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100話 《中町》の《白樺防具店》

 面倒な事が終わり、テグスたちは朝日も出ない朝早くに《大迷宮》へ入り。《中町》へ朝食時にたどり着いた。


「コキトの武器は、クテガンのおっちゃんの所に置いていこうか」

「あっても、ジャマです」

「クテガンさんは、この時間に起きているかな~」

「大丈夫でしょう、規則正しい生活を送っていると思います、鍛冶屋で働く人は」


 そうして四人はクテガンの店へ行き、開いていた扉を開ける。


「何だお前ら。こんな朝早くに」

「ちょっとした用事の前に、ボロ剣を持ってきたんだ」

「それと整備もたのもうかと、使用した投剣の」

「それなら、代金代わりに交換してやる。贔屓にしてもらっているからな」


 眠気眼のクテガンに、コキトの武器とテグスとアンヘイラが使用した投剣も手渡し。その代わりにクテガンは、投剣をその数の分二人に渡す。

 そして眠いからさっさと帰れと、テグスたちは店を追い出されたので。朝早くから営業している食堂にて、たっぷりと朝食をとった。

 そんな風に時間を経ると、鳴りを潜めていた《中町》の活気が、段々と蘇ってくる光景が見て取れた。

 色々な店が開けられ、職人たちが忙しく働きだし、それと共に道行く《探訪者》の姿も増え始める。


「それじゃあ、この木札にかかれた店にいってみよう」

「わふっ、どんなところか楽しみです!」

「前掛け作ってくれるかな~」

「きっと作ってくれるでしょう、あの店主の紹介があるのですし」


 テグスたちは流れ始めた人の流れに乗って、その店へと向かって歩いていった。

 




 そうやってたどり着いた店には、大きな木板の看板に《白樺防具店》との文字と、白樺の木の姿が刻まれていた。


「なんだか、やたらと大きな店だね」

「となりの、倍はあるです……」

「高さもあって、入りやすそうなの~」

「ティッカリ並みの大柄なのでしょうか、ここの店主は」


 店の外観は、確りとしていながらも、縮尺を間違えたかのように何故か巨大な建物になっていた。

 その対比から、看板は普通の大きさのはずなのに、表札のように小さい気がしてくる。

 何はともあれ、入らないことには始まらないと、テグスは店の扉に手をかけた。


「こんにちはー、って意外と扉が軽い」


 押し戸だった扉をテグスが開こうとすると、かなりの大きさなのにきしみ音一つなく、滑るような軽さで開いていく。

 テグスが思わず扉の構造を見てみると、蝶番が金属製で特殊な形をしていて。それがこの滑らかさの元だろうと予想できる。


「はーい。どちらさま……」


 見たことのない蝶番の形を見ていたテグスに、そんな気の抜けた声が掛けられる。

 テグスだけでなくハウリナたちも目を向けると、薄暗い店内の机の上に上体を伏せている、白髪の人が居るのが分かった。


「あの、《ソディー防具店》店主のメイピルさんからの紹介で、《硬毛狒々》の毛皮で前掛けを作ってもらう為に尋ねたんですが」

「長い……」


 テグスの説明を一言で斬って捨て、のろのろと手を差し出してくる。

 なんだろうかと少し考え、メイピルから貰った木札をその手の上に載せた。

 その重みを感じて動く人形みたいに、その人はのろのろと顔を上げると、その木札を見た。


「ああ、あいつの紹介か……」


 納得したように呟き、重そうに体を机の上から持ち上げていく。

 頭の白髪で老人かと思いきや、起こし始めた体は皺のない若々しいもの。前掛けの中にある、ティッカリ並みに大きな二つの胸の膨らみから、女性であるということが分かる。

 

