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278話 調べ物の続き

 《考求的学び舎》の信者三人が役に立たなかったこともあり、テグスたちは泊りがけで《中一迷宮》の図書館にある本を調べてみることにした。


「ここにある本のほとんどが古代文字で書かれているから、僕とウパルだけしか読めないんだよね」

「中には普通の文字のものもあるそうでございますし、ハウリナさんたちにはそちらを読んでもらいましょう」


 かといって、テグスたちだけではこの広大な広間に溢れるほどある本を、片っ端から見るのは不可能だ。

 なので、例の三人には、未だ読まれていない本が多い棚を、優先して案内してもらうことにした。


「ここら辺一帯は、食料や水が溜めてある神像のある場所から遠いんで、あまり調べない棚だな」


 案内された場所は、長年手付かずなようで、薄っすらと埃が乗った本ばかりがあった。

 

「むぅ。鼻が、むずむずするです」

「人通りがなかったからかな~。空気が淀んでいる気がするの~」


 ハウリナとティッカリが鼻を押さえる中、テグスは本を棚から一冊抜き出してみる。

 軽く手で埃を払うと、丁寧に装丁された、皮紙を束ねた本だった。

 古代文字で、題名は『技術神が生徒に行った小噺・上巻』とある。

 開いてみると、長年放置されていたとは思えないほど、あっさりと皮紙が離れた。

 中の文字にも滲みはなく、綺麗な状態なままで読みやすい。

 テグスはぺらぺらと捲っていき、書かれた内容を斜め読みしていく。


「神さまの失敗談とかを引き合いにした教訓を、集めたもののようだね」


 読み物としては面白いそうなものの、目的に合ったものではないので棚に戻す。

 テグスが別の一冊を取るのに合わせ、ウパルも本を抜き出していた。


「題名は――『狩の神に酒の席で聞いた、悪戯女神との夫婦円満の秘訣』って、完全に関係ないや」

「こちらは『慈悲女神が伝える、粗食な献立』でございました。《静湖畔の乙女会》の信徒としては見過ごせませんので、取り置いていただきましょう」


 あれこれと本を抜き出しては、二人は題名を確認し続けていく。

 ハウリナたちも、普通の文字で書かれている本を見つけるべく、あれこれと本を抜いては戻すを繰り返していく。

 その中で、先ほど見つけた神に関する書籍もあれば。吟遊詩人の歌集、酔っ払いの戯言、見知らぬ誰かの日記などといった、この図書館にある意味が分からないものも見つかった。

 それでも、竜に関連しそうな題名の本が見つかった。


「『聖竜と邪竜の代理決闘』、『童話、とじこめ竜』、『竜を扱う際の陣形論』の三冊だね」

「実質二冊ではありませんか、童話は期待できそうもないですし」


 アンヘイラの指摘を受けて、テグスは代理決闘の本を、ウパルは陣形論の本を先に読むことにした。


「うーんと……良い神さまと悪い神さまが、それぞれ竜を作って決闘させる。二匹の竜は戦っている間に友情が芽生え、変な目的で自分たちを造った二柱の神さまたちに反逆を挑む。それで最後は夫婦になって子供と楽しく暮らしました。って感じの内容だったよ」

「こちらは、竜の種類別にどのような陣形をもって、相手と戦えば良いかというものでございました。竜の弱点も載ってはございましたが、火を吹く竜には水や砂を吐く竜を当てると、人の身で使えるようなものではございませんでした」


 二人とも内容にがっかりして、本を棚へ戻す。

 そして三冊目を手に取ろうとして、ハウリナが先に見ていた。


「読めるの?」

「読めないです。でも、絵がついていて、わかるです」


 テグスがハウリナの後ろに回りこんで本を覗き込むと、小さな挿絵が頁ごとに一つ書かれてあり、古代文字が読めなくても内容が分かるようになっていた。

 内容は、イタズラしてばかりの竜が、怒った神さまに洞窟に閉じ込められ、空腹と渇きで泣き暮らしながら、道行く人に助けを求めるというもの。

 この話をどこかで聞いたことがあると、テグスは感付いた。


「あの年配の《探訪者》たちが、《火炎竜》を空腹で弱らせようとした理由になった話って、これなんじゃない?」

「元が童話だと知らなかったのでしょうね、年数をかけて挑み死んだことを考えると」


 アンヘイラの言葉を聞きながら、テグスは間違った情報を得る怖さと、本当の情報を得る難しさに気がついた。


「これは、竜の弱点の記述を見つけたとしても、それが本当か確かめるために、同じ内容がある別の本を見つける必要がでてくるね」

「そういえば見せてもらった調書には、他の本に書かれているかどうかで、信憑性があるなしを区別していたかな~」


 ティッカリの言葉につられるように、ハウリナたちもあの調書を思い出そうという素振りをする。

 そして、書かれてあった引用元の本の多さからか、一様に面倒臭そうな表情になった。


「竜の弱点、わからなくていいです。戦う力つければ、いいことです」

「ハウリナの言う通りですね、弱点が分からずとも倒せればいいので」

「本を見るのでございましたら、見つかるか分からぬものより、戦闘の手引書や技術書を読んだほうが建設的でございますし」

「そ、そうですよ。ま、魔法の本とかを見て、新しいものを覚えたほうが、いいんじゃないかって思います」


 テグスとしても、延々と本をあてどなく探し回るのはご免だった。

 

