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274話 入れ替わり

 《魔物》との戦闘と特訓に明け暮れ、合間合間に赤鱗を取りつつ竜に餌をやる日々が続く。

 行動事態は代わり映えしないが、テグスたちの実力は順調に伸びていっていた。


「塞牙大剣なら、赤鱗を一撃で両断できるようになったから。今度は黒直剣で出来るようになろうかな」

「逃げ回るハウリナに矢を当てようとするのも良い感じですね、サムライの仮想的として」

「こっちも、避けるのうまくなったです」


 それぞれが成長を実感していたそんなある日、ビュグジーたちが五十一層にやってきた。


「よおよお。お前ら、ちゃんと元気にやってたかよ」

「それなりにやってます。でも、皆さんかなり早く戻ってきましたね。それと、なんか人数が多くなったような?」


 数えてみると、十三人もいる。

 火傷や怪我から復帰した人が戻ったとしても、明らかに人数が増えていた。


「おう、こいつらか。持っていった素材がかなり余っちまってよぉ。勿体ねぇし、強そうなやつらを見繕って仲間に引き入れたって寸法よ」

「これから、この層の《魔物》を相手に、短期集中鍛錬を施すので御座りまするよ」


 サムライが楽しそうに語るのを見て、テグスは分かってなさそうな新人たちに同情的になった。


「それと、さっき早いって言ってたがよ。《中町》へ行ってからだと、二巡月は経ってるんだぜ。むしろ遅いぐれぇだろ」

「いやいや。《中町》からここまで、移動に一巡月もかかるので御座りまする。装備を整えるのに一巡月は、早いといえば早いので御座りましょうな」


 ビュグジーとサムライの会話を聞いて、テグスは驚いていた。


「えっ!? もう別れてからニ巡月も経ってたんですか?」


 ハウリナたちもそんなに日が経っていたとは思ってなかったのだろう、全員が驚いた顔をしていた。


「おうよ。今頃地上じゃ、夏真っ盛りだろうな」

「こちらに来る前に、久しぶりにお天道様を眺めたで御座りまするが。空気が熱くなりかけて御座りました」


 つい最近、ジョンたちと会って春だと思っていたら、もう夏がきていた様だ。

 季節感に乏しい《大迷宮》暮らしとはいえ、月日を勘違いするとはと、テグスは反省する。

 すると、何を悔やんでいるのか見破ったのか、サムライが悪意のない笑みを向けてきた。


「鍛錬を続けていて月日を忘れることは、よくあることで御座りまするよ。むしろ集中して行っていたという証明で御座りまする。誇るべき所業で御座りまする」


 テグスたちはそういうものかと納得した。


「それでだ、坊主たちはまだ訓練中なのか?」

「いえ。サムライさんに教えてもらったことは、大体済ませてしまいました」


 指すのは、広間の一角に置かれた《巨塞魔像》の腕で作った石柱だ。

 真ん中から両断され、切り分けられた左右とも大きく破損していて粉々寸前な姿だった

 その手前には、《魔騎機士》の武器であった両手剣、穂先が外された槍、大盾がボロボロな状態で置かれている。

 それらを見て、サムライは感心したような声を上げる。


「ほほぅ。テグス殿たちは十分上達したようで御座りまするな。では、そちらの後衛組はどうで御座りましょうか」


 視線を向けられた、アンヘイラ、ウパル、アンジィーは、無言でそれぞれ武器を構える。

 そして合図もなくサムライが駆け出すのに合わせ、攻撃を放ち始めた。

 鏃の無い矢が、次から次へと襲い掛かり、両袖から出てきた《鈹銅縛鎖》が蛇のように地面を這い進む。


「闇の精霊さん~♪ あの人の行く先を邪魔してね~♪」


 矢を撃ちながらのウパルの精霊魔法で、黒い沼のようなものがサムライの進行方向に生まれた。

 嫌な予感でもしたのか、サムライは沼を跳び越さずに左右どちらかに迂回しようとしている。

 しかし、アンヘイラの矢が左の足元に突き立ち、歩幅を崩してみせた。

 サムライは軽く足を踏みなおして、黒い沼の直前で右方向へ転進する。

 沼から黒い縄のようなものが這い出て、足元に絡み付こうとするが、直前で素早く回避して進んでいく。

 だが、その中の一本が、変に生物的な動きでサムライに追いすがる。

 それが足首に絡みつく、その直前にサムライは上空へと跳び上がって回避した。


「そこです!」


 ウパルが大声を放ちながら、両腕を大きく上下に振るうと、先ほど追いすがっていた黒い縄――闇の精霊で黒く偽装された《鈹銅縛鎖》が、跳ぶようにして追いかける。

