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163話 地道に進む

 地上に戻ってから、一日を休息に使った。

 次の日に、活動範囲になる二十一から三十層に、必要だと思った道具を《外殻部》で買い集めることになった。


「食事のときに鍋が必要だと思うの~。薄くて軽いのないかな~」

「こちらの鍋が軽さと大きさでよろしいかと思いますよ。同じ材質の薬缶も良さそうでございますね」

「煮炊き用の固形燃料でも買いましょうか、海の層で使いテグスの負担を軽くするために」

「あ、あの、香辛料を、少しでも持って行きませんか?」


 全員で店舗や露店を見て回りつつ、持ち運びに不便がないかを確認していく。


「魚を獲るとき、黒棍の先につける、銛の先っぽを買ったです」

「《虎鋏扇貝》の貝殻は壊して入れる予定だから、いつも通りに麻袋でいいね。《飛掛羽魚》用に、鉄線の網をも買っておこうかな」

「《強襲青鯱》と戦いに、使えそうなものがないかな~?」

「短矢に細縄をつけたものがありますね、機械弓で使うもので」

「既に《鈹銅縛鎖》がございますし、必要はないかと思われますが」


 手に取ったりして、厳選に厳選を重ねて購入していった。

 買い物で忙しいので、今日ばかりは昼食を屋台で簡単に済ませる。


「良い物が買えたの~」

「掘り出し物はあるものですね、諦めず探して回りさえすれば」

「粉屋で少量で済む香辛料とかいうのも買えたしね。そうそう、アンジィー、あの粉を吹き出す魔道具を貸して」

「あ、は、はい、どうぞ」


 戻った宿にて、買い集めた物を背負子へ収める作業を各自が行う。

 そんな中、テグスは粉を噴射する魔道具の筒を外し、中身を小麦粉から真っ赤な粉に入れ替えた。


「それで、《強襲青鯱》を着色するの~?」

「違うよ。あの戦いを思い出して、ひょっとしたらって思ってね」


 意味深なテグスの言葉に、尋ねたティッカリだけでなく、他の面々も不思議そうに首を傾げたのだった。




 準備をあらかた整えたテグスたちは、《大迷宮》の中に入った。

 ティッカリは膂力が強すぎて、普通の武器は扱えないのは、いまでも変わっていない。

 なので、《白樺防具店》に着くまで、ティッカリは武器なしで進まなければならなかった。

 守りと破壊力の要であるティッカリを欠いた状態だが、散々戦いなれているので《大迷宮》の十層まで順調に行く。

 そして、十層の《階層主》であるコキト兵の戦いに入った。


「さて、さっさと済ませよう」

「直ぐにすむです!」

「頑張ってなの~」


 テグスとハウリナが、六匹のコキト兵へ襲い掛かった。

 コキト兵の多くが、大剣や槍などの長尺の武器だからか、二人は極端なまでに接近戦を仕掛けていく。


「頭を狙いますよ、焦らずに。毒を鏃に塗って身体狙いもいいでしょう、肉を食べるわけでもないので」

「は、はい。あ、あの、じゃあ、毒を使います」


 コキト兵はテグスとハウリナよりも、頭一つ分以上背が高い。

 なので、アンヘイラは狙いやすい頭に向けて、矢を放つ。

 一方で、アンジィーは機械弓の腕に自身がないため、戦いの輪から外れた個体を毒矢で狙う。

 四人の攻撃に、一匹また一匹とコキト兵が倒されていく。

 そして最後の一匹となったとき、やぶれかぶれに大剣を荷物番をしていたティッカリへ投げつけてきた。


「戦いに参加することが出来ませんでしたが、最後に見せ場がやってまいりましたね」


 ウパルの右袖から出た《鈹銅縛鎖》が横に振るわれ、縦回転して飛ぶ剣を弾き飛ばす。

 そして、反対の袖から伸びた方が、最後のコキト兵へ伸びてその足首に巻きついた。

 《鈹銅縛鎖》が引っ張り、コキト兵の体勢を崩そうとする。

 