「弱点に固執するより、自分たちで《火炎竜》との戦法を考えて、それに合った情報がある本を探した方が早そうだ」

「わふっ。どんなのがあればいいか、考えるです!」


 そうして全員で、《火炎竜》という強大な相手にどんな魔術や魔法が有効か考え始めると、横から声がかけられた。

 顔を向けると、例の三人だった。


「その議論の肉付けに、我々の知識は要らんかね?」

「今ならご奉仕で、出し惜しみなし! 役立つ情報盛りだくさんでお届け!」

「これはもう、頼るっきゃない!?」

「……あれ、まだいたんですか?」

「「「辛らつだ!!」」」


 三人の大げさに仰け反る挙動を見てから、テグスは存在を忘れていたことを謝り、議論に参加してもらうことにした。


「さて。僕とハウリナとティッカリは、《火炎竜》を傷つけるぐらいは出来るようになっているはずだから。吐かれる炎や、振り回される尻尾、前脚の鉤爪を、どう防ぐかが問題になるよね」


 並べた問題に気になる部分があるのか、ティッカリが首を傾げる。


「翼は気にしなくて良いの~?」

「飛ぶことはあまりないのでは、あの場所は天井が低いのですし」

「上空を逃げ回る素振りが見えたら、階段まで引き返せばよろしいかと思われます」


 アンヘイラとウパルの考えに、ティッカリは納得した様子を見せて、話を進めるようにと身振りする。


「それで、何か良い道具か魔法が載った本があるのだったら、教えて欲しいと思うんですけど」


 テグスに話を振られた《考求的学び舎》の三人は、揃って悩んでいる顔をする。


「火は精霊魔法の土壁で防ぐという手があるが――いや、《迷宮》の地面は精霊の干渉がし辛いはずだったか。となると、火を逸らす方法が有効か……」

「尻尾を受け止めるのは非現実的なので、振る前に地面に縫いとめておくのが上策だろうから……」

「多くの文献が竜の爪は硬いとあるのだから、防ぐ方法に工夫が必要だろうからなぁ……」


 独り言を呟きながら立ち上がると、方々へと歩いていってしまう。

 呆気に取られて待っていると、少ししてから手に何冊かの本を携えて三人が戻ってきた。

 そして、彼らが考えた対策が載っているのであろう場所を、テグスたちに広げて見せてくる。


「「「これは――」」」


 三人同時に声を出すと、誰が先に喋るかの相談か、目配せしあって順番を決めたようだった。


「ではまず、火を逸らす方法だが。方法は二つ該当し、五則魔法の中級魔法である『風壁』と、火の精霊魔法である『火避け』である。どちらの記述にも、この魔法を使用して大火から逃げ延びたとあることから、竜が吐く炎であっても耐えられると思われる」

「竜の尾の動きを止められそうな方法も二つある。長い《鈹銅縛鎖》と楔を使い、地面に縫い止める。氷の五則魔法を打ち込み、冷たさで麻痺させることだ」

「竜の爪は、残念ながら防ぎようがない。だが、本に描かれた絵姿を見るに、前脚の稼動範囲が限られそうだと分かる。常に腕の動く範囲に入らないよう注意すれば、恐れることはないだろう」


 本の記述を見せ根拠を示しながらの説明に、テグスたちは大いに頷いた。


「となると、僕が風壁と氷系統の五則魔法を覚えて。アンジィーが火避けの精霊魔法を覚えればいいってことかな」

「《鈹銅縛鎖》は尾を巻くのに十分な長さがございますので、残りは楔となるものの確保でございますね」

「ふ、防ぎようがないなら、近づかないほうがいいのは、よくわかります」

「けど、これだけで大丈夫なのかな~?」


 不意に発せられたティッカリの心配する言葉を受けて、テグスたちは再度考え込む。


「うーん。本に書かれた魔術や魔法を見てみて、使えそうなものを覚えたほうがいいのかな」

「たくさん覚えても、使わなかったらムダになるです」


 ハウリナの考えももっともなので悩んでいると、ティッカリがおずおずと手を上げる。


「装備を受け取るまでに時間はあるんだし~。実際に戦った経験があるレアデールさんに、意見を聞いたほうが良いと思うかな~」

「そうですね。良いか悪いかは聞きたいですね、せめて立てた戦法について」


 テグスは気乗りはしない気分だが、必要なことだと割り切って考えることにした。

 

「でも。覚えるものを覚えて、使えるようにしておかないと、きっと教えてくれないと思うんだよね」

「そ、そうですね。な、なら、早めに、覚えてしまいます」


 テグスと開かれた本を手にとって、記されている使い方のコツを読み始め、アンジィーにも伝える。

 それを見て、ティッカリが他の面々に振り向いた。


「二人が頑張っている間に、こっちはもっと竜のことを調べるの~」

「作業が捗りそうですしね、古代文字の本が読める案内役が三人もいるので」

「でしたら、ここからは手分けして棚の本を探してまいりましょうね」

「わふっ。おっちゃんたち、よろしくです!」

「おうふ。綺麗な女の人と並んで探しものなんて、春がきたか!?」

「ふひひ。女性に過剰反応するなんて、童貞丸出しだっての。まあ、張り切らせてもらいますけどね?」

「共同作業を経て恋愛へ――へへっ、叶わぬ夢だっていうのは分かってるって」


 そうして、それぞれが手分けして、作業を始めるのだった。

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