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132話 鎖と丸薬

 テグスたちは倒した《下位地竜》から、使えそうな素材を取ってみた。


「わふっ、お肉一抱えです!」

「長い牙を取ってみたの~」

「鱗は駄目ですね、硬さが余りありませんので」

「この鎖は良いものだったから、足環を外すまでちょっと待ってて」


 テグスは言葉をかけると手にしていた《鑑定水晶》をポケットに入れつつ、足環を外す作業に入った。

 環の仕組みは大して難しいものではなく、念のために取り出していた《七事道具》を使えば、あっさりと開錠出来た。


「よいしょっと、鎖が長いな。誰か手伝って」

「よしきたです!」

「持ち運ぶのは任せるの~」

「私も手伝いましょう、流れ的に」

 

 四人がかりで、家数件を一周出来る長さの鎖を回収していく。

 ちなみに、テグス《鑑定水晶》にあらわれた表記は以下の通り。


『銘:慈悲女神罰の《鈹銅縛鎖》

 効:慈悲女神が所有する反省を促す鎖。無謀神でも引きちぎることが出来ない頑丈さがある』


 回収作業中に、表記の内容をテグスがハウリナたちに伝えてみると。


「ここの神、男です。なんで鎖が女神です?」

「きっと、女神様に鎖を借りたんじゃないかな~?」

「奪った、《蛮行勇力の神ガガールス》ですので」


 三者三様の答えを受けてからの、テグスはこう予想した。


「《蛮行勇力の神ガガールス》に反省させようと、《清穣治癒の女神キュムベティア》が巻いたんじゃないかな。その後で、借りたままになっていたとかかな」


 この予想の通りだとしたら、借りた物を《魔物》に使っているあたり、《蛮行勇力の神ガガールス》が反省したとは思えない。

 何はともあれ、かなりの重量になる長い《鈹銅縛鎖》を、ティッカリの背負子に載せる。

 取るものを取った《下位地竜》を魔石化すると、指二本ほどの三角錐形の赤い魔石ながら明らかに欠けた部分があった。

 どうやら、《中迷宮》の《迷宮主》を魔石化する場合、素材を取ると魔石が欠けて出てくるようだ。

 

