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23話 《小六迷宮》1

 通称で『雑踏区の食料庫』の名を冠する《小六迷宮》に、テグスとハウリナはやってきたのだが、入り口で足止めされる羽目になっていた。


「メイピルさんの所に寄ったとは言え。朝早くにきたのに、もうこんなに人がいるよ」

「皆さん、頑張り屋さんです」


 それは《小六迷宮》の入り口に入るのを待つ、人の列が出来ていたためだった。

 今までの《小迷宮》では、入るのを待つ人など居なかったというのに。

 つまりは、これほどの人が並んで待つと言う事は、それだけこの《小六迷宮》が稼ぎ易い場所であると言う事の証明だろう。

 しかし並んでいる人たちの格好も様々だ。

 鎧を身に付けている人。武器だけを手に持っている人。日常着姿で大きな背負子を持つ人。

 武器も剣や槍に弓や鈍器の基本以外に、鞭や大型包丁があったり、果ては縄なんていう人もいる。

 その武器一つ見ただけでは、ここに珍しい武器を持つ彼らが、何の《魔物》を狙ってきているのかは分からない。


「テメェ、横入りするんじゃねーよ!」

「仲間が場所取りしてたんだからいいんだよ!」


 そして《小六迷宮》の出入り口付近で始まったのは、順番待ちによるいざこざ。

 当人同士は熱中して言い合いをしだしたが、列に並んで待っている人たちの顔にはうんざりした表情が浮かぶ。

 それは少しでも早く《小六迷宮》に入って金を稼ぎたいのに、こんな場所で時間を浪費したくないといった表情だった。

 そんな周りの事はお構い無しに、言い合いの熱中度が上がっていく二組の《探訪者》たち。

 やがて業を煮やしたのか、彼らの直ぐ後ろにいた他の《探訪者》たちが、出入り口の向こうへと彼らを蹴り入れた。


「て、テメェ、何しやがる」

「五月蝿い。列に外れる様に蹴らなかっただけでもありがたいと思え」


 言い争いをしていた二組よりも、蹴りいれた男性の武装の方が良い物だった。そしてそれに見合うだけの貫禄が有りそうな風体をしている。

 そして彼の後ろには仲間らしき、整備の行き届いた武装を身に付けている人たちが居た。

 二組の《探訪者》たちは、彼らの見た目に尻込みしたのか、ブツブツと何か文句を言いながらも仲良く揃って階段を降りていった。

 いざこざを見ていた列に並んでいた《探訪者》たちから、蹴りいれた男性へと疎らな拍手がされる。

 男性とその仲間たちは軽く手を上げて応えつつ、拍手を背に受けながら階段を降りていった。


「本当に、色々な人が居るです」

「そうだね。だから余り周りに迷惑を掛ける様な真似は、しちゃいけないからね」

「はい、です」


 元気良く頷いたハウリナの頭を、テグスは撫でる。

 手が当たってピクピクと動く獣耳を、テグスは手指で捕まえると、手指の間で擦るようにして愛撫する。


「んッ、ふぅ~~」


 耳の毛に当たってくすぐったかったのか、少し小さな声を上げたものの。

 テグスの指を拒否するような仕草はせずに、逆側の耳が催促するかのようにピコピコと動いている。


「ホラ坊主たち。入った入った」

「あ、はい。ありがとう御座います」


 そんな感じで時間を潰していたら、何時の間にやら二人が中に入る番になっていた。

 声をかけてくれた後ろの《探訪者》に会釈をして、テグスはハウリナと一緒に階段を降りていく。

 長時間撫で続けた所為か、ハウリナの表情は少しだけにやけ崩れていた。




 《小六迷宮》内に入って先ず二人の眼に入ったのは、またもや《探訪者》の列だった。

 それはどうやら一層を抜けて二層へと向かう階段への道の様だ。

 何せ戦利品を満杯にした背負子を背負う人が、列の向こうからやってきて、テグスたちが入ってきた出入り口の方へと向かって行くのだから。


「うぅ~……また人です」

「しょうがないよ。人気のある場所なんだから」


 とハウリナを慰めつつ列に並んでいると、通路の脇から緑色の枕大の芋虫が出てきた。

 その口に針のような突起が付いている事から、《口針芋虫》という名前の《魔物》だと、テグスは事前に仕入れた情報から判断した。

 のっそりと出てきたその《魔物》は、しかし付近にいた《探訪者》の女性に呆気なく槍で一突きにされてしまった。

 そしてその魔物を刺したままの槍を引き寄せた彼女は、小さく《祝詞》を唱えて魔石化させた。

 そんな光景は、どうやらこの列の端々で見られるらしく。大抵の《探訪者》が一撃で《口針芋虫》を倒している。


「敵じゃないです」

「強さ的には、ここまでの刻印が《鉄証》にされている人には、雑魚なようなものらしいしね」

「なら、近付いて来たら、一撃です!」

「ハウリナなら出来るね。でも、この列は何時まで続くんだろう」


 というテグスの危惧は、三層に到着した途端に解消される事になった。

 なぜかと言うと、列が三層に入った瞬間に解かれてしまったからだ。

