192話 四十一層の景色
間が悪いことに、テグスたちが《下町》に来たときは、マッガズたちは四十一層より先へ行ってしまっているらしかった。
「僕らだけで先に進んでも良いんだけど」
「案内してくれるって、約束したです」
「拗ねられそうですよね、勝手に行ったりしたら」
仕方がないので、木材の搬入手伝いをして待つことにした。
五日経ち、もう待たずに先に進もうかという雰囲気が流れ始めた頃に、マッガズたちが帰ってきた。
「おお、坊主たち。もう戻ってきていたのか」
宴会をしてから通っている食堂で出会ったマッガズは、笑みを浮かべて声をかけてきた。
しかし、装備の消耗具合と、疲れた顔色から相当な激闘を体験してきたのが見ただけで分かる。
精も根も尽きる寸前なのか、マッガズとその仲間たちは、身体が思い様子で椅子に座った。
「マッガズさんたちでも、苦戦するって言うのは本当のようですね」
「まあな。これがまた、難儀な《魔物》ばっかりでよ――って、坊主たちの道案内をしてやろうとか言ってたんだっけな」
「お疲れのようですし、約束はなかった事にしても良いですよ」
「そういうわけにはいかんだろ。あー、だが、直ぐには無理だな」
マッガズは彼の仲間たちを見回し、全員に休憩が必要だと再確認したようだ。
「三日後なら、案内してやれる。だろ?」
ミィファを始めとする仲間たちは、少し考えてから、力ない頷きした。
「つーわけだから。ちょっと待っててくれ――ぐわっ!?」
「もうー、マッガズ。その子たちばっかり構ってないで、頑張った恋人を労ってよー」
ミィファは甘える声を出しながら、マッガズの身体にべったりとくっ付いてきた。
そして、両手でぎゅっと抱きしめると、頬擦りまで始める。
「お、おいおい。今日はどうしたって言うんだ」
「むぅー。いいじゃないの。疲れたのー甘えたいのー」
細く長い指で頬をなでられているマッガズは、気まずそうにテグスたちの方へ視線を投げる。
どこか助けてくれと言いたげな目に、テグスたちは微笑みを向ける。
「なんだかお邪魔なようなので、三日後にここで会いましょう」
「仲良しは、良いことです」
「ごちそうさまなの~」
「新しい命が授かられるよう、心よりお祈り申し上げてございます」
食事を終えていたテグスたちは、そそくさと席を立ってしまう。
「おい、ちょっと待――」
「はむっ、んぅ~~~」
お邪魔虫が居なくなったからか、ミィファが噛み付くようにマッガズの唇を奪う。
他の仲間たちは慣れた様子で店員に注文し、周りで見ていた人たちは、情熱的な二人の姿をはやし立てる。
再び宴の様相が見え始めたので、テグスたちは巻き込まれないようにと、足早に立ち去ったのだった。
約束した三日後。
「今日はよろしくお願いします」
「おう。といっても、四十一層で四種の《魔物》の説明をして終わりだと思うがな」
挨拶を交わすテグスとマッガズ。
その横では、ミィファと女性陣が顔を突き合わせていた。
「今日は、甘えないです?」
「も、もう。変なことを言わないの。あの時は、ちょっと疲れてた気の迷いなんだから」
「気の迷いにしては大胆だったの~」
「手馴れた感もありましたね、あの姿には」
「肌艶から察っさせていただきますと、かなり頑張ったご様子でございますね」
「え、あ、あの、その。おめでとうございます」
「いやだわ。分かるのなんて、二巡月か三巡月後よ」
何の話をしているかを極力耳に入れないようにしながら、テグスは彼女たちに視線を向ける。
「ほら。四十一層に行くから、お話しはそれでお終いだよ」
「分かったです」
「は~い、なの~」
「……もう少しテグスさまが興味を持たれたら、こちらとしてもやり易いのでございますが」
