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152話 アンジィーの装備品

 春の《外殻部》の通りに出来た市は、雪解けから日が少し経ってもまだまだ盛況だった。

 むしろ、本格的に流通が復帰して、より賑わいを増しているように見える。


「参考資料を移した紙を見ながら、この市場を巡って良いものを探そう」

「は、はい。お、お願いします」


 ここでアンジィーの買い換える装備を見繕おうというわけだ。


「まず、なに探すです?」

「最初は、指二本分ぐらいの太さの、蓋付きの筒型の容器。それを収める革帯だね」

「容器ってことは、何かを入れるの~?」

「文献によりますと、木炭、水石、焼いた土、鳥の羽を少数束ねた小さな扇とのことでございました」

「それが媒体となるわけですね、精霊魔法の」

「闇の精霊も使うと考えると、蓋をきっちり閉めた筒も必要になるだろうから、合計五本かな」

「どうせなら毒液を入れた容器も持たせましょう、せっかく機械弓と短矢を使うのですから」

「そうそう、あの粉を吹きかける魔道具に使える筒がありそうなら、買っておこうかな」

「あの、その、お、お任せします……」


 引っ込み思案だから遠慮しているのか、それとも会話の早さについていけてないのか、アンジィーはおどおどとテグスたちに全て任せてしまう。

 許しが得られたので、テグスたちは露店や商店を巡っていった。


「植物の筒は安いけど、耐久性はどうなのかな?」

「竹の容器は媒体用としてなら十分に使用可能かと、割れる心配はありますけれど」

「革の筒もあるです」

「液体を入れるなら、金属製の筒がお勧めかな~」

「毒性によっては、腐食する懸念がございますよ」

「となると竹の上に革を被せたものにしようか。じゃあ次は革帯だね。ちょっとこれつけてみて」

「え、は、はい」

「……右腰にもう少し空きがあると良いですね、短矢を入れる矢筒を装備するために」

「よさそうなの見当たらないし~、革帯だけ二つ三つ買っておいて、防具屋で目的に合った調整をしてもらうといいの~」

「ならついでに、機械弓も武器やに持ち込んで、使い易いように改造してもらおうか。部品はここで調達できるのかな」

「媒体になるものや短矢を購入しておきましょう、買い叩いきますので」

「背負子も新しくするといいです!」

「後方支援だから革鎧のままでもいいかな~?」


 展開速く物事が決まっていき、買い物もぽんぽんと進んでいく。

 ついていけず呆然としていたアンジィーが、自分を取り戻した時には、荷物が載せられた真新しい背負子が背中にあった。


「あ、あの、えっ?」

「ほら、移動するよ」

「良さそうだったお店があった、《中心街》に行くの~」

「お使いした経験が、役に立ったです」

「おや。《大迷宮》の中にございます《中町》に訪れるのではないのですね」

「《中四迷宮》に向かわねばなりませんし、アンジィーの《七事道具》を取りに」

「あ、はい、でも、あれ?」


 混乱が抜け切らないアンジィーを連れて、《中心街》のとある武器屋に機械弓と買い集めた部品を預け、使い易いように改造を依頼する。

 半日あれば出来上がるというので、その間に防具屋に移動。

 蓋付きの筒と革帯を渡し、大まかな概要を話して加工してもらう。

 昼食とを経て、出来上がったものを装備させてみて確認する。


「うん、いいんじゃないかな」

「似合っているです」

「そ、そうですか?」


 アンジィーの腰回りに着けた革帯。

 前側に口が大きな金属製の筒が二つ、左側に革で覆った細身の竹筒が五つ、右側に短矢が入った矢筒、後ろ腰にはテグスが改造した魔道具を収めた革鞘がつけられている。

 金属筒には毒薬を入れる予定だが、すでに竹筒にはそれぞれに精霊魔法の媒体が入っている。

 アンジィーが手に持つ機械弓には巻き上げ機構が施された。

 本体横の取っ手を繰り返して引くことで、内蔵した歯車が駆動して弦を張るのだ。

 装填する時間がかかる分、弓の張力を上げて発射力を増す改造もされている。

 試しに、アンジィーに取っ手を動かして一度弦を張ってもらうと、およそ十秒かかった。


「ここから短矢を入れて、狙いをつけるから――」

「大よそ二十秒でしょうね、撃ってから次まで」

「あ、あの、ちゃんと、練習して、もう少し早くしますから」

「気にしないで良いの~。使い続ければ、おいおい慣れていくの~」

 

