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122話 次に向かうは?&再会

 《中四迷宮》を攻略した証を、五人それぞれの《青銅証》に刻んでもらい。

 その後、ティッカリの怪我が治るまでの間。

 無理のない程度に《中四迷宮》で金稼ぎをしながらの、宿暮らしをしていた。


「もう、怪我は直ったの~」


 宿の一室にて、ティッカリはそう言いながら、布を外した腕を見せてくる。

 少し跡は残っているものの、その傷口は確りと塞がっていて、運動で開くこともなさそうだ。


「傷薬は渡しておくから、もう二・三日はその傷口に塗っておいて」

「は~い~、分かったの~」

「次の《迷宮》にいくです?」


 《七事道具》のお陰で、一気に緊張感が薄まった《中四迷宮》に飽きたのか、ハウリナはテグスに期待を込める目を向けている。


「そうはするけど。次に何処に行くかが問題なんだよね」

「《中一迷宮》でいいのでは、他の二つは込みあっていると聞きますし」

「《七事道具これ》があるんッスし、《大迷宮》の二十一層の先に行くって手もあるッスよ」


 テグスもそのどちらかに行くか悩んでいた。

 その上――


「でも~、冬の事も考えないといけないのかな~って思うの~」 


 空気が大分冷たくなってきた冬間近なので、ティッカリが言ったように、冬に何処で生活するかも考えなくてはいけない。


「そう考えると、冬の間は《大迷宮》を進めばいいから。先ずは《中一迷宮》を攻略して、ちょっとお金を貯めて。冬までまだ時間があれば《中二迷宮》の攻略って順かな」

「聞いてもいいでしょうか、その理由を?」

「先ず《中三迷宮》は広くて、攻略に時間が掛かるのが前程にあるんだ。それで《中一迷宮》を優先する理由は、《精塩人形》と《晶糖人形》っていう、換金率が高い《魔物》が出るのと。僕らは、二十一層まで行ってあるからだね」

