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追っ手

ウルフ族は、愛情でしか妖力を手に出来無いと書きましたが、ウルフ族の基本的な生命維持は 紋章の力でまかな)っています。

だから、恋人がいなくても生きて行けます。

愛情にも色々有りますから。親子愛、友情、自己愛 などで、多少 妖力が生まれます。

ミラルドが 容姿を維持出来無いのは、愛情そのものを否定してしまった為です。

それでも 諸々の愛情で 妖力が溜まり、月に一回程度 大人に成ります。

彼には、制御出来ません。

今は、月に2~3回 変化出来る様に成りました。

瑞希の愛情のおかげでしょう。






 今夜も瑞希様がお泊りになられる。あの事を話すには、良い機会です。

 夕食の後、ラルはお風呂に入るよう進められ素直に地下に降りて行く。流輝はラルの気配が消えたのを確認してから、瑞希に話し掛けた。


「明日は、ミラルド様とデートですか?」

 流輝は、笑みを浮かべ優しい表情で訊く。瑞希は、頬を赤らめ頷いた。

 何度かミラルドと会ううちに流輝や涼の勧めで、二人で出掛ける事になったのだ。

「こんな時に話すべき事では無いのかも知れませんが、聞いて頂けませんか?」

「何の、話しですか?」

 瑞希は不思議そうに小首を傾げた。

「ミラルド様の昔の話しです」

「ミラルドさんの?」

「はい。……瑞希様には、辛いお話しに成るかも知れません……」

 瑞希は、まだミラルドのことをよく知らない。ミラルドの事ならどんな小さな事でも知りたいと思った。瑞希は分かりましたと神妙な顔で頷いた。瑞希の返事を訊いて、流輝はゆっくりと話し始めた。


「ミラルド様には、その昔愛する人がいました」

 ……愛する人……

 瑞希は、いきなり鈍器で殴られたような衝撃を受けた。

「二人共、とても深く愛し合っていました。ミラルド様は、在る処の御当主で、その座を巡って争いが絶えなかったのです」

 ……当主?……

 瑞希は聞きなれない言葉に引っ掛かりを憶える。

「ミラルド様はとても優しい方で、話し合いで解決しようとなさいましたが、相手の卑怯な手により命を危険にさらされたのです」

 ミラルドさんの命を狙われていた? 

「その時、ご自分の命を投げ出してミラルド様を助けて下さったのが、ミラルド様の奥様でした」


 ……奥様……

 その響きが胸を握りしめ、ギュッと締め付けられる。息ができない程の衝撃に苦しくなった。

 鈍器で殴られたような衝撃が続く。ミラルドの事を知りたいと、そう思っていたのに。今は、聞きたく無い。耳を塞ぎたい気持ちだった。しかし、瑞希の様子に気付かないのか、流輝は話を止めようとしなかった。


