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219話 《写身擬体》

 いよいよ、テグスたちが《写身擬体》と戦う番になった。

 テグスは仲間たちの顔を見回す。


「準備はいい?」

「わふっ。だいじょぶです!」

「準備万端なの~」

「逃げる心構えもできてますよ、いざという時のために」

「一度で突破できればようございますが、どう戦ってくるか情報を得るのが優先でございますしね」

「と、とにかく、が、がんばります」


 全員の意思を確認してから、テグスを先頭に五十層の広間へ足を進める。

 そして入り口の脇に、全員の荷物をまとめて置いた。

 すると、入った順に鈍鉄色の噴水に複製されるらしく、まずはテグスに似た《写身擬体》が、続いてハウリナ、ティッカリに似せたものが現れる。

 しかし、ティッカリは自分に相対する《写身擬体》を見て、露骨なまでに顔をしかめた。


「なんで、身体が筋肉だらけになっているのかな~~」


 そう、なぜだかその《写身擬体》は、顔がティッカリであるのにもかかわらず、鎧に覆われている身体が《造盛筋人》に似た筋骨隆々なものに変わっていた。

 姿がおかしなものは、その個体だけ。

 あとは、見た目の他の面々にそっくりなものしかいない。

 その事実に、テグスは二つの小剣を抜きながら、思わず噴き出してしまった。


「ぷふっ。きっと、ティッカリの膂力を再現するためだろうね」

「真似るのは実力と技術が先で、見た目は後なのでございましょうね」

「むぅ~~。釈然としないの~」


 そんな少し和やかな雰囲気を切り裂くように、アンヘイラに似た《写身擬体》が持つ長弓から放たれた鈍鉄色の矢が、テグスの額へ飛んでくる。

 しかし、テグスは当然のように小剣で叩き落すと、顔を後ろにいるアンヘイラに向けた。


「真っ先に狙うのが僕だっていう、アンヘイラの予想は当たったね」

「遠距離武器持ちは前線狙いが主だったですからね、他の《探訪者》との戦いでは」


 再度、《写身擬体》から矢が飛んでくるが、テグスは同じように小剣で弾き飛ばす。

 今度はアンジィーに似た個体からも短い矢が放たれるが、そちらはティッカリが殴穿盾で防ぐ。

 すると、空中を漂う二種類の矢は、どちらも次第に輪郭を失い、やがて小さな鈍鉄色の水と化して地面に落ちた。

 その光景を見ていたテグスとティッカリは、揃って顔を見合わせる。


「どうやら、《写身擬体》の手から離れた武器は、時間が経つと形を失うようだね」

「それなら、相手の武器を落とさせるような戦い方がいいかな~」


 テグスが視線をハウリナに向け変えると、その戦法でいこう、というように頷き返してきた。

 そして三度、飛来した矢を弾きながら、テグスが号令を発する。


「いくよ、みんな!」

「まずは、似た相手とです!」

「役割は分かっているけど、あの個体を似ているって言いたくないの~」


 前衛であるテグス、ハウリナ、ティッカリが駆け出す。

 それに呼応して、それぞれに似た個体も走り始める。

 両者がぶつかる前に、アンヘイラとアンジィーが矢を放つ。狙いはアンジィーに似た《写身擬体》だ。

 もう少しで矢が刺さるという直前で、その個体が変なうめき声を上げる。


「オア~オオアオア~」


 歌っているような唸っているような声の後で、その《写身擬体》の体から鈍鉄色の水が吹き上がり、矢を弾き飛ばした。

 変な防御法を目にしたアンヘイラが、いぶかしげな視線を横にいるアンジィーに向ける。


「アンジィーは使えるんですか、あんな特技を」

「い、いいえ。あ、あの、多分ですけど、精霊魔法の代わり、なんじゃないかなって」

「アオア~オオアオアアア~」


 二人が話している間に、うめき声と共にアンジィー似の個体の表面が波打ち、足から鈍鉄色の蛇のようなものが現れる。

