298話 《火炎竜》戦・後編
巨大な槍を手に、頑侠族のコンガルドは突撃する。
《火炎竜》はまだ広げたままだった翼を振るい当てて、弾き飛ばそうとしてきた。
「ぬうぅん!」
コンガルドは、大槍で翼を防ぎつつ気合を入れて踏ん張る。
幸運にも、翼の皮膜の部分に当たり、強い衝撃を受けずにすんだ。
振るわれた翼をやり過ごすことが出来たコンガルドは、再び大槍の長い柄を両手で掴み、《火炎竜》の腹元へと走っていく。
しかし続いて、鉤爪のある前脚が迫ってきた。
「ぬおおおおおぉ!」
コンガルドは立ち止まるのではなく、速さを上げて駆け抜けるることで、どうにか鉤爪に切り裂かれるのを免れた。
その上がった勢いのままに、腹元へと大槍を突き刺す。
元が壊れた武器であったことを伺わせない威力を発揮し、赤い鱗とその下にある皮膚を突き破った。
だが人間種の大人ほどもある穂先を突き刺しても、まだ《火炎竜》の分厚い腹元の皮膚は貫けなかったのか、さほど血は出てこない。
なのにコンガルドは、まだ諦めていないようだ。
「ぬぐおおおおおおぉ!」
雄叫びを上げ、四肢に力を込めると、大槍を力任せに奥へ奥へと押し込み始める。
ゆっくりと刺し入っていく刃が、あるとき唐突に止まった。
どうやら、《火炎竜》の腹元の筋肉にまで達したようだった。
「ふんぬごおおおおおおおおお!」
コンガルドが再び雄叫びを上げ、押し込もうとしている様子から、どうやら腹の筋肉は大槍の刃でも貫くことが出来ないほど硬いようだ。
その上、《火炎竜》は痛みを感じていないような余裕のある目を向けつつ、彼を抓もうとするように鉤爪のある前脚をゆっくりと伸ばしていく。
「ぬうっ……」
コンガルドは悔しそうに呻くと、大槍の柄から手を放して、その前脚を回避し地面を転がる。
《火炎竜》は刺さっている槍よりも、コンガルドの方が危険だと判断したのか、転がっている彼を執拗なまでに両方の前脚で追っていく。
コンガルドは避けた後で立ち上がろうとはするものの、巨体ゆえに起き上がる動作が遅く、再度転がることを余儀なくされてしまっていた。
そこに、ビュグジーたちが走り込んできた。
待機していたはずのメルポの一団も、それに付き従っている。
追われているコンガルドを助けるのかと思いきや――
「全員で、あの槍を押し込むぞ!」
ビュグジーたちは全員で、《火炎竜》に突き刺さったままの大槍の柄を掴む。
そして、渾身の力で押し始めた。
巨大な槍が押し込まれていることに不快感でも覚えたのだろう、《火炎竜》は前脚でコンガルドを追うのを止め、ビュグジーたちへと狙いを変える。
「急げ、急げ! もっと力を入れろ!」
「「「「おおおおおおおお!」」」」
ビュグジーの号令に、柄を掴む全員が渾身の力で押し込んだ。
すると、隙間にでも入ったかのように、するりと穂先がさらに奥へと入っていく。
そして代わりに、その傷口から真っ赤な血が噴出してきた。
「ドロオオラアアアアア! キオンファリス!」
《火炎竜》は悲鳴を上げ、その開けた口から火を吐こうとしてくる。
「大盾持ちは掲げておけ! 傷の肉が縮まる前にこの大槍を引き抜くぞ! それで引く。ぐずぐずしていると、少し前みたいに翼で閉じ込められるからな!」
ビュグジーの言葉に合わせ、防火処理された大盾を持つ者たちが、《火炎竜》の炎を防ぐため大槍から手を離す。
コンガルドも合流し、大槍を引き抜くのを手伝い始めた。
そこに、《火炎竜》の炎が彼らに吐きかけられる。
大盾で防御しながら、大槍がゆっくりと引き抜かれていく。
ある時点を境に一気に抜けると、ビュグジーたちは再び《火炎竜》に閉じ込められる前に、大急ぎで一時撤退した。
しかし、苛立ったように上目蓋を吊り上げた《火炎竜》が追ってくる。
「ミネパラドノス、ヴィポナルディタミ!」