 そして、五十一層の全面に敷かれた毛足の長い絨毯に半ば埋もれていたたもう片方も、先端が元気に跳び上がってサムライの脚を狙う。


「ほほぅ。やるもので御座りまするな」


 このままでは捕らえられると分かったのだろう、長巻を急に頭の上で旋回させ、その反動で体勢を変化させて避けてみせた。

 ウパルの《鈹銅縛鎖》は足先を、アンヘイラの矢が一本腕をかすめたが、直撃はしなかった。


「風の精霊さん~♪ この矢を速く飛ばして欲しいんだよ~♪」


 最後の望みをかけるように、アンジィーが改良した《機連傑弓》で放った短矢に、精霊魔法で加速を与える。

 サムライの胴体ど真ん中に直撃する軌道だったが、長巻の一振りで打ち落とされてしまった。

 この結果に、アンヘイラたちは武器を構えるのを止めてしまう。


「ふぅ。駄目だったようですね、ハウリナなら二度ほど捕らえられる一番いい連携なのですが」

「本家本元は、格が違ったということでございましょうね」

「さ、最後のは、ハウリナさんがよく当たっていたので。当てられると、思ったんですけど……」


 三人は肩を落とすが、引き合いに出されたハウリナは不服なようで。


「むぅ。なんだか、バカにされた気がするです」

「みんな、そんなつもりで言ったんじゃないと思うよ。ハウリナのお蔭で、戦闘技術が向上したのは間違いないんだし」


 テグスが頭を強めに撫でてやると、ハウリナはもうどうでも良いとばかりに、嬉しげな顔で尻尾を大きく振り出した。

 そして、見事に攻撃を避けきったサムライはというと、ハウリナ以上に嬉しそうな顔で近づいてくる。

 

「いやぁ。それぞれ強くなっているので、感心で御座りましたな。ここまでの腕前ならば、もう訓練は卒業で御座りましょう。あとは、実戦にて磨くで御座りまするよ」


 丁寧に助言をしているが、目は将来の好敵手を見つけたと言わんばかりに、好戦的な色をたたえている。

 その様子がビュグジーにも見えたのか、平手でサムライの後頭部を軽く押してつんのめさせた。


「こら。年下の坊主どもに食指を伸ばすんじゃねぇよ。お前が戦いたいのは、自分より強い相手なんだろうが」

「その通りで御座りまするが。こうも成長著しい後人を見ると、本気で一度手合わせしたくなるのが、武士もののふとしての直せぬ性根で御座りまして」

「なら、連れてきた新人どもを、坊主ぐれぇに鍛えりゃいいだろうが。よその《探訪者》組に迷惑かけねぇなら、目を瞑ってやるからよ」

「おお。その通りで御座りまするな。テグス殿たちにできて、この方々にできぬ道理は御座りませぬし!」


 うきうきと、サムライが早速指導を開始している。

 その様子をビュグジーが困ったような顔で見てから、視線をテグスたちに向け直した。


「それで、坊主たちはこれからどうするんだ?」


 漠然とした質問ながら、聞きたいことは伝わった。


「そうですね。サムライさんから訓練は終わりって言葉をもらいましたし――ハウリナたちと相談しなきゃいけませんけど、素材も粗方手に入ったので、多分《中町》に一度上がると思います」

「そうか。なら《不可能否可能屋》が、素材を度々持ってくるのは嬉しいが相談なしに使って殺されたら困る、って言ってたからよぉ。早めに行ってやるといいぜ」


 ビュグジーの苦笑い交じりな言葉に、テグスは前に脅しすぎたかなと首を傾げた。

 伝えるべきことは伝えたのか、張り切るサムライを押し止めようと向かっていく。

 テグスも別れると、ハウリナたちに予定をどうするか尋ねる。


「テグスの考えで、いいです」

「武器は兎も角、防具に耐火処置は必要だから、《中町》に行ったほうが良いと思うの~」

「《火炎竜》に挑んでも良いはずですからね、順当にいくのならば」

「純粋に挑むには、まだ少々実力が足りない気も致しますけれど」

「そ、そうですよ。た、戦うだなんて……」


 ウパルとアンジィーは《火炎竜》と戦うことに慎重な意見を出したが、《中町》に戻ることについては反対ではないようだった。

 なので荷物をまとめがてら、使っていた《巨塞魔像》から作った石柱や、ボロボロな《魔騎機士》の武器も集めていく。

 そして、神像に祝詞を上げて、まずは《下町》へと転移する。

 宿屋に置いてあった魔石を回収してから、テグスたちは《下町》の神像で《中町》へ転移していったのだった。


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