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116話 価値観の相違と鉱石掘り

 穴掘りの男たちについて行く日は、あの日から二日後に決まった。

 なので翌日にテグスたちは、戦い方の確認の為に《大迷宮》の二十層までを行ってみることにした。

 しかし何も、少し戦って返ってくるというわけではなく。


「いやー、悪いッスね。今日は休みにしても良いのに、ウチの防具の為に」


 そう、カヒゥリのための防具の素材の確保という目的もある。

 なにせ今の彼女の装備はというと、右手に手甲をはめている以外には、普通の服を着ているだけ。

 明日にテグスたちと同程度の防具を融通出来なくとも、間に合わせでも多少は良い物を用意するには、今日に色々と稼ぐ必要があるのだ。

 とはいえ、戦い慣れた相手だという事もあり。


「今日の夕ご飯は、クマ肉とイノシシ肉を山盛りです」

「この先の《魔物》なら、ヒヒの脳は食わないんッスか。塩入れると、結構な珍味ッスよ?」

「ふわふわして、食いでがないです」


 獣人二人はこの後に食べる物の算段を付け出し。


「あの本で読んだ通りなら、《円月熊》の肉と毛皮は狙い目だよ。変化させない方が値が上らしいから、倒し易いし」

「鎧が必要なら《重鎧蜥蜴》の皮も確保かな~」

「宝石があるという話ですが、《装鉱陸亀》の甲羅には。ですが明日でしょうね、あの男の人たちに教えて貰わないといけないので」

 

 残りの三人で、金稼ぎの方法を話し合う。

 こんな感じに、テグスたちの間には緩んだ緊張感が流れた状態で、十一層以降へと進んでいった。




 それは十四層にまで行き、《飛針山嵐》相手には防具が無いので役に立てないと、カヒゥリが悔しそうにしていた時だった。


「ああッ!」

「ん?」


 仲間の声ではない、第三者の男の声が聞こえて、テグスがそちらへと顔を向ける。

 そこにはテグスたちの方を指差しながら、ついうっかり声を上げてしまったと後悔してそうな顔をした、二十代前半ぐらいの男がいた。

 テグスが見た事が会った気がするけれどと、じっとその男の方を見る。

 思い出せず小首を傾げてより深く考えようとする前に、その男の仲間らしき人から矢を射掛けられてしまった。

 しかしアンヘイラのに比べると大分遅い矢だったので、テグスは慌てずに手甲でその矢を横に払い退けた。


「ここで会ったが、命の落とし時だコラァ!」

「それは貴方たちの方の事ですね」


 明確な敵対行為に、テグスはここまでの層で使い続けていた『槍』を構えた。


「やっちまえええぇ!」

「うわッ。何でこんなに恨まれてるんッスか!?」

「知らない。けど、殺す」


 その十人ほどの《探訪者》たちが、どっと襲い掛かってくるのに合わせて、テグスも前へと出る。


「たおすです!」

「防御ならお任せなの~」

「一人目ですね、先ずは」

「ああもう、理由も知らずに殺されて溜まるかッス。やってやるッスよ!」


 テグスに触発されるように、ハウリナが駆け出し、ティッカリが殴穿盾を構えながら近寄っていき、アンヘイラが矢で向こうの弓持ちの一人を射殺す。

 手馴れた様子の四人の姿に驚きながらも、カヒゥリは腹を決めたように吠えると、地に這うように姿勢を低くして前へと駆け出した。

 