不穏な言葉を聞き流しながら、テグスたちはマッガズたちに続いて四十一層に下りていく。
「ここから四十四層までに出るのは、《騙造機猿》、《千攻触手》、《射果双樹》、《諸爆石犬》の四種類だ。それが三から五匹で集まって、こっちに襲ってくるわけだな」
「どれが戦い易いとか、戦い難いとかってあるんですか?」
「どれもこれも面倒臭い。まあ、戦って見せるから、直ぐに分かると思うがよ」
情報を聞いていると、階段の先の遠くのほうから何かが爆発する音が聞こえてきた。
「今のは?」
「誰かが罠にかかったか。そうじゃなきゃ《諸爆石犬》が自爆した音だな」
言葉の切れ目と同じくして、階段を下りきった。
広がる景色は、《中四迷宮》に似た、石造りの建物の中のような通路だった。
調度品はなく、柱の上の方に光球がくっ付いて、周囲を照らしている。
天井はティッカリ三人分ほどに高く、横幅も人が六人並んでもあまるほどに広かった。
「……罠が沢山ありますね」
「おっ。よく見ただけで分かったな」
加えて、テグスが看破しただけでも、通路のいたるところに罠の始動場所が設けられていた。
素早く周囲に視線を向けると、矢か槍が飛び出してきそうな壁や、落とし穴が開きそうな床に、一角全てが動きそうな天井まである。
「でも、これがあれば、大丈夫です?」
ハウリナが取り出したのは、罠の発動を止める《七事道具》だ。
《大迷宮》の殆どの罠は、これで無効化してきた。
「残念だが。それにはもう意味がないんだ。ここからの罠は、なぜか効かないんだ」
マッガズは試すように、所持していた《七事道具》を見せてから、罠の始動場所を剣の先で小突く。
今までなら、罠は発動しなかったはずなのに、壁から総黒鉄製の矢が飛んできて石畳の地面に突き刺さった。
「これだけの罠のある場所で、強い《魔物》が襲ってくるなんて。精神が磨り減りそうですね」
「三日前に、俺らが疲れていた理由がよく分かるだろ」
「これは大変な場所です」
マッガズたちを先頭に、慎重に通路を進んでいく。
四十一層からの通路は分岐が多くなっているようで、十字路から七股に分かれている道まであった。
幼い頃から《迷宮》に入ってきたテグスでも、うっかりすると道を見失いそうになる。
「な、なにか、目印を用意したほうが、いいんじゃないかなって」
「それもあるけれど~。《中四迷宮》で罠を見つけられるようになったはずなのに、分からない場所もあるの~」
「かと言って仲間のために全てを解除しながらだと非効率ですね、これだけ広いので」
「基本的には、道の真ん中だけを解除して進むみたいだね」
テグスたちはマッガズたちの仕草を見ながら、少しでも技術を学ぼうとする。
しばらく歩いていくと、ハウリナの耳が動き、テグスとアンジィーも気配に気がついた。
「か、隠れている、気配じゃ、ないですね」
「お蔭で分かり易いけど。何匹かまでは分からないね」
「四匹です。音の違いで分かるです」
「お前ら。随分と、察知が早いな」
感心した様子のマッガズの身振りで、全員が戦闘態勢を取る。
程なくして現れたのは、ハウリナの言ったように四匹の《魔物》だった。
身体の端々に金属の板を付けたような、毛深い二足歩行をしている大猿が一匹。
緑色の大壷のような胴体の上から、蛇のような触手を何本も伸ばしている生き物が二匹。
顔大な松ぼっくりが実る針葉の木と、拳大の胡桃のような実がある丸葉の木が、より合わさったような動く木が一匹だ。
「順番に《騙造機猿》、《千攻触手》、《射果双樹》だ」
マッガズが示しながらテグスに伝えると、《魔物》たちが一斉に襲ってきた。
