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104話 新装備たち

 クテガンに大量のボロ剣を渡したのだが、片刃剣や突撃盾に付ける棘は一朝一夕には出来ないと、投剣と捩れた形状の鏃の補給しか出来なかった。

 こうなるとあまり無理も出来ないので、テグスたちは十四から十六層で、比較的安全に魔石を稼ぐ事にした。

 そうして防具を頼んでから一月経過した時に、漸く規定量の魔石が集め終わったらしく、本格的に防具を作ってくれる事になった。


「じゃーあ、あと半月ー後に引ー渡すね。そーの間も、魔石を集ーめておいーてね」


 だがそう言われてしまい、テグスたちは魔石集めを続行する羽目になってしまう。

 でもそのおかげなのか、その半月の間も順調にテグスたちの実力は伸びていき。

 十四から十六までの《魔物》相手に、不意を打たなくても、苦戦する事がなくなった。

 試しに十七層へと繰り出してみても、不意打ちさえ出来れば、一方的に倒す事が出来る様になっていた。

 もっとも、変化後の《魔物》を真正面から相手をする場合は、多少の苦戦をしてしまうので。まだまだだと、テグスは感じていた。


「だから次の目標は、新しい防具を作ってもらったら。不意打ちなしで、ここで戦うことにしようか」

「それがいいです!」

「殴穿盾が出来たら、倒し易くなるはずなの~」

「忘れてはいませんか、人員補充を求めていたのを」


 アンヘイラの指摘に、テグスはハッとなった。


「そういえば、元々は先の層に行くのに、新しく仲間を入れようとしていたっけ」

「でも、いるです?」

「このままでも、大丈夫そうな気がするの~」

「一ヶ月以上休み無く戦ってましたからね、装備の更新の為に。実力が上がったのでしょう、その分だけ」

「ま、まあ。新しい防具を手に入れて、その確認が終わったら本部に行ってみようよ」

「……長く、空を見てないです」


 取り敢えずの予定を立てて、テグスたちは十七層から《中町》までの道程を、戻り始めたのだった。



 

 《中町》の《白樺防具店》にて、テグスたちはエシミオナから、新しい防具を受け取って装備してみた。


「どうーかな、着てみーた感想は?」

「動き易いです。鉄鱗鎧みたいなのに、伸縮性があるんですね」


 テグスの防具は、《重鎧蜥蜴》の鱗で作られた、半兜と胴鎧に手甲だった。

 その兜は《重鎧蜥蜴》の大きな方の鱗一枚を、特殊な技術で曲げて作られており。つなぎ目のない、つるりとした表面をしている。下地の当て布も通気性の良い物を使っていて、着けた時に張り付く感じはしない。

 手甲も同じ材質だが、手首の部分にだけ小さな鱗が張り付いたままの革を使って繋いでいる。

 残る胴鎧はテグスの体の前面を、下腹とわき腹から首下までを覆う、袖なしの鎧で。よく動く胴体部は《重鎧蜥蜴》の小鱗革で作られていて。胸部には補強の為に、《重鎧蜥蜴》の大鱗が何枚か使用されている。身体を捻ってみると、革に伸縮性が残っているのか、まるで服のような着心地だった。


「わふっ、気に入ったです!」


 ハウリナの装備はテグスとほぼ一緒で。違いがあるのは、半兜に獣耳を出す穴がある事と、手甲が脛当てに変わっているぐらいだ。

 以前よりももっと女性らしい丸みが出てきた身体だが、成長途中で発達不足なのか、鎧の胸元を丸く出したりはされてなかった。


「前のより、ちょっと重たいかな~。でも、それ以上に硬そうなの~」


 ティッカリの防具は、頭を完全に覆う兜と、鱗を何枚も張り合わせて作られた複層鎧に、ハウリナのよりも頑丈で重そうな脛当て。

 兜と脛当ては、二人のと使われた鱗の量が違うだけなので、割愛するとして。

 複層鎧はその重さを分散する為に、前面だけでなく背部から身体を挟み込む構造で作られている。

 胸元は、ティッカリの豊満な胸に合わせて、大きく丸く出してあり。そこには大鱗を何枚も使用して、より厚みを増してある。肩の部分は小鱗皮で作られているが、二の腕の部分には張り合わされた大鱗で腕に合わせた盾のようになっている。

 胴部も動きが阻害されないような配置で、小鱗革の上に適度な大きさに切った大鱗が付けられ。さらには腿の部分と臀部を守るような、裾状の部位が鎧に追加されている。

 そんな見た目とその暗色で纏められた鎧は、仰々しく物々しい金属鎧に見えないことも無い。もっとも当たり前の事だが、動いてみても金音はしないし、金属のよりも軽いはずだ。


「動きやすくなってますね、射易い上に」


 素材の色そのままの三者のとは違い、アンヘイラのは特別に黒く色付けされた防具だった。

 色以外でも違いがあり。胸当ては、大きな鱗一枚だけで作られていて。籠手と頭巾は、小鱗革だけで作られている。

 その守る面積の少ない見た目と防御性を見るに、ほぼ遠距離戦をする人に向けた防具だ。


「それーで、こーれがご所望の、殴穿盾ですーよ」


 テグスたちが新しい防具の、着心地と見た目を確かめている間に、エシミオナは台車に乗せて殴穿盾を運んできた。

 その見た目は十字型ではあるのだが、詳しく言い表そうとすると途端に難しい形状をしていた。

 大雑把な言い方をするならば、《装鉱陸亀》のゴツゴツした甲羅を丸く整形してから、手首より先の部分を手の形に合わせて細くし。その分、手首から肘までの部分を、より横へと広げ。最後に、肘から先の余った部分で、《長牙大猪》の牙を包んで止めているような感じだ。

