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277話 《中一迷宮》で調べもの

 最下層の図書館を目指して、《中一迷宮》を進んですぐに、粗末な装備の《探訪者》たち七人に道を塞がれた。


「どこの貴族さまかしらねぇが、いい装備を持っているじゃねぇか」

「哀れな俺らに恵んでくれよ」


 何か勘違いした様子での脅しに対して、テグスたちが取る態度は決まっていた。

 

「《迷宮》内で、他の《探訪者》に襲われることもあるんだった、ねッ!」


 うっかり忘れていたという態度をとって油断させた後で、テグスは投剣を抜きざまに投擲し、黒直剣を抜いて追撃する。

 それを合図にして、ハウリナたちも攻撃を開始した。


「たあああああああああ!」

「あおおおおおおおおん!」

「とや~~~~~~~~~」

「ぐぅあああ。ちくしょ――げぶぅ」

「くそ、反撃し――がかぅ……」

「な、なんだこいつら。貴族のボンボンじゃねぇじゃねぇ――ぐぐぅぉ!?」


 竜の鱗を破壊できる腕前の、テグスとハウリナとティッカリが振るう武器を、単なる盾や革鎧で防げるはずもなく、あっという間に三人が絶命した。

 そして残る人たちに、アンヘイラ、アンジィー、ウパルの攻撃が飛ぶ。

 額に矢を受けて一人が死に、闇の精霊が生み出す黒い棘で全身を貫かれて二人目が血を吐き、《鈹銅縛鎖》に全身を締め上げられて二人が気絶した。

 あっという間に決着が付いたが、アンジィーとウパルはこの結果に驚いた顔をする。


「わ、わわ、あ、あの、なんだか、酷いことに……」

「《火炎竜》を想定して鍛えてきましたので、多少威力が過剰だったのでございましょうね」


 ウパルは全身を穴だらけにしてしまった死体に痛ましい目を向け、ウパルは気絶している男二人の股間を蹴り潰しながら反省するような口調をした。

 一方でテグスは、習い性で倒した相手の荷物を漁り始める。


「使えるものはなさそうだし、硬貨を取ったらさっさと先にいこう」

「あまり悠長にしていると、また他の《探訪者》たちに襲われかねないの~」

「戦うのは微小の手間がかかりますからね、弱い相手だといっても」


 多少の銅貨を手に入れて先に進んでいくが、ティッカリとアンヘイラの危惧した通りに、やたらと《探訪者》たちに狙われる羽目になった。

 何度も退治し続け、やがて辟易したテグスは理由を知りたいと思い、次に襲われた際にウパルに頼んで男女一人ずつ生かしまま捕らえてもらった。


「ねぇ。なんで襲ってきたのかな?」

「うるせぇ! そんな装備をつけているのが悪いんだろう!」

「そうよ、そうよ! どうせ親の金に物を言わせて、鎧を買ってもらって女ばかりの護衛をつけてもらって、《外殻部》にきたんでしょう!」


 テグスはハウリナたちを見回して、他の人からはそう見えるのかと納得した。


「言い分はわかったよ。なら、これも金で買ったっていうつもりだよね?」


 自分の《白銀証》を取り出して見せると、捕虜二人は意味が分からないという顔をした後で、急に理解したように顔が真っ青に変わる。

 その口から命乞いが始まる前に、テグスは黒直剣で二つの首を刎ね飛ばした。


「とまあ理由は分かったけど、前はこんな突っかかれることはなかったんだけどなぁ……」


 剣の血を振って落としながら、食料運びで図書館に行った頃を引き合いに愚痴を言うと、アンヘイラから言葉が返ってきた。


「《雑踏区》から上がってきた人が多いんだと思いますよ、もう少しで人狩りの季節ですし」


 納得するように、テグスを始めとして全員が首を小刻みに上下に振ると、死体から硬貨を回収して先へ進む。

 その後も粗末な装備の《探訪者》に襲われ続けたが、それは十層を越えるまでの話だった。

 《階層主》を越えれられる程度の強者だけになると、逆にテグスたちの装備を見て関わり合いたくない様子で、他の人たちが避けていくのだ。