恨み言のような言葉と共に、ビュグジーたちに炎が吐き出される。
大盾を持つ《探訪者》たちは、それに反応して防いだ。
三秒間放射された炎が止むと、そこには大盾持ちを先頭にして、残り全員で大槍の柄を持って突貫するビュグジーたちの姿があった。
《火炎竜》は前脚を振るおうとするが、彼らが腹元に到着する方が早い。
走った勢いもあり、赤い鱗を突き破り、分厚い皮膚すらも突き通して、筋肉までも穂先が突き抜けた。
「ドロオオラアアアア、ディリス!」
《火炎竜》は叫び声を上げたあとで、もう一度炎を吐いてきた。
同じようにビュグジーたちは大盾で防ぎつつ、大槍を引き抜いて撤退しようとする。
そのとき、炎の中を突き抜けて、《火炎竜》の前脚がやってきた。
そして、炎を防いでいた大盾持ちの一人を、鉤爪で掴み上げる。
「うわあああああああ! くそ、俺はもう駄目だ! だが、この盾だけは!!」
抜け出られないことを察したその《探訪者》は、手にある大盾をビュグジーたちが撤退する方向へ投げた。
その後すぐに、《火炎竜》の口へと放りこまれてしまう。
骨と肉を切断する音が響く。
《火炎竜》は顔を、投げ渡された大盾を拾って別の《探訪者》に装備させた、ビュグジーたちに向ける。
「いくぞおおおおお!」
「「「おおおおおおおおお!」」」
また大槍を全員で掴んで突っ込んでいく。
《火炎竜》は少し目を細めると、翼を大きく広げた。
「ボンヴォルネァサマドゥオ、ナウジタムルトフォジェ」
そして古代語で言い放ってから、翼を素早くはためかせ始めた。
《火炎竜》が翼で生み出した暴風が、突撃しようとしていたビュグジーたちに直撃する。
先頭の大盾持ちたちは堪えるが、少しずつ足が後へと滑っていく。
やがて、嵐の中にある木っ端のように、ビュグジーたちは後へと吹き飛ばされてしまった。
幸い、単純に風に飛ばされただけなので、怪我を負った者はいない。
だが、対処法を生み出されてしまったので、もう大槍を全員で持っての突撃は意味を成さなくなった。
ビュグジーたちが悔しげな顔をするが、少しして笑みの形に表情が変わる。
それはなぜかというと。
《火炎竜》の尻尾へ到達しようとする、サムライとテグスたちの姿が目に入ったからだった。
ティッカリと合流した、テグス、ハウリナ、サムライは、一緒に《火炎竜》の後方へ回り込もうと走る。
その間に、尻尾の切断を狙っていると、ティッカリに伝えておいた。
「え~!? あんなにおっきな尻尾を、切れるのかな~?」
ティッカリは驚きながら、ビュグジーたちと戦っている《火炎竜》の方を見る。
その尻尾は、根元は《火炎竜》の胴体ほども太さがあり、先につれて細くなっていた。
そんな部位を身体から切り離すのは、並大抵の力では出来そうにないように見える。
だが、提案主であるサムライは、微笑みをティッカリに返す。
「なに、根元が難しいので御座りますれば、斬れそうな部位を見つければよいだけのことで御座りましょう」
「でも、それはそれで、難しい気がするかな~」
ティッカリが懸念しているように、先端は細い代わりに、小さな赤い鱗が重ね合わさり密集したような見た目になっている。
それこそ、先端は重なった鱗で下ろし金のようになっていて、身体に当たりでもしたら皮膚だけでなく骨まで削られそうな様相だ。
そして鱗が密集していると、その分だけ硬さが増して斬ることが難しくなるであろうことは、テグスも同意するところだった。
「でも、とりあえずは一度試してみないことには始まらないからね」
「わふっ。ウロコを砕くの、任せて欲しいです!」
テグスとハウリナが乗り気な様子を見て、ティッカリは仕方がないといった微笑みを浮かべた。
そうやって《火炎竜》に後から近づいていき、尻尾の先端に到達する。
