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167話 《中町》で小休憩

 かなりの数の魔石が、何度かの行商人との売買で手に入った。

 テグスたちはもう一度、二十四層に行って、背負子に満載になるまで素材と可食部位を集める。

 そして、二十層まで戻って神像に《祝詞》を上げて、《中町》まで転移した。


「とりあえず、これから《白樺防具店》に行こうか」

「この魔石で足りるです?」

「まだまだ、十分な量とはお見受けできませんけれど?」

「魔石でも、量があるから邪魔になっちゃっているの~」

「生存報告をしないといけないでしょう、半巡月以上も沼地で狩り続けていたので」

「そんなに長く《迷宮》に居たから、《中町》の宿で二・三日休憩を取るためでもあるけどね」


 道行きの途中で露店で買い食いをしつつ、《白樺防具店》に向かう。

 

「お~や、いらっしゃ~い。かなり~の大荷物のようだ~ね」

「一応は、以前に聞いた使える素材だけ持ってきましたよ。後は、魔石ですね」


 テグスたちは売台の上に、集めてきた素材と魔石の入った袋を置いた。


「海~の層の素材じゃな~いんだ……《硬泥河馬》の~皮は有難~いけど、《巨鋏喇蛄》の殻は~在庫があ~まりぎみだ~から」

「分かってます。背負子の空きを埋めるのに持ってきただけですから、期待してません」

「そこは少しでも高く買ってとお願いするところでしょう、だからテグスは」

「あは~はは。ま~ぁ、ちょっと~色をつけてあげる~よ」


 エシミオナは素材の状態を確認してから、小さな木板にインクで文字を書いていく。

 そして、袋の中から魔石を取して、天秤で総量を量っていく。

 

「頑~張ったようだ~し、残り~はこのぐらい~かな」


 量り終えた魔石を回収した後で、天秤に金属の塊を乗せる。

 その大きさは、以前見たときの半分程度に減っていた。


「意外と小さくなりましたね」

「魔石~を多く集めてく~れたお蔭か~な」

「もう一回、同じぐらい集めれば、終わりです」

「出~来れば海の層~の素材を集~めて欲しいんだけ~ど」


 苦笑いするエシミオナは、軽くテグスたちの防具に視線を走らせる。

 大した傷がないのを見て、無茶をしていないと安心したのか、小さく口元が微笑んだ。


「まあ~、ど~の素材で返済するか~は、《探訪者》さ~まにお任せす~るよ」

「はい。では、また素材を集めてから来ますね」

「次で、我々二人の防具を作っていただけそうでございますね」

「え、あ、あの、お願いします!」

「はい~。代金さえも~らえれば、腕によりを~かけて作~らせていただき~ますと~も」


 ぺこぺこと頭を下げるアンジィーを微笑ましそうに見てから、エシミオナはテグスたちを見送った。

 店を後にして直ぐに、テグスたちは食堂に入り、空いている席に着く。


「あの、これで何か作ってくれませんか。あとパンもください」


 呼び止めた店員に、《放電鯰》と《巨鋏喇蛄》の身と《誘引蔓蓮》の根、適当に摘み出した銀貨や銅貨を渡した。


「追加で、肉がほしいです!」

「どうせ休みにするなら、ばんばんお酒を飲みたいの~」

「スープがあれば所望いたしたく思います」

「なら果実水を頼みましょうか、ティッカリ以外の分で。ほら頼んで良いんですよ、アンジィーも」

「え、あ、あの、その、新鮮な生野菜が欲しいです」

「は~い、少々お待ちくださいね~」


 大量に注文を受けて、店員は笑顔で厨房へ向かっていった。

 軽く待つと、先ず人数分の飲み物がやってきた。


「では、散々に飲み食いして、英気を養おう!」

「おー、です!」

「乾杯なの~。んぐんぐ、ぷっは~。次はもっと大きな杯で、お酒を持ってきて欲しいかな~」

「頂かせていただきます」

「乾杯」

「か、かんぱいー!」


 掲げた飲み物を飲むと、程なくして頼んでいた料理がやってきた。

 中身が詰まった重たいパンを筆頭に、揚げた《放電鯰》の甘酢掛け、《誘引蔓蓮》の根と《巨鋏喇蛄》の辛味炒め、焼いた薄切り肉の山盛り、芋と野菜を煮込んだスープ、和え酢がかかった生野菜の盛り合わせ。