 煩わしさがなくなり、テグスたちの行進速度も上がる。

 順調に層を下り続けて三十層に到着し、《迷宮主》である《合成魔獣》との戦闘になった。


「てや~~~~~~~~~」

「グルゴオオ「ゲア゛ア゛アア……」オオオオオ……」


 五十一層に出てくる個体よりも弱い相手なので、ティッカリの壊抉大盾にある黒角の餌食となり、こちらにも相性は通じるようで、体の継ぎ目から血を噴き出して絶命した。

 そうして図書館に到着すると、例の《考求的学び舎》の信者三人が現れた。


「ようこそ、智の神が全ての叡智を記した、大図書館にぃぃ」

「おひさー。どう、元気してた?」

「デュフフ。なになに、今日はナニしにきちゃったのかなぁ?」


 相変わらず汚い衣服で髪も伸び放題の姿だが、テグスは気にしない。


「《火炎竜》について、効きそうな魔法とか戦法とかを調べにきました」

「ほうほう。ということは《大迷宮》の最下層に挑むか!」

「お、なになに。竜の話、竜の話ってか!?」

「前にちょろっと言われてから、蔵書を調べに調べてまとめた調書が、いまこそ火を吹く時!!」

「「《火炎竜》だけにか!」」


 三人にどうだという横目で見られたので、テグスはにっこりと笑いながら、黒直剣の柄に手をかけた。


「おおぅ、待て待て。持ってきちゃるから、持ってきちゃるから。気をお静めよ?」

「そうそう、短気は駄目よ、駄目なのよぉ。ゆっくりと柄から手を離してみなよぉ」

「血で本を、《火炎竜》の鱗のような真っ赤に染めるのは、いけないことだぞ」

「「真面目に上手く言ったつもりか!」」


 黒直剣の刃を鞘から覗かせると、一斉に駆け出し一冊の本を三人揃って持ちながら戻ってきた。

 テグスが受け取ると、二人が何処かへと走り去り、残された一人は左右を見てから愛想笑いを浮かべる。


「え、あ――何かあれば、声をかけて?」


 三歩ほど後退ってから、一目散に何処かへとかけていく。

 テグスが後姿を見送っていると、ティッカリに軽く肘でつつかれた。


「もう、脅しすぎはよくないの~」

「あの掛け合いをみちゃうと、ついね」


 目的の物はとりあえず手に入ったので、テグスはあの三人が《火炎竜》についてまとめたという調書を開いてみることにした。

 この図書館にある蔵書の多くが古代文字で書かれているのに対し、これは一般的な文字で記されている。


「これなら読めるの~」

「なに書いてあるか、早く知りたいです!」

「なら全員で見ましょうか、どこかで腰を落ち着けて」


 適当な開けた場所に、テグスたちは車座になって座ると、中心に調書を置いて全員で見始めた。


「どんな本にどんな記述があったか、箇条書きになっているね」

「似たような内容の場合は、なになにと同じと言う風にされてございますね」


 本を読み慣れているテグスとウパルが主体となって、調書の中身を検めていく。

 最初の方は、神話関係の本からの引用らしく、竜の強大さが目につく記述が多かった。


「むぅ。やっぱり、強そうです」

「多数現れて一晩で邪教徒の町を灰にしたなんて、恐ろしいの~」

「ですが《大迷宮》で相手するので無視していいと思いますよ、空を飛んでいる記述のある内容は」

「そ、それでも、口からの火で、一瞬で人が炭になるって、書かれてありますし……」


 何枚か頁を捲っていくが、どこもやたらと強大に書かれている内容が続く。

 それでも読み続けていると、テグスは表現の幅が異様に大きいことに気が付いた。


「なんだか、吐いた火に当たった人が書いてあっても。全身が燃え尽きた人もいれば、酷い火傷ですんでいる人もいるね」

「きっと、悪いことをすればこのような恐ろしい事があると言う戒めで、大げさに書いてある部分もあるのでございましょうね。《静湖畔の乙女会》の経典には、後世に付け加えたり過剰にした部分もあるという話でございますし」