しかしそのまま、どんどんと根元へ向かって進み、尻尾にある鱗の重なりがやや薄くなった中ごろまで移動した。
すると、サムライが長巻を高々と振り上げる。
「では、一番手として行かせて頂くに御座りまする! ちぃええええええええ!」
掛け声と共に、切っ先が消えて見えるほどの速さで、サムライは長巻を振るった。
刃は尻尾の鱗を断ち、その下の皮と肉へと入る。
しかし、よほど尻尾の皮は硬く肉も詰まっていたのだろう、サムライの剣技にしてみれば珍しいことに、長巻の刃は両断する途中で止まってしまっていた。
「むむっ。翼を斬り捨てたときと同じ感覚では、いかんようで御座りまするな」
失敗を恥じるようにサムライは呟くと、長巻を引き抜き、同じ場所をもう一度攻撃しようとする。
だがその前に《火炎竜》の尻尾が痛みに反射したように蠢き、傷口のある部分が突如サムライへと迫ってきた。
柄で防御したサムライは、その質量差から軽く弾き飛ばされる。
テグスも動いた尻尾に当てられそうになったが、ティッカリが壊抉大盾で防いだ。
その際、彼女の体は少し後退させられていた。
「くぅ~~~。お、重かったの~~~」
尻尾の小揺るぎで、力自慢のティッカリが根を上げるのだ。
仮に《火炎竜》が尻尾を攻撃に使った場合、恐らく防げる人はいないだろう。
テグスはそう予想し、より一層の警戒を尻尾に抱いた。
かといって、やるべきことは変わらない。
「『刃よ鋭くなれ(キリンゴ・アクラオ)』!」
塞牙大剣に鋭刃の魔術をかけ、サムライが斬りつけた場所へと振り下ろす。
傷口のさらに深くに斬り入ったが、テグスに伝わってきた感触は形容しがたいものだった。
まるで硬い粘土を木の枝で押し切っているような、入ってくる物を跳ね返そうとする圧力を手に感じるのだ。
それだけ肉が詰まっている証拠だろうと、テグスは力を込めて押し切ろうとする。
だがすぐに、塞牙大剣の斬り入る進みは止まってしまった。
そのとき、先ほどのサムライと同様に、尻尾が蠢きテグスを弾き飛ばす。
「ぐはっ――」
鎧の上から大木槌で叩かれたような衝撃を受け、肺の中の空気を口から漏らしながらも、テグスは手の塞牙大剣は放さなかった。
飛ばされる勢いで尻尾から塞牙大剣が抜け、少しの間足が地面から浮き上がる。
テグスは飛ばされた先で着地するが、肺に空気のない息苦しさから、少しだけ膝を折ってしまう。
だが、膝が地面に着く前に、サムライが助け起こした。
「へたっている場合では御座りませぬよ」
「わ、分かってます」
テグスは二度深呼吸をして肺に再び空気を満たすと、尻尾に攻撃しているハウリナたちの様子を見る。
「わおおおおおおおおおおおおおん!」
「とや~~~~~~~~~~~~~~」
ハウリナは尻尾の鱗を少しでも多く壊そうと、懸命に黒紅棍を振るう。
ティッカリは壊抉大盾の杭で肉を穿ちながらも、尻尾が蠢く度に率先して防御し、ハウリナが弾き飛ばされることを防いでいた。
そんな二人のもとへ、テグスはサムライと共に駆け寄り、尻尾を両断するべく攻撃を再開しようとする。
だが、ビュグジーたちに注意が向いていた《火炎竜》とて、なんども攻撃されれば意識を向ける先を変えるは当然のことだった。
「アタキスカッシータアアアア!」
軽く振り返りながら古代語で叫んだ《火炎竜》は、胴体と同じ長さの尻尾を持ち上げ、勢い良く振り下ろした。
頭上から古樹が振ってくるような光景に、テグスは素早く極限の集中状態へ以降する。
尻尾が打撃する範囲を見極め、ハウリナとティッカリの腕を掴むと、急いで離脱しにかかる。
最後は身を地面に投げ出すようにして避けると、三人の足の直ぐ近くに《火炎竜》の尻尾が打ち付けられた。
その際に巻き上がった風と、地面の揺れでテグスたちは立ち上がることができない。