「舐めんなよ。こちとらあれから、ここら辺でずっと鍛えてきたんだ!」

「舐めたりしませんよ。お腹壊しそうなので」


 テグスは石突きの先を持つと、身体を伸ばすようにしながら片手一本で槍を繰り出した。

 しかしそのテグスの素人考えのような戦法を、目の前にいた両手剣持ちの男は、これまでの研鑽を見せ付けるように紙一重で交わした。


「甘めえ――ぐがあああああぁぁ!?」


 軽く槍の先が腕に掠ったが、元気な様子だった男が、急にその腕を抑えて絶叫を上げる。

 男が抑えている腕のその小さな傷が、晴れ上がっているのを見れば分かると思うが、テグスの使っていた槍とは、《ティニクス神怒像》から得たあの毒槍だった。


「これでもう一人」

「ぎいいいいいいぃぃぃいいぃいいぃい」


 あまりの傷みに身動きが取れなくなっていた男の腕を、テグスが毒槍で突き刺せば。

 酷い傷みに精神をやられたような声を上げて、その男は口から泡を吹いて白目を剥いて失神した。

 テグスが視線を他の人らに向けると、その手にある槍を警戒して、少し遠巻きにテグスを包囲しようとしているのが見えた。


「一人相手ならそれでもいいんだろうけどね」

「カッコにたおすです!」


 テグスが槍を向けた先にいた人たちが動揺したのに合わせ、そこにハウリナが天井を蹴り下りて突っ込み、黒棍が唸りを上げて叩きつけられる。

 しかし《中町》の先にやってこれるだけの実力は、相手も持ち合わせている。

 黒棍の一撃は、相手の掲げた鋼鉄作りの鈍器を破壊しただけで終わる。

 その周りにいた人たちが、槍を構えるテグスかそれとも近くに居るハウリナか、どちらに攻撃しようかと考えて少しの間が開く。


「大人しくやられるッス!」


 そこに地を低く駆けてきたカヒゥリが、武器を失ったその男の喉元に、まるで猛獣の牙のように右手の手甲の手爪を食い込ませ。そのまま地面に押し倒しつつ、頚動脈と気道を捻り千切る。

