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248話 相性の情報収集

 《中町》にてお酒と肴中心のお土産を購入してから、《大迷宮》にある《下町》へ向かう。

 その間、テグスは作ってもらった細身の片刃大剣の調子を、《魔物》相手に確かめていった。


「《護森巨狼》さまの素材を使用した剣の感触は、どのようなものでございますか?」

「凄い切れ味だし、大まかには満足かな。長さになれる必要はあるけど」


 感想の根拠となるのは、かなりの硬度を誇る《装鉱陸亀》の甲羅を、魔術なしで両断できたからだろう。

 ひょっとすると、その甲羅を素材としているティッカリの殴穿盾すらも、この大剣で斬れるかもしれなかった。

 不満があるとすればそれは――


「ちょっと名前が長いのが難点だよね」

「硬塞狼牙斬改大新剣ですからね、その大剣の銘は」

「けどそれが、ムーランヴェルグさんらしい名付け方だって思うの~」


 風変わりな鍛冶屋の姿を思い起こして、全員で苦笑いを浮かべる。

 そのあとでハウリナが、意見を出すために片手を真上に上げた。


「長い名は、ジャマです。短いのがいいです」

「た、たしかに、その、あの、仰々し過ぎる、気もしますよね」


 アンジィーにも不評なのは、恐らく彼女の兄のジョンが似たような真似をしていたからに違いないだろう。

 テグスとしても硬塞狼牙斬改大新剣と呼ぶのは勘弁して欲しいところだった。

 しかし、世話になった《護森巨狼》の素材を使っているので、あれこれその大剣という風にぞんざいに呼ぶのも躊躇われる。


「そうだなぁ。短くして『塞牙大剣』にしようか」

「それ、いいやすくて、いいです」


 ということで、塞牙大剣の習熟を狙って、テグスが主に前線で戦っていく。

 色々な《魔物》との戦闘経験を積むために、三十層の《靡導悪戯の女神シュルィーミア》の浮き彫りへ祝詞を上げての、四十層への転移は試みないことにした。

 そうして久々に入った夏、冬、夜の森の層を順調に進んだ後では、塞牙大剣はテグスの手に馴染むようになっていたのだった。


 