「――グオオオオオオオ!」


 コキト兵も最後の意地とばかりに、特有の身体強化で皮膚を黒くしながら、踏ん張って堪えた。


「最後の最後で、見せ場がきたの~」


 先ほどのウパルの言葉をもじりながら、ティッカリはコキト兵に巻きついた《鈹銅縛鎖》を両手で握る。


「とや~~~」


 そして、全身を使って思いっきり引いた。


「グガアアアアアアアアアア――」


 コキト兵の股関節が外れる音と悲鳴が響き、その身体は空中を飛ぶ。


「とお~~~~やあ~~~~」


 飛んでくるのを待ち構え、ティッカリは足の裏でコキト兵を胸を蹴りつけた。

 すると、、飛んできた以上の速度で逆方向に吹っ飛んでいった。

 そして、《鈹銅縛鎖》の出していた分の距離に到達し、張力で空中を引き戻されながら地面に落ちた。


「……これは、凄い威力のようだね」


 蹴り飛ばされたコキト兵をテグスが確認すると、蹴られた胸骨が陥没している上に、外れた股関節を中心に筋肉が伸びきって千切れそうになっていた。

 なにはともあれ、武器は拾い集め、死体は魔石に変えて回収する。

 出口の先にある《中町》に入ると、先ずはクテガンに会いにいった。


「おう、テグスたちか。いつも助かるぜ」


 回収したコキト兵の武器を所定の場所に置くと、ついでだからと小剣と長鉈剣の状態を見てくれることになった。


「長鉈剣はそうでもないが、小剣は痛みが進んでいるな」

「小剣の方をよく使うからかな?」

「それだけじゃないな……お前ら、今は何層に行っているんだ」

「三十層まで行ったよ。これからしばらくは、二十四層から三十層を活動拠点にしようって思ってるけど?」

「水の層まで行ってたのか。なら痛み具合にも納得だ」


 一人で勝手に何かに納得したクテガンは、軽い研ぎ直しをしてからテグスに返した。


「《虎鋏扇貝》の貝殻があったら持ってこい。小剣を打ち直してやる」

「エシミオナさんに言われてもいるから、回収する予定だから丁度言いや。それで、何に使用するか聞いてもいい?」

「武器にも防具の強さを出す、ちょっとした触媒になるんだよ」


 『物の強さを出す』という独特な言い回しを、テグスたちは不思議がった。

 しかし、これ以上は教えはくれずに追い出されてしまい、仕方なしに《白樺防具店》に向かう。


「いらっしゃ~い。強化は終わっているよ~」

「その前に、少しでも魔石を支払っておきますね」


 強化した殴穿盾を受け取る前に、エシミオナにここまでの道程で手に入れた魔石を手渡す。

 その間の世間話に、先ほどのことを話してみた。


「そ~れは、職人が~使う言い~回しだよ。強度を上~げること、特性を引~き出すこと、見~合った特色~を加え~ること。こ~れらを総じた表~現が『強さを出す』だ~ね」

「なら《虎鋏扇貝》の貝殻を触媒に使うと、どうなるんですか?」

「防具な~ら硬~さが若干上がる~ね。武器~も同じなん~じゃないか~な」


 鍋代わりにしたあの貝殻は、用途が広い便利な触媒のようだった。


「貝殻~のことよりも、強化し~た殴穿盾だよ~」


 一度、店の奥に引っ込んでから、エシミオナは台車の上に乗せた殴穿盾と共に戻ってきた。


「へぇ~、色が薄赤色に変わっているね」

「桃色でしょうか、一番近いのは」

「あの、その、少し大きくなったような……」


 強化された殴穿盾は、三人の言葉通りに、一回り大きくなり杭以外の部分が淡紅色に変わっていた。


「煮たカニの身と、同じ色です」

「《静湖畔の乙女会》の価値観といたしましては、良い色でございますよ」


 ハウリナの率直な言葉に、ウパルが誤魔化すように続けると、作者のエシミオナは苦笑いを浮かべた。


「色は気にしないかな~。問題はちゃんと使えるかなの~」


 ティッカリはむしろ色合いが気に入ったかのか、嬉々として腕に装着して具合を確かめ始めた。

 腕を上げ下げして、軽く殴穿盾同士を打ち合わせてもみる。


「重さはあんまり変わってないかな~。でも~、打ち合わせた感触で、硬さが増したって分かるの~」

「《帝王槌蟹》の大~爪で強化し~たから、大抵のも~のには撃ち負~けないよ」


 強化された殴穿盾を気に入ったのか、ティッカリは嬉しげに見つめている。


「さて~と、そっち~の二人の新しい~防具は、魔石の支~払いが済んでから~作るよ。だから、安全~に稼ぐの~を心がけてよ」

「そんなに危なっかしく見えますか?」

「見た感~じは子供ばっかり~なんだから、危~なっかしいと思~わない?」


 改めて指摘されて確認すると、六人中四人が十四歳である上に、一番年上も二十歳を過ぎていない。

 なので、見た目だけなら、頼りなく見えるのも当然だった。


「……そうですね、これからは慎重にいきます」

「そうし~てくれると、こ~ちらも防具作~りとお金儲けが~出来るから嬉しい~ね」


 エシミオナに見送られて、テグスたちは《白樺防具店》を後にした。

 そして、ウパルとアンジィーの防具購入に必要な魔石集めと、実力をもっとつけるために、テグスたちは十一層へ続く階段を下りていったのだった。


本日、書籍版 テグスの迷宮探訪録が発売です。

SS特典つきの発売は、とらのあな様とメロンブックス様で行っております。


それとpixiv様にて、書き下ろしを投稿したのを伝えるの、忘れてました。

http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=5474996

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