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101話 素材集め

 テグスたちは十四層に素早く進むと、そこに出てくる《魔物》と戦い、慣れ具合を確かめていく。

 十四層から出てくる、五種類の《魔物》――《跳躍山猫》、《歩哨蜥蜴》、《無謀熊鼬》、《飛針山嵐》、《硬毛狒々》。

 その内の何匹かで組んで度々襲ってくるが、テグスたちは手傷を負う事無く、倒す事が出来る様になっていた。


「前に来た時よりも、大分対応出来るようになってるね」

「厄介な、はりねずみを気にしなくて良いです!」

「前掛け、様さまなの~」

「前の経験が生きましたね、装備をぼろぼろにしてまで戦った」


 そう、それはテグスたちが以前に得た経験もある。

 だが《硬毛狒々》の前掛けの防御性能のお陰で、《飛針山嵐》が飛ばしてくる棘を、装備品の消耗が少しでやり過ごせるようになったのが大きい。

 もっともその少しある消耗と言うのも、ティッカリが顔面を防御するために使う突撃盾だけで、それでも多少の傷が増えるぐらい。

 なのでもう完勝と言って良いぐらいの戦果だ。


「このまま慎重に、先に進もう」

「臭いと音で見張るです」

「防御なら任せるの~」

「ならば射殺ですね、残った役割は」


 その後も出て来る《魔物》たちを倒して行き。《硬毛狒々》の皮以外は、全て魔石に変えて拾っていく。

 通路に出てくる罠も、かさ張らずに軽いものは、テグスが解除して回収して進む。


「罠の凶悪性と素材は、上の層とあまり変わらなかったや」

「それはいいこと、です?」

「罠なら、優しいに超したことはないかな~」

「難解な罠なら大変でしょう、テグスの手に負えないほどの」

「《中四迷宮》に《仮証》時代から潜っていたから、罠の発見と解除は得意だけどね」


 そんな風に、油断はないが極端な緊張もない心理状態で、テグスたちは十四層、十五層、と歩みを進めていく。

 そうして十六層の下り階段を発見し、それを下り始めた。


「この先から、また新しい種類の《魔物》が出てくるようになるんだったよね」

「クマ、イノシシ、ヨロイトカゲ、おおきな猿、それと岩のカメが出てくるです!」

「マッガズさんたちには、感謝なの~」

「戦う相手が分かりますからね、戦い方はまるで参考になりませんでしたが」


 以前マッガズに連れられて見た《魔物》たちを思い浮かべながら、テグスたちは階段を下り続ける。

 そして階段の終わりが見えてきた所で、テグスたちはもう一度装備を点検する事にした。


「装備品の確認は終わった?」

「わふ、確認したです。ティッカリ、それどうするです?」

「う~んと~、前掛けは取りあえずこのままでいいかな~。防御力がない訳じゃないの~」

「クテガンさんの鏃の矢を何本か用意しました、武器に多様性は必要だと思いまして」


 全員の準備が終わったと確認して、テグスは十七層へと先に下りていく。


「『動体を察知パルピ・ベスタ』……」


 最近ではティッカリの耳と鼻のおかげで、使う機会がめっきり減った索敵の魔術を使用する。

 それは念のために行ったという意味合いも強いが、テグスはこの層で無茶をする積りはなかった事が大きい。


「……狙いは防具にするための《重鎧蜥蜴》と《装鉱陸亀》の素材だから。この近場で、動きが遅い反応を狙っていくからね」

「わふっ、おまかせするです」

「防具の更新が目的だから、いいんじゃないかな~」

「弓の出番はあまり無さそうですね、硬そうな相手に限定してしまうと」


 そうしてテグスが先導しつつ、一行は音を立てないように気を付けながら通路を歩いていく。

 テグスの使用する索敵の魔術は、通路の構造を無視して、一定距離の反応を探るもの。なので、先ず向かっていった先で行き止まりに当たってしまった。

