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153話 《大迷宮》二十一層へ

 アンジィーを仲間にしてから、初めての《大迷宮》の道行きを、テグスたちにとってはやや遅い歩みで進んでいく。

 《中町》に行くまでに、何匹も一斉に襲ってくる《大迷宮》に慣れ、もう少し連携を煮詰めようとしているのだ。


「アンジィーって、いつもおどおどしている様子だけど、戦闘の時は意外と度胸あるし冷静だよね」


 倒した《角突き兎》たちの一匹から短矢を抜きつつの言葉に、アンジィーは驚いた顔をする。


「え、あの、その、そうなんですか?」

「自覚してなかったんだ」

「無闇に撃たない上に確り当てますしね、素早く移動する《角突き兎》相手なのに」

「え、でも、撃つまで時間がかかるから、しっかり狙えって……」

「ちゃんと狙えていて偉いって、みんな褒めてるの~」


 困惑した様子のアンジィーの頭を、ティッカリが優しげに手櫛で梳くように撫でる。

 途端に、ほっと息を吐き出して安心したようだ。

 血抜きをした《角突き兎》を背負子に入れて、先へと進んでいった。

 そして、十層の《階層主》であるコキト兵との戦闘に突入する。

 アンジィーはおどおどした態度は相変わらずだが、手つきは冷静に機械弓を操作して可能な限り早く連射していく。

 実力差があるためか、傷を負わすことまでは出来ていないが、十分に役に立っている。


「あおおおおおおおおおおん!」

「チッ、一匹そっちに行ったよ!」

「こちらも手一杯でございます」

「お任せなの~」


 機動力重視なテグスとハウリナが前衛で、《鈹銅縛鎖》で動きを封じるウパルが補助だ。

 制圧力が低いため、どうしても三人の包囲から抜け出るコキト兵が現れてしまう。

 斧槍を手に近づく相手へ、直ぐに壁役になっているティッカリが対応する。

 正対して動きを止めたコキト兵に、短矢と螺旋鏃の矢が飛んでいく。


「グガオオオオオオオオ!」


 コキト兵は顔に来た矢を腕で受け、身体に来た短矢は刺さるに任せた。

 そして雄たけびを上げて、身体強化の証である体表を黒く染めていく。

 ティッカリが腰を落として、迎撃の態勢に入る。

 そこに――


「闇の精霊さん、あの《魔物》を大人しくさせて、お願い!」


 コキト兵の変化に危険を感じたのか、アンジィーは手を上げて闇の精霊に呼びかけを行った。

 すると、周囲の暗がりから、煤のようなものが立ち上る。

 それはアンジィーが掲げた手を包んでから、一直線に黒いコキト兵へと殺到していく。


「グガグガガ!?」


 まるで蚊柱に飲まれたように、コキト兵の姿が煤のようなものに薄く覆われる。

 斧槍を振り回して払おうとするが、まったく消える様子は無く、時間と共に段々と振るう強さが弱まっていく。

 やがて煤のようなものが消え去ると、戦闘意欲を失った目になり、肌の色が元に戻っていた。


「とや~~~~~」

「グガッ――」


 ティッカリは近づいて殴穿盾を振り抜き、そのコキト兵の顔を粉砕した。

 そうこうしている内に、テグスとハウリナが大半のコキト兵を倒し終え。ウパルが捕らえていた方も、アンヘイラが矢で仕留めてしまっていた。


「お疲れさま。精霊魔法使ったようだけど、魔力はまだ大丈夫?」

「え、あ、はい。そんなに量は使わないので」


 魔力欠乏の症状を知るテグスの心配げな問いに、アンジィーはほっと吐いた息を吸い戻すようにしながら答える。

 相変わらずな様子に苦笑いしながら、テグスはアンジィーの肩を軽く叩き、コキト兵の剥ぎ取りに参加していった。

 言葉のない激励だったが、アンジィーは叩かれた肩に指先を触れさせて、はにかんだような笑みを浮かべるのだった。




 荷物になるコキト兵の装備はクテガンの店に置いてから、《中町》の食堂で食事含みの休憩を取る。

 十分に身体を休めてから、十一層への階段を下りていく。

 ここからは、アンジィーだけでなくウパルも初体験だ。

 十一から十三層までは、九層までに出てきた《魔物》の混成なので、危なげなく対応して抜けていった。


「十四層からは、また少し手強くなるからね。ウパルはあまり前に出過ぎないで、素早い《跳躍山猫》を重点的に狙っていって。アンジィーはアンヘイラが狙う相手を短矢で撃って」

