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270話 下準備と成長と

 ビュグジーたちが、防具用に必要な枚数の赤鱗を集め終わった。

 

「つーわけでだ。これから《中町》までいって、いっちょ拵えてくるからよ。竜の餌やり、お願いするぜ」


 ビュグジーから余ったという色つきの魔石を、テグスたちは貰った。


「僕らも赤鱗を集めるために、肉とかこの魔石とかも頑張って集めないといけませんね」

「《魔物》との戦うのも大いに推奨するで御座りまするが、訓練も忘れずに行うで御座りまするよ」

「はい。それはもちろん」

 

 助言に頷くと、ビュグジーたちは神像から転移していった。

 テグスたちはそれを見送った後、円卓に座りなおす。


「それで、これからどうするかだけど。順番なら、《魔騎機士》の次は《掻切陰者》なんだけど」

「わふっ。それでいいと思うです」

「でも、《掻切陰者》は初めての相手だから、保険で相性を使用できるようにしておいた方が良いと思うの~」

「《巨塞魔像》の石粉でしたね、相性で対応するのは」

「となりますと、倒すためには《暗器悪鬼》の黒い球が必要でございますよ」

「じゃ、じゃあ、《暗器悪鬼》、《巨塞魔像》、《掻切陰者》の順に、戦うので、いいんですよね?」


 話がまとまりかけて、テグスは少し思案した。


「うーん。どうせ三つ戦うなら。その前に《魔騎機士》と戦ってみて、どれぐらい強くなったか確かめてからにしようよ」

「どうしてです?」

「ちょっと前の限界が《魔騎機士》だったよね。それが簡単に倒せるようになっていたら、《巨塞魔像》と戦うときに、心の余裕が出来るでしょ」


 理由を聞いて、ハウリナたちが納得した様子を見せる。


「ということは、《魔騎機士》、《暗器悪鬼》、《巨塞魔像》、《掻切陰者》の順に戦う、ってことでいいのかな~?」


 ティッカリの確認の言葉に、反対意見は出なかった。

 なので、《魔騎機士》と戦うことになったのだが――


「たあああああああああああ!」

「あおおおおおおおおおおん!」

「てや~~~~~~~~~~~」


 テグス、ハウリナ、ティッカリの三人による攻撃で、瞬く間に《魔騎機士》が乗るカラクリ仕掛けの馬は装甲板ごと、斬られ、折られ、砕かれた。


「ブルィイィイィィーー」


 悲鳴を上げて倒れた馬から脱出した《魔騎機士》は、急いで盾と馬上槍を構えるが、忍び寄っていたウパルの《鈹銅縛鎖》が縛り上げる。


「お二方、動きを止められましたよ」

「狙いやすいですね、こうなると」

「闇の精霊さん~♪ 鎧の隙間から、中をえぃってしちゃってね~♪」


 アンヘイラから矢が、アンジィーからは闇の精霊魔法が放たれる。

 兜の覗き穴に矢が飛び込み、鎧の胴体接合部にまとわりついた黒い帯から鋭く太い棘が全周囲に生える。

 致命傷だったのか、《魔騎機士》は声もなく膝をつき、前のめりに倒れこんだ。

 あっさりと終わってしまった戦闘に、テグスは驚きを隠せないまま、塞牙大剣の剣先で突付いて停止したかどうかを確かめる。


「本当に倒せているよ。なんだか呆気なかったね」

「こんなに、よわよわだったです?」

「馬の装甲を破壊できているんだし、成長したってことだと思うの~」


 武器が更新された上に、竜の鱗並に硬い《巨塞魔像》に打ち込む日々を続けていた、テグスたち前衛三人には《魔騎機士》の鎧は少し硬いだけの板にしか感じられなくなったようだった。