 それは地面を素早く這い進み、ティッカリの足へまとわり付く。


「この程度、なんてことないの~」


 ティッカリは、持ち前の膂力を生かして蹴り千切った。

 すると、その鈍鉄色の蛇のようなものは、名残惜しむように身をうねらせながら、アンジィー似の《写身擬体》へ戻っていく。

 そうしている間に、テグスは小剣、ハウリナは黒棍、ティッカリは殴穿盾を用いて、それぞれに相対する《写身擬体》に攻撃を仕掛けた。


「たああああああああー!」

「あおおおおおおおおん!」

「とや~~~~~~~~~」


 それを、テグス似の《写身擬体》は両刃の直剣で、ハウリナ似のは鈍鉄色の短棒で、ティッカリ似は棘々しい突起がある丸い盾で防いだ。


「どうやら、僕らに似た相手の武器は、似ているけど違うもののようだねッ!」

「戦い方も、ちょっと違うです!」

「こっちの相手の盾は、突起だらけだけど硬さはそんなじゃないの~」


 叫ぶように声を張って情報を交換しながら、三人はそれぞれの《写身擬体》と戦闘を続ける。

 小剣と直剣が打ち合う硬質な音、黒棍と鈍鉄色の短棒が当たり弾かれる軽い音、盾同士が強い力でぶつかる重々しい音が響き続ける。

 武器は違えど、技術が元となる人と同程度なのは情報通りらしく、一気にこう着状態になってしまった。

 こうなると後衛の援護が重要となってくる。

 アンヘイラ似とアンジィー似の《写身擬体》は、テグスへと武器を向ける。

 そして直ぐに、二匹の手にある長弓と機械弓から、一斉に矢が放たれた。

 だが、射線上にウパルが陣取り、両袖から垂らした《鈹銅縛鎖》を振り回して、その矢を叩き落す。


「テグスさまたちに、矢を易々と当てられるとは思わないでくださいませ」


 威勢のいい啖呵をきるウパル。

 だが、今度はウパル似の《写身擬体》が、両袖から鈍鉄色の太い鞭を伸ばして襲い掛かってきた。


「武器として作られた物は持たないという、我々《静湖畔の乙女会》の教義を踏みにじる行為に、断固とした処置を取らさせていただきます!」

「オアオオー」


 お互いが振るった《鈹銅縛鎖》と鞭が、空中で衝突して弾き合う。

 ウパルは素早く手の振りと身体捌きで、《写身擬体》は足運びと舞うような挙動で、《鈹銅縛鎖》と鞭の動きを制御した。

 そして、弾かれた勢いを乗せて相手へと繰り出しながら、逆の手は拘束を狙った動きを見せる。

 少しでも振るう腕が鈍れば、身体か武器かを絡め取られる、そんな戦いが両者の間に展開した。

 四人と四匹がこう着している中で、アンヘイラは冷静な表情のままで、ウパル似の《写身擬体》を見つめている。


「さて、久々に魔術の出番ですね、普通に弓を引いたのでは無理そうですから。『身体よ頑強であれ(カルノ・フォルト)』」


 アンヘイラは身体強化の魔術で背筋の力を上げ、《贋・狙襲弓》を目一杯まで引き絞った。

 《贋・狙襲弓》が軽い軋み音を上げ、アンヘイラの腕は弦が戻る力に耐えるように軽く小刻みに震えだす。


「え、援護します」


 アンジィーも連射式の機械弓である《機連傑弓》を、矢継ぎ早に自身に似た《写身擬体》へ射掛けた。


「アアオオア~オオアオアオオ~」


 再び、あのうめき声が聞こえ、《写身擬体》の身体から噴き出した鈍鉄色の水が、アンジィーが放った短矢を弾いた。


「待ってました、それを使うのを」


 アンヘイラがそっと矢を手放す。

 すると、雷光のような目の覚める速さで跳んだ矢が、鈍鉄色の水の層を突き破り、アンジィー似の《写身擬体》の胸元へ射ち込まれた。


「オオオオアアアア……」


 身体に着た鎧も打ち抜いき急所を貫いていたらしく、悲鳴を上げつつ倒れながら、形が崩れて鈍鉄色の水へと変化していく。

 その瞬間、アンヘイラの顔に向かって、一直線に鈍鉄色の矢が飛んでくる。

 どうやら、一瞬の好機を狙っていたのは、アンヘイラを模した《写身擬体》も同じだったらしい。