「ミラルド様の目の前で、奥様は逝って仕舞われました。その時のまま、まだ苦しんでおられるのです」

 ミラルドさんは、結婚していた? そして奥さんを亡くしていた……

 瑞希はショックの余り俯いて顔を覆った。

「ミラルド様の時は、あの日のまま止まってしまったのかも知れません」

「……貴方なら……。瑞希様なら、ミラルド様の心をお救いする事が出来るかも知れません」

 流輝は最後の言葉に力を込めて言った。瑞希は、顔から両手をはずし無言のまま俯いている。

「私は、そう信じています。……こんな話しを聞かせて申し訳有りません。しかし、瑞希様にはミラルド様の事を知っていて頂きたかった」

「……私は、お二人の事を心から応援しています」


 流輝が話し終え、しばらく座ったまま呆然としていた瑞希は、流輝がお茶の用意をしている間に、ふらふらとリビングを出て行った。

 借りてる部屋に入り、ベッドに倒れ込む。瑞希の心は沈んでいた。

 暗い暗い湖の底に居る様に、何も見えない。何も聞こえない……

 それ位、衝撃的な話しだった。

 涼さんが言っていたのは、この事だったのか……

 私に、彼の心を癒やす事が出来るのだろうか……

 瑞希の胸は、不安だけで満たされる。苦しい、苦しい。不安の海で溺れてしまいそうだった。


 ラルはそっと、瑞希の様子を伺っていた。泣いているようだ。怒りが込み上げてくる。

 小さな拳を握り締めて、ラルは 階段を降りていく。リビングのドアを荒々しく開けた。


「流輝! なぜ瑞希に話した」

「なぜだ!」

 ラルは、流輝に詰め寄った。

「……聞かれていたのですか……」

「瑞希は知らなくても良い事だろう。瑞希に重荷を背負わすなよ!」

「……申し訳有りません……。ですが、瑞希様にミラルド様の事を知って置いて欲しかったのです」


「貴方が負っている傷がどんな物か、少しでも知って置いて頂きたかったのです。貴方にとって、瑞希様が大事な人だから」

 ラルは俯き、拳を振るわせる。

「……俺の正体を瑞希に言うつもりは、無い。だから、もう俺の事は何も話すな……」

 消え入りそうな声でそう言って、ラルも二階へと上がって行った。


 ラルは、瑞希の部屋をノックする。

「僕だよ、瑞希起きてる?」

「ラル君? どうぞ……」

 扉を開け、ラルはベッドの側まで歩いて行った。横たわる瑞希を見下ろす。瑞希は、うつろな瞳をしていた。

「眠れないの?」

「うん……」

「流輝からミラルドの事を聞いたんだね」

「……うん……」

「ごめんね。流輝が変な事言って……明日、デートでしょ? 大丈夫?」 

「だ、大丈夫よ、きっと。問題ないわ」

 瑞希は自分に言い聞かせるように、何度も頷いた。

「でも、瑞希が気に病む事は無いよ。瑞希には、関係の無い事でしょう?」

「私には、関係の無い事かも知れないけど、気になるじゃない……」

 好きな人の事は、何でも知りたいじゃない。それが女心でしょう? でも、かなりショッキングな事実だったけど……

 自分の思考に浸かってる瑞希を、もう遅いから寝ようかとラルが現実に引き戻す。瑞希は、掛け布団を目元まで引き寄せ目を閉じた。


 銀牙の事、葵の事、ミラルドの事、顔も知らないミラルドの愛した人の事……頭の中でぐるぐると渦を巻く。瑞希は渦に呑まれる様に、眠りの世界へと落ちて行った。



 その頃、流輝は眠れない夜を過ごしていた。

 あぁ。やはり私余計な事を言ってしまったのでしょうか。何と愚かな事をしてしまったのでしょう。時を戻す事が出来るならばそうしたい気持ちで一杯です。

 明日は、お二人に謝罪しましょう。私の精一杯の懺悔(ざんげ)を致しましょう。でも、許して頂けるのでしょうか……



 一方、ラルも眠れずにいた。

 寝返りを打っても何をしても、眠る事は出来なかった。

「あ~駄目だ、眠れない」

 ラルは水を飲む為に、階下に行こうと部屋を出た。

 瑞希は、もう寝たかな? ラルは足を止めて、瑞希の部屋を覗いて見た。何だかうなされている様だ。ラルは裸にガウン姿だったが、構わずに瑞希のベッドに近付いて行った。

「だっ、駄目、……逃げて……」

 悲痛な声が洩れ、零れた涙が枕に吸い取られていく。

「どうしたの? 瑞希」

 ラルがそう声を掛けた時だった。


 身体が一瞬震え、徐々に肥大していく。抗いようもなくラルは大人の姿へと変わってしまった。瑞希に、大人の姿を見られるかも知れないと思ったが構わずに声を掛けた。

「瑞希どうしたの?」

 と、瑞希の体をを揺り動かす。

 瑞希は“はっ”と目を覚まし、止めど無く流れる涙もそのままにミラルドに抱き付いた。

「どうしたの? 怖い夢を見たの?」

 ミラルドは優しく声を掛ける。瑞希は、しゃくり上げて泣いていた。

「話してご覧。どんな夢を見たの?」

 ミラルドがなぜここに居るのかという疑問も持たずに、瑞希は小さく頷き、話し始めた。


「暗くて……長いローカを逃げて。……その後を、山本銀牙が追ってきて。走っても 走っても、距離が広がらなくて……」

 瑞希は、途切れ途切れに話す。

「そしたら、銀牙の爪が物凄く伸びて、ミラルドさんと私の身体を貫いて、それで……」

 又、涙が零れ落ちた。

「大丈夫だ。大丈夫だよ、瑞希。そんな事起こらないから、ね」

 ミラルドはあやすようにそう言って、瑞希の身体を優しく抱き締め背を撫でた。

「ずっと側に居るから、眠ると良いよ。今度は怖い夢を見無い様に。おまじないだ」

 そう言って、ミラルドは瑞希のおでこにキスを落とした。

 瑞希は少し驚いたが、身体の強張りが溶けて行くように、安心して再び眠りに着いた。

 ラルの姿で何度か一緒の布団に入った事はあるが、大人の姿だと物凄く緊張する。

 早くベッドから降りたいが、瑞希がしがみ付いたままで動く事が出来なかった。それから三十分掛けて、四苦八苦しながらどうにかベッドから抜け出す事が出来た。


 朝になっても、瑞希の頭にはまだ昨日の事が渦を巻いていた。

「あっ、いけない。今日着て行く服、まだ選んで無かった。早く帰って選ばなきゃ」

 悪い事を頭の隅に追いやり。素早く着替えを済ませ、階段を下りて行く。リビングには眉根を寄せた情けない顔の流輝が居た。

「おはよう御座います瑞希様。……昨日は本当に申し訳有りませんでした。……余計な事を話してしまいました」

 見るからに、流輝はしゅんと項垂れている。

「いいえ、話して貰えて良かったです。確かにショックでしたけど、良い事も悪い事も好きな人の事は知って置きたいですから」

 ショックという言葉に流輝は