

「嫌なら、別のところにしろ。こっちは予約した人の分の作業があるんだ」


 しかし防具の作成用に残した《突鱗甲鼠》の殻を防具にするには時間が掛かると言われて、どこに行っても門前払いにされてしまう。

 なら《突鱗甲鼠》の殻の防具があるかと尋ねれば、全て売り切れなのだそうだ。

 なので寧ろテグスの持っている《突鱗甲鼠》の殻を、こっちに寄越せとまで言われる始末。

 今日一日《中二迷宮》周辺を巡ったが、色よい返事の所は一つも無く、《突鱗甲鼠》の殻が背負子に残り続ける結果になった。


「あー、どうしようか……売っちゃう?」

「ダメです。新しい防具が必要です!」

「盾を買ってもらったので、どちらでも良いかな~」


 宿に帰ってテグスが愚痴を漏らすと、防具にしたいとハウリナは言葉で確りと主張し、ティッカリは瞳で告げてくる。


「でもどうするの。このままだと、何時かは腐っちゃって駄目になるよ」

「防具ならメイピルのところに持って行くです!」

「《ソディー防具店》か~。でも《雑踏区》の店だし。持ってきても無駄、みたいな事を言われていた気が……」

「《ソディー防具店》って何かな~?」


 知らないらしいティッカリに、テグスは簡単に「以前世話になった樹人族の防具屋」と説明をした。


「当てがあるなら行った方が良いの~」

「買った防具を壊しちゃったから、足が遠退いちゃったんだよね~」

「怒られても、行くべきです!」


 二人はもうすっかりと《ソディー防具店》に行く気になっているが、テグスは気持ちを決めきれないでいる。

 それはメイピルが樹人族の女性なので、レアデールを連想してしまい、怒られやしないかと子供みたいに恐れているからだった。


「早くしないと、腐るです」

「防具の処置は早い方が良いの~」

「ううぅ……分かった、分かったよ。明日。明日行こう。今日はもう遅いし!」

 

 二人に押し切られる形で、テグスは明日に《ソディー防具店》に向かう事を決めてしまった。





 翌日、テグスは約束通りに二人を伴って、《ソディー防具店》へ向かって歩き出した。

 今回は《雑踏区》の中ではなく、《外殻部》の中を通って向かうので、昼過ぎには着く予定だ。

 朝市で歩きながらでも食べられる物を購入しつつ、《中二迷宮》の区画を抜け、隣の《中四迷宮》の区画へ。


「あー、懐かしいなこの街並み」

「テグス、前に来たことあるです?」

「《仮証》の時にね。あの時は主に《中四迷宮》で金稼ぎしてたんだ」

「《仮証》ってことは子供なの~。優しい迷宮なのかな~?」

「う~んと、《魔物》は強くないね。だけど罠がわんさかあって厄介な迷宮なんだ」

「厄介なのに、金稼ぎです?」

「その罠に使われているのが、良い値で売れるんだよ」


 過去の事を話題にしつつ、三人は《中四迷宮》区画を抜け、《成功への大通り》に到着。

 《中三迷宮》の区画と、《中四迷宮》の区画を分けるこちら側は、外国へ通じる道でもあるので、反対側よりも街道上が栄えているように見える。

 道中で店の呼び込みや、広げた露店で叩き売りをしていたり、大道芸人が芸を披露して小銭を稼いだりしている。

 そんなこの道なりに進み、《ソディー防具店》がある《小六迷宮》付近の《雑踏区》へ、門を抜けて入る。

 一気に周囲がみすぼらしくなったが、テグスたちは気にした様子も無く、さらに薄暗く薄汚い裏道を使って進んでいく。


「今回は《雑踏区》に入っても、襲ってくる人が居ないね」

「そうです。平和は良いです」

「でも~、何だかこっちを見ているかな~って」


 三人の様子を窺う人が確かに要るが、テグスたちの装備を見て顔を逸らしていく。

 特にティッカリの突撃盾を見て、その異様さに恐れをなす人が多い。

 なので《雑踏区》の裏道だというのに、安全に道を行く事が出来ている。


「ここがメイピルの店です!」

「扉はちゃんと開いているから、中にメイピルさん居るはずだね」

「何だか変な臭いがするかな~?」


 《ソディー防具店》の扉を潜ると、暇そうに机の上に肘を乗せて頬杖を突いている、メイピルの姿があった。

 三人が店に入ったのを見て、メイピルの表情が嬉しそうなものに変わる。


「あら、いらっしゃい。あ~、防具壊したな~~」

「あ、あははっ。その事で来たんです」

「壊してしまって、ごめんなさいです」


 早速テグスとハウリナの装備が壊れている事を、目敏く見つけられてしまった。

 それを誤魔化し笑いでやり過ごそうとするテグスと、素直に謝ったハウリナ。

 それぞれを見てから、メイピルは視線をティッカリの方へと移した。


「そっちの大きな娘は、初めましてね。《ソディー防具店》の店主、メイピルよ」

「は、はい、初めまして。ティッカリといいますの」


 初めて会うメイピルに緊張しているのか、ティッカリの口調がやや硬い。

 そんな様子を眺めつつ、メイピルはティッカリの身なりに視線を向けて、突撃盾の所で少し目を止めていた。

 

