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128話 少しの予定違い

 《中町》にある《白樺防具店》のエシミオナに、《合成魔獣》の毛皮を素材とした外套作りを依頼し。

 それが出来上がるまで、テグスたちは寒さの緩い《大迷宮》にて、活動する事に決めた。

 しかし予想外の事はあるもので。


「まさか、二十一層が外と同じ気温だなんてね」

「水辺だから、より寒かったです」

「もしも水に落ちたと考えると、ちょっと怖いの~」

「心の臓が凍るといいますね、冷たい水に行き成り入ると」


 そう、探索しようとしていた二十一層の空気が、外と同じかそれ以下の温度になっていたのだ。


「まあ、あれだけ広い水辺だから、《中三迷宮》みたいに、外の景色と連動してそうとは思ってたけど」

「どうするです?」

「とりあえず、外套が出来るまで。十一から二十層までを行ったり来たりして、お金稼ぎだね」

「《中町ここ》のお肉屋さんが品薄だって言ってたの~。きっと喜ぶかな~」

「毛皮も買い取ってましたね、《白樺防具店》にて」


 取りあえずの指針が決まり、テグスたちは十一から二十層までの、毛皮が取れそうなのや肉が多そうな《魔物》を中心的に狩っていく。


「これを、こうして、こうです!」


 その時に、あの図書館でカヒゥリに教えてもらった事の復習なのか。

 ハウリナは黒棍ではなく、二本の先端がレの字な金属製の短棒を操って、《歩哨蜥蜴》や《硬毛狒々》に《円月熊》といった相手に、接近格闘戦を挑んでいく。

 どれだけハウリナが飲み込みが早いといっても、十日程だけ習っただけでは、多少動きにぎこちないものがある。

 その上、ハウリナは背に背負子を付けたままなので、その分だけより動きが鈍くなる。

 だがいらない手出しをすれば、ハウリナの成長を阻害すると分かっているので。

 テグスたちは、ハウリナが戦いやすいように、他の《魔物》を優先して排除して。不測の事態が起きなければ、助けに入ることもしないようにした。


「これで、もらったです!」


 しかしそれを朝から夕方まで、三日も続けると、ハウリナもコツを掴んだようで。

 いま戦っている、《歩哨蜥蜴》が手に大振りな鉈を、二本の棒で挟むように叩いて折り。先端を鱗に引っ掛けて体勢を崩させてから、喉元に肘を叩き込んで潰して窒息死させる。などという芸当も出来る様になっていた。

 その一方で、他の人達はどうかというと。


「と~~や~~~~~~~」

「楽ですね、目を射ればいいのは」


 ティッカリとアンヘイラは、武装に変化は無いため戦い方は変わっていない。

 ただし《中一迷宮》で、十回以上も《合成魔獣》と戦った経験から、彼女たちの技量が伸びていた。

 ティッカリは、殴穿盾の扱い方が上手になり。その素材元である《装鉱陸亀》の甲羅を、一撃で粉々に出来る様になっていた。

 そしてアンヘイラは弓が体の一部と化したように、《重鎧蜥蜴》の目を精確に射抜いて絶命させている。

 