「さて、じゃあ《中三迷宮》のご褒美は何か見に行こうか」


 現れた通路を奥へ進み、見えてきた小部屋状の場所に、《蛮行勇力の神ガガールス》の神像があった。

 拳を握った両腕を真っ直ぐ前に伸ばしながら、笑顔で全身の筋肉を緊張させて盛り上げさせた姿をしている。

 握った拳の下には、紐付きの小さな巾着状の皮袋が六つ下げられていた。


「これがご褒美なのかな」


 テグスが代表して、暑苦しい姿の神像が持つ袋に手を当てた。

 すると、神像の拳は握ったままだったはずなのに、するりと袋の持ち手の紐が手から外れた。

 驚いたテグスの手には、袋六つ分の重量が乗ってきた。


「え、ええっ? どうやって袋の紐が外れたんだ?」


 神像の握られた手を横から見てみると、紐が通っていたと思われる穴がなかった。

 不思議な現象に首を傾げつつ、テグスはご褒美がどんな物なのかを確かめるために、ポケットに入れておいた《鑑定水晶》で調べてみた。


「……単なる袋ってどういうこと?」


 袋に押し当てて使用した《鑑定水晶》には、皮袋としか表記されていなかった。

 不思議に思いながら、テグスが皮袋の紐を緩めて中身を確かめる。

 ハウリナたちも、テグスの様子が少し変だと気がついたのか、近寄ってきて袋の中身を覗き込む。


「これは、非常食? いや、薬かな?」


 袋の中に入っていたのは、何かの粉を練って丸めて作ったような、人差し指と親指で丸を作った大きさの茶色い団子だった。


「薬草の匂いがするです。きっと薬です」

「中身がご褒美でしょうね、外側の袋は入れ物で」

「きっとそうなの~。こっちを鑑定してみるの~」


 三人に言われて、テグスは《鑑定水晶》を団子の方に使ってみた。

 出てきた鑑定結果を見れば、確かに団子の方がご褒美だと分かる。


『銘:無謀神の《蛮勇因丸》

 効:無謀紙の激励が込められた丸薬。飲むと短時間、身体の筋力が上がり恐怖の耐性を得る。

   毎食後服用することで筋肉が付き易い身体になる 』


 この表記をテグスが伝えた後で、四人が思い出すのは《隆筋礼賛の集い》の人々。


「あの人たちって、この薬を使っているんじゃないかな?」

「あんな、むきむき、嫌です!」

「たぶん、毎食後に飲まなければ大丈夫だと思うの~」

「使用する場面が出てくるのでしょうか、《大迷宮》を先に行けば」


 全員が一様に、自分が筋肉がムキムキな姿を思い浮かべて、げんなりとした表情を浮かべたのだった。




 《中二迷宮》から帰ったテグスたちは、《探訪者ギルド》支部にやってきた。

 欠けた三角錐の赤い魔石を職員に手渡し、テグスとハウリナの残っている《青銅証》に印を刻んでもらった。

「残っているからと、わざわざ印を刻みに来る人なんて初めてみましたね」

「《鉄証》と《青銅証》と《白銀証》が、三つ一括りになっている人も少ないので、居なくても不思議はないんではないでしょうか?」

「まぁ、確かにその通りですね」


 用事は終わったので帰ろうとすると、会話をしていた職員に呼び止められた。


「《中二迷宮》を攻略したということは、例の薬を手に入れてますよね?」

「手に入れてます。アレを売って欲しいと《依頼》があるんでしょうか」

「ええ、一袋でこの金額で売ってくださいませんか」


 一袋、金貨三枚を提示された。

 手に入れたのが六袋だったので、あまりの二袋を売っていいか確認する。


「いいと思うです」

「必要になったら、次にまた取りに来ればいいの~」

「次も神像から貰えるのでしょうか、行けはするでしょうが」

「職員さん、次にいっても貰えるか知ってます?」

「ええ、大丈夫です。使用で消費する神からの褒美の場合、行ければ一定数手に入れることが出来ます。二度と手に入らないのなら、もっと金額が上がりますよ」


 テグスたちはなるほどと納得すると、職員に《蛮勇因丸》を二袋を売り、金貨六枚を手に入れた。


「再び、お聞きしたいことがあるんですが」

「もしかして、今度は鎖のことですか?」


 思いついたのは《鈹銅縛鎖》のことだったが、職員が頷いたことから当たったようだ。


「ええ。そちらの背の高いお嬢さんがお持ちの鎖を、とある方たちにお譲りして欲しいのです」

「タダでですか?」

「いいえ。運搬自体は《探訪者ギルド》の《依頼》としてお願いをしています。先方の要望もあって全て前払いです。運搬後に譲る条件の交渉は、届け先の方たちとやっていただければと思います」


 提示金額は銀貨で二十枚。

 届けるだけの《依頼》のしては破格な数字だった。


「ちなみに、どこに届ければいいかは、受ける前に教えてくれるんでしょうか?」


 テグスが問いかけると、職員の顔に少し苦いものが走る。


「構いません。皆さんならばいける場所ですよ」


 こう前置きしてから、職員は断られなければ良いなと思っている目をしながら、テグスたちに届け先を教えてくれた。


「《中三迷宮》の二十四層と二十五層階段を繋ぐ階段。その下にある町にいる、《清穣治癒の女神キュムベティア》の信奉者たちの集まり――《静湖畔の乙女会》へ届けて下さい」


 この冬に行くつもりはなかった《中三迷宮》を指定されて、テグスはどうしようかとハウリナたちに振り返る。


「行ってもいいです。テグスが決めるです」

「鎖を売るつもりなら、受けても良いと思うの~。ついでに《中三迷宮》を攻略しちゃえばいいかな~」

「私たちには必要ない物です、鎖を使う人が居ませんし。けど交渉ならお任せください、良い条件を引き出しますよ」


 テグスは三人の意見を聞いた上で、重たい鎖を持ち続けても仕方がないと判断した。


「分かりました。この依頼を受けます」

「助かります。ではこちらをお納めください」


 職員から銀貨を二十枚受け取り、テグスたちは一路《中三迷宮》へと向かうのだった。

 


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