 しかしこの表現に感じてしまう不安定感は、実物には微塵も感じず。寧ろこのままの形で存在しているかのような、確然とした一体感があった。

 それをティッカリが手を伸ばし、掴んで持ち上げようとして、徐に体勢を崩した。


「おっとっと~。もっと重いかなと思ったの~」

「そんなに軽かった?」

「突撃盾の二割増しぐらいかな~」


 それはテグスにしてみれば重すぎて、素の状態では持ち上げられない重量だ。

 だがティッカリは重さを気にする様子も無く、備え付けられた固定具で、自分の腕に装着する。


「握りも、良い感じかな~」


 軽く腕を上下させて、ティッカリはその感触を確かめ出した。

 特に肩の直ぐ下にまで伸びた、《長牙大猪》の牙で作られた杭が、身体に当たったりしないか。腕を引いた時、それが背負子にぶつからないかを、入念に確かめている。

 そして一通り試し終わると、一度固定具を外して、杭先を手の先にくるように上下反転させて装着する。


「こっちにも、握りがあるの~」

「使わなーい時に、反ー対側で邪魔にならないよーうに、工夫するのが大ー変だったけどーね」


 どうやら固定具にやや傾斜が付けられていて、肘側に回った握りが、ティッカリの腕に当たらないように工夫されているようだ。

 加えて、この場で確かめるわけにはいかないが、先が尖った牙杭は頑丈そうで、ティッカリの力で繰り出したりしたら、鉱脈の岩盤すら掘削できそうに見える。

 ティッカリもその頼もしさが気に入ったのか、おもちゃを貰った子供のように、顔を綻ばせて嬉しがっている。


「それで、代金は今まで払った分で足りてますか?」

「少ーし足りーないけど。余っーた革や甲羅の削っーた分と、必要なくなっーた古い装ー備を下取りすーれば、十ー分に相ー殺可能だね」


 そんなに言うほどどちらにも価値は無いはずなので、エシミオナはオマケしてくれるのだ。


「有り難うございます」

「いい防具、ありがとうです!」

「殴穿盾、気に入ったの~」

「良い物だと判断します、この黒さは中々ないので」

「はいーはいー、補ー修も随時受ー付けているから。他ーの所に持っーていかないでね」


 冗談ぽく言ってきたエシミオナの最後の一言に、テグスたちは分かったと頷き返してから、店を後にした。

 そしてその足で、足りなくなってきた武器の補充を頼んでいた、クテガンの店へと向かった。


「おっちゃーん、投剣とか出来てる?」

「おおー、待っていたぞ。投剣だけでなく、他の武器も色々と作ってみたんで受け取れ」


 先ずクテガンが差し出してきたのは、テグスとアンヘイラの分の投剣が数十本。前のと見た目は変わらないが、持った時の重心と重さから、テグスは前のとは少し材質か製法が変わっていると判断した。

 しかも手で弄ぶようにして確認すると、投げ易さは据え置きされていた。


「よりよくなってますね、前のより」


 アンヘイラもテグスと同じ事を思っていたのだろう、その口から素直な感想が零れてきた。

 続いて出てきたのは、ティッカリ用の盾に付ける鉄棘だったのだが。


「それには、コレは必要ねえなぁ」

「え~と、ごめんなさいなの~」


 ティッカリの殴穿盾にある杭を見たクテガンは、大人しく鉄棘を下げた。

 その代わりに出してきたのは、先がレの字になった鶴嘴のような先端を持つ、鋼鉄製の短棒が二本。


「これは獣人の嬢ちゃんにだな」

「……必要ないです」

「まあ、予備武器として持っててくれよ」


 引き下がる素振りがないクテガンから、あまり気乗りしない様子を隠す事無く、ハウリナはそれを受け取った。そして空になっていた太腿の鞘の中に入れ、止め具で動かないように固定する。

 次に出してきたのはアンヘイラ用の、先細りするように捻られたのと、先から見ると十字になっている鏃だ。


「他のは本当に要らないのか?」

「通常は普通の鏃で十分ですよ、これらで硬いのと大柄のを相手にするので」


 アンヘイラの意見を面白く無さそうに聞きながら、クテガンが最後に出してきたのは、テグス用の革鞘に入った剣。

 テグスが手にとって引き抜いて手に持ってみると、前のと同じ片刃の剣だった。

 しかし前のよりも重量が増している上に、明らかに先端に重心が来ていた。


「小剣で手数は確保できるからな。なら必要なのは、相手を叩っ斬る得物だろ」

「これだと叩き斬るというよりも、叩き切り潰すだと思うけど。しかもこれ、剣じゃなくて鉈を持った感触なんですけど?」

「鉈だろうが剣だろうが、より深く斬れる方がエライだろ」


 クテガンの独自理論に、テグスは苦笑いを浮べ。そしてありがたくその鉈剣を受け取り、左腰に吊った。


「よし。じゃあ感想を待ってるからな」


 テグスたちに自分が作った武器が装備されているのを、満足げに見ながらクテガンはそう言ってきた。


「とりあえずは、使ってみます」

「使うかわからないです」

「苦情を言いにきます、使えなかったら」


 新しい装備を貰った三人は、そう口々に言いながら店を出て行き。最後にティッカリが申し訳無さそうな顔で、頭を下げてから店を出た。


「それじゃあ、新しい装備の使い心地を確認しながら。出来そうだったら、二十層の《階層主》に挑んでみようか」

「わふっ、いっきに進むです!」

「殴穿盾の雄姿の、初お披露目なの~」

「矢の限界が来ますね、十字の鏃が駄目なら」


 テグスたちは今日の目標を決めてから、十一層への階段を下りていったのだった。


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