「『我が魔力を活力に、物よ矢の様に移動せよ(ヴェルス・ミア・エン・スタロト、デ・オブジェクト・サギラ・ミグラドン)』」


 そしてテグスは、新たに覚えた五側魔法を試して、次々にものにしていた。

 今のは、手にある物体を高速で射出する魔法で。

 テグスが逆手に《補短練剣》を持った、左手の人差し指と中指に挟んだ投剣が、まるで機械弓で放たれたかのように飛び出し。

 《長牙大猪》の額を穿ち、その頭蓋の中へと飛び入った。


「『我が魔力を火口に注ぎ、燃え盛るは破裂する炎(ヴェルス・ミア・エン・フラミング、アディシ・エクフラミ・エクスプロジ・フラモ)』」


 続けての中級に分類される爆炎の五則魔法を使い、《投付猩々》へと飛ばす。

 その飛翔速度は、大人が手毬を投げる程度だったので、《投付猩々》はその性質からか受け止めて投げ返そうとする。

 しかしその炎の球に手が触れた瞬間、耳を劈く破裂音が通路の中に木霊した。

 爆煙が収まった後の《投付猩々》の姿は、その顔面から膝上までが、大きな鉄槌で殴られたようにぐしゃぐしゃになり。更には炎で肉が焦げて、嫌な臭いを放っていた。


「テグス。その魔法、イヤです!」

「ちょ~っと、うるさかったの~」

「《探訪者》が使うべき魔法ではなさそうですね、威力は高いようですが」

「確かに、こんなにボロボロにしちゃうとね。《迷宮主》や《階層主》との戦いでの、切り札かな」


 強力な、それこそ今のテグスたちが倒せない相手でも、この魔法なら倒せる可能性を見たが。

 大きな音と、中級魔法で使用する魔力量、《魔物》が素材として駄目になるという面で、通路を進んでいる時は相応しくなと判断し。

 テグスはこの爆炎の魔法を、暫くの間は封印する事にした。



 

 得た《魔物》の肉を店に収めて、代金を受け取り。

 テグスたちは毛皮を収めがてら、《白樺防具店》にてエシミオナから、《合成魔獣》の毛皮で作られた。

 良い手触りな、茶金色の短毛皮の、袖付きの外套を受け取る。


「ありがとう御座います」


 と早速身につけてみると、鎧の上から身に付けるもののため、大分体格よりも大きい。

 だが動き回りやすさを優先するためか、膝関節の上辺りで丈が揃えられているが、ボタン止めは下腹の上までしかない。

 それでも短毛の毛皮でもあるのに、十分な暖かさが感じられる。

 ハウリナとアンヘイラのは、手首まである長袖だが。

 テグスとティッカリのは、腕に手甲や殴穿盾を付ける関係で、肘までの長さになっていた。


「《合成魔獣》の毛ー皮は多少の防ー御性能はあーるし、加ー工で水を染み込み難ーくしたーわ。でも弱いほーうのだから少し劣ーる毛皮だけど、防寒具ーに使うなんて贅沢ーだよーね。いまさーらだけーど」