 目一杯の力を使って矢を放った直後なため、アンヘイラは素早く避けられない。

 そこに、アンジィーが横から跳び入ってきて、代わりに矢面に立った。


「さ、させません!」


 剥ぎ取りのときに使う短剣を抜き、それを盾にして矢を受ける。


「きゃッ!」


 短剣が手から弾き飛ばされて、アンジィーは尻餅をついてしまったが、矢の軌道を逸らすことに成功する。


「褒めてあげます、よくやりました」


 アンジィーのお蔭で命を拾ったというのに、何の感慨もないかのように、アンヘイラは矢を番えて弓を目一杯に引く。

 その姿を見てか、アンヘイラを模した《写身擬体》からうめき声が上がる。


「オオオアアアーー」


 すると、その個体の上半身が膨れ上がったように大きくなる。

 そして、長弓を一気に易々と引き絞った。


「身体強化の魔術の代わりですか、その上半身が太くなるのは」


 自身を模した《写身擬体》へ、醜く変貌したことを吐き捨るような言葉を使いながら、アンヘイラは矢を放った。

 同時に、相手の長弓からも矢が放たれる。

 二本の矢は何かで繋がれていたかのように、両者の間で衝突して、バラバラに砕け散った。

 二つの弓に二の矢が番えられ放たれるが、同じようにして砕ける。

 三の矢、四の矢、五の矢と同じ状況が続く。

 そして、六の矢のときに、両者の中央で二つの矢がすれ違った。

 だが、アンヘイラと《写身擬体》は、それが分かっていたように身体を引いて、矢を避けようとする。

 アンヘイラの頭の横、耳の縁を掠りながら、鈍鉄色の矢が通り過ぎた。

 一方のアンヘイラの黒木製の矢も、《写身擬体》の身体の横を――


「オオオアアアー」


 ――通過するように見えたが、上半身を膨らませて力を増していたことが災いして、右腕に擦過傷を負ってしまう。

 それを見て、アンヘイラが口だけで微笑む。


「避け方の癖も同じということですよ、こちらと技術が同じということは。なので手傷を負わせる事が容易なんですよ、身体の大きさが違うのならば」


 言いながら、七の矢を放つ。

 《写身擬体》も矢を放ち、再び衝突して二本とも砕け散る。

 だが、八の矢、九の矢と、アンヘイラが矢継ぎ早に放つと、《写身擬体》の怪我をした腕では追いつけなくなってくる。

 次の十の矢で遅さが決定的となり、《写身擬体》の額にアンヘイラの矢が突き刺さった。


「オオオオアアアアー」


 悲鳴を上げながら、輪郭を失い、鈍鉄色の水へと変わる。

 それを見届けてから、アンヘイラは足元で座り込んだままのアンジィーに目を向けた。

 どうやら、《機連傑弓》の機構を動かそうと努力しているようだった。


「壊れでもしましたか、その弓が」

「い、いえ、その。や、矢を弾いたときに、手が痺れちゃって……」

「なら座っているのは何故ですか、手が上手く動かせないのは分かりましたが」

「あ、あの、その……や、矢を防げた驚きと、ま、守れたことに安心したら、腰が抜けちゃって……」


 恥ずかしそうに言うアンジィーに、アンヘイラは少し困ったような顔になると、戦いが続いているテグスたちへ顔を向ける。


「……まだ余裕がありそうですね、テグスたちは。なら、少し援護は待っててもらいましょうか、アンジィーが回復するまで」

「い、いえ、あの、行ってもらって、いいと思うんですけど」

「動けない人を狙われると厄介です、下手に援護をしてしまって。なのでアンジィーを護衛しています、動けるようになるまでは」

「そ、そうですよね。ご、ごめんなさい」

「謝らなくていいですよ、醜態をさらす原因の一端はこちらにあるのですし。そうそうお礼を言ってませんでしたね、褒めはしましたが」


 恐縮しきりだったアンジィーは、アンヘイラが続けた言葉を上手く理解できなかった表情をして、座った状態のまま眺めている。