すると、《火炎竜》は再び尻尾を持ち上げた。
「エヴィタスラセクヴァアタコォ」
挑戦的な語感のある古代語と共に、尻尾が落ちてきた。
テグスはハウリナとティッカリの腕を掴みながら、尻尾の攻撃範囲を見極める。
そして《火炎竜》のちょっとした動きの差から、テグスは掴んでいる二人を地面に押し付け、その上に覆いかぶさるようにして地面に伏せた。
それと同時に《火炎竜》は胴体を捻って尻尾の落ちる軌道を、垂直方向から水平方向へと変える。
さらには踏み変えで体勢を前後入れ替えて、尻尾を大きく振り回した。
テグスの背中の直ぐ上を、轟々と風切り音を立てて尻尾が通過する。
避けきったことに安心する前に、どこかからか人の悲鳴がしてきた。
「ぎぃああああああああああああああ――」
テグスは伏せたまま声がした方へ顔を向ける。
大槍を持って突撃しようとしたビュグジーたちが、《火炎竜》の尻尾で打ち散らされた瞬間を見た。
極限の集中状態は、テグスにその参上を冷静に分析させる。
硬い鱗がある尻尾に直撃されて、全身血まみれかつ変な風に折れ曲がっている人が五人。
残りも激しく叩き飛ばされているが、先の五人が盾代わりになり、致命傷や戦闘不能に陥った人はいない。
だが、《火炎竜》の攻撃はこれで終わりではなかった。
再び後ろ脚を動かして体勢の前後を入れ替え、尻尾を一巡りさせるように振るってきたのだ。
その上今度は、地面に伏せていては避けられないように、地面を赤い鱗で削りながら迫ってくる。
「退避だ!」
「「「「逃げろーーー!」」」」
右後脚を攻撃し続けてきた獣人の一団は、バゥニゲラの号令に大慌てで迫る尻尾から逃げだす。
ある者は飛び越えようとして失敗し、ある者は仲間にぶつかって逃げ遅れた。
そうして、七人中三人が命を落としてしまう。
さらに尻尾は、テグスたちの方へ再びやってくる。
テグスは攻撃範囲を予想し、この伏せた状態から逃げたのでは、三人全員は避けきれないと判断した。
なので、少しでも生き残る確立の高い方法を選択する。
「壊抉大盾の陰に三人で入って、尻尾をやり過ごすよ。ティッカリは膝立ちになって、壊抉大盾を少し斜めにして前に構えて。ティッカリと僕は、壊抉大盾の後に入ってティッカリの腕を支える」
「わ、分かったの~」
「やるです!」
テグスが提案した通りの体制になり、三人は覚悟を決めた顔をする。
するとテグスたちの横を、無傷のままのサムライが駆け抜けていった。
その楽しげな顔と、尻尾の傷口に向かって長巻を振り上げる姿を見て、何をするつもりかテグスは大体分かった気がした。
テグスが予想した通りに、サムライは迫ってくる尻尾に向かって大きく一歩を踏みだし、長巻を振り下ろした。
「キィエエエエエエエエエエエエイイイイイ!」
移動してくる尻尾にある傷口を、寸分違わずなぞるようにして、長巻の刃が入った。
その傷口の中に、サムライが入り込んで見えなくなる。
攻撃は失敗したのか、テグスたちの方に尻尾が止まらずに迫ってきた。
テグス、ハウリナ、ティッカリはしゃがんだまま、壊抉大盾の内側に入る。
重たい衝撃に吹き飛ばされそうになるのを踏ん張り、尻尾が盾の上を滑り通っていくまでを耐え切った。
三人はまた尻尾がきても対処できるように、素早く立ち上がる。
そのとき、通り過ぎた尻尾から再び声が聞こえてきた。
「キィエエエエエエエエエエエイイイイイ!」
茂みを払ったような音と共に、尻尾の一部が斬り裂かれ、そこからサムライが血まみれで出てきた。
尻尾の半分ほどが、胴体との繋がりを断たれ、地面に落ちる。
すると《火炎竜》は動きを止め、信じられないものを見る瞳を、自身の短くなってしまった尻尾に向けた。
「ヴォストオオ、マルロンガジイイイイイ」
悲痛というよりも、驚きが勝っているような叫び声を《火炎竜》は上げた。