 テグスたちがその出来栄えに、感心したり納得したりしていると、相変わらず身体が揺れているエシミオナからそんな言葉が。


「弱い方ですか?」

「そうだーよ。《大迷宮ここ》の一番ー下の層にーも、《合成魔獣》がいーて。そっちーは大分強いんだーから」


 そう言われてテグスが思い出したのは、《合成魔獣》の身体にあった、焼き塞いだような痕。

 恐らく『大分強い』とは、その部分が完全な状態になっているのだろうと、テグスは予想した。


「それって、どう強いか聞いても良いですか?」

「調べーれば分かーるから教えちゃーうけど。魔ー術や魔ー法を、遠慮ー無しに使ってくーるの。対策出ー来てないと、直ーぐに全滅しちゃうの」


 テグスは自分の使える、魔術や五則魔法を基準にして、あの《合成魔獣》がそれらを使えたらと想像してみた。

 すると単に防御力が高い、例えばティッカリのような人を、前面に押し出し壁にする戦い方は、するべきではないと判断出来た。

 むしろそういう戦い方をすると、あっさりと戦線が崩壊しかねないとさえ思った。


「あはっ、あはっ。そんーなに心配しーなくても、まだまーだ先でしょう。それーに四十層にある《下町》にいーけば、戦ーい方がわかるかーもしれないんだから」

「そうですよね。焦ってもしょうがないですね」


 テグスたちは装備の代金を支払うと、《白樺防具店》から出て、《中町》の宿へと戻った。

 そして翌日、テグスたちは二十一層へと進んで、毛皮の暖かさを確かめてみた。


「うん、大分暖かいね」

「これなら、安心です」


 前に来た時は震えが来るほど寒かったが、静止している状態でも、テグスは寒さは感じてない。

 少し歩くのを考えれば、ボタンを幾つか外しても大丈夫なくらいだった。


「少し熱いくらいなの~」


 同じ外套を着ていても、ティッカリは筋力量が多いからか、それとも戦い方が鎧や殴穿盾の防御主体だからか。

 熱そうにボタンを全て外して、ぱたぱたと外套を煽っている。


「でもこれで少しは歩きやすいでしょう、《七事道具》もありますし」


 そんな中にあって、アンヘイラは意外と寒がりなのか。ボタンを最後まで閉じたまま、襟の合わせを手で絞っていた。


「じゃあ先に進むけど。その前に、ちょっと確かめたいことがあるから。ちょっとそこで待ってて」


 テグスはハウリナたちを、二十一層に入った場所で待たせ。

 一人で流れる大河の上にかかる、手すりのない橋の上を歩き始めた。

 そしてテグスは、橋にある落とし罠を発見すると、《七事道具》があるのを確認してから、その部分を足で踏む。

 時間差で開く罠なので、そのまま暫く待つ。

 だがいっこうに作動する素振りは無い。


「よし。効果はちゃんとあるようだね……ハウリナ、ちょっとこっちに来て!」

「うん、いくです!」


 呼ばれたハウリナは走って、罠から一歩下がっていたテグスの横にやってきた。


「ハウリナはそこに立ってて。それで僕の《七事道具》を持ってて」

「うん、分かったです」


 テグスはハウリナが差し出した手の上に《七事道具》を置くと、またあの罠に足を乗せた。

 そして少し待つと、行き成りテグスの踏み出した方の足下の橋板が、広く下へと開いて大穴が開く。

 しかしテグスは開くと思っていたので、体重をかけずに置いたため、穴から落ちるような事は無かった。


「やっぱり。《七事道具これ》を罠を踏んだ本人が持ってないと、近くの仲間が持ってても発動するみたいだね」

「一人一つ、ひっすです?」

「そういうこと。それで多分だけど、《魔物》が細工して連鎖する様にした罠だと、動いちゃうと思うんだよね」


 なにせ《鑑定水晶》に書かれた効果の説明文に、悪戯女神が設置した罠は、と態々但し書きがされていた。

 なら《魔物》が作った罠は動くのは、疑いを挟む余地は無い。

 さらにいま分かった、『作動させるもの』が『《七事道具》を持ってない』と効果がない、という事を考えれば。

 二十一層にある中洲の役割は、自ずと見えてくる。

 そう気が付いたテグスはハウリナを伴って、待たせていた二人にそんな説明をした。


「随分、面倒なの~」

「しかし良かったですね、効果があると分かった部分は」


 テグスの説明に、二人も同じ事を思ったのか、納得するように頷いている。


「それで、これからどうするかなんだけど。この先を行くのは、少し先にしない?」

「それはどうしてです?」

 

 これはハウリナだけではなく、ティッカリやアンヘイラもその表情から、同じく疑問に思ったらしい。


「ここから二十九層まで、こんな広い景色がずっとあるなら。罠の解除で足を止めるだけ日数がかかるし。寒いところでも休める装備が必要だよ」

「ああ~、確かにそうなの~。こんな場所で休憩してたら、身体が冷えちゃうの~」

「なら購入するのですか、そんな装備を。もしくは春まで待ち、攻略を再開すると?」

「いまちょっと考えたのは。先ず《中二迷宮》を攻略してから、ここより気温が緩い《中三迷宮》に行って。春までゆっくり攻略するっていうのだけど」

「でも、全部が暖かいです?」

「……そういえば、冬に《中三迷宮》の下層が暖かいか寒いかは、知らなかった」


 そもそもテグスはいままで、下層まで行ったことがない上に、そこの情報収集もしてない。

 どうしようかとお互いに考えていると、アンヘイラが注意を集める為に手を上げる。


「とりあえず帰りましょう、ここでこうしてても仕方がないので」

「そうだね。先ずは《中町》の中で情報収集だね」

「なかったら、《中一迷宮》の大図書館で、調べ物をすれば良いと思うの~」

「わふっ。とりあえず帰るです」


 今後の予定は一先ず預けて、テグスたちは一度《中町》へと引き返したのだった。



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「それが出来上がるまで、テグスたちは寒さの緩い《大迷宮》にて、活動する事に決めた。 しかし予想外の事はあるもので。「まさか、二十一層が外と同じ気温だなんてね」 前にそのことを予想していたよ。
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