「つまり、他より素早く攻略出来る上に、お金もバッチリ稼げるってわけッスね」

「冬用の毛皮とか、食料の高騰とかで必要になるからね。そうするとアンヘイラは、今以上にお金が必要になるだろうしね」

「感謝します、その心遣いに」

「必要って――ああ、怪我した仲間が療養中なんッスよね」

「大分よくはなってます、もう少し時間が必要ですが」

「なら、ウチは反対する理由がないッス」

「テグスにお任せです」

「怪我で遅れさせた分、頑張るの~」


 大まかな方針が決まったので、たらふく夕食を食べた後、全員明日に備えて速めに床についたのだった。




 石の回廊が続く《中一迷宮》を行くテグスたちは、順調に十層を突破し。

 十一層からの道行きで、出会った《精塩人形》を尽く狩り。

 用意した麻袋の中へとその塩を入れ背負子に積みながら、さらに先へと歩いていた。


「テグス、嗅いだ匂いがするです」

「誰だか分かる?」

「助けた子どもたちです」

「あの子達がここに来てるの~?」

「随分と久しぶりな気がしますね、分かれて二ヶ月ほどでしょうか」

「この匂いの方と、お知り合いなんッスか?」


 無視して行くほど急ぎではないため、テグスたちはハウリナとカヒゥリが感じる、匂いの方向へと歩いていく。

 程なくして《双頭犬》を盾で押さえ込んでいる騎士志望の若者なジョンと、周りから殴りかかっているその仲間たちが見えてきた。


「よし、では皮を剥ぐぞ……ムッ、なに奴!?」

「顔見知りなのに、なにやつって尋ねる普通?」


 ジョンの言葉に一斉に戦闘状態に戻る彼の仲間たちに、テグスは久しぶりと手を上げてみた。

 すると全員が一斉に顔色を青くして、慌てて武器を収め始めた。


「お、お前は、鬼軍曹!?」

「ぐんそう??」


 聞きなれない言葉にテグスが首を傾げる。

 すると癇に障った仕草だと勘違いされたのか、一斉に彼ら全員がハラハラし出した。

 そんな中で、ジョンの妹であるアンジィーが彼の横に進み、慌てて頭を下げ始めた。


「ご、ごめんなさい、ごめんなさい。変な仇名で読んでごめんなさい! お、お兄ちゃんも謝って!」

「お、おい。頭を押さえるな!?」

「いや、別に怒ってないから」


 そういえばこういう人たちだったとテグスは思い出し、その変わらなさに苦笑いを浮べてしまう。

 だが次には笑顔を引っ込めて、ジョンたち七人の格好に目を配る。

 彼らの武器は変わっていないが、体には揃いの革鎧が着けられ、盾を持っているのもいる。

 そして以前とは違って、前衛担当だったジョンを含めた三人は、背負子を背負っていなかった。

 その分、他の四人の背には、前のよりも一回り大きな物が背負われていた。


「かなり頑張っているみたいじゃないか」


 身につけた防具に大小の傷が刻まれているのを見て、テグスはそう微笑みかけた。

 しかし同じくテグスたちの格好を見ていたジョンからは、苦々しそうな表情が返される。

 どうやら皮肉だと受け取られたらしい。

 

「ふん、こちらはまだまだだ。なにせ二十層に、未だたどり着けていないのだからな!」

「それで地道に、経験を増やしている最中ってこと?」

「否ッ! 今は《双頭犬》の毛皮を刈り集めている最中である」

「ああ、冬用の毛皮として需要があるもんね」

「肉はどうするです?」

「顔が二つあるような生き物の肉など、食べられるわけがなかろう!」


 そんな主張に、テグスとハウリナは顔を見合わせて首を傾げ合うと、視線をジョンの仲間たちへと向ける。


「他の人も要らないです?」


 すると、一斉に首を横に降り始めた。

 だが激しく振っているのは二名だけで。

 残りはジョンの意思を尊重しているのか、少し勿体無さそうに控えめに振られている。


「《探訪者ギルド》に持っていったら、それなりのお金にはなるよ?」

「それも帰る寸前に狩ったもののみにしている。重量が嵩むと歩みが遅くなるからな」

「そうか。そういう方針ならそれでいいけどね。それじゃあ、僕ら先に進むか――」

「ちょっと待って欲しい!」


 挨拶を済ませたので、テグスが先に進もうとすると、ジョンが開いた手を向けて押し止めてきた。


「何か用? また訓練をつけて欲しいとか?」

「い、いや、そうではなく。でも、少しは合っているか」


 要領を得ない言葉に、テグスだけでなく、ジョンの仲間たちも気にする目を向けている。


「つまりはだ、貴様らと二十層の《階層主》との戦いを、我々に見学させて欲しいのだ」

「お、お兄ちゃん!? なんでそんな事をいきなり――」

「別に良いよ。手助けなしで、勝手に後に付いてくるだけなら」

「って、いいんですか!?」


 思わずといった感じで、アンジィーはつっこみをテグスに入れ、その後に少し顔色が青くなっていた。

 だがテグスは、別れていたこの二ヶ月で、大分逞しくなったようだと、少し安心していた。


「全然構わないよ。どうせ二十層の《晶糖人形》は倒したこともあるし。装備を更新した今なら、もっと簡単に倒せるだろうしね」

「わふっ、殴って捻って、壊してやるです!」

「穿ち抜いてあげるの~」

「こちらは活躍は出来ませんね、あまり弓は有用では無いので」

「糖と名にあるなら、甘そうな相手ッスね」


 気軽な調子で歩くテグスたちの後を、ジョン達は慌てて準備を整えて追いかける。

 その後、殴穿盾の杭で《精塩人形》に大穴を空けたり、《双頭犬》の頭を腕で捻り折ったり、《躙り寄る粘液》の核を矢で射抜いたり。

 《腐朽人》を片刃の小剣で切り捨てたり、《発条亀》を短棒先端のレ状の部分で引っ掛け引っ繰り返した後に腹を叩き潰したり、《岩石人形》は手足を捻り壊して胴体を粉々にしたりした。