 噴出した血で、真新しい衣服に血の斑点が付く前に、カヒゥリは俊敏な動きを見せて壁へと跳び逃げる。


「誰でも良い。とにかく近くに来る相手を――」

「とやあああああああ~~」


 混乱する仲間に声をかけだしたまた違う男に、接近してきたティッカリの右の殴穿盾で殴りつけた。

 破城槌を食らったように、男は胸元をへこませられて、一直線に真後ろへと吹っ飛んだ。

 そして地面を転がった後で血に伏せながら、息が出来ないのか、喉と地面にそれぞれ指を立てながら死んでいった。


「一人ずつやられているぞ、集まれ!」

「いや、いやああああ!」


 ティッカリが殺した男が、恐らく中心的な存在だったのだろう。それが死んだので、男たちの中で一人だけいた女性が、悲鳴を上げて逃げようとする。


「悪いッスけど、逃がせないッス!」

「あがぐぅううぅうぅぅ、足、あしぃいぃぃいぃぃ……」


 集団から離れた女性に、地面を滑り込むようにして襲い掛かったカヒゥリは、蛇のように脚に巻きつき引き倒す。

 やがて木板に石を投げ当てた時のような軽い音がして、女性は左脚の付け根を押さえて蹲る。

 その彼女に気でもあったのか、心配そうにそちらへ余所見をした男の側頭部に、兜ごと貫くための十字鏃の矢が突き刺さった。

 頭に矢が生えた男が、ゆっくりと前へと倒れこみ。そこにいたまた別の、盾を持ってテグスを警戒していた男へと寄りかかる。

 それに体が少しの間だけだが硬直したのを見て、テグスは真っ直ぐに前にでながら、足目掛けて毒槍を突き出す。

 慌てて逃げようと腿を上げた男のつま先に、毒槍の切っ先が突き刺さる。


「ぐううううぅぅぅぅ……」

「終わりです!」


 傷みを噛み締めて押さえ込んだまでは見事だったが、傷みでさらに硬直時間が増して生まれた隙に、ハウリナが黒棍の先で顔へ突き込んだ。

 兜の視界確保の穴から入った黒棍は、男の鼻先を砕きながら奥へと押し込み、鼻腔周りの骨を千千に砕く。


「たあああああああ!」

「ぐぶッ……」


 ハウリナが黒棍を抜いた場所へと、テグスは毒槍を突き入れた。

 鼻から逆流した血を口から吐き出しながら、その盾持ちの男は膝から崩れ落ちた。

 しかしその間に、テグスの使っていた毒槍を掴んで死んでも離さないという、防御役という人の矜持を見せる。


「貰ったああああああ!」

「やっぱり槍は手に馴染まない」


 てっきり武器を奪われて、テグスが困惑すると思ったのだろう、片側斧を振り上げた男が襲い掛かってきた。

 しかしテグスはあっさりと毒槍を手放し、右腰から一本の投剣を抜きざまに投擲した。


「くのぉ!?」

「お見事。だけど残念でした」


 至近からの眉間へと突き進む投剣を、斧を盾にして防いだ男に賛辞を送りつつ。テグスは小剣を左手で抜きつつ、鎧の隙間からその奥へと差し込んだ。

 根元まで埋まった小剣を見て、次にテグスを見て。信じられないという顔をしながら、斧の重さに耐えかねたように、男は手から地面へと落ちて沈む。

 この攻防の間に、ティッカリが更に一人殴り殺し。

 いまカヒゥリが背後から更に一人、首に腕を巻きつけたあとで、素早く頭の上と顎下を入れ替えるようにして絶命させた。


「ま、待ってくれ。俺らは単なる荷物持ちなんだ!」

「アンタとの因縁なんて知らない。この荷物全部やるから。せめて、せめて命だけは!」


 残る二人はそういって命乞いをしたが、テグスにはそれを聞いてやる積りはない。

 血に濡れた小剣で、片方の喉を突こうとして、その腕をカヒゥリに止められた。

 何をする積りだと、テグスが腕を離させようとするが、腕力ではカヒゥリの方が勝っているようだ。


「……あの、離してくれない?」

「こんな風に、相手を皆殺しにして。テグスに何か得があるんッスか!?」


 何故だか必死に訴えてくるカヒゥリに、テグスは何を言っているのだろうという視線を向ける。


「得とか損じゃなくて、普通こうするでしょ?」

「普通なら、必要のない殺しはしないものッス!」

「禍根になりそうな芽を摘むのは、必要のあることなんじゃない?」

「あーもう、そういうことじゃないッス。何で分かってくれないんッスか!」


 何故も何も理由らしい理由を話してないのにと、テグスは途轍もなく困惑する。

 その中で、カヒゥリと自分に価値観の違いがあるようだ、とだけ認識する。

 そして話し合いをするか、無視してあの二人を殺すかの二択の選択をする。

 

「……分かった。今回はカヒゥリの意見を取り入れて、その荷物持ちの二人は見逃してあげてもいい」


 テグスがそう言った途端に、カヒゥリだけでなく話題の中心である荷物持ちの二人も安堵の表情を浮べる。


「ようやく分かってくれたんッスね」

「でもさ、その二人は結局死ぬと思うよ。罠に掛かるか、《魔物》の餌食か、それとも他の《探訪者》に食い物にされるか」


 こここは十四層だ。戻るにしても、四つも層を上がる必要がある。

 その分だけ距離があり。その分だけ《魔物》と罠に遭遇する可能性は高い。

 荷物持ちという事は、この場所に来る為の実力が無いはずなので。余程の運の良さを持ち合わせてなければ、自殺しに行くのと変わらない。


「それなら、ウチらに――」

「同行させるのは嫌だよ。後ろから襲われないかと思いながら先に進むなんて、考えられない。それとカヒゥリが股関節外して転がしているあの女を、見逃す積りは一切ないから。治療したあとで引き取ってもらうっていうのも無し」