先ずは木の魔物である《射果双樹》が枝を振るい、葉と実を飛ばしてくる。
マッガズの仲間――大盾持ちのルーカスが、前へ出るとその全てを防いでいく。
しかし、大盾からは二種類の葉が当たると硬質な音が、二種類の実が当たるたびに重い音が発せられる。
「猿と触手が回り込んでくるぞ!」
マッガズの言葉の通りに、《騙造機猿》は素早く、《千攻触手》はゆっくりと、広い通路の端を進んで近づいてくる。
「やっぱり、罠を踏んでも《魔物》には発動しないんだ」
テグスはマッガズたちの後ろに護られながら、観察は怠らない。
ハウリナたちも、彼らの邪魔にならないように気をつけながらも、警戒は緩めていない。
「ギギ――ガギィ――」
猿の鳴き声を無理やり金属器で真似たような声と共に、《騙造機猿》が横からルーカスに襲い掛かる。
「させるかよ!」
マッガズが素早い剣捌きで、《騙造機猿》の胴体を斬り払う。
皮を裂き、剣は体内へと入る。
しかし、発せられる音は、肉を斬るものではなく、金属に刃を当てた甲高いものだった。
「ガガ――ギギィ――」
弾き飛ばされて直ぐに立ち上がった、《騙造機猿》の割かれた腹から、金属の歯車や糸を零れ落ちる。
これでも致命傷ではないのだろう、元気にマッガズたちへと襲い掛かっていく。
その援護をするように《千攻触手》が、触手を伸ばしてマッガズたちを絡め取ろうとする。
「相変わらず、面倒な相手だよな!」
「ええ、まったくだわ!」
マッガズとミィファが主体となって、触手を切る傍らで《騙造機猿》を相手取る。
仲間たちはその補助に徹し、堅実で着実な戦法で《魔物》の側だけに怪我を負わせ続ける。
先ず《騙造機猿》が沈み、続けて《千攻触手》が一匹ずつ倒される。
「よっしゃ、あとは《射果双樹》だ!」
大盾で防ぎつつ、罠を踏まないように気をつけながら接近していく。
そして、近づき終わるや否や、マッガズたちは全員で一気に、叩き、斬り、折った。
「とまあ、この三種についてはこんな調子だな」
「いま戦ったのは手強い組み合わせだから、普通はもうちょっと楽ができるわ」
仲間に剥ぎ取りを任せつつ、マッガズとミィファは周囲を警戒しながら助言してきた。
「見た感じでも、《射果双樹》が遠距離、《騙造機猿》が近距離、《千攻触手》が中距離を担当してましたね」
「どれか一つでも欠けてくれれば、戦い易いぞ。それと、《諸爆石犬》が出てくれば、一気に楽になるな」
「名前と残った役割からすると、超近距離を埋める《魔物》だと思うけど~。簡単になるの~?」
「出会えば理由が分かるわ」
中身の部品を取った《騙造機猿》と、触手を切り分けた《千攻触手》に、二種の実と針葉を除いた《射果双樹》を魔石化する。
すると、握り拳大の魔石が、一匹につき一つずつ現れたことに、テグスは驚いてしまった。
なぜなら、大きさもそうだが、今までは倒した《魔物》を纏めて一つの魔石になっていたのに、一気に四つも魔石が集まってしまったからだ。
「素材を取らなきゃ、一匹につき二つぐらい魔石が取れるんだぜ」
「お蔭で、ちょっと行って帰るだけで、たんまり持つ羽目になるんだけどね」
証拠にと見せられた袋の中には、灰色の魔石がゴロゴロと入っていた。
それだけでなく、マッガズの荷物持ち担当の人の背負子には、同じような袋があと二つ乗せられていた。
「これだけでも、かなりの大金ですよね」
「地上に売りに行けば、これ一袋で両手一杯に金貨が貰えるだろうな」
「用事がないと地上に行かないし、持ち腐れちゃっているのよね」
「換えたら換えたで、無駄に《白銀証》の預金額が増えるだけだしな」
二人の言葉を聞いていて、テグスは《下町》で出くわした人の気前のよさに、納得がいった。