 そうしてテグスたちは、さほど苦労することも無く、二十層へと到達する。


「このまま進む――積りだったけど、休憩入れたほうが良い?」

「ぜはーぜはー。なんの、まだまだ、元気だぞ、俺は!」

「お、お兄ちゃ、ん。やせ、我慢、してないで、休ませて、貰おうよ……」


 《魔物》たちとの戦闘を、直ぐに終わせながらここまできたので。

 少しの休憩もなく歩き通したジョン達は、息が上がっているようで、その二人以外は言葉を喋るのも覚束ない有様だった。


「弱っちいです。肉と肝を食うです」

「確かに、もうちょっと体力つけた方が良いかな~」

「情けないでしょう、戦ってないのにへばるとは」

「普通の人間の子なら、こんなもんッスよ。特にこの子ら、武器が大型ッスし、防具も重そうッスからね」

「このままじゃ、見ることすら大変だろうし。ちょっと休憩入れよう」

「テグス、テグス。肉、食べていいです?」

「火は使えないけどそれで良いならね」


 なのでこの場で小休止を入れる事にして。

 テグスとハウリナは《双頭犬》の肉を切り落として、生のまま食べ始め。

 ティッカリは背負子から、酒用の水筒スキットルを出して口にし。

 アンヘイラは弓矢の点検を始め。

 カヒゥリは物欲しそうな目で、テグスとハウリナが食べる肉を見ていて、二人に手招きされたのでそこに加わった。

 そんな風に、迷宮の中なのに余裕のある姿で過ごし始めたテグスたちに、ジョンたちは呆気に取られているようだった。

 だがジョンたちも、彼らの回復待ちという自覚があるのか、鎧を緩めたりして本格的に休憩を取り始める。

 そうしてジョンたちの呼吸が落ち着き、体力が戻った顔色を見て、テグスたちは軽く身体を解しだす。


「さて、君らは見ているだけでいいから。後についてきて」

「十二人、入っても一体です?」

「もし数体出てきたら、その分、晶糖が手に入るの~」

「あまり役には立てませんよ、弓矢なので」

「《晶糖人形》は初なので、実は少し楽しみッス」

「お、おい。本当に大丈夫なんだろうな?」

「お、お兄ちゃんが、提案したことなんだから。堂々としててよぉ~」


 テグスたちは気軽に、ジョン達は少し怯えながら、二十層の《晶糖人形》が出る場所へと入った。

 で、その結果はというと。


「やっぱり。どれだけ人数が入っても、一体しか出てこないみたいだね」

「たやすいです」

「思いっきり振ったら、腕が吹っ飛んで入っちゃったの~」

「全く手出しが要りませんでしたね、元々ない出番でしたが」

「意外とパッキリと折れちゃって、つまらなかったッスね」


 襲い掛かってきた《晶糖人形》は、左腕が元からもぎ取れ、右膝が粉砕され、首を両断され、全身に皹が入った状態で、地面に転がっていた。

 そして、あっという間に、こんな状態にしてしまったので。


「ま、まったく、参考にならん!」

「お、お兄ちゃん。折角見せてくれたのに、その言い方は……」


 そう代弁したジョンに、アンジィーはオロオロとしている。

 しかしテグスたちもマッガズたちと同行した時に、同じ感想を抱いた経験があった。

 なのでテグスは、もう少しだけジョンたちに手助けする事にした。


「たしかに少し申し訳ないと思うから、《晶糖人形》の硬さを味わってもらおうかな」


 テグスは《晶糖人形》の破片の中から、一口大の欠片を拾い集めると、先ずジョンの前に立った。


「な、なにを――むぐッ!?」

「何も言わなくても、口を開いてくれて助かるよ。ほらアンジィーも、口開けて」

「え、あの、あ、あーーーーん」


 そして次々と、ジョンの仲間たちの口の中に、その欠片を一つずつ放り込んでいく。

 ジョンとその仲間たちは、最初その硬さに驚いた様に眉を上げ。

 続けて、溶け出した欠片の甘さに眼を丸くしていた。


「どう。《晶糖人形》の硬さと味は?」

「実に硬いな。石のようだ」

「甘~~い~~よ~~~」

「「「美味しいです!」」」


 ジョンは歯で欠片を砕こうとして、何度も顎を上下させているが。

 その他の面々は、欠片の甘さに頬が緩んでいる。


「それは良かった。じゃあ《晶糖人形》を回収するのちょっと待っててね」


 作業に戻ろうとしたところに、ハウリナが期待した目を向けながら近づいてきたので、テグスは手に残っていた欠片を彼女の口の中へ放り込む。

 途端にニコニコして尻尾を降り始めたハウリナは、気合を入れなおすような仕草をしてから、《晶糖人形》を麻袋の中へと入れ始める。

 他のテグスの仲間たちも、口に一欠けら入れてから、その作業を手伝いだす。

 そうして回収し終えた後で、全員で神像のある場所へとやって来た。


「それじゃあ僕らは先に進むけど、君らはどうするの?」

「地上へ帰る。《依頼》があるからな」


 なのでここでテグスたちは別れる事にし。

 ジョン達は神像に《祝詞》を上げて地上へ、テグス達は階段で下へと進んで行くのだった。



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