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50話 亀肉料理と突撃盾

 《取手陸亀》の甲羅で作る突撃盾二枚が出来上がるまでの数日を、ティッカリの要望で《中二迷宮》にて金稼ぎをしていた。


「自分の武器の分は、自分で稼ぎたいの~」


 との理由を言っていたが、武器を使わせてしまうと壊してしまうので、もっぱら荷物持ちしかさせてない。

 もっとも三人が狙って狩っている、《探訪者》に人気の無い《滑山椒魚》と《取手陸亀》の素材の大半を、ティッカリに持たせているので足手纏いではない。

 寧ろ《取手陸亀》を簡単に倒せるのは、ティッカリの膂力があってこそなので、重宝しているぐらいだった。


「てやぁ~~~~~~」


 また一匹《取手陸亀》を、甲羅の取っ手状の縁を持って引っ繰り返してくれている。


「じゃあ、殺して解体しちゃうね。『刃よ鋭くなれ(キリンゴ・アクラオ)』」

「手伝うです。『衝撃よ、打ち砕け(フラーポ・フラカシタ)』」


 先ずハウリナが黒棍で甲羅の腹の部分を叩き割り、続いてその割れ目からテグスが片刃剣を急所へ突き入れる。

 《取手陸亀》の動きが止まったのを確認してから、割れ目に沿って片刃剣で切り込みを入れていく。

 その間に、死んで甲羅の外に出てきた頭へと短剣を突き刺して血抜きする。

 そして二人の作業が済むと、肉と甲羅に分けるように解体していく。

 この数日でもう何匹も狩っているだけあって、その手捌きは手馴れたものだ。


「これで甲羅三つだから、一度上に帰ろうか」

「お昼を食堂で食べるです!」

「はい。食堂でご飯を食べるの~」


 ティッカリに頑丈な背負子を買い直し与えているので、この重たい甲羅が三でも背負って運べるようになっている。

 もっともこんな事は、彼女の尋常では無い筋力があってこその荒業だ。

 そうして三人が支部へと戻ると、周りから視線を向けられる。


「亀狩りの連中、また帰って来たぜ」

「あーあー。俺んところも、頑侠族の奴隷が欲しいな~」

「あんなに頻繁に甲羅持ってくるなら、こっちにもお零れくれたってよぉ」


 そして三人に聞こえる程度の大きさの、野次とも取れる発言が併設の食堂からしてくる。

 それをテグスは気にせずに進み。その後に続くハウリナは五月蝿そうに顔を顰めて獣耳を伏せ、ティッカリは恥ずかしそうに俯き加減で歩く。


「依頼の甲羅持って来ました~」

「はいな。では机の上――だと折れてしまうので、こっち台車の上に置いてください」

「はい。置きますの~」


 ティッカリは背負子を一度床に降ろしてから、一つ一つ丁寧に台車の上にへと乗せていく。その度に、重さに悲鳴を上げるかのように、台車が軋む音が。

 作業の横で買い取り窓口の職員は、甲羅の品質を確かめていく。