「それで防具の相談ってお話だけど、何か希望があるの?」

「《突鱗甲鼠》の殻があるので、それで防具を作ってもらえないかと」

「あら、もう《中二迷宮》の中層まで行っているの。新しいお仲間も増えているから、妥当と言えるかしら?」


 と感想を呟きつつ、メイピルはティッカリの背負子から出した、《突鱗甲鼠》の殻の品質を調べ始める。


「ふむふむ。傷も少ないし、これなら良い防具が出来そうね。それで種類は何にする積りかしら?」

「僕は手甲が壊れたので、それを。ハウリナとティッカリは鎧――で良いよね?」

「うん、鎧が欲しいです。安い革鎧は心配です。あ、脛当ても強化して欲しいの」

「革鎧がボロボロだから、新しい鎧が欲しいかな~」

「《突鱗甲鼠》の殻は十分にあるんだし、テグスも鎧を更新しちゃわない?」

「う~ん、まだまだ使えますし、身体に馴染んでますから。その分、二人の方に力を入れてもらえればと」

「それなら良いわ。じゃあ、テグスの手甲とハウリナちゃんの鎧は、前と同じ感じに作って。ティッカリちゃんは、身体が大きくて力がありそうだから、積層鎧にしちゃいましょうか」


 防具の事は素人な三人は、メイピルに全てお任せする事にした。

 お任せした結果、ティッカリの突撃盾の比じゃないほどの金額を提示された事に、少しだけテグスは後悔してしまう。

 預金してある三人の銀貨の大半を、これにつぎ込む事になったからだ。

 

「で、その盾だけど。素材そのままで使っているみたいだけど。不便じゃないの?」

「不便はないかな~?」


 テグスから手付けとして、少量の銀貨と銅貨を受け取りながらのメイピルの質問に、ティッカリは両腕に括りつけている盾を動かして見せる。


「そうなの? それって単純に素材の形を変えただけで、防具として成り立っていないわよ?」

「一応、武器屋で作ってもらった物なんですけど」

「防具なのに、武器屋で? ああ、打撃武器として使うのねそれ」

「突撃盾です。ティッカリが使うと、一撃粉砕です!」


 ハウリナの力説に、ティッカリが恥ずかしそうに頬を染める。


「そうなの。でもここで防具処置したら、もっと軽くなって使い勝手が良くなるわよ」

「ん~っと~。力一杯使っても、壊れないか心配かな~って」

「大丈夫、ちゃんとそのあたりは考慮に入れるわ。武器として使うらしいから、重さの軽減は緩めにして、衝撃に強くなる方向に強化するし」


 もうすっかりと、突撃盾を処置する事で話が進んでいる事に、テグスは銀貨がまた飛ぶのかと遠い目をする。

 それをティッカリが察して、申し訳無さそうに見てきたので、テグスは気にするなと身振りで伝えた。


「はい。《突鱗甲鼠》の殻の防具作成と、突撃盾の処置を承るわね」

「出来上がるのは何時になりますか?」

「そうねぇ……突撃盾の方を先に処置して、早めにこれだけ受け取る方が良いかしら?」

「そうですね。そうして貰えたら、《中迷宮》に潜れますし」

「なら突撃盾は三日後に。《突鱗甲鼠》の殻の防具は、二週間後には出来るから」


 防具の受け渡し日時が決まったので、三人はメイピルに別れの言葉を告げて、店から出て行く。


「さて、どうしようか。ティッカリの突撃盾は取り上げられちゃったし」

「《小迷宮》に行くです?」

「荷物持ちは出来るの~」


 テグスの質問に、ハウリナは仕方が無いと、ティッカリは必死な様子で、そんな事を言ってきた。


「う~ん、なら《中四迷宮》に行こうか」

「《中四迷宮》です?」

「突撃盾が無くても、大丈夫なの~?」

「まあね。《仮証》の時に散々潜ったし、勝手が分かるからね。もしかしたら二人には、荷物持ちぐらいしかしてもらうこと無いかもね」

「むっ、そんな事はないです。役に立つです!」

「荷物持ちなら、任せて欲しいの~」

「じゃあ、二人にも期待してようかな」

 

 と言う事で、メイピルに防具を作ってもらえるまで、三人は《中四迷宮》へと挑む事に決めたのだった。




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