表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
315/323

310話 移動と作戦会議

 新装備を受け取ったテグスたちは、鎖以外の借りていた武器を返してから、最下層へ向かって《大迷宮》を下っていく。

 新しい鎧は目立つため着れないが、竜鱗鑚盾以外の武器は遠慮なしに使用していく。

 そして、大河の層にある中洲での休憩中に、使った感想を言い合う。


「牙鱗大剣は、切れ味がよすぎて怖いぐらいだよ。《装鉱陸亀》の甲羅も両断できちゃったし」

「あの亀の甲羅、漆黒棍でも壊せたです!」

「竜襲狙弓もいい感触ですよ、いままでの倍ほどの速さで矢を飛ばせますので」

「え、えっと、竜機傑弓は、装填しやすく、なってます」

「鈹銅竜鎖は、以前とほぼ同じように扱えるようでございますね」

「いいな~、みんなは新しい武器を使えてうらやましいの~」


 大河から吊り上げた普通の魚と魚型の《魔物》を、中洲の潅木などを利用して焼いていく。

 その中でも《排撃岩魚》の硬い岩の鱗を剥がすのは、アンジィーの役目だ。


「闇の精霊さん~♪ ばりばりと剥いじゃって欲しいんだよ~♪」


 歌うように精霊に願うと、黒い塊が影から出現し、地面に置かれた《排撃岩魚》の鱗の隙間へと入っていく。

 ほんの少し時間を置いて、袋が破れたような音と共に一気に岩の鱗が剥がれ落ちた。


「レアデールさんに教わった精霊魔法での鱗取り、大分上達したよね」

「は、はい。えっと、まだ、ちょっとぼろぼろに、なっちゃいますけど」


 アンジィーが言った通りに、鱗を剥がされた《排撃岩魚》の皮には、幾つか裂け目が出来ていた。

 アンヘイラはその《排撃岩魚》を掴み上げると、鰓と尾に枝を突き刺し塩を振り、焚き火にかざし始めた。


「これもこれで悪くはないですよ、皮の切れ目で飾り切りが要らないと思えば」

「わふっ。焼いて食べれば、いっしょです」


 アンヘイラとハウリナの優しい言葉に、アンジィーは照れる。

 ティッカリとウパルはその光景を微笑ましく見つめていた。

 そうして食事休憩を終えると、再び層を下りていく。

 もう何度も通い慣れた道なので、日数がかかる以外には、面倒は相手はいない。

 沼の層から海の層へ進み、久しぶりとなる海の幸を堪能しつつ、《火炎竜》との戦いに話が及ぶ。

 

「それでさ、《火炎竜》とどう戦うかなんだけど。やっぱり、僕らの戦い方だと、真正面からぶつかるのは悪手だと思うんだよ」

「はぐはぐはぐ。わふっ、その通りだと思うです」

「ん~、《透身隠套》に頼るにしても、一度返り血や炎を浴びちゃうと、駄目になっちゃうの~」

「ですが簡単な相手ではありませんよ、その一度の攻撃で倒せるほど」

「あの巨体でございますから、鈹銅竜鎖で雁字搦めとは参りませんし」

「そ、それに、その、あの白い炎を、放ってこられたとき、散らばっていると危険かなって……」


 周囲の警戒は怠らないままに、ああでもないこうでもないと意見を出しつつ、食事の手は止まらないのだった。




 三十層で持てる限界まで海の幸を集めてから、《靡導悪戯の女神シュルィーミア》の浮き彫りに特殊な祝詞を上げ、四十層へ転移する。

 出現してきた《折角獣馬》は、アンヘイラが竜襲狙弓と赤牙鏃の矢ですぐさまに貫き、絶命させた。

 そうして《下町》に戻ってみると、《中三迷宮》に行っていた期間と《大迷宮》をここまで来る期間――つまりは二巡月も経っているというのに、まだ《火炎竜》討伐で盛り上がっていた。

 テグスはどうしてだろうと不思議に思っていると、都合よく食堂から酔いが混ざった声が聞こえてきた。


「おー、そんなに竜の頭ってのは凄かったのかよ!!」

「そりゃあ、そうよ。あんなものが動き出したらって考えるだけで、震えがくる、恐ろしさだ!」

「やべぇなそりゃあ。俺らも最下層にいったら、チビらないように、一物に栓をしとかねぇと!」

「「「ぎゃははははははっ!!!」」」


 その言葉を聞くに、どうやら地上で《火炎竜》の頭を見た人たちが《下町》にやってきて、その話を肴に宴会が開かれているようだった。

 ここにいる《探訪者》たちが相変わらず宴会好きな様子に、テグスたちは苦笑混じりに微笑む。

 その後はいつも通り、泊まり慣れた宿屋でまとめて料金を十日分払って部屋を確すると、続けて通い慣れた食堂へ向かう。

 居合わせた《探訪者》たちから歓迎を受けつつ、三十層で獲ってきた海産物を放出する。

 たちまちに海の幸が調理され、食堂に磯の香りが立ち込めると、匂いにつられた《探訪者》たちが何人も入ってくる。

 珍しい海産物の大盤振る舞いに、ほどなくして宴会が始まった。


「扉明けの、あんたらは最下層に行っているんだったよな」

「こりゃあ、次の竜殺しは君らで決まりかなぁ~?」

「いやいや、若者に負けてなるものか! 次の竜殺しの栄誉は、俺らが貰うぞー!!」


 どうやら《下町》でも、テグスたちは《火炎竜》を倒した一味には数えられていないようだった。

 しかし、一々訂正するのも馬鹿らしい。


「じゃあ、どっちが早く《火炎竜》を倒せるか、競争になりますね」


 そう呷るように言えば、食堂にいる面々は驚いた顔の後で、大笑いし始めた。


「あははははっ、そうだなその通りだ!」

「おうよ、負けねぇぜ。扉明けの」

「あ、でもよ。通路の大扉にあるお宝で、良い武器があったら今まで通りにこっちにも流してくれよ」

「ええー、どうしましょう~――なーんて、ちゃんと取引は続けますから、安心してください」

「おーおー、冗談かよ。ちょっとばっかり焦ったぜ」

「「ぎゃははははっ、だっせー!」」


 そうして宴会の熱気が上がり始めた頃、散々飲み食いして満足したテグスたちは、大目に魔石を払ってから一足先に食堂から出ることにした。

 そして宿屋に戻ると、再び《火炎竜》とどう戦うかを、議論し合っていく。

 しかし、結論が出る前に眠気がやってきたので、打ち切って眠ることにした。

 寝てしばらく経った頃、テグスは自分のベッドが少し揺れた気がして、目を開ける。

 すると、潜り込もうとしているハウリナと目が合った。


「……一緒に寝たいの?」

「だめ、です?」

「ううん。いいよ、おいで」


 安全な宿屋ということもあって寝ぼけていたテグスは、あっさりと了承して招き入れる。

 ハウリナは嬉しそうな顔で潜り込むと、テグスの腕を枕にし、片足を絡ませた。

 テグスは欠伸しながら、自由な手でハウリナの頭を撫でつつ、再び寝に入ってしまう。

 ハウリナは寝息を立てるテグスの首元に顔を埋めると、満足そうな顔のまま寝てしまう。

 そんな様子を、ハウリナの移動の気配で起きたアンジィーが見ていた。

 しかし、何事もなく二人が寝てしまったことに、安堵と少しの不満を混ぜた顔でみやってから、こちらも静かに寝なおし始めるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