「あっという間に億万長者ですね、実力が伴った人がここで一年稼げば」
それほどに、四十一層から下はいい稼ぎ場所のようだ。
「冬や夜の森の層や、海の層の辺りの方が楽だし、簡単に稼げるから、あまり勧めないがな」
「ここから先に挑む人なんて、好奇心旺盛な人か、戦闘狂かぐらいだわ。金持ちになりたいなんて人は、ごく少数よ」
「マッガズさんたちは、どれなんですか?」
「マッガズのお馬鹿な顔を見れば分かるでしょ」
「がははっ。戦闘狂の方だな。仲間はそれに付き合ってくれる気の良い奴らだ。それで、坊主の方はどうなんだ?」
「僕は好奇心ですよ。どんな場所にどんな《魔物》が出てくるかを、目で確かめたいんですよ――」
「回収終わったよ。話は止めて先に行くよ」
マッガズの仲間が声を掛けてくれたので、話はそこで打ち切って、通路を進むのを再開するのだった。
ほどなくして、別の《魔物》たちと出くわした。
内訳は《騙造機猿》が二匹と、手に乗るぐらいの石が集まって犬の形になっている《魔物》が二匹だった。
「あの石の犬が、《諸爆石犬》だ」
接近戦が主体の《魔物》だけだからか、じわりじわりと近寄ってくる。
まだまだ距離が開いているからか、マッガズとその仲間たちは余裕そうだ。
「そうだ。そっちの嬢ちゃんは弓使いだったろ?」
顎で刺されたアンヘイラは、小首を傾げる。
「何かご用ですか、確かに弓を使ってますが」
「あの石の犬に矢を打ち込んで見てくれや。俺らが簡単って言った理由が分かるからよ」
「あまり効果がないと思いますが、鉱物系の相手には」
不思議に思いながらも、アンヘイラは矢を番えた弓を思いっきり引き、射掛けた。
四十一層の《魔物》ともなれば、高速の矢でも避けるのは造作がないのか、横っ跳びで回避されてしまう。
そこに、素早く番えられた次の矢が飛び込み、跳んで空中を漂う《諸爆石犬》の胴体へと飛んでいく。
矢が刺さる直前、テグスは自爆するとマッガズが言っていたことを思い出し、そっとハウリナの獣耳を上から手で塞いだ。
瞬間、通路を揺るがすほどの爆音が二回響き渡った。
「くぁ――耳が、痛い……」
「テグス!? 耳ありがとうです、だいじょーぶです?」
「大丈夫。ちょっと、耳鳴りがするけどね」
心配そうなハウリナを撫でてから、テグスは自分の仲間たちに目を向ける。
音を防げた人はいなかったようで、痛そうに耳に手を当てていた。
一方でマッガズたちはというと、総じて悪戯が成功した悪童の笑みを浮かべながら、耳に指を突っ込んでいる。
「知っているなら、教えて置いてくださいよ」
「実体験で知るのは良いことだぜ。それに見てみろよ」
指された先にいるはずの《魔物》は、ずたぼろになって死んでいる《騙造機猿》が二匹だけだった。
《諸爆石犬》の姿は二匹ともない。
爆発が二回聞こえたことから、 一匹の自爆に巻き込まれて、もう一匹も爆発してしまったようだ。
「爆発する石ってことは、《諸爆石犬》って発破石で出来た《魔物》なんですよね?」
「その通り。弱点は眉間の間にある、色が違う石だ。そこを攻撃で砕けば、爆発させずに発破石が大量に手に入るぜ」
「でも、近づいて攻撃するのは危険だし、他の《魔物》に怪我を負わせるために自爆させちゃうのが、一番良いと思うわよ。ちょっと耳は痛くなるけどね」
二回の爆発で《騙造機猿》が死んでいることから。
一度で周囲の《魔物》を半死ぐらいには持ち込めることを考えると、確かに効率的な良い方法に見える。
「さて、これで四種の《魔物》は教え終えたな」
「これで終わりですか?」
「あと一つ。金持ちになりたい連中が、ごく少数でも残っている理由を教えたら終わりだ」