 それを見て苦笑しながら、アンヘイラは軽く頭を下げた。


「ありがとうございました、お蔭さまで命拾いをしました」

「え、あ、いえ、あのその、どう、いたしまして?」


 こうして二匹の《写身擬体》を倒せた二人だったが、アンジィーが回復するまで戦線を離れざるを得なくなったのだった。




 テグス、ハウリナ、ティッカリ、ウパルの戦闘は続いている。

 アンヘイラとアンジィーの戦いのように優勢かと思いきや、意外にも四人の旗色のほうが悪かった。

 戦闘中の、攻撃の切れ目切れ目で、テグスたちは意見を交換する。


「ああ、もう。僕に似て、避けるのも受けるのも上手いな!」


 避けながら振るってきた《写身擬体》の直剣を、テグスは小剣で受け流しながら言い放つ。

 すると、すぐに反応が返ってくる。


「じがじさん、です」

「あははは~。でも、なんだか、こっちより動きが上手なの~」

「そうでございますね。ほんの少しだけ、身体運びが上手いように見受けられます」


 そう。ウパルの言葉通りに、ほんの少しだけ《写身擬体》の方が、身体の使い方が上のように見える。

 しかしそれは、技術的に一歩先んじられているというわけではない。


「間近で見て動きを知れば、同じように動こうと思えば動けるんだよねッ」


 《写身擬体》の攻撃を弾きながら、テグスが相手の攻撃法を真似ると、小剣と直剣の違いはあれど、同じ動きが出来た。

 このことはハウリナたちも分かっているらしく、ときどき相手の動きを真似て、自分の動きに取り入れることをしている。

 その頻度が一番高いのは、自他共に認める不器用な、ティッカリだった。

 どうやら、身につけた技術と身体の動きが最適化出来ていない部分を、《写身擬体》の方は完璧に出来るらしいと、テグスは感じた。

 それは、ティッカリも同じだったようだ。


「これって、どう動けばいいか教えてくれているようなの~」

「こんな命懸けの授業なんて、遠慮したいんだけど」


 実力と技術が同じなので、剣や拳に蹴りが襲ってくる近距離戦の攻防では、少しも気を抜けない。

 その事を嘆く言葉を使ったあとで、テグスは自身に似た《写身擬体》の違和感のある動きを見て、極限的な集中状態に移行した。

 《写身擬体》は両手で両刃の直剣を握っている。しかし途中で右手だけを離し、投剣の収まる右腰へと伸ばす。

 テグスは右の小剣で直剣を防ぎながら、左の小剣を《写身擬体》の右腕へ突き出した。


「アアアオオオアアー」


 もう少しで切っ先が刺さるというとき、《写身擬体》がうめき声を上げる。

 すると一気に腕の速さが増し、突きを避けられ、さらに投剣を放ってきた。

 右の小剣と手甲で全てを防ぎながら、一端距離を空け、集中状態を解除する。

 そのとき、少し離れて戦闘を見ていたアンヘイラから、テグスへ声がかけられた。


「元となる人が使う魔術を模すようですよ、どうやら対応している《写身擬体》は」

「じゃあさっきのは、身体強化の魔術かな。でもそうなると、僕に似た《写身擬体》が一気に厄介になるんだけど……」


 忠告は受け取りながら、どうしたものかと頭を悩ませる。

 なにせ、テグスの覚えた魔術は多く、そして五則魔法も使える。

 ハウリナも魔術がいくつか使えるので、いままでよりもさらに厄介な状況になることが予想できる。


「オオオアアアオアアー」

「アアアアオオアアアー」


 テグスが思考に時間を割いたからか、テグスに似たものとハウリナに似た《写身擬体》がうめき声をあげる。

 すると、二匹が持つ直剣と短棒から微かな音が聞こえてきた。


「オオオオオオー」

「アアアアアアー」


 二匹はそのまま襲い掛かってきた。

 テグスとハウリナは手の武器で、攻撃を受け止めた。

 すると、テグスの小剣からは物を削る音と微かな火花が起きる。

