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123話 《中一迷宮》深層&《中一迷宮主》

 テグスたちは二十一層から出てくる、腐臭を漂わせる《悪食腫人》と、短矢を飛ばしてくる《機械弓犬》を相手にしつつ先へ進む。

 そうして二十五層へ。

 前に来た時よりも、大分《探訪者》の数が減って見えるが、それは冬前の準備のためだろうと、テグスは結論付けた。

 そうして先を行くと、人の骨に金属製の棒や糸に歯車が絡みついた《魔物》――《絡繰人骨》が現れた。


「ウチ、ああいう、関節が良くわかんないの苦手ッス」

「なら出番なの~」


 ティッカリが前へと進み出て、《絡繰人骨》へと殴りかかる。

 それに反応した《絡繰人骨》が、手にしていた斧を振るってきたが、呆気なく殴穿盾に防いでしまう。

 そしてお返しにと、ティッカリが繰り出した殴穿盾の一撃で、《絡繰人骨》は骨と金属部品を地面へと散乱させる羽目になった。


「骨は普通の骨っぽいから、この金属部品だけ持って帰ろうか」

「円月輪になりそうですね、この歯車を少し加工すれば」


 テグスは棒部分を多めに拾い集め、アンヘイラは薄く造形が細かい歯車を選んで集める。

 道を進み、続いて足音を立てて現れたのは、体は大鳥で足が人間のものという、変わった見た目の《魔物》――《人足巨鳥》だ。


「気色悪い!」


 しかし視界に入った瞬間、アンヘイラが我慢ならないと、矢で急所を射抜いて殺してしまう。


「うーん。食べられるって話なんだけど……」

「この足、美味しくなさそうです」


 流石にテグスとハウリナも、人間そのままの足を食べる気にはならず。

 テグスが小剣で両足を切り落とす。


「いやいや、鳥の部分は食べるんすか!?」

「足さえ見なければ、美味しそうにも見えるかな~」

「遠慮します、私は食べるのを」


 若干二人ほど引いているが、テグスは構わず背負子に乗せて先に進んでいく。

 そうしてやってきた三十層で、テグスたちは小休止を取る事にした。


「それじゃあ少しお腹に入れようか」

「わふっ、ふしぎ鳥の肉です!」

「どんな味か、楽しみかな~」


 もちろんテグスとハウリナにティッカリは、二十五層以下から狩った《人足巨鳥》の鳥の部分を食べようとしている。


「全く信じられないでしょう、あの鳥を食べるなど」

「いや、この犬のも頭二つあるから、見た目からはどっこいッスけどね」


 アンヘイラとカヒゥリは、どうしても見た目から駄目だったので、《双頭犬》の肉を選んでいた。

 そうしてテグスは、《中四迷宮》で得た《七事道具》を取り出して、それを床に向ける。


「『我が魔力を火口に注ぎ、呼び起こすは暖かなる火(ヴェルス・ミア・エン・フラミング、ミ・ボキス・ヴァルム・ファジロ)』」


 それを媒体として五側魔法を使用し、床から焚き火のような火が現れる。


「それじゃあ、焼く人は各自で焼いてね」

「……いやいや、なにあっさり魔法使ってるんッスか?」

「まあ『悪戯女神の祝福』がコレにあるからね」

「テグス、魔法使いです」

「いや、確かにそうなんッスけどね……」


 なにか納得がいかない顔をしつていたが、それはテグスが《人足巨鳥》の肉を焼き始めるまでだった。


「まあ、いいッス。テグスッスからね」


 カヒゥリも大きく切り分けた《双頭犬》の肉を焼き始める。

 そうして各々がお腹を膨らませ、食休みを挟んでから、全員が《中一迷宮》の《迷宮主》が出現する場所へと入った。




 石の回廊を、そのまま縦と横へと広げた広間のような場所に、浮かんだ光球が瞬き、《迷宮主》が出現する。


「名前は《合成魔獣》っていうんだけど、見た目は大きな猫かな?」

「獅子です。でも羽あるです?」

「頭がもう一つあるの~。あれは、鷲かな~?」

「元は頭が三つあったのでしょう、首元に一つ焼き塞いだような痕があるので」

「尻尾だとおもったら蛇ッスね。なんだか色々とツギハギした《魔物》みたいッスね」

「だから『合成』なんだろうけど……」


 背負子を床に置きながら、テグスたちはそんな風な見た目の感想を交換し合う。

 そんな獅子に鷲の頭と羽をくっつけ、尻尾を蛇に変えたような姿の《合成魔獣》が、ゆっくりと動き出す。

 獲物を見る目をテグスたちに向けながら、隙を窺うように四つ足で右へ左へと、ぐるぐると歩き回る。


「頭二つに蛇一匹、羽があるなら飛べるだろうから……ティッカリとハウリナが正面で引きつけて。アンヘイラはそれを矢で援護。僕は回りこんで、蛇を斬り捨てるから」

「じゃあウチは、何すればいいんッスか?」

「あの羽を毟りとって欲しいけど、出来る?」

「そんなの、お安いご用ッスよ」


 方針が決まったので、言葉もなくお互いが散会して《合成魔獣》へと向かう。

 先ずは足の速いハウリナが黒棍で殴りかかって、《合成魔獣》の注意を引き付ける。


「グゴオオオ「ケエエエエエエ」ゴゴオオオオ!!」


 しかし《合成魔獣》はハウリナが黒棍を振るう前に、獅子と鷲の頭がそれぞれ吠え、二つの頭と前足の爪でハウリナを攻撃し始めた。


「くぅ……危な、い、です!」


 ハウリナは獅子の牙をかわし、鷲の嘴を黒棍で跳ね除け、前足の爪を上体を反らして避け続ける。


「お待たせなの~」


 そこに走りこんできたティッカリが、ハウリナの前に立ち、自慢の鎧と殴穿盾の防御力で攻撃を防いでいく。


「お返しです!」


 そしてハウリナも攻撃へと転換して、《合成魔獣》の頭や身体を黒棍で打ち据え始める。

 二人がかりで攻撃されて、たまらず数を減らそうと思ったのか。

 《合成魔獣》は大口を開けて、動きが遅いティッカリの胴体へと噛み付きにかかった。

 