 通路を戻りがてら、もう一度索敵の魔術を使用し、次の反応に向かう。

 途中の罠を解除しつつ、その反応にたどり着く。

 そこには二匹の《重鎧蜥蜴》と一匹の《装鉱陸亀》。

 前にも見たけれど、その二種はどちらもテグスの身長ほども高さがあり。仮に二本足で立ち上がれば、ティッカリの背を越えて、ここの天井に頭が着くぐらいに大きい。

 その存在を通路の角で隠れながら確認したテグスは、自分とアンヘイラが先に仕掛けると、喋らず身振りで伝える。

 そしてアンヘイラと目を合わせ。首の上下の振りで、調子を合わせてから、通路へと躍り出る。


「『身体よ頑強であれ(カルノ・フォルト)』!」

「『身体よ頑強であれ(カルノ・フォルト)』……」


 テグスは引き抜いた投剣を、二匹の《重鎧蜥蜴》に二本ずつ、身体強化の魔術で底上げした膂力で投げつける。

 アンヘイラは貫通力に優れた捻りられた鏃の矢を、身体強化した腕で限界まで引いた弓で放つ。

 二人の呪文で存在が分かったのだろう。《重鎧蜥蜴》は確認するように顔を二人に向け、《装鉱陸亀》は手足を引っ込めて首を引っ込めようとし始める。

 しかしテグスの投剣を追い越して、鋭い速さで進む矢が、その引っ込めかけた頭を横から射抜いた。


「オオオオオォォォ……」


 古びた筒が風で鳴っているかのような声を出し、《装鉱陸亀》は首をだらりと垂れ落とし。引っ込めていた手足も、甲羅から力なく出てきた。

 その事に驚いた様子の二匹の《重鎧蜥蜴》に、テグスの投剣が飛来する。

 しかしその鱗によって、四本投げた内の三本は弾かれてしまう。残る一本は運良く、《重鎧蜥蜴》の小さな目に飛び込み埋没する。


「ケエエエエエエェェ……」


 鶏の鳴き声を太くしたような悲鳴を上げて、その一匹は倒れる。


「近付くよ!」

「おまかせです!」

「頑張って追いつくの~」

「お役御免ですね、ここからは」


 テグスは片刃剣を抜いて、ハウリナは黒棍を握り締めて、前方に弾かれたように駆け出す。

 ティッカリは新装備の前掛けの所為で、走るのが不便ながら、その後ろを出来る限り急いで付いていく。

 一方でアンヘイラは、弓矢が通じる相手では無いと判断して、後方の警戒に入った。


「『刃よ鋭くなれ(キリンゴ・アクラオ)』」

「『衝撃よ、打ち砕け(フラーポ・フラカシタ)』」


 敵へと近付く二人は、自身の持つ武器に魔術を掛ける。テグスは鋭刃、ハウリナは震撃だ。


「ケエエエエオオオオォォォ!」


 それに反応するかのように、《重鎧蜥蜴》も大きな鳴き声を上げた。

 すると身体にある大きな鱗の間にある、茶けた色合いの小さな鱗が、鉄のような艶のある鈍色へと変わりだした。

 ちょうどそこに、大きな鱗の隙間を狙ったテグスの剣が突き刺さる。


「硬い!?」

「あおおおおおおおおん!」


 魔術で強化した刃だというのに、テグスの剣は弾かれてしまった。

 ハウリナも似た場所へと黒棍の突く一撃を入れたが、皹が入る事すらなかった。


「ケエエエエオオオオォォォ!!」

「仕切り直すよ!」

「わふッ!」


 身体を回転して振り回してきた鰐のに似た尻尾を、テグスとハウリナは後方へ跳んで逃げ。

 着地した瞬間に、テグスは関節部分狙いで、ハウリナは鼻面狙いで、武器を叩き込む。

 だがそれも鱗に阻まれてしまった。


「お待たせなの~!」


 そこにティッカリがやってきた。

 テグスとハウリナの戦いを見ていて、相手の防御力が高い事を察知していたのだろう。その右手にある突撃盾には、杭のように太い棘の装備が付けられている。


「ケエエエエエエエ!」

「とおやあああああ~~」


 近づいてくるティッカリに応戦する気だったのか、《重鎧蜥蜴》は地響きを立てながら前進し、体当たりをしようとしている。