先導されてついていくと、壁の一部に観音開きの大扉が設置されている場所の前にやってきた。
「ここの罠を解除して中に入れれば、良い物が手に入れられるんだ。新品の武器だったり、防具だったり、謎の薬だったりな」
「極たまに、神の祝福がある武器や防具も手に入るわ。それこそ、超がつくほどの一級品の効果付きのものがよ」
「それは凄いですね。中を見せてくれるんですか?」
テグスは軽く聞いたが、マッガズの仲間にいる罠解除を担当していた人が顔を背けてしまった。
「失敗すると一度で死ぬ恐れがあるからって、やりたがらないんだ」
「そうなんですか。じゃあ、僕が試してみますね」
テグスは自作の道具と《七事道具》を取り出すと、大扉の前に陣取ってあれこれと調べ始める。
マッガズは止めようと手を伸ばしたが、罠解除担当の人が肩を掴んで引きとどめた。
どうやら、やらせてみようということのようだ。
仕方がないと肩をすくめたマッガズたちは、罠が発動したときに巻き込まれないようにと、少し離れた位置で周囲の警戒をする。
一方でテグスは、この大扉の仕掛けに夢中になってしまっていた。
ある仕組みを動かすと、ある装置が動かすことが出来る。
その動かし方を誤ると罠が、正しいとまた別の場所が動くといった感じで、謎解きのようなのだ。
額に汗を浮かばせながら、自作の道具と《七事道具》を駆使して、一つ一つ解いていく。
「ふぅ……見た感じだと、これが最後っと――」
最後の手順は正統的に、大扉の鍵穴の解除だった。
仕組みは拍子抜けするほどに、最後に回されたにしては簡単で、あっさりとテグスは解いてしまう。
ガゴンと、何かがはまるか抜ける音がした後で、少しだけ大扉の片方が開いた。
「おお! 坊主、やったのか!?」
思わずといった風に、大扉に手をかけたマッガズを、テグスは押し留める。
「最後の仕組みが簡単すぎたので、まだ罠がある気がします」
「お、おう。それは、悪いことをしたな」
興奮していたのを自覚したのか、マッガズは照れ笑いを浮かべてから、元いた位置まで下がった。
テグスは少し開いた扉の隙間から、罠がないかを確かめて、もう少しだけ隙間を空ける。
それを何度か繰り返し、どうにか頭が入れるぐらいの隙間が出来たところで手を止めた。
「中を見ますから、まだ来ないで下さいね」
頭を隙間から中へと入れ、周囲を観察する。
すると、開けている方の扉の影に、危うく詰まれた石があった。
下には金属の板があり、糸が繋がっていて、先には一抱えほどの発破石が入った網があった。
テグスは詰まれた石が崩れないギリギリまで、扉を開けてから中に入り、糸を掴むとゆっくりと発破石を地面へ下ろす。
他に罠がないかを入念に確認し、開いている方の扉を全開にした。
「中にはもう罠はありませんので、入って良いですよ。ただし、閉まっている片側の扉を開けようとしないで下さい。罠の解除が最初からになるので」
「うへぇ。まったく、なんて厄介さだよおい」
怖々と中に入った全員とも、中身を見て拍子抜けしたような表情を浮かべた。
「あれだけ苦労して、大剣と大槍しか手に入らないのかよ」
扉との対面の壁には、拵えが立派な二つの武器が掛けられていた。
見るからに立派なものだが、ここまで厄介な罠を潜り抜けた報酬にしては、寂しい見た目だった。
しかし、テグスはマッガズの言葉に首を横に振る。
「いえ。あのどちらかしか手に入りません。両方取ると扉が閉まって、どちらかを返さないと、二度と開かないようですよ。返しても、罠の解除は最初からになるようです」
説明を聞いた全員が、二つの武器に目を向けたまま、物凄く嫌そうな表情を浮かべたのだった。
 