 到着した《下町》にて、なじみの食堂に入り、居合わせた《探訪者》たちにお土産を渡していく。


「おー、今回は大分ゆっくり上にいたようじゃないか」

「お前さんがたが帰ってくると、毎回こういう美味しい目にあえて、感謝してるぜ」

「お蔭で、下の層に行っても頑張ろうって気になるしな」


 そんな言葉をかけられた後で、今日はテグスたちを出汁に使った宴会が始まった。

 折角の楽しい席で、主賓に払わせるような野暮な真似は、《下町》の《探訪者》たちはしない。

 食堂の店主に魔石を押し付けるようにして払うと、料理を作らせ酒をどんどんと運ばせていった。

 開会宣言は、もちろんテグスの仕事だ。


「僕らのためにありがとうございます。それでは皆さん、杯を持って――乾杯!」

「「「「乾杯ー!!」」」」


 音頭と共にどんちゃん騒ぎが始まると、どこからともなく新しい《探訪者》たちも駆けつけ、どんどんと賑やかになる。

 中には、最近《下町》に来た人もいるらしかった。

 そういう人たちは、控えめな態度で輪に加わろうとしてくる。


「あ、あの~。そんなに魔石持ってないんですけど、参加しても大丈夫ですか?」

「おー。よっしゃ、奢ってやろうじゃねえか。沢山食べて、力つけて。明日から元気に《魔物》をぶっ殺しにいけよ!」


 そんな光景が度々あり、食堂に人が入りきれないぐらいになってしまった。

 宴会の中で、ハウリナは健啖ぶりを発揮して、大食い勝負を大男と男なっている。

 ティッカリは樽のエールを誰が先に飲み干せるかを、酒好きそうな男たちと競っていた。

 アンヘイラとアンジィーは端の机に陣取って、喧騒に巻き込まれないようにして、料理を楽しんでいる。

 そんな中、ウパルが酔っ払いと話していた。

 興味本位で、テグスが耳を傾けると――


「ほう、ほう。《中三迷宮》の二十五層には、あんたのような人が沢山いるのか。それで、強い《探訪者》に仕えたいとおもっているってのか」

「その通りでございますよ。正しく強い《探訪者》さまがたに身を捧げることこそが、私ども信徒の誉れに他ならないのでございます」


 どうやら、《静湖畔の乙女会》の話をしているようだ。

 今までは行っていなかったのだが、テグスとあの約束を結んだことで、何かしらの心の変化があった結果なのかもしれない。

 下手に関わると薮蛇になりそうだったので、テグスは自分の目的を果たすことに注力することにした。

 心地よく酔っていて、それでいて話が出来そうな人を選んで言葉をかける。


「ちょっと話を聞かせて欲しいんですけど」

「いいぜ。あんたらが帰ってきてくれたおかげで、こんな楽しい食事が出来るんだしよ」

「聞かせて欲しいのは、とある噂を知っているかなんですが――」


 収集するのは、五十一層に現れる《魔物》たちの間に、相性があるという話についてだ。

 それを何人にも聞いて、新しい噂や、聞いた話の裏付けを進めていく。

 情報を受け取れば、もちろんお礼に酒を一・二杯奢るのは忘れない。

 あらかた話がまとまり、客の大半が酔いつぶれてきた頃に、テグスは仲間たちと合流した。

 膨れた腹を満足そうに撫でるハウリナと、赤ら顔で気持ち良さそうな笑顔を浮かべるティッカリに、仕事をやり終えたと言いたげなウパル。

 テグスはその姿に苦笑いを返し、アンヘイラとアンジィーが取っておいてくれた料理を摘みながら、知りえた話の報告をし始める。


「大体の話は聞けたよ。ちょっとあやふやな部分もあるけどね」


 と前置きして、聞き出した相性を話していく。


「聞いていて一番多かったのは、『一番弱い魔物の武器で一番強い魔物を倒す』って話しだったよ。次が『赤い狼には肉を食わせろ』ってやつだね」


 ここで、アンジィーは腰に括りつけてある小鞄から、黒い球を一つ取り出してみせる。


「その、ま、魔物の武器って、この爆発する球、ですよね?」

「となると使う相手は《巨塞魔像》でしょうね、一番強い魔物ですし」

「あ~。だから、《巨塞魔像》の素材が手に入りやすいっていう、ムーランヴェルグさんの話に繋がるんだね~」

「狼の話は、その鍛冶屋に聞いたのと、同じです」

「要点をまとめますと、『《巨塞魔像》は黒球を投げつけて倒す』、『赤き《護森巨狼》さまに肉を食べさせて不意打ちする』ということになるわけでございましょうね」


 テグスはその通りだと頷くと、他の相性に話を移す。


「『黒い角は、カラクリ騎士の鎧と盾で防げる』、『黒い角は、継ぎ接ぎの獣に突き刺す』。似たような文言だけど、これは別々の話だね。マッガズさんから、《合成魔獣》に《堕角獣馬》の角を指すと殺せるって聞いたからね」

「カラクリ騎士ってことは、名前からすると《魔騎機士》のことなのかな~?」

「顔三つの獣も、黒いウマも、倒せるです。気にする意味ないです」


 ハウリナの指摘に、それもそうだと話を勧めることにする。


「倒せる魔物に対応してるのは――《暗器悪鬼》の話っぽい『飛び道具は巨人の皮膚には通らない』。《下級地竜》のらしい『突撃蜥蜴は隠れ布を見破れない』かな。あとは『カラクリ《魔物》は火や水に弱い』、『隠れる《魔物》は足音を立てさせろ』、『巨人の硬い皮膚には狼の爪と牙』、で終わりだね」


 最後の三つの話に、ハウリナたちは首を傾げる。


「巨人以外は、なんだか、あやふやです」

「狼は恐らく、赤き《護森巨狼》さまでございましょうね。かといって、他二つは五十一層の《魔物》との相性の話には、聞こえないのでございます」

「《魔騎機士》の事でしょうね、カラクリのほうは。となると隠れるのは《掻切陰者》でしょうね、最後に残っているので」

「で、ですけど。じゃ、弱点が火や水っていっても、ちょっと水かけたりするだけじゃ、きっと駄目ですよね? あ、あと、隠れる《魔物》は、足音立てないと、思うんです」


 どういうことかなと首を傾げ合い、一番先に予想にたどり着いたのはテグスだった。


「倒すための道具として素材をまだ使っていないのは、《下級地竜》と《合成魔獣》と《巨塞魔像》だ。その三つから火と水に関係ありそうなのを考えると――《合成魔獣》の猿顔の歯になっていたあの触媒で、五則魔法を使って《魔騎機士》を倒す、ってことになるんじゃないかな」


 その予想に、アンヘイラが納得した顔になる。


「五則魔法のことを指しているわけですか、例の火や水が弱点という部分が」


 ウパルが二人の意見に待ったをかける。


「正しくは、大量の火や水が必要ということではないのでしょうか? 人の全てが五則魔法を扱えるというわけではございませんのですから」

「そういう考え方の方がありな気がするの~」

「そ、それが本当なら、きっと、精霊魔法でも大丈夫かも、しれませんね」


 一つ謎が解けたところで、いよいよ最後の相性だ。


「《掻切陰者》に足音を立てさせるってことだけど、《下級地竜》か《巨塞魔像》の素材でだよね」

「《巨塞魔像》から取れるのは鉱石っだって、ムーランヴェルグが話していた気がするの~」

「となると『肉と鱗』か『石と砂』かといったところですね、使用するものは」

「で、でも、見えない相手に、肉や石は、ぶつけられませんよ?」

「姿を見るために血や砂をかけるというのでしたら、ありえる話でございましょうけれど。鍵となるのは足音でございますし……」

「石や砂、地面にまけば、踏んで足音でるです」


 悩んでいるところに、唐突にハウリナがさも当然という口調での言葉がかけられた。

 全員の反応が少し止まる。

 そしてテグスは、思いつかなかったという顔で、ハウリナへ振り向く。


「えっと、それで足音って出るものなの?」

「砂や石が多くあるばしょ、足音消すの、難しいです。石どうし、砂どうしでこすれて、音でるです」


 そう説明を受けても、テグスにはあまりピンとこない。

 だが、ティッカリとアンヘイラとアンジィーは違っていたようだ。


「そう言われてみれば、鉱山の中で足音はザリザリいってた気がするの~」

「ザッザっと足音が変化しますね、砂浜を歩くと」

「か、川原を歩くと、石がゴツゴツって、鳴りますよね」


 最後のアンジィーの説明を受けて、テグスはようやく理解できた。

 《大迷宮》の大河の層にある中洲で石を踏むと、足音が出やすかった覚えがあったからだ。


「となると、これで五十一層の全ての《魔物》の対処法が分かったってことになるね」

「なら、倒しにいくです!」

「一気に攻略が進みそうな予感がするの~」


 血気を上げて意気込むものの、《下町》に着いたばかりなので、それは明日以降にすることにした。

 床に転がる酔いつぶれた客たちを放置して店の外へ出ると、テグスたちは宿屋でしっかりと休息を取るのだった。


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