 ウパルの補足に、神話関係はあまり信用しない方が良さそうだと、読み流すことにした。

 調書の半分が過ぎると、伝承や手記に関する記述が始まる。

 多くが『こう聞いた』、『こう伝わっている』、というもので、信憑性が乏しいものが多い。


「けど、記述が多い少ないで、本当かどうかを判断しようとしているね」

「毎回出迎えて下さるあの方々は、ちゃんと調べごとはなさっておいでのようでございますね」


 ある程度読み進めていくと、竜は肉や酒を好むようだが、それに溺れるようなことはないと結論付けられていた。

 酒に酔ったり、毒を盛られたり、人の女性の色仕掛けで骨抜きにされたりは、信憑性が薄いと否定されてもいる。


「あ、あの、ということは、毒はあまり効かないって、ことなんでしょうか?」

「強毒すらも効き辛いのでしょうね、神話に出るほどの神の尖兵ですし」

「あっ~! 神様の命令には、絶対に従うようだって書いてあるの~」

「神さまが、戦うの止めるです?」

「《清穣治癒の女神キュムベティア》さまでしたら、争いをお止めにはなるのでございましょうけど」

「いや、《迷宮都市》は人間の成長を祈って造られたって話だよ。だから変にお願いすると、神さまたちは竜にもっと力を出せと命令するかも」


 ああだこうだと言い合いながら調書を読んでいくも、有効な手立ては見つからない。

 最後の方は、竜と戦って勝利した者の話が抜粋されて載せられていたが、ここまで読んできた内容と照らし合わせると、荒唐無稽なものが多かった。


「頭から尻尾まで両断したですか、片手剣の一振りだけで」

「火を吐こうとしたときに口に岩を詰められて、火が逆流してお尻から出て死んだ、なんてものもあるの~」

「ぬ、布で、竜のお嫁さんを作ったって、見破られると、思うんですけど」

「三日間戦って、根性で勝ったのは、本当っぽいです」


 何個かは利用可能かなというものも見つかったが、やがて白紙の頁が現れた。

 以後には、全く記述がない。


「どうやら調書は、まだ完全じゃなかったようだね」

「成果はあまりなかったようでございますが、これからどうなさいます? もう少しこの図書館で調べ物をなさりますか?」


 ウパルの質問を受けて、テグスは少し考えてから、あの三人の信者を呼びに行き意見を求めることにした。


「我々が今まで蓄えに蓄えた知識とその調書を元に、《火炎竜》の突破法を知りたいと」

「ほほふ。いいですぞ、いいですぞ。知識を披露する機会があるのは、《考求的学び舎》の信徒にとっては一番の舞台ですからな!」

「我ら三人寄れば、神の知恵にも負けぬところを、ご覧にいれてやってやるのですからな!」


 しばらく三人は肩を寄せ合って意見を小声で出し合い、時に白熱した様子を見せて取っ組み合いを交える。

 それを興味深く見ていたハウリナが、飽きて生あくびをし始めた頃、ようやく議論が結実したようだった。


「我々が出した結論はズバリ! 空を飛べぬように、先ず翼を切り落とすことから始める!」

「そして、火を吹く口を塞ぎ、広範囲をなぎ払う尻尾を切り落とす!」

「あとは、生命体全ての急所である首を破壊すれば、自ずと勝負は決まったも同然!」


 どうだと胸を張るのを見て、テグスは軽く頭を押さえた。


「問題は、それをどうやってやるかなんですけど?」

「それは、あれだよ。五則魔法で、こうな?」

「大きな盾に隠れ、良く切れる刃物を使えば、どうか?」

「想定する相手が強大すぎて、知識が追いつかず、よく分からん!」


 結論がそれかと、テグスたちはがっくりと肩を落としたのだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] > ウパルは気絶している男二人の股間を蹴り潰しながら反省するような口調をした。 相変わらず、悪人に改心する救いの機会を与えることに余念がないですねえ。 教義に邁進!
[一言] ウパルは全身を穴だらけにしてしまった死体に痛ましい目を向け、 ウパル>アンジィー?
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