 アンヘイラたちも似たようなものらしく。


「最後は動きが止まって狙いやすかったですしね、ウパルが鎖で縛り上げたので」

「のろのろと立ち上がっていましたので、拘束が狙い易かったのでございます」

「さ、サムライさんより、動きが見えるから、精霊魔法もかけやすかったです」


 色々とはちゃめちゃなサムライを基準に考えているため、少し前は強敵だった《魔物》が、大した相手ではないと錯覚するまでになってしまったらしい。

 次の相手である《暗器悪鬼》もそうで、出てきて色が変った瞬間、ウパルが拘束し、アンヘイラとアンジィーが矢を額に打ち込んで、戦闘は終了してしまう。

 爆発する黒球を集めるために都合四度戦ったが、全てがほぼ同じ方法で倒しきってしまった。


「こんなに弱かったっけって思っちゃうよね」

「今なら五十層の《写身擬体》の方が手強いですね、相対的に見ると」


 テグスたちの技量に合わせて強さが変わる《写身擬体》が、最弱とはいえ五十一層の《魔物》より強いと感じるということは、それだけテグスたちが成長した証だった。




 《暗器悪鬼》から爆発する黒球を小鞄四つ分集め、《巨塞魔像》へ挑む。


「でもその前に、恐慌防止のために《蛮勇因丸》を飲んでおこうか」


 前回の反省を生かし、全員が服用する。

 テグスは二度目なので驚きは少ないが、ハウリナたちはそうではなかったようだ。


「わふわふ。なんだか、スゴク、調子いいです!」

「なんだか、いつもより力が出そうな気がしてきたの~!」

「遠くの針に矢を当てられそうなきがしますね、この状態ならば」

「ですが少々、神経過敏な感じが致しますね。常用するには適さない薬かと思われます」

「でもなんだか、元気と勇気が出てきますね」


 初めて体験する《蛮勇因丸》の効力に、全員の目が爛々としている。

 アンジィーにいたっては、いつものおどおどした目つきが鳴りを潜めていて、まるで別人のように自信ありげな態度になっている。

 テグスはそんな様子を見ながら、この調子なら大丈夫そうだと判断し、《巨塞魔像》の出る広間へ入った。

 全て石で出来ている奥長い長方形の空間の奥、様々な種類の四角い巨岩の山。

 それらがひとりでに動いて組み合わさり、段々と人型に組みあがり、岩の巨人が出来上がった。


『ゴゴロゴゴロゴロゴロ!!』


 大岩が地面を転がったような声を上げて《巨塞魔像》が動き始め、重々しい足音が響くたびに足場が揺れる。

 以前はこの地揺れに似た現象に恐慌を起こしたものだった。

 しかし体験済みだからか、それとも《蛮勇因丸》の効能からか、全員の顔は意気高くも落ち着いた状態だった。


「よく見れば、ただ岩が動いているだけだし。怖がる必要がないよね」

「少し地面が揺れたからって、なんだっていうんですか!」


 日ごろと違うアンジィーの様子に、テグスは《蛮勇因丸》が効きすぎていないかと、少し心配になり様子を見る。

 しかし、やる気をみなぎらせている以外には、特に変わったところはないので、見て見ぬ振りをすることにした。

 それは、後衛組で一緒にいることが多いアンヘイラでも同じだったようで、アンジィーを無視して顎で《巨塞魔像》を指す。

 