「はい。畏まりました」

「は、はい。確り、狙います」


 慣れてない二人にテグスが指示を出しながら、先へと進んでいく。

 最初から数度の戦闘では、二人は多少面食らったように動きが悪かった。

 しかし、さらに戦闘経験を積んでいくと、慣れてきたのか段々と的確に《魔物》を相手取れてくる。

 より手強い《魔物》が出てくる十七層に行く前に、十六層でもう少し二人に経験を積ませていった。

 テグスたちも、連携の見直しを十六層で再度行った。

 この下準備を行ったのが良い作用を生んだ。

 さらに一段強くなった《魔物》が相手だというのに、十七層から先でも順調に戦えている。

 それこそ、獲るものを厳選したのに、全員の背負子に素材が溢れかけるほどだった。


「二十層の《階層主》――《集猟蜥蜴》と戦う前に、一休み入れようか」

「いのししの肉、食べるです~♪」

「背負子の中身を整理しておくの~」


 テグスとハウリナが食事の用意を始め、ティッカリが背負子の整理がてらに酒の入った金属水筒を取り出す。


「二人とも荷物を下ろしたらどうでしょう、休憩ですよ」

「はい。そうさせて頂きますね」

「は、はい。し、失礼します……」


 ここまでの戦闘で疲れが溜まったのか、ウパルとアンジィーの反応がやや鈍い。

 特にアンジィーの方は、背負子を下ろした瞬間に、地面にへたり込んでいる。


「そんなに疲れたんなら、《集猟蜥蜴》を倒してから、先にある《蛮行勇力の神ガガールス》の神像で《中町》か地上に戻る?」

「い、いえ。その、あの、気にしないで下さい」


 慌てて居住まいを正しているが、逆にそれで溜まった疲労が良く見える結果になった。


「疲れたのなら、休むのも大事なの~」

「で、でも、あの、二十一層の先に行きたいって……」


 どうやらアンジィーは、人の意見を良く聞き過ぎる性格らしい。

 気にしなくても良いのにと思いながら、テグスはティッカリに目配せした。

 軽く頷いて、アンジィーの背後にティッカリが忍び寄る。


「はい、こて~んなの~」

「あ、あわわ!?」


 軽く引っ張って倒し、ティッカリが伸ばした脚の上にアンジィーの頭が乗った。


「食事の用意が出来るまで、このまま休憩しているの~」

「え、あの、でも、迷惑じゃ」

「気にしないでいいの~」

「ご飯、ちゃんと作ってあげるです」

「ウパルも、疲れているなら横になっていいからね」

「いえ。そこまで疲れてはおりません。ですが、折角のお言葉ですので、座らせていただきます」

 

 食事をゆっくり作り、確りと食べてから、食休みという名目でさらに時間を取る。

 途中、やってきた他の《探訪者》に何度か先を譲って、ゆっくりと身体を休ませた。

 そんな少し長めの休憩を行って、ウパルとアンジィーの疲労がある程度抜けたのを見てから、《集猟蜥蜴》と戦いに入った。

 十分に休憩していたお蔭もあるのか、三匹出現した《集猟蜥蜴》は、次々にテグスたちに倒されていった。

 ウパルの足止めとアンジィーの脳天狙撃が決まって、早々に一匹倒せたことが要因の一つだった。

 そうして、全員一緒に踏み入れた二十一層。

 大河の中洲にいくつもの橋がかかる、変わった通路が目の前に広がる。


「さて、みんな《七事道具》はちゃんと持っているね」

「持ってるです!」


 ハウリナは掲げて見せ、他の面々は頷いて返した。


「それじゃあ、安心して橋の上を歩いていこうか」


 《七事道具》があるため、橋に施された落し穴は開かない。

 テグスたちは悠々とした足取りで、最初の中洲まで進んでいったのだった。


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