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215話 頼まれた成果

 行商人に頼まれて、大扉からお宝を回収しにいく。

 しかしその前に、四十五層へ行き、《機工兵士》、《造盛筋人》、《遊撃虫人》、《深緑巨人》と戦いながら、自作地図の範囲を広げていく。

 しばらくして、見つけた隠し通路で、テグスたちは休憩を取ることにした。


「みんな、新しい防具にはもう慣れた?」


 テグスの質問を受けて、それぞれが着けた鎧や貫頭衣に手を触れる。

 そして、最初に口を開いたのはハウリナだった。


「わふっ。もう、身体の一部みたいです!」

「前の鎧よりも重たいけど、丈夫で安心しているの~」

「頑丈過ぎて体当たり用の武器のようなものですしね、ティッカリの鎧は」

「で、でも、それで《魔物》を吹き飛ばせるんですから、いいんじゃないかなって」

「押しなべて、大満足という感じでございますね」


 続いたティッカリたちの感想を受けて、テグスは大丈夫そうだと納得する。

 さらに、自分でも鎧の出来に満足していることを実感していた。

 なにせ、下地に使われている《深緑巨人》の表皮で作った布のお蔭か、身体に不快なく張り付いているような着け心地なのだ。

 動き回る戦い方をしても、先のハウリナの感想通りに、身体の一部分のような追従性を発揮して、動作を阻害しない。

 それは、《魔物》との戦いにおいて、大変に役立っていた。


「あまりにも良く動けるから、鎧を着ているって忘れちゃいそうになるよね」

「ですです。服より、着心地いいです」

「この貫頭衣状の防具になりますと、今まで着たどんな服よりもよりよく感じられますよ」


 アンヘイラとアンジィーも同意の頷きを返す中、ティッカリだけは思案顔をしていた。


「う~んと~、さすがにそこまで着心地はないって思うかな~」

「ティッカリの鎧は全身鎧だし、僕らと装甲の素材が違うしね」


 そう慰めの言葉を発したものの、恐らく四十五層から五十層までで手に入る素材で作る防具では、ティッカリの鎧に使われた装甲が主流だと思われた。

 なにせ、マッガズたちや他の《探訪者》の防具は、ティッカリの鎧と同じ金属を革鎧の上に付けていることが多い。

 費用対効果と《下町》にある防具屋の設備関係でそうなっているのだろうが、彼ら彼女らが不満なく使っていることから、必要十分な基準は満たしているようだった。


「さて、休憩は終わりにして。今度は、多種と組んだ相手と戦ってみようか」

「わふっ。やってやるです!」

「基本的に、分断して戦うんだったかな~?」

「《鈹銅縛鎖》にての拘束は、お任せいただけたらと思われます」

「援護に徹しましょうか、こちらは」

「そ、そうですね。精霊魔法も使いたいです」


 準備運動をしてから隠し通路から出ると、四十五層の少し先へ進んでいったのだった。





 多種と組んだ相手との戦いの手応えを感じながらも、まだまだ相手の方が連携において一枚上手に感じられた。


「分断していたはずでしたのに、何時の間にやら合流されてしまっておりましたね」

「前線で戦っていると見落としてしまうのでしょうね、援護で離れてみていれば気付くと思いますが」

「むふんッ。次は、もっと上手くやるです」


 戦闘の反省を言い合っている中で、ハウリナは収まらない気炎を吐いているようだ。

 その最中で、テグスは見つけた大扉の解除をしていて、ハウリナの吐息と同時に作業が終わった。

 早速開けて中を確かめると、幅広の大剣と戦斧槍を見つける。

 どちらの武器も、顔見知りの《探訪者》が切望しているものだ。

 《鑑定水晶》で効果の有無を確認して、良い方だった戦斧槍を選び、大扉から立ち去る。


「……なんか今日は、行商さんに渡せる物とは出会わないね」


 四十五層を進んでいた時と、引き上げてきて見つけたさっきのものまで、開けた大扉は四つ。

 他の三つからは、大量の酒、大型の菱形盾、蛇腹の長剣を得ている。

 しかし、菱形盾や蛇腹長剣は、前々から引き取り先が決まっているため、行商人には渡せない。