 カヒゥリの思考を先回りして、テグスは出されるであろう提案の尽くを潰す。

 すると年下のテグスに言い負かされる形になったからか、カヒゥリは怒りに眉をつり上がらせる。


「うっせーッス! テグスはそんなに強いんッスから、強者の余裕で他の人に優しくしてあげたって、いいじゃないッスか!」

「僕は強くなんかない。手札の多さ以外は、取るに足らない《探訪者》だよ」

「なんッスかそれ。その歳で《大迷宮ここ》に来てるのに、嫌味ッスか!」


 強い弱いというあやふやな所で揚げ足を取ってきた、そう更に怒り出したカヒゥリは思ったかもしれない。

 だが本当にテグスは、自身が身につけている技術の一つ一つはそう大したものではないと、本心から思っていた。

 確かに魔法の適正を除けば、テグスの持っているのと同じものを持つ人を探すのは、決して難しくはないのも事実でもある。

 そんなこんなで、テグスとカヒゥリの意見の対立を起こしていると、あの荷物持ちの人たちが逃げ出した。


「あッ。待つッス!!」

「はい、という事でお喋りは終わりだね。生死の確認と剥ぎ取りをする前に、ハウリナ」

「まだ《魔物》、来てないです」

「じゃあささっと拾うもの拾っちゃおう」

「臨時収入なの~」

「何気に剥ぎ取るのは始めてですね、この層以下で活動する《探訪者》から」


 テグスがさっきまでの事が芝居だったかのように、あっさりとカヒゥリから視線を外してそう宣言した。

 ここまで同行し続けているハウリナたちは、鎧から服飾品までを剥ぎ取って背負子へと入れていく。勿論、辛うじてでも息がある人に、止めは欠かさない。

 一方でカヒゥリは憤りがまだ続いているようだ。


「何なんッスか。必要ない人殺しをして、おかしいと思わないッスか!?」

「べつの群れに入ったら、その長にしたがうのがドーリです」

「最近のハウリナちゃんは、ちょっと難しい言葉を使うのに凝っているのかな~?」


 胸を張って誇らしげなハウリナの顔を、ティッカリが微笑ましそうに見る。

 人の死体が傍らにあるのに、和やかな空気が流れるのが信じられないという顔で、カヒゥリは二人を見つめる。

 その事にテグスは苦笑いを浮べる。


「まあ、僕らはこういう感じだから、嫌なら抜けても良いんだよ?」

「えッ! もしかして、ウチをここに捨てていく積りッスか!?」

「なに言っているんだか。仲間なんだから、そんな事をするわけないでしょうに」

「……もう、訳が分からないッス」


 カヒゥリが今まで培ってきた価値観とテグスのとでは、よっぽどの違いがあったのだろう。

 頭痛を感じたかのように、カヒゥリは頭を素手である左手で押さえている。


「痛み止めなら持ってるよ?」

「なんだかもう、テグスのその優しさが怖いッス……」


 てっきり『~が怖い』という冗談話を捩ったのかと思い、テグスは早速背負子の中から出した痛み止めの丸薬を、カヒゥリに手渡した。

 思わずといった感じに受け取ってしまったカヒゥリは、薬を飲む前なのに苦々しい表情を浮べていた。

 



「という事が、昨日ありまして」

「なるほどのぅ。それはまた、難儀じゃのぅ」


 いまテグスたちは、あの六人の鉱石掘りの男たちと共に、出てくる《魔物》を倒して魔石に変えつつ、《大迷宮》の十九層を歩き回っていた。

 何でも行ける層まで行ってから、鉱石を掘るのを始めるのが、鉱石掘り仲間内での礼儀らしく。

 今日再会してからテグスたちが二十層を突破した事を知ると、男たちはこの層を目指して一直線だったからだ。

 その間に、ちょっとした世間話として、テグスは昨日起きた事を軽い調子で話したのだ。


「そいでか。あの豹のが、ぷりぷり怒っちょるんは」

「うっさいッス。鼠の癖して生意気言うと、食っちまうッスよ!」


 もっともその話さざるを得なかったのは、こんな風にカヒゥリがむすっとした態度を、一切崩さなかったからなのだが。

 ちなみに、カヒゥリが食って掛かっているのは、マタイソンという名前の土鼠の獣人で。身長もテグスより大きな、立派な成人男性だ。

 なのでカヒゥリの食べるというのは、獣人間で通じる冗談のようなもののようだ。


「そっちの、カヒゥリさんじゃったか、その人の言うんも分からんではないのぅ」


 マタイソンが怖い怖いと肩をすくめる横で、テグスと話をしていた男――鉱石掘りたちの統率役であるタサッケが、そんな感想を口にする。


「え、おっちゃんは分かってくれるんッスか!?」

「まあのぅ。殺して解決というんも、無常じゃけ」


 すると我が意を得たりとばかりに、カヒゥリはテグスに勝ち誇るような表情を見せてきた。

 それにテグスは、考えを変える積りはないと視線で応えた後で、視線をタサッケへと向け直す。


「ワッシャが分かる言うたんは、なにもカヒゥリさんばかりとは違うけのぅ。テグスさんの考えも分かるいうことじゃけ」

「なっ、なんでまったく違うのに分かるんッスか!?」

「似ている二つよか、全く違う二つん方が分かり易いもんじゃろのぅ?」


 そこで言葉を一度区切ると、壁に手を当てて何かを探り出し。

 しかし目的の物ではなかったのか、何事も無かったかのようにタサッケは話を戻す。


「カヒゥリさんのは、悪人でも懲らしめれば改心するっちゅう考えで。テグスさんのは、悪人を野放しにはしておけんっちゅう考えじゃ。難しい言い方をするなら、『性善派』と『性悪派』といったところかのぅ」