「爆破するんです、あれを黒球で」


 テグスはどうしようかと考えようとして、直ぐに首を横に振る。


「いいや。折角、《蛮勇因丸》で恐怖心がないんだし。僕とハウリナとティッカリで攻撃してみて、どれだけ通じるかやってみたいね」

「わふっ。サムライの訓練、やった効果、見せてやるです!」

「いっそのこと、黒球使わずに、倒してやっちゃうの~!」


 ハウリナとティッカリもやる気十分で案に応じた。

 そこに、ウパルとアンジィーも同調する。


「でしたら、《鈹銅縛鎖》であの脚を縛れないか試しとうございます」

「精霊魔法で動きを止められるか、やってみたいですね」


 五人が張り切る中、アンヘイラだけは薬の影響がないかのように冷静な調子で首を横に振る。


「参加は遠慮しましょう、石に矢は相性が悪いので」

「じゃあ、アンヘイラは出入り口付近にいてよ。僕らで行ってくるから」


 そうして、テグスたち五人が《巨塞魔像》へ走り寄り始める。

 足が速いハウリナが、まっさきに足元にたどり着き、人でいう踝の下辺りに黒紅棍を突きこんだ。


「あおおおおおおおおおおおおおん!」


 サムライとの訓練で、一番硬いといわれる腕の部分に打ち込み続けた結果か、魔術を使用していないのに広く皹を入れることに成功する。

 しかし、巨体の《巨塞魔像》にとっては、指の幅もないほどの亀裂だ。怪我とも認識していないのか、気にする様子もなくハウリナを踏み潰そうと足を動かし始めた。


「たああああああああああああああ!」


 片足立ちになった間に、テグスは反対側の足を塞牙大剣で斬りつけた。

 上手く刃が入ったようで、手に抵抗を感じながらも深々と斬り入り、脛から外側の踝の下にかけて一直線に切れ目を入れる。


「とや~~~~~~~~~~~~~」


 テグスが攻撃した場所を狙って、ティッカリは突進してきた勢いのまま、壊抉大盾で殴りつけた。

 蜘蛛の巣のように切れ目から放射状に、《巨塞魔像》の片方の足首全体に至る皹割れが起きる。

 そこまで深く傷つけられると、自重を支えるのは無理なのか、独りでに足首が崩壊した。


『ゴゴロゴゴロロロロロ』


 突然の事態に焦ったのか、《巨塞魔像》はハウリナを踏もうと上げていた足を下ろし、どうにか転倒を阻止する。

 そして崩壊した片足の脛の部分を地面に着け直して、どうにか平衡を保った。

 追いついてきたウパルが、身動きが取れ難くなった《巨塞魔像》へ、片袖から《鈹銅縛鎖》を出して振るう。


「これでより、満足に動けなくなるでございましょう」


 《鈹銅縛鎖》は《巨塞魔像》の両足に一回りすると、輪の径を狭めるように動き始める。

 しかし相手は巨体で強力な《魔物》だ、中々上手くいかない。

 そこに、アンジィーが援護で精霊魔法を使い始める。


「闇の精霊さん~♪ 鎖の動きを~補強してあげて~欲しいんだよ~♪」


 いつもよりも抑揚のついた歌声に、闇の精霊たちが反応し、《鈹銅縛鎖》が黒く染まっていく。

 すると、見えない巨人が手伝ったかのように、一気に鎖の輪が狭まった。


『ゴゴロゴゴロッゴゴゴゴロロ』


 《巨塞魔像》は急に狭まった《鈹銅縛鎖》に、上半身が大きく前後にぐらつく。

 ある点を境に、堪えきれないと悟ったのか、唐突に膝立ちになろうとし始めた。

 巨大な体が垂直に落ちてくるような光景にも、《蛮勇因丸》で恐怖心がないテグスたちは、巻き込まれる範囲の際までしか退避しない。

 さらには、膝立ちになった衝撃で床が揺れる中、地面についた膝を攻撃しようと、テグス、ハウリナ、ティッカリが駆け出す。


「『衝撃よ打ち砕け(フラーポ・フラカシタ)』」

「『刃よ鋭くなれ(キリンゴ・アクラオ)』」

「とや~~~~~~~~~~~~~~~~」


 テグスとハウリナは武器に魔術を込め、ティッカリは壊抉大盾から漆黒の双角を展開しながら、攻撃した。

 黒紅棍が丸く罅割れを生み、塞牙大剣が盾に深々と切れ目を入れ、壊抉大盾の双角が楔のように打ち込まれる。

 罅割れはより広く、切れ目はより上へと走り、《巨塞魔像》の片膝が半ばから崩壊していく。

 三人は崩れる岩の下敷きにならないよう、その場から直ぐに退避する。


『ゴロゴオゴロゴロロロロロ』


 手ひどい痛手だったのか、《巨塞魔像》は呻き声を上げながら、押しつぶそうとするように退避した三人へ手を振るう。

 散開して逃げ、地面へ掌が打ち付けられ、地面が揺れる。

 揺れが収まると、《巨塞魔像》が腕を持ち上げようとする。

 その追撃を邪魔するように、ウパルが出してなかった袖から《鈹銅縛鎖》を射出するように振るうと、《巨塞魔像》の足に絡み付いていた分が、高速で反対側の袖から内側に入っていく。