 申し訳なさそうにするアンジィーに、慰めの言葉をかけたティッカリだけでなく、テグスたちも気にするなと身振りをする。


「武器が終わったから、次は防具を買い換えないと。折角だから《中町》に作りに行こうか」


 この提案に、アンジィーは慌てて首を横に振った。


「いえ、あの、まだ何も役に立ってないので、武器をもらえただけで、もう十分です。それに、その、この革鎧がすでにありますから」


 遠慮する言葉を受けて、テグスはアンヘイラに顔を向ける。


「後方支援の役割なら、確かにあの革鎧で大丈夫かな?」

「十分ですよ。それに我々と合わせた方が良いでしょうね、防具の買い替えは」


 そういうことならと、アンジィーの防具の買い替えはなしにした。


「そうしたら、次の予定は《中四迷宮》に《七事道具》を取りにいくかな~?」

「造罠コキトの背嚢もだね。アンジィーには荷物持ちの役割もして貰わないといけないんだし」


 重量軽減の効果がある背嚢があれば、少女であるアンジィーにも、多くの物を持たせることが出来るようになる。


「は、はい。が、がんばります」

「気を楽にしたほうが良いですよ、気ままに《迷宮》を進んでいるだけなので」

「気まま、って酷いな。《迷宮》の全てを見るって目的が、一応はあるんだけど」

「その割には、寄り道とか《依頼》とか、よくやっているの~」

「美味しいもの、よく食べたです!」

「目的の道程に潤いは必要だと思われますよ」


 思い思いな事を言いながら、テグスたちは《中四迷宮》へと向かっていったのだった。



 改造した機械弓にアンジィーが慣れるのに、弱い《魔物》ばかりの《中四迷宮》はうってつけだった。

 通路の先に《魔物》を見かけたら機械弓の弦を引き始め、到達する前に矢を放つことが出来るからだ。

 仮に狙撃に失敗しても簡単に倒せる相手なので、アンジィーの心理的負担の軽減にも繋がっている。


「あのちょっと出ている石に短矢を当てて」

「は、はい」


 そして通路に点在する、触ったり踏んだりすると発動する罠も、狙いをつけ慣れる良い訓練材料になった。

 中には短矢を使用している罠もあるため、アンジィーの矢筒の中身も増えて、一挙両得である。

 ゆっくりと日にちをかけて進むので、《大迷宮》二十一層から使う積りだった天幕の使い心地も確かめてみた。


「もうちょっと詰められる?」

「はい。もう少し横に移動いたしますね」

「十分あいたです。アンジィー、入ってみるです」

「は、はい。お邪魔します……」


 大人三人用という触れ込みだったので、テグス・ハウリナ・ウパル・アンジィーの四人でなら、十分に寝れる広さがあった。

 しかし、体の一部が触れ合うほど距離が近いので、仲間に入ったばかりのアンジィーは居心地が悪そうだ。


「無理して四人寝る必要もないかな~」

「三人になるように順番でよいのではないでしょうか、《大迷宮》二十一層からは周囲の警戒も必要ですし」


 その後も、戦い方の確認をしてみたり、罠から回収した効能不明の毒液をアンジィーの金属筒に入れたり、造罠コキトの背嚢を複数奪ったりして最下層へ。

 《中三迷宮》の《迷宮主》である《暗器悪鬼》との戦いも、三度目ともなれば慣れたもの。


「ティッカリが先頭で進むよ。アンヘイラとアンジィーは牽制射をお願いね」

「お任せなの~」

「落ち着いて狙ってください、投擲武器を放てなくするのが目的なので」

「は、はい。ちゃ、ちゃんとやってみます」


 党のような足場の上にいる《暗器悪鬼》へ全員で近づきながら、アンヘイラとアンジィーが矢を放つ。

 矢を空中を跳んで回避し、投擲武器を投げてこようとしたところに、ウパルの《鈹銅縛鎖》が絡みついた。


「地面に叩きつけて差し上げます」


 《鈹銅縛鎖》が思いっきり引かれ、体勢を崩した《暗器悪鬼》は宣言通りに地面に落ちた。

 急いで立ち上がり手にしていた投擲武器を投げようとするが、ハウリナが駆け寄る方が早い。


「あおおおおおおおおおん!」


 出されていた投擲武器を、黒棍で弾き飛ばす。


「てやあああああああああ!」


 続いて接近したテグスが、左右の小剣で《暗器悪鬼》の両腕を斬り飛ばす。


「とや~~~~~~~~~~」


 最後に、走る勢いのままティッカリが振り下ろした殴穿盾で、顔面を粉砕して戦闘は終了した。


「剥ぎ取るの面倒だから、全部一緒に魔石化しちゃうよ?」

「おまかせです」

「収入は十分でしょう、コキトの背嚢を換金すれば」


 《暗器悪鬼》を赤い魔石へ変えて、出現した出口の先へ進む。

 《靡導悪戯の女神シュルィーミア》の像から回収した、《七事道具》をアンジィーへ手渡して、《中四迷宮》でやるべきことは終わった。


「地上に戻って宿で一泊したら、明日は《大迷宮》に戻って、二十一層の先へ進むよ」

「楽しみです!」

「え、あの、ほ、本当にそんな先に……」

「心配ないの~、きっと大丈夫なの~」

「今日とやることは変わりません、後方支援ですから」

「皆さまで手を取り合えば、どんな困難でも打ち勝てるものでございますよ」


 困惑した表情のアンジィーを安心させるように声をかけながら、テグスたちは神像に《祝詞》を上げて転移するのだった。


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