に:SIDE 奏
裕は、私より15歳も年上であり、私の恋人。
仕事は、本を書いている…らしい。
なんでも、20歳の時にすごい賞を貰って以来、飛ぶように裕の本が売れて映画化された作品が4本もあるらしい。
ま、私には関係ないけど。
裕は、扉の所で佇む私に気がつき、おはようと言った。
私は笑った。
裕も笑った。
裕の笑顔はとても上品だから、私はいつも見とれてしまう。
「奏、今日はなにもないの?」毎朝同じ質問をする。
そして、私は毎朝同じ返事をする。
「ないの。」
裕はソファーから立ち上がると、私の頭を撫でた。
裕の優しい目が私を捕らえる。
「今日も本、書くんでしょ?」
私は裕の仕事の時間が大嫌いだから、いつもだだをこねる。
「奏のためにね。」
裕は抱きしめる。
私より20センチも上から、優しく。
何より、この瞬間が悲しいのなんて知りもしないで……
「今日は来るの?」
裕は、私の髪を撫でた。
ん?とだけ言って、適当にごまかしている。
「来るんでしょ?嶋田さん。」
裕はくすっと笑って私から離れ、タバコに火をつけた。
「奏は嫌いなの?」
私は首だけで返事した。だって、裕のタバコ吸う時の手が綺麗で大好きだから…。
「悪い人ではないんだけどね。」
白い煙りが空気に熔けてゆく。
そもそも、嶋田さんとは、裕の担当さんで裕をいち早く見つけた…言わば、産みの親みたいなものらしくて、締め切りでもないのによく家にくる人。
やけにスタイルがよくて頭の良い、美人な人。
そして私の天敵。
絶対、この人は裕を狙っている。
「さっ!朝ごはんでも食べようか?……って言っても、もう昼か。」
裕は白くて綺麗な腕を天井に伸ばす。
「お腹空かない。」
「え?だめだよ奏。ご飯は栄養なんだから。」
「知ってるよ。」
裕はくすりと笑う。
なんで、こんな無愛想な言い方に笑うのかわからなかった。
でも、裕が笑ったのが嬉しくて、私も笑った。
裕が流していたボリュームの小さいラジオが、お昼を告げた。
「外に行くの?」
私は暑さに負けてクーラーの下に移動した。
「外がいいの?」
裕はタバコを灰皿に押し付けて、ふぅっと煙りを吐き出した。
「裕は?」
裕は、そうだね…、と言って窓の側に立った。
裕は大きい。
私も小さい方ではないはずなのに、裕と並ぶとまるでチビに見える。
そのうえ、裕はスタイルがいい。
以前、モデルをやらないか?と言われたらしい…
イヤミな話し。
「1時には嶋田さんが来るから、コンビニにでも行く?」
裕は、にっと笑った後で、奏のコンビニ、と付け足した。
裕はやたらと私の働くコンビニに行きたがる。
当然、自分があの『越前裕』であること、そして私の彼氏である事を隠して…
みんなには[叔父さん]と言ってある。
「…嶋田さんになんか買うの?」
裕は首を横に振って、行こう、と足早に玄関に向かった。