「アンジィーさん、再び精霊魔法をお願いいたします」

「分かりました。闇の精霊さん~♪ 鎖の動きの~お手伝いをしてね~♪」


 《巨塞魔像》の腕と膝立ちの足に巻きついた《鈹銅縛鎖》が、アンジィーの精霊魔法で再び黒く染まって強く締め付け始める。


『ゴロゴロゴゴロロロロロロ』


 《巨塞魔像》はどうにか解こうと動かすが、張り付いたように黒くなった《鈹銅縛鎖》は動かない。

 だからだろうか、もう一方の手を鎖を掴もうと動かし始めた。

 綱引き状態になったら勝ち目がないと分かるので、ウパルは直ぐに拘束を解いて《鈹銅縛鎖》を袖の中へと収納する。

 テグス、ハウリナ、ティッカリが代わりに追撃しようとするが、膝立ちで距離が近くなった分だけ、両手の攻撃が脅威になった。


「真面目に戦うのなら、ここから振るってくる手の、指、手首、腕を解体して。次に、腿、腰と破壊していくんだろうけど」

「動く腕に当てるの、難しいです」

「うっかり、こっちが直撃しちゃったら、かすり傷じゃすまないかな~」


 ではどうしようかと考えようとして、頭の血の気が引くように、《蛮勇因丸》の効果が消えて戦闘意欲が薄れ消えていく。

 すると、真っ先にアンジィーが距離を空けて、アンヘイラがいる出入り口付近まで退避していった。


「もういいのですか、近くで戦うのは?」

「は、は、はい。あの、その、近くにいなくても、精霊魔法は、使えますから」


 動く巨岩の塊は、アンジィーにとっては《蛮勇因丸》なしでは堪えられないほど怖いようだ。

 一方、テグスとハウリナとティッカリは、薬の効果があった間に慣れてしまったようで、平然とした顔をしている。


「けど、恐怖心や警戒心が戻っちゃったから、あんな大きくて太い岩の腕に向かおうとは思わなくなっちゃったよね」

「わふっ。危ないことは、やらない方が安全です」

「実力がまだ足りないってことで、相性を使って倒した方が良いと思うの~」


 仕方がないと、テグスはハウリナと手分けして、《暗器悪鬼》の黒球を使用し、《巨塞魔像》の胴部を爆破していった。

 やがて、罅割れが酷くなった腰部から真っ二つになると、上半身が倒れて地面に巨大な岩が散乱する。

 テグスたちは、素材としての価値が高い腕の部分を四角く石材化させて、戦闘の当初に崩した足は粉にして回収した。


「さて、当初の目的だった粉が手に入ったし、次は《掻切陰者》だね」

「わふっ。初めての相手です。どんなのか楽しみです」

「その前に、ちゃんと休憩してから挑むの~」


 神像がある広間まで通路を戻っていると、アンヘイラがアンジィーに口を寄せる。


「《蛮勇因丸》を使用してみたらどうです、これから戦闘をする際に。戦果があがるでしょう、あの強気な状態なら」

「い、いやですよ。じょ、常用すると、《蛮行勇力の神ガガールス》みたいに、筋肉がついちゃうって話ですし……」


 テグスは漏れ聞こえてきた内容に思わず、想像の中で《蛮行勇力の神ガガールス》の像の顔をアンジィーの顔に差し替えようとして、なんだか気分が悪くなりそうだったのでやめたのだった。


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