「セーゼンとセーアクです?」


 難しい言葉を口に馴染ませるように、ハウリナが山彦のように同じ言葉を返す。


「性善というんはのぅ。人の心の中は良いものが根底にあっちょって、悪心は環境でその上に育ったもんちゅう考えじゃ」

「じゃあ性悪というのは、人の心はそもそも悪で。良心が生まれるには、誰かからそう教えられる必要があると」

「……難しいです」

「つまり、人は悪い事を知ったから悪い事をするのか、人は悪い事を自然と考え付くかの話だね」

「分かったです!」


 テグスの補足説明で、ハウリナはしょんぼりから一転して嬉しそうに尻尾を揺らし出す。


「そんでのぅ。カヒゥリさんは悪の芽を叩けば、良きものが後から生えてくる思っちょるんじゃろな。テグスさんは悪の芽を取っても、出てくるのは悪の芽だと思っとるじゃろ」

「なるほどだから全く違うと……」


 テグスは考えも付かなかった性善と性悪というのについて、少しだけ頭を悩ませ考える。

 だがテグスが何かの結論を出すより先に、タサッケが何かを見つけるほうが早かった。


「おぉ、いい鉱脈だのぅ。ここは期待が出来そうじゃけ」

「そんじゃあ……なあ、そっちのデカイ姉ちゃん。その盾の杭で、ガツーっとやってみてくれん?」


 タサッケが指し示すところを、鶴嘴を握って打ち込もうとした、別の鉱石堀りの男――スティセガーがそんな事を言ってきた。

 ティッカリは急にそんな事を言われて驚き、テグスにどうしたら良いかという顔を向けてくる。


「ティッカリがやってみたければ」

「そ、それじゃあ、やってみようかな~」


 右の殴穿盾の上下を反転させて、杭を手側にくるように装備し直してから、ティッカリは大きく腕を引く。


「とぉ~~~やぁ~~~~~」


 そして大きく一歩踏み出して、通路の岩壁へと杭を突き立てた。

 元々が体表が硬い種類の《魔物》を打ち抜くための物なので、その一撃で壁に大穴が開く。そしてそこから皹が四方へと入ると、音を立てて剥離した岩が落ちる。


「「「おおお~~」」」

「やっぱり。見た時から、その杭はイケる思っとったんよ」


 ティッカリの一撃の威力を見て、どよめいた鉱石掘りの男たちは、落ちた石を拾って観察し始める。


「鉄と金が混じった鉱脈じゃのぅ」

「これは良い所を見つけたもんやき」

「ああ、姉ちゃんはどんどん掘ってくれててええんよ?」

「分かったの~。なら左も使えるようにするの~」


 ティッカリは左の殴穿盾も右と同じ向きに変え、殴りかかる構えを壁の前で取る。


「とや~とや~とや~とや~」


 右の次に左を打ち、そして右に戻る順で壁を破壊していく。

 その殴る邪魔をしないように、その足元で鉱石掘りの男たちが、いそいそと落ちた石を退かしながら確認をしていく。


「おおい、兄ちゃんら。こっち側に積んだ石をドンドン回収してや」

「はい、分かりました」

「石を拾うです」

「想像が難しいですね、これが金属になるとは」

「……まあ、仕事ッスし」

「とや~とや~とや~」

 

 テグスとハウリナは組んで、お互いの背負子の中へと石を入れ始め。

 アンヘイラは鉱石を興味深く観察しながら、カヒゥリはまだ不機嫌そうにしながら、自分の背負子の中へと入れていく。

 その間にも、ティッカリは次々に掘り進めていく。

 だが少しすると、ティッカリは殴りつけた腕を止めた。

 

「硬いところに到着したの~」

「おお、早いのぅ。普段ならもう少しかかるんじゃが」

「なら、姉ちゃんは、警戒がてらに休んでてええよ」

「こっちも急いで見てくきに」


 ティッカリが場所を譲るように壁の前から退くと、六人の鉱石掘りの男たちは我先にと鉱石の選別を始める。

 テグスたちも積みあがる先から、鉱石を背負子の中へと入れていく。


「あとは全部屑じゃけ。これでお終いじゃのぅ」

「拾い終わったです」

「よし、なら次に行こうや」

「次も頑張って掘るの~」

「今日は、良い日になりそうやき」

「こちらとしては《鑑定水晶》用の素材が、早く出て欲しいですね」

「いきますよ、石ころを蹴ってないで」

「フンッ。まだウチは昨日の事を納得してないッス」


 こんな調子でテグスたち一行は、そのまま次の鉱石が出る場所を探して歩き出した。

 そして十九から十六層までを巡って掘り続け。この日だけで、全員の背負子一杯に鉱石を集めた。

 さらには《鑑定水晶》用の、曇りの少ない純度の高い水晶も幾つか確保し、その作成を頼む事も出来たのだった



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