 そして、テグスの腕ほどもある塔のような木杯に入った、泡立つエールが置かれた。


「どんどん、食べるです!」

「ばんばん、飲んでいくの~」

「い、いっぱい食べて、お、大きくなります」

「食べるのはいいことです、でも程ほどに」

「料理の参考にしようと思っておりましたが、《迷宮》内では出来そうもございませんね」

「考えるのは食べ終わった後でいいよ。食べないと冷めちゃうよ」


 和気藹々としながら、全員で料理を食べていく。

 アンジィーは生野菜を口一杯に入れ、もしょもしょと小動物のように噛んでいる。

 ウパルは味付けの参考にしようとしているのか、スープを静々と飲んで軽く頷いていた。

 アンヘイラは自分の調子を保つように、パン・スープ・他の料理を順に口にしている。

 ティッカリは甘酢掛けと辛味炒めを肴に、エールを始めとした安酒を銅貨を渡して頼み、来た順に飲み干していく。

 そして、ハウリナとテグスは持ち前の健啖さを発揮し、より多く食べようと手と口が忙しく動かす。


「料理の追加をお願いします!」

「もっと、肉食べたいです!」

「酒精が足りないかな~。銀貨で強いの頼むとするの~」

「う、う、ま、まだ飲んで食べられるんですね……」

「駄目ですよ、あの三人の真似は」

「何事も無理は禁物でございますよ。軽く食休みをしててくださいませね」


 こうして、散々に飲み食いして満足した一行は、宿で大部屋を一つ取る。

 そして、軽く濡らした手拭いで身体を拭いてすっきりしてから、ベッドの上で幸せそうに眠りについたのだった。




 翌日は、宿で肉体と精神を休ませる。


「うぅー、うぅー、お、お腹が、重いぃ……」

「テグスさまたちにつられて、たくさんお食べになられましたからね。はい、胃薬でございますよ」


 うんうんとお腹を押さえて苦しげにするアンジィーに、ウパルが冷ました薬湯を差し出す。

 杯に半分もない量なのに、飲むのも苦しそうに、少しずつ少しずつ減らしていく。


「きれいになったです、あぐあぐ」

「もぐもぐ。ハウリナは黒棍と脛当てぐらいだから、楽だよね」


 そんなアンジィーには悪いとは思いつつも、小腹が減ったテグスとハウリナは、干し肉を噛みながら武器と防具の手入れを行う。


「んふ~、んふふふ~。んくっ、んふ~」


 ティッカリも、酒精の度数が高い酒を舐めるように飲みながら、鼻歌交じりに淡紅色の殴穿盾を磨いていた。


「なんだか、強化する前より気に入ってる?」

「もちろん気に入っているの~。色が変わって、もっと可愛くなったの~」


 殴穿盾と可愛いが結びつかず、テグスは思わず眉をひそめてしまう。

 視線を他の面々に向けると、頷く人もいれば首を横に振る人もいる。

 ちなみに、頷いたのはウパルとアンジィーだった。


「道具に愛着を抱き身体の一部として扱うことが、向上の近道であると教えられて参りました」

「え、あの、それとはちょっと違う気が。い、色が変わると愛らしく見えたりする、ってことかなって」

「愛着を抱くのですか、武器は消耗品なのに?」

「よくわからないです。色ちがいでも、同じものは同じです」


 女性同士でも意見が割れたので、テグスは特定の女性独自の感性だろうと納得する。


「そんなことよりも~、また二十四層にいくのでいいの~?」


 話題の発信源のティッカリが変えたので、各々の意識も移る。


「うーん。安全に稼げるから、沼地でもいいんだけど……」

「ですが《虎鋏扇貝》の殻を求められてましたよね、鍛冶師のクテガンに」

「エシミオナもです」

「海の層に出現する《魔物》のほぼ全ては、良い素材になるとも仰られておりましたね」

「あの、その、三十層までいけたので、大丈夫かなって」


 他の面々はもう海の層に行く気になっているようだった。

 なので、テグスは方針について考えることにした。

 海の層にいくのはいいとして、一本道なので沼地の時と同じ素材集めの手段は、他の《探訪者》に迷惑がかかるため使えない。

 代わりに、他者に迷惑をかけずに《魔物》を集める方法を、見つけなければならない。


「結局、行って試してみるしかないんだよね」


 考えるのを諦めたような口調で、テグスも海の層に行くことに同意した。


「これで《大翼海猫》に再戦できます、前回は矢を避けられてばかりでしたので」

「《鈹銅縛鎖》の扱いの習熟には、もってこいの場所でございましたので安心いたしました」

「あ、あの、う、上手く精霊魔法を活用してみます」

「今度も《帝王槌蟹》の身で、鍋を作るの~」

「わふっ、また海のものが食べられるです!」


 各々の思惑は違ったようだが、意気込む姿は本物だ。

 テグスは内心で頼もしさを感じながら、自分も何か目的をもって挑もうと思ったのだった。


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