さらに、尻尾を半分失って、平衡感覚が崩れたのか軽くよろめく。
その姿を見て、ビュグジーは攻めどころだと判断したようだ。
「尻尾を失って自失しているぞ! 今のうちに削れるだけ削る! 武器を持て、総攻撃だ!」
その大声に、尻尾の攻撃で無事だったほぼ全員が走り出す。
例外は、テグス、ハウリナ、ティッカリ、サムライ。そして《透身隠套》の効果で姿を消したままのアンヘイラたち。
テグスたち側は、無茶をさせた壊抉大盾と長巻の状態を確認することが優先なため。
アンヘイラたちは元々中距離と遠距離の攻撃手段があるため、走り寄る必要がないからだった。
「「「うおおおおおおおおおお!」」」
雄叫びを上げて走るビュグジーたちに、《火炎竜》は最初は静かに、最後は吠えるように喋りかける。
「ヴィンファノジュポヴォスエクスタアミラヴォスト、フィノデプロセソ。グランドスカラノ、ヴェントレプレノオオオオオオ!」
喋り終えても大口を開けたまま、《火炎竜》は静止する。
すると、全身の赤い鱗が一斉に逆立ち、その赤さの鮮やかさと色艶が増していく。
さらには、口に溜まり始めた炎の色が、赤から黄色、黄色から白、そして高圧縮されたように球形になる。
口に溜まった白炎の球から漏れ出るように、白く小さな球が周囲に抜け出て、パチパチと弾ける音を放ち始めた。
ビュグジーたちは耐火処理を施した大盾を前面に掲げて、突撃をやめようとしない。
援護のためか、姿を見えなくしているアンヘイラとアンジィーの攻撃だろう、虚空から何本もの矢が現れ、《火炎竜》の口内へと飛ぶ。
だが、赤牙の鏃であろうと新素材の鏃であろうと、口の白炎に触れた途端に一瞬で燃え尽きて蒸発してしまう。
いままでの炎とは毛色が違うと、突撃途中で気がついたのだろう、ビュグジーたちは慌てて大盾の枚数分に分かれて退避し始める。
散開する彼らの中心地点へ、《火炎竜》が顔を向ける。
「アツート」
合図かのように一言添えて、《火炎竜》は口から白炎を吐き出す。
そのときなぜか、ほんの少しだけ顔の向きが横へずれた。
しかし、吐かれた一瞬後には白炎は地面へ衝突していた。
周囲に鼓膜を破き内耳骨を砕きかねない爆音と、全てが塵と化すほどの猛烈な風、そして直撃地点を直ぐに溶解させるほどの熱が周囲に撒き散らされた。
すると、暴風で頭巾を外されたアンヘイラとアンジィーの姿が現れる。
続けて、同じようにウパルも現れたが、彼女の袖からは《鈹銅縛鎖》が伸びていて、《火炎竜》の首元へ巻きついていた。
どうやら、炎を吐く場所をビュグジーたちが居ない方へ向けようと、試みたようだった。
しかし、白炎の着弾地点をほんの少しだけ、ずらしただけにしかならなかったようだ。
それでも、多少の効果はあっただろう。
なにせ、散開した中心地点から狙いを外したというのに、《探訪者》たちの半数が消し飛び、生き残った中の半分は熱傷に苦しんでいるのだから。
その光景を遠くに眺めがなら、テグスは呆然としながら呟く。
「……アツート――たしか、最後の手段とか、決定的な一打、って意味の古代語だったっけ」
まさしくその言葉に相応しい《火炎竜》の致命的な攻撃を見て、テグスは背筋が凍りついたのだった。
序盤戦は終わりです、ここからが《火炎竜》の本気な戦いとなります。
以降、竜の喋ったことの意訳です。
本編のイメージを大切にしたい方は、読まない事を推奨します。
「痛たッ。なにをするのか!」
「許さない、血を出させたな!」
「痛いって言ったぞ!」
「同じ手を何度もするでない!」
「何をこそこそと!」
「ならこれも避けてみるといい」
「尻尾が、短くなっている!?」
「尻尾を落とせるような相手か。ならば下馴らしは終いよ。ここからは本気ぞ!」
「切り札を食らうと良い」