「有り難うございます、弱点を晒してくれて」

「グオオオオオオオオオ!」


 しかしその口の中へと、飛来した螺旋鏃の矢が飛び込み。舌を刺し貫いて、顎下へと抜け出る。

 その事に怒りの咆哮を獅子の口で上げ、《合成魔獣》は羽を広げて軽く後ろへと飛びながら、鷲の嘴でその矢を引き抜く。

 そして着地すると、怒りを抑えるためにか、獅子の頭がその矢を噛み砕き始める。


「そんな余裕な真似を、してていいのかなッ!!」


 まわり込んできていたテグスが、背後から《合成魔獣》に両手の小剣で切りかかる。

 それは尾っぽの蛇は目で見えていたのか、テグスの首元に向かって、蛇の口が伸びてきた。


「そんなんじゃ、甘いよ!」


 しかしテグスは慌てずに、小剣を交差させながら蛇の首元へと当て。そして鋏のように剣を動かして、蛇の頭を切り落とす。

 安心する間も無く、そこに《合成魔獣》の後ろ足での蹴りが飛んでくる。

 それを後ろ横へと身体を捻って避けつつ、テグスは足の筋を狙って剣を振るう。


「――毛が硬い!?」


 体勢が崩れていたこともあるが。

 《合成魔獣》の身体を覆う毛が、意外なほどに剛毛だったようで、毛は斬れたものの皮膚までには到達出来なかった。


「いやぁっはーーーーーーー! 尻尾の蛇がなくなるのを待ってたッス!」


 片足を上げ、獅子の顔がテグスへと向いたのを見計らって、カヒゥリが素早く《合成魔獣》の背に飛び乗った。


「その手羽先いただくッスよ! 『爪よ尖れ(アンゴ・アクリギス)』!」


 そして手甲をはめた手指の先に魔術の光を灯らせ、カヒゥリは両手をそれぞれ羽の根元へと打ち込んだ。


「どりゃあーーーーーーー!」

「グオオオオオオ「ケエエエアアアアア」オオオオオオオオン」


 指で背中の肉を抉り取りながら、羽を力任せに引き抜いていく。

 やがて耐え切れなくなったのか、二つの羽は根元から千切れてしまう。

 カヒゥリは軽く《合成魔獣》の背を蹴って飛び、後方宙返りしながらテグスの後ろへと着地する。

 その間に、走りこんできたハウリナとティッカリが、《合成魔獣》の正面で戦い始める。


「これで飛んで逃げれないッスね」

「それでもあんまり時間はかけてられないみたいだけどねッ!」


 そう言いながらテグスが振るった小剣に、再び切り飛ばされたのは、切り落としたはずの蛇の頭だった。


「再生能力持ちなんッスか、この《魔物》!?」

「小さい傷や、小さな欠損は治してしまうようだね」


 ゆっくりと切り取った蛇の頭が盛り上がり、段々と頭の形に肉が変わっていく。

 見ると羽を千切った部分からも、肉が盛り上がり始めていた。

 しかし羽が大きいからか、盛り上がる速度も遅く、傷口を塞ぐ程度にしかなってはいなかった。


「これはアンヘイラとカヒゥリには、相性の悪い相手だね」

「そうッスね、関節なんか壊しても、直ぐに治されてしまいかねないッスからね」


 テグスの呟きがアンヘイラにも聞こえていたのか、螺旋鏃の矢が獅子の頭の目に飛び込んだ。


「グオオオオオオオオオオオオン」

「あおおおおおおおおおおおん!」

「とやあ~~~~~~~~~~!」


 痛みで硬直した《合成魔獣》に、ハウリナは鉄棍をティッカリが殴穿盾を振り上げる。

 そしてハウリナは獅子の頭へ、ティッカリは鷲の頭へと殴りつけた。

 鼻筋から眉間にかけて潰れた獅子の頭は、鼻血を流しながら素早く再生が始まる。

 一方で頭蓋を粉砕された鷲の頭は。損傷具合が酷いからか、ゆっくりと造形を整えるところから、再生が始まっていた。


「グゴロオオオオオオオオオオオ!」