「何時もは、短剣とかナイフの方が多いのにね~」

「少し困りますね、普通に考えれば見つけた宝は当たりの類なのですけれど」


 他の日であれば、片手で扱える軽い武器や、農具などが良く出るのにと、全員で首を傾げる。

 その後も《中町》に引き返しがてらに、発見した大扉を幾つか開けていく。

 しかし、見つけた宝の中で、行商人に渡せそうな武具は、顔がどうにか隠せるぐらいの小盾が一つだけだった。




 《中町》へと戻ると何時もの食堂に行き、武器や防具の発見を頼まれていた《探訪者》に売り渡していった。

 大扉から得た酒と肉を料理人に渡し、手間賃に魔石を払って調理してもらう。

 その出来上がりを待っていると、例の行商人が入ってくるのが見えた。


「あの、来て早々不躾ですが、首尾のほうは……」

「渡せるのは小盾が一つだけですね。他は頼まれたものだったり、食料品でしたから」


 テグスが小盾を見せると、そのあまりの小ささにか、行商人ががっかりした表情を浮かべる。

 そして、食堂にいる《探訪者》が真新しい武器や防具を持ってはしゃいでいるのを見て、悔しげな顔に変わる。


「事前の取り決めですし、仕方がありませんね。では、この小盾を売っていただけるのですね」

「値段の交渉は、アンヘイラに一任してますので」


 テグスの言葉にアンヘイラが立ち上がり、行商人と価格交渉を始める。

 長くなりそうな雰囲気だったため、他の面々はやってきた料理を食べて待つことにした。

 アンヘイラ用に残していた料理が冷める頃になって、ようやく決着したようだ。

 交渉を終えた二人の表情をテグスが見た限りでは、痛み分けと感じられた。


「冷めちゃっているし、新しい料理頼もうか?」

「いいえ。冷めていても構いませんよ、食にはさほどこだわりがないので」


 アンヘイラがもと居た席に座り、冷めた料理を本当に不満がない様子で食べていく。

 とはいっても、交渉してくれたお礼代わりとして、テグスはせめてと暖かいスープを頼んだ。

 手元に置かれた湯気の立つ器を見てから、アンヘイラはテグスに目礼を返す。

 しかし、気にしなくていいのにといった感情が、その瞳に見え隠れしていた。

 テグスが苦笑いを浮かべそうになっていると、横から行商人に声をかけられる。


「あの。さすがにこの盾だけでは、上役に怒られてしまいますので……」

「明日からも四十五層まで行きますし、見つければ大扉は開けますから。それに、明後日まで居られるんですよね?」

「はい。正確に言いますと、明々後日の午前中に地上に戻りますので。なにとぞ、それまでに少しでも多くを、お願いできればと」


 ぺこぺこと頭を下げながら、行商人は帰っていった。

 心配性だなと、テグスたちは笑い合う。

 しかし、翌日になり四十五層で《魔物》と戦った帰り道でも、行商人に渡せるものが短剣二本しか見つけられなかった。

 あまりにもがっかりするその姿を見て、ウパルとアンヘイラから声が上がる。


「もう少々、慈悲を与えてもよろしいかと思われますが」

「もう少し回って回収してみましょう、このままだと恨まれそうですし」


 テグスも流石に可哀想に思ったので、翌日の朝早くから四十一層から四十四層を巡って、昼前までに四つ大扉を見つけた。

 すると、昨日までが嘘だったかのように、《探訪者》に頼まれていない武具や道具ばかりだった。

 そして四つの扉から、装飾が施された刺突剣、簡素な胸鎧、穂摘みナイフ、草刈用の大鎌を入手する。

 急いで《中町》に引き返し、神像で転移しようとしていた行商人を呼び止めて、それらを売り渡した。


「ありがとうございました。これでどうにか、本店の面目も保たれます」


 無理を聞いたお礼にか、今後テグスたちが物を取り寄せたり運搬を頼んだ時には、ある程度優遇してくれると口約束をしてくれた。

 行商人が地上へ転移した後、もう四十五層に行く気分ではなくなったテグスたちは、残りの半日を全て休憩にあてることにしたのだった。


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