「状態も良さそうなので、規定の料金をお支払いします。今日もまた折半ですか?」

「はい。三人で三等分にします」

「あまりは、テグスにです」


 三人分の《青銅証》を代表でハウリナが、職員へと手渡す。

 職員が作業を行い三人へと返すと、きちんと銅貨以上で三等分された値が加算されたのが、《青銅証》の裏に記されている。

 それを確認してから職員に会釈をした三人は、併設の食堂へと足を向ける。

 先ほど野次ってきた《探訪者》らしき風貌の男たちが居る横を抜け、厨房への出入り口がある場所へと向かう。


「すみませ~ん。亀肉を持ってきたんですけど」

「はいよ~。全部調理でいいんだな?」


 出てきたのは、元《探訪者》なのか顔に何本もの傷が走っている、白い衣服を身に付けた調理人の男。


「もちろんです。うちは全員が大食いですんで」

「なら何時も通りだ。調理代は銅貨で十枚。パンとスープは店員に頼んで金払え」


 そう言って調理人の男が手を差し出すと、テグスが銅貨を代金分取り出し、ハウリナに代わりに払わせる。


「いつも美味しいの、ありがとうです!」

「今日も美味しいお料理、お願いしますの~」

「おう。任せときな」


 十枚あるか確認して、男は調理場へと戻っていった。

 その強面がややニヤケ気味だったのは、ハウリナとティッカリという二人の少女に、料理をお願いされた事と無関係では無いだろう。


「店員さん、スープをとパンを大盛りでお願いします」

「はーい。何時も沢山食べてくれて、有り難うね」


 調理場に戻ろうとしていた女性の店員の手に、スープとパンの代金として適当に枚数を掴んだ銅貨を乗せる。

 店員も手馴れたもので、ざっと枚数を目で確認してエプロンのポケットに収めると、スープやパンを持ちに調理場へと入っていった。

 その後にテグスは、受け渡し台の上にある木杯を三つ取り、その近くにある席に座る。

 ハウリナとティッカリが向かい側に座る間に、杯の中に魔術で水を満たしていく。

 それを二人に手渡すと、三人とも料理が来るまで唇を水で潤して待ち始める。


「はーい、お待たせです。亀肉の香草焼きと内臓と野菜の炒め物に、スープとパンが大盛りね。亀の足肉の煮込みはちょっと時間掛かるの、待っててねー」

「はい、分かりました。じゃあ来たし食べよう」

「美味しそうです」

「何時もだけど、良い匂いかな~」


 自分の分のスープとパンを確保した三人は、机の上に置かれた料理に手を伸ばす。

 テグスはパンやスープの合間に肉を食べる感じで、ハウリナは肉ばかりを食べスープで流し込むように、ティッカリはゆっくりに見えるが一口で多くの量を食べていく。

 そんな調子で三人が食べ進めるものだから、煮込み料理が来る前に料理だけでなくスープやパンもなくなってしまう。


「追加、要るかしら?」


 そこに丁度良く、店員が煮込み料理とパンとスープの追加を持ってきた。

 