 そして、ハウリナの黒棍からは、まるで大槌と落とされたような重々しい音が発せられた。


「鋭刃の魔術の代わりと、震撃の魔術の代わりを使った!?」


 至近距離でよく見ると、両刃の直剣の刃先が鋸状に変わっている。

 そして、ギザギザの刃が刀身に沿って高速移動をしているのが見えた。

 予想もしてなかった刃の動きに、テグスは驚く。


「あうっ!――噛まれたら噛み返すです。『衝撃よ、打ち砕け(フラーポ・フラカシタ)』!」


 対照的に、ハウリナは軽く手を振るいつつ震撃の魔術を黒棍にかけると、相対する《写身擬体》に打ちかかる。

 テグスも驚いてばかりはいられないと、反撃を始めた。




 それから少し時間が経つと、テグスとハウリナはもとより、ティッカリとウパルの戦いも、次第に防戦が多くなってきてしまう。

 《写身擬体》の方が身体運びが上手いのに、疲れ知らずに戦いを挑んでくるからだ。

 テグスたちがどうにかこうにか堪えていると、ようやくアンジィーの足腰が回復し、アンヘイラと共に戦線に入ってきた。

 しかし、テグスはここからの巻き返しができるか数秒考え、そして色々な懸念を考えて撤退を選択する。


「殿は僕とティッカリがやるから、先に逃げて!」

「遠距離武器を使う相手がいないから、余裕で足止めしてあげるの~」

「わふっ、お願いするです。荷物もって逃げるです」

「残念でしたね、折角復調したのに」

「あ、あの、早く逃げましょう」

「不埒な存在に一撃を入れてから、撤退いたします」


 ウパルは宣言通りに、自身に似た《写身擬体》の顔面に《鈹銅縛鎖》の先を打ち当ててから、先に行ったハウリナたちを追って逃げていった。

 テグスたちもこの広間の入り口へ下がりながら、四匹の《写身擬体》を相手する。


「くううぅ~~。テグスとハウリナちゃんに似ているから、攻撃が身体に響くの~」

「こっちは、ティッカリに似た《写身擬体》が殴ってくるたび、背中に冷や水をかけられた気分になるよ」


 防御一辺倒に徹すれば余裕があると分かったため、テグスとティッカリは軽口を言い合いながら、撤退戦を続ける。

 そして、広間の入り口に差し掛かる直前に、テグスは小剣を片方納め、代わりに《補短練剣》を抜く。


「確かめたいことがあるから、ティッカリは先にいって」

「じゃあ、お先になの~」


 ティッカリが逃げるのを見てから、テグスは呪文を唱える。

 選択するのは爆裂の五則魔法だ。


「『我が魔力を火口に注ぎ、燃え盛るは破裂する炎(ヴェルス・ミア・エン・フラミング、アディシ・エクフラミ・エクスプロジ・フラモ)』」


 呪文が完成し、《補短練剣》の先端に炎球が出現する。

 だがしかし――


「アアアアアアアアウウオオオオオオオーー」


 テグスを真似た《写身擬体》も、腰に何か筒のようなものを構えて、長いうめき声を上げる。

 すると、その先に炎がチラチラと見え始めた。

 テグスは《補短練剣》の先から炎球を発射しながら、後ろへ跳んで広間の入り口から逃げ始める。

 ティッカリに似た《写身擬体》が盾で炎球を受け止める直前、テグス似の《写身擬体》の筒から炎が噴き出してきた。

 しかし、その光景は一瞬だけ見えただけで、爆裂した炎球が全てを吹っ飛ばした。

 広間の入り口と準備部屋の間にある短い通路の中で、テグスは足を止めて広間の中を見る。


「……ちぇっ。やっぱり一撃で全滅っていうのは、虫が良かったかな」


 殿として引き付けてから爆裂の五則魔法を放ったが、水と化したのは直撃したティッカリ似の《写身擬体》だけで、残りは傷は負っているもののまだまだ戦えそうな雰囲気を残していた。

 その光景を見てから、テグスは得られる情報は得られたとして、ハウリナたちと他の《探訪者》たちが待つ準備部屋へと足早に入ったのだった。


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