 今まで列に一緒に並んでいた《探訪者》は、小部屋から伸びる幾つかの通路の一つへと、それぞれ別々に入っていく。

 ぽかんとしてテグスがその様子を見ていると、テグスの後ろに並んでいた人たちも、次々に別々の通路を選んで入って行く。


「ほら、坊主たちも、さっさと選んで進め」


 立ち尽くしていたテグスの後ろから、人当たりの良さそうな顔付きをした男性《探訪者》が声をかけてきた。

 その彼にテグスは疑問に思った事を尋ねる事にした。


「えっと、何故皆さん別れて入るんですか?」

「おっ、ここは初めてなのか。ならこの階層からどんな《魔物》が出るか知っているか?」

「二層から《転刃石》っていう鉱石系が加わって。三層は《小火蜥蜴》っていう動物系が加わるって」

「そうそう。その《小火蜥蜴》ってのが、列を解消する理由なのさ。何せ間抜けな《探訪者》に付き合って、火達磨になってやるなんて馬鹿らしいだろ?」


 端的に言い放った彼は、ぐしゃぐしゃとテグスの髪の毛をかき回してから、仲間と共に一つの通路を選んで去っていった。


「どういう事です?」

「つまり、この三層から出てくる《小火蜥蜴》は、火を放ってくるって事だね。それで列を作っていると、その火から逃げられないから、列を解消したらしいよ」

「火は、厄介です」


 テグスの説明に、ハウリナは難しい顔をしながら頷く。

 その頭をテグスは一撫でしてから、勘で右から数えて三番目の通路を選んで進んでいく。

 大量の《探訪者》が居るため、今までのように走って行くのは危険度が高いと判断し、テグスはハウリナを伴ってゆったりとした歩みで通路を進む。

 しかしながら前を進む《探訪者》とは距離があるのか、大分通路を歩いて進んでも、曲がり角の向こう側を見ても人の姿はない。

 そんな二人に《口針芋虫》が近付いてきて、口の針を使って威嚇してきたのだが、ハウリナが鉄棍の一撃で潰してしまった。

 それをテグスは《祝詞》を唱えて、爪の間に余裕で入り込む程度の魔石に変え、魔石用の袋の中に入れた。

 少ししてから今度は《転刃石》という、二層から出現するようになった、所々に金属の光りがある手毬大の石の《魔物》が転がってきた。

 多少硬い以外はただの石との情報通りに、ハウリナが呆気なく鉄棍で砕いてしまう。

 鉄鉱石として利用されている《魔物》なので、買取価格はそれなりなのだけれど、重たいのでテグスはさっさと魔石化させて袋に入れる。


「《小火蜥蜴》は出てこないね」

「蜥蜴は、壁に居たりするです」

「それはヤモリじゃない?」


 なんて会話していると、曲がり角の先に《口針芋虫》を弱火で焼いている《小火蜥蜴》がいた。

 大きさは頭から尻尾までで、テグスの腕の長さほどなので、そんなに大きいという訳ではない。

 しかし口から松明よりも弱い程度だが、断続的に火を吐いているで、見た目以上に脅威度は高いだろう。


「でも、口からちょっとの距離しか出てないから、近付かなければ大丈夫だね」


 右腰の箱鞘から短剣を一本取り出したテグスは、火を吐くために伸びきった首を狙い、勢い良く投擲した。

 空中を空気を切り裂きならが飛翔した短剣は、その音に気が付いた《小火蜥蜴》が振り向きかけたその時に、深々と首に突き刺さった。

 首を半ば短剣で切断された《小火蜥蜴》は、言葉も無くその場で地面に腹ばいに倒れた。

 ハウリナが鉄棍片手に警戒しながら近付き、棍の先で《小火蜥蜴》が死んでいる事を突付いて確認する。


「これを『猟夫の両得』って言うんだったっけ」

「……蜥蜴、食べれるです?」

「うーん、火が通らないって言う話だから、止めたほうが良いんじゃないかな」


 テグスは物欲しそうなハウリナの視線を意識しないようにして、二匹の《魔物》を重ねて魔石化の《祝詞》を唱える。

 そうして手に入れた先の二つよりほんの少し大きな魔石は、ハウリナの魔石用の袋へと仕舞ってやった。

 その後も、事前に情報を仕入れていたテグスが指示をする感じで、二人で《小六迷宮》の中を進んでいく。

 矢張り階層が多い分、広さもかなりあるのか。今までの《小迷宮》に比べて、下への階段に到着するまでに時間が掛かった。

 

「四層からは《滴油鼠》っていう《魔物》が出るらしい。なんか見たら驚くらしいよ」

「驚くのです?」


 下への階段を降りながら、テグスはこの情報を教えてくれた、《探訪者ギルド》支部職員のニヤケ顔を思い出していた。

 あの顔は悪戯を思いついた悪ガキの様であり、目の前で罠に掛かろうという獲物を見つめる狩人のような感じだった。

 その理由が降りて直ぐに分かるとは、テグスは思わなかった。


「なッ!?」

「危ない、です!」


 降りて直ぐにテグスの眼に入ったのは、二人に向かって火達磨になりながら突進してくる、何匹かの《魔物》の姿だった。



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