 ティッカリはそれを受ける自信があるのか、近付く速度が落ちない。

 そうして両者が激突する。


「このおおお~~~」

「ケエエエエエ……」


 ティッカリは近付いてきた《重鎧蜥蜴》に、左の突撃盾をハンマーのように使って叩き付け、そのまま力任せに地面と挟み込んでしまう。

 並みの《魔物》ならひき肉になっている一撃。しかし《重鎧蜥蜴》は、少し声が弱々しくなってはいたが健在だった。


「とおやあああ~~~~」


 だが動きが止まったのを見逃さず、ティッカリは棘を付けた右の突撃盾を、《重鎧蜥蜴》の首元の大きな鱗が無い部分へと叩き込む。

 その棘が小さくても頑丈な鱗に阻まれ、一瞬突撃盾の動きが止まった。

 ティッカリの一撃でも無理かと思われたその時、鱗が破砕し棘が《重鎧蜥蜴》の体内へと突き刺さった。


「ケエエエエエエ……」


 首の骨を折る音と《重鎧蜥蜴》の鳴き声が響く。

 しかしどう言う事か、《重鎧蜥蜴》の下半身は動いていて。どうにか頭の先にいるティッカリに、尻尾で攻撃しようともがいている。


「もう一度なの~~~」


 ティッカリはしぶとい《重鎧蜥蜴》に止めを刺す為に、一度右手を引き抜き。もう一度、力一杯に叩き込んだ。

 折れた首の骨が太い血管を傷つけたのか、一度目よりも多くの血がそこから噴出する。

 その後も《重鎧蜥蜴》はもがいていたが、段々と力弱くなっていき。最終的には伏せをするような体勢で、地面に沈んだ。


「ふぃ~、大変だったの~」

「硬すぎです!」

「でもこんなに硬いんだから、良い防具になりそうだよね」

「一苦労だと思います、ここから剥ぎ取るのすら」


 剥ぎ取るのは鋭刃の魔術が使えるテグスと、その補助をする為にティッカリが行い。他の二人は周辺警戒を行う。


「小さな鱗の隙間に差し込めばいけるね」

「力仕事ならお任せなの~」


 テグスが小さな鱗の隙間に短剣を入れて、下腹の喉元から股間部までをちまちまと切り開いていき。ティッカリがそこに手を入れて、力任せに肉から剥がしていく。

 首と尾の部分は、作業が煩雑になりそうだった為、頚椎と尾てい骨部分の関節を断ち切ることで、皮剥ぎを終了させる。

 一匹目が終わりなので、二匹目に取り掛かる。


「うん? なんでこいつはこんなに柔らかいんだ?」


 テグスが投剣で仕留めた二匹目の、小さな鱗に短剣を刺したテグスは、妙な手応えに首を傾げる。


「テグス、どうかしたの~?」

「いや、小さな方の鱗が切れちゃえるんだよね……」


 確かに短剣を普通には刺せない強度はあるが、鋭刃の魔術を込めれば呆気なく切れてしまう強度だ。

 テグスは試しに短剣をその状態のまま、先ほど剥ぎ取った皮へ突き刺してみた。だが先ほどと同じく、呆気なく弾き返されてしまう。

 これでこの二匹の鱗の間には、明らかな強度の差があることが分かった。


「これってもしかして、変化を待って倒さなきゃいけない相手なのかな?」

「そうだとしたら、倒すのが大変なの~。大きな鱗はそのままでも硬いから、一匹ずつにした方が良いと思うかな~」


 二匹目の皮に手早く短剣を入れながら、テグスが考察を述べ。ティッカリは皮を剥ぎながら、二匹目の大きな鱗を突付いて強度を確かめて、そう返してくる。


「もしもあの亀もそうしないといけないのかと思ったら。ちょっと気が滅入るね」

「ちょっと試してみなきゃなの~」


 皮を剥ぎ終えてから、《中二迷宮》に出てくる《取手陸亀》の甲羅で作った突撃盾で、ティッカリが《装鉱陸亀》の甲羅を軽めに殴った。

 すると岩が剥離するように、甲羅の一部分が剥がれて地面に落ちる。

 このことから、どうやら変化を待つ必要があるらしいと、テグスは理解をしたのだった。



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