「要るです!」

「ついでに料理も、三品の肉料理を追加でお願いします」

「芋料理も一品追加なの~」

「はーい。ちょっと待っててね~」


 三人とも追加料金を払い、店員が下がっていくのに合わせて、食事を再開する。

 そんな感じに三人が料理を食べ進め、満足して食べ終えたところで、先ほど野次を飛ばしてきた男が六人連れでやってくる。


「おーおー、羽振りが良さそうじゃねーか」

「亀の甲羅を売って金持ってんだろ。ちょっと奢っちゃくれねーか?」

「なーに、こっちは料理じゃなくて酒でいいぜ?」

「まあ、ツマミも奢ってくれるんなら、遠慮しねーで良いぜ」

「そんなら、そっちのデッカイねーちゃんには、お酌してもらおうかね」

「胸や尻の一つでも撫でちまうかもしれねーがな」


 口々に勝手な事を言いながら、あからさまに武器の柄に手を載せて脅迫紛いの行動をしてきた。

 それをテグスは右から左に一瞥すると、興味を失ったように顔をハウリナとティッカリに向ける。


「まだ水が欲しいなら入れるよ?」

「いまは要らないです」

「え、えーっと。もう一杯だけお願いするの~」

「てめぇら、無視してんじゃ――」


 粋がって腰にあった片手剣を抜こうとした男の横を、何かが通り過ぎて壁に突き刺さる。


「ここで刃傷沙汰をするんじゃねー。食い物屋だぞ」


 テグスたちに言いがかりをつけていた男たちは全員、顔を覗かせている調理人の方を見てから壁の方へ視線を移すと、そこには長い刃の包丁が突き刺さっていた。

 この場に居る誰もが、男たちよりも調理人の方が物騒だと、見て感想を抱いただろう。


「おいおい、おっさんには関係無いだろ」

「そうだぜ。第一、こんなんで怒るなんて――」

「ほう、解体バラされたいのか?」


 口々に言い訳をしようとした男たちは、調理人に睨まれてすごすごと食堂から出て行った。

 そして「もう利用してやるもんか!」と、十分に支部から離れたところで叫んだらしき声が聞こえた。

 いざこざが終息したと判断して、他に居た食堂の客たちは食事を再開し始める。

 そしてテグスは壁に刺さった包丁を抜くと、受け渡し台へと近付き、中へとその包丁を差し出す。


「助かりました。でも包丁投げちゃって大丈夫なんですか?」

「これは脅し用のだからいいんだ。調理用のは別にある」

「そうなんですか。ともかく、有り難うございました」

「ありがとうです」

「助かりましたの~」

「おう。また来いや」


 調理人に礼を言った三人は、食事も済んだので食堂からでて、支部で用事を済ませて外へと出た。




 何時もなら午後も迷宮に潜っていくのだが、今日は突撃盾が出来上がる日なので、銅貨を代金分用意して三人は《ツェーマ武器店》へと向かった。

 

「来たな。ちゃんと突撃盾出来てるぜ」

「へー、これが突撃盾ですか――って、なんで腰押さえているんですか」

「薬の臭いがするです」


 売り台の向こうで、椅子に座りながらツェーマが痛そうに腰を擦っている。


「うるせー。こんなクソ重い物を扱ったら、こうもなる!」

「なんだか申し訳ないの~」

「いいからいいから。さっさと具合を確かめろ」


 ヒラヒラと手を振って、ティッカリに台車の上にある二枚の突撃盾を装備する様に促す。

 それを受けてティッカリは、一枚ずつ盾を腕に着けていく。

 盾は亀の甲羅らしい、深い茶色と黒色の斑模様で。形状は以前絵に描いてあった通りに涙滴の形。

 手先の方に丸いのがくるように、腕に革帯で括りつけるとその見た目で分かるが、受け止めるより丸みを生かして受け流す事を主体とした盾だ。

 だが巨躯のティッカリが装備すると、その対比で盾と言うよりは、分厚く大きくした手甲のようにも見える。


「手先の方に取っ手があるだろ。それを握れば扱い易いし、そのまま殴るようにして使う事も出来るな」

「へ~、何だか甲羅の時より軽い気がするかな~?」


 早速取っ手を握り、ブンブンと腕を振ってみている。

 その腕の動きは、ツェーマが腰を痛めるほどの重さがあるとは思えない速さだ。


「どうだ、どこか気に入らない部分があるなら直すぞ」

「う~ん~、大丈夫かな~」

「かな~って、曖昧だな。まあ良い、実際に迷宮で使ってみろ。そんで不具合があったら持ってこい」

「じゃあ代金を――」


 大きな袋に入れた銅貨を、テグスがそのままの状態で机の上に乗せる。

 するとツェーマは測貨板を取り出し、テグスへと差し出す。


「……計れって事ですね?」

「その間に、お前らの武器の調整をタダでしてやるよ。オマケでな」


 との言葉に、テグスは片刃剣をハウリナは黒棍をツェーマに手渡す。

 そしてテグスが測貨板で、銅貨の山を特定の数ずつに分けて、机の上に置き始める。

 その間、突撃盾の硬さや使い方が気になるのか、ハウリナが軽く突きを放つのを、ティッカリが突撃盾で受けるのを繰り返していた。


「はい、これで全部ありますよね」

「ん~、おう、ちゃんとあるな。で、武器の調整が終わったから返すぜ。嬢ちゃんのも荒く使われているが、お前の剣も相当酷使してるな。大分刃先がヘタってたぞ」

「あ~、最近はなんか硬い物ばっかり相手にしてましたからね~」


 戦ってきた《魔物》の事を思い浮かべながら、テグスは申し訳無さそうな表情を浮べる。


「これって《中町》で貰ったもんなんだろ。なら大事に使えよ」

「《大迷宮》に行けるまで、持たせますよ」

「なら戦い方を考えろ。何でもかんでも斬ろうとするな」


 そんな小言を貰った後で、テグスたちは《ツェーマ武器店》を後にした。




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