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282話 実力の伸び

ちょっと短いです

 テグスたちは《雑踏区》を駆け回って、人狩りを見つける端から殺していった。

 それこそ、家屋を襲っていた二十人ほどの部隊すら、さほど手間取ることなく殺してのけていた。


「単なる鉄の鎧なら、魔術なしでも斬れるようになっちゃっているしね」

「赤い鱗にくらべたら、柔らかいです」

「人の手足なんか《魔物》と比べたら脆すぎて、ちょっと力を入れただけで折れちゃうの~」

「それに矢で穿てる隙間だらけですからね、乱造の鎧などは」

「筋力も文字通りに人並みでございますから、拘束するのも簡単でございますし」

「や、闇の精霊さんが触ると、やる気を奪っちゃうみたいで、戦いやすいですしね」


 言い合いながら、テグスたちは人狩りたちとの実力差を、今更ながらに実感し始めたようだった。

 そうして、敵を発見しだいに倒して住民を救い、死体は放置して街中を駆けていく。

 と、《探訪者》らしき人が集まっているのが見えた。

 テグスは興味を持ち、近づくことにした。


「こんにちは。何しているんですか?」


 気軽な調子で喋りかけると、接近に気が付いていなかったのか、その二十人ほどの一団は驚いたような顔をして、一斉に武器を向けてきた。


「僕は《探訪者》なんですけど、そちらは違うんですか?」


 テグスは反撃できるよう右手に黒直剣を握り直してから、左手で《白銀証》を取り出して見せてやった。

 彼らは再び驚いた顔をして、慌てて武器を下ろしだす。


「すまなかった。立派な鎧を着ていたから、同業とは思わなかったんだ」


 勘違いに対して、テグスは身振りで気にしないように伝えつつ、《白銀証》をしまう。

 すると一団全員が、興味深そうな顔で、テグスたちの装備を上から下までみやる。


「しかし。《大迷宮》にいけるようになると、そんな装備が手に入れられるほど、稼げるんだな」

「ええ。三十層や四十層ぐらいまで行けるようになれば、素材の換金だけで金貨に手が届きますよ」

「おおぉ。そう聞いてしまうと、今後も一層励もうって気になるな」

「頑張ってくださいね。それで、ここに集まって何をしているんですか?」

「ああ。一匹ずつ人狩りを倒してもきりがないからな。これから、あいつらの野営地付近に進んで、戻ってくる奴らを襲おうって算段をな」


 その手があったと思って直ぐに、テグスは首を横に振った。


「騎士か予備騎士かは知りませんけど、かなりの実力者が野営地に待機しているんじゃないかって思いますよ」

「まえに、襲いにいった人、全員捕まったです」


 ハウリナも駄目だというように言葉をつむぐと、一団全員の顔が渋いものへ変わった。


「むぅ、そうだったのか。良い案だと思ったんだがな」

「人狩りといえど、人だ。《魔物》のような、考えなしとは違うか」


 口惜しそうに言った後で、彼らは再びどうするかを話し合うことにしたようだった。

 テグスは止まっても邪魔になると思ったので、この場を立ち去ることにした。

 そして、人狩りたちの野営地がある方向へ走っていく。

 ハウリナたちも後に続くが、ティッカリが不思議そうな声を上げる。


「さっき、手強い人が襲ってくるかもって、言ってなかったかな~?」

「だからこそだよ。強い人を倒せば、それだけ本陣の守りが薄くなるからね」

「副次効果で損害を気にして早々と引き上げるかもしれませんね、騎士か予備騎士を害せれば」


 アンヘイラが加えた説明で、ハウリナたちも理解したようだ。

 しかし、唯一アンジィーが心配そうな顔をする。


「で、でも、その、騎士って、すごく強いんじゃ……」

「強いって言ったって、《火炎竜》やレアデールさんほど強いわけじゃないでしょ。それに、前の春にベックリアさんと戦った際には、僕一人で接戦できたんだ。ハウリナたちと共闘すれば、倒せない相手じゃないと思うよ」


 勝てる算段があると分かったからか、アンジィーは心配から緊張へと表情の種類を変えた。

 全員の気持ちが整ったのを見て、テグスは騎士ないし予備騎士を釣り上げるための方法を考える。


「」


 そして、先ほどの一団が考えていた、期間途中の人狩りたちを襲うことに決めたのだった。




 野営地へ続く路地の中で、テグスたちは五組目の人狩りたちを葬り終えていた。

 血を流して地面に横たわる死体の近くに立ち、捕らわれていた人たちを解放していると、どこからともなく《雑踏区》の住民たちが現れる。


「あ、あのー。ここにくれば、武器や金を分けてもらえるって……」

「僕らのは分けないけど。死体をどこかに持ってってくれるなら、死体の装備品を好きにしていいよ。僕らはここで待ち伏せしているから、死体があると邪魔なんだよね」

「そういうことなら。喜んで持っていかさせていただきます!」


 住民たちは我先へと死体に群がると、数人で一つを担いで何処かへと持っていった。

 血だまりだけになった場所に、テグスたちは再び隠れて、次の獲物を待つ。

 しかし、少しするとハウリナが獣耳を立てて、顔を人狩りの野営地の方向へ向けた。


「誰かくるです」


 とうとう目的の人が釣れたらしいと、テグスは隠れるのを止めるよう身振りする。

 路地に全員が集まってすぐ、女騎士ベックリアと同じ様相の甲冑をつけた人物がやってきた。

 甲冑の見た目と、威風堂々とした佇まいからして、騎士だ。

 それも、明らかに輪郭の線が太く、かなりの大柄なので男性だろう。

 武器は肩に担いでいる、断頭刃ギロチンのような、直角三角形な剣身の両手剣。

 他に武器や盾はない。

 

「ふむふむ。この撤退路だけ帰還率が悪いと思えば、手練が罠を張っていたようであるな」


 兜に遮られて、元々の重低音がさらに低くなった声が、テグスの耳に入る。


「その姿から察するに、有名な騎士なようですね」

「ふはははっ。自ら高名などと言う積りはないである。だが、我が祖国において、《大義と断罪の神ビシュマンティン》の祝福があるこの『断罪剣』と、所持者『断罪騎士のギリオット』を知る人は多くいるであるな」


 誇らしげに掲げるのは、断頭刃に似た剣――どうやらあれが断罪剣というものらしい。

 テグスはそれを見て良く切れそうだと思うのと同時に、祝福がどの神のものかを聞いて気になったことがあった。


「女騎士のベックリアさんも、同じ神さまの祝福がついた盾を持ってましたね」

「しかり。あやつが盾として国を守り、本官が敵を打ち倒す刃である。もっとも、稚子ややこを育むため、盾は休養中である」

「……ベックリアさんの旦那さんじゃないですよね?」


 違うとは思いながら、念のために尋ねると、まず笑い声が返ってきた。


「はっはっは。本官は国に全てを捧げると誓った身。妻帯するつもりはないのである」


 和やかな談笑を続いていたが、断罪騎士のギリオットは言い終えると態度を一辺させて、断罪刃の先をテグスへと向けて威圧し始めた。


「こちらの素性を知ってもなお、逃げ出す素振りがないということは、つまりはそういうことであるのであろう」

「ええ。騎士が本陣から出てくるのを待っていたんですよ」


 テグスは黒直剣を抜きながら返答すると、ハウリナたちも身構えた。


「ほう。年齢の割りに強そうではある。だが、本官に通用するか、命をもって確かめてみるといい!」


 ギリオットが断罪剣を振り回して吠えたのをきっかけに、戦いの火蓋が斬って落とされた。


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