 再生の時間稼ぎのためか、《合成魔獣》は前足を左右交互に振り回し、時折後ろ足で蹴りを放って、テグスたちを寄せ付けないように攻撃してくる。

 下手に近付くと、予想外の怪我を負いそうだったため、テグスは身振りでハウリナたちの方にも下がるように伝える。

 しかしそうやって射線が開けば、アンヘイラから矢が《合成魔獣》へと、次々に放たれてくる。


「グオオオオオオオオオオオオオ!」


 身体はその剛毛で防御できると判断してか、《合成魔獣》は頭を激しく振って、目や鼻頭と口に矢が当たらないようにする。

 その間にも、《合成魔獣》の身体は治り続けている。

 このままでは埒が明かないと、テグスはカヒゥリを伴って、ハウリナたちの方へと合流する。


「こうなったら、頭を二つとも斬り落とすしかないと思うんだけど」

「わふっ、お手伝いするです」

「その前に、頭や身体を叩き潰して動きを鈍らせた方が良いと思うの~」

「ならハウリナちゃんとウチで、足止めッスかね」


 意見が纏まり、テグスは小剣を収め代わりに長鉈剣を抜き、ティッカリが殴穿盾を構え、ハウリナとカヒゥリは前傾姿勢になる。


「これで最後です、螺旋鏃の矢の在庫は!」

「『身体よ、頑強であれ(カルノ・フォルト)』!」

「『身体よ頑強であれ(カルノ・フォルト)』、いくッスよ!」


 《合成魔獣》に矢が刺さったと同時に、身体強化の魔術を掛けて、ハウリナとカヒゥリの二人が弾かれたように走り出す。

 その後ろに続いて、テグスとティッカリが走っていく。


「あおおおおおおおおおおん!」

「ひゃっほおおおおーーーー!」

「グルゴオオオオ「ゲア゛ア゛アア」オオオオオオオオオ」


 ハウリナが黒棍を振り回して、カヒゥリはその手足で《合成魔獣》に打撃を与え。

 《合成魔獣》は口と前足に、直りかけの鷲の頭まで使って、その二人を迎撃しようとする。

 しかし打っては素早く移動する二人に、その認識が追いつけていない。

 そしてその対処に掛かりきりになり、その動きが鈍くなる。


「とやあ~~~~~~~」

「グゴォォオオォォォ――」


 そこにティッカリが、走り寄ってきた勢いのままに、右の殴穿盾でその胴体を殴りつけた。

 その威力と衝撃に、《合成魔獣》の四肢が少し地面に浮き、その身体の中から骨が折れる音が体外へと響く。

 浮いた足が再び地面に着くと、折れた肋骨が肺にでも刺さったのか、《合成魔獣》の獅子と鷲の口から赤黒い血が零れ落ちる。


「てやあ~~~~~~~」

「あおおおおおおおおおおん!」

「食らうッスよおおおおおお!」


 吐血で息が乱れ動きも乱れた《合成魔獣》へ、ティッカリが殴穿盾で鷲の頭を、ハウリナが黒棍で両前足の関節を、カヒゥリは踵落としで獅子の頭を、それぞれ砕いた。


「グオオオオ「ケゲェェェ」ォォォォ」


 重大な怪我により、完全に動きが止まった《合成魔獣》へ、テグスが長鉈剣を振り上げながら近寄る。


「『刃よ鋭くなれ(キリンゴ・アクラオ)』!」


 剣に鋭刃の魔術を掛けて、テグスは《合成魔獣》の鷲の頭目掛けて振り下ろす。

 そして振り上げる刃で、獅子の頭を切り上げる。

 自慢の剛毛も、鋭刃の魔術が掛かった長鉈剣の刃を止めることが出来ず、時間差はあれど二つの頭は共に地面へ落ちていく。

 しかしテグスの行動はそこで終わらず、尻尾の蛇を半ばから斬り捨て、最後に心臓部へと駄目押しの一刺しを行った。

 ここまで徹底的にやられると、回復が追いつかないのだろう。

 《合成魔獣》の傷口は再生で盛り上がることもなく、身体は崩れ落ちるようにその場に倒れたのだった。


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