「ふぅ~、いらっしゃーい。ここの店主ーの、エシミオナです。おや、そんな防具で、ここまで?」


 そして完全に体を起こすと、長い白髪で隠れたままの顔から一仕事終えたようなため息が。その後で、ゆったりとした口調でそんなことを言ってきた。

 その言葉から、どうやら髪で前が隠れていても、その隙間から確りとテグスたちが見えているようだ。


「ここまでこれで不満はなかったんですが。この先に行った時に、ちょっと困りまして」

「ああ、だーから《硬毛狒々》の前掛けねー。その先でー、防具素材を手に入れるのーかね」

「その積もりなんですが……大丈夫ですか?」

「あー、あいつの紹介だからーね。素材持ってーくれば、作って上げらーれるよ」

「いえそうではなくてですね。ゆらゆら揺れているので、大丈夫なのかなと」


 喋るたびに腹筋をしているかのように、前に後ろにとゆらゆら揺れているので、テグスは少し心配になってしまったのだ。

 それを聞いて、エシミオナは笑い出した。

 

「あはっ、あはっ。大丈夫だーよ。樹人族の特性ーで、長い間日に当たってーないと、髪が白ーくなって、ちょっとーふらふらするだけーだから」

「それって本当に大丈夫なんですか?」

「大丈夫に、見えないです」

「特異体質なーのか。こっちのー方が、防具の作成作業ーをするとき、手先が器用ーになるんだよ」


 だから心配するなと言われれば、テグスたちが気にする事がいけないような気さえしてくる。


「えーっと、じゃあ《硬毛狒々》の前掛けなんですけど」

「毛皮なら、持ってきてあるの~」


 そういってティッカリが取り出したのは、少し獲ってから時間が経っている、《硬毛狒々》の毛皮が五枚。

 その手触りを確かめて、エシミオナはカクリと頭を下に動かす。どうやら頷いたらしい。


「あー、それじゃーあ。その毛皮五枚と引き換えーで、前に下取りしたーのと交換しーない?」


 そう言って出してきたのは、新品同然に見える前掛け。

 しかもかなり大柄な男性用に作られたものらしく、巨躯のティッカリに着せても裾が余るほど大きそうに見える。


「交換で良いんですか?」

「うん。これー解いて、外套ーに作り直すーより。毛皮から作ったー方が、仕上がりがいいーから」

「ガイトーです?」

「これ結構毛深いから、防寒具かな~?」

「うんにゃー。王族ーとか貴族ーとかが着る、外着兼防具ーだよ。着色するーと、見た目もーいいしね」

「これで防げますからね、小さな飛び道具などは」


 そういうことならと了承して、試しにティッカリに鎧の上から着させてみる。

 輪になった部分に首を、袖に腕を通し、腰元の紐を後ろでくくる。

 そうするとティッカリの首下から踝までの前面を、前掛けが覆った。


「ティッカリ、着てみた感想はどう?」


 テグスの問いかけに、ティッカリはその場で上半身を捻ってみせ、両腕をぐるぐると回す。


「動くのに問題はないの~。でも裾が長いから、走るのには向いてないかな~」

「走るのは、まかせるです!」

「ティッカリは防御に専念をすればいいかと、特定の相手の時は」

「うんうん、似合ってーる。それじゃあ、ありがとーござーましたー」


 前掛けを手直しする必要はなさそうだからか、エシミオナはゆっくりと上体を机に横たえた。


「あ、あの。これからここで防具を作ってもらうのは、出来ますか?」

「素材ーとお金ーを、持ってきたーらね。それーと、次からーは、もうちょーっと遅くーに来てね……」


 そしてすうすうと寝息を立てて寝始めてしまった。

 無用心なその姿に、少し心配になるテグスだったが。《中町》に店を構えられるぐらいなら、それなりの強さはある筈なので、放っておいても大丈夫だろうと判断した。

 

「それじゃあ、次の目標は十七層から出てくる《魔物》の素材で、防具を新調することだね」

「わふっ、それと美味しそうな肉を手に入れるです!」

「力いっぱい、戦うの~」

「金稼ぎも重要です、防具を作るのならば」


 店の外へ出てから、四人揃ってそう意気込み。十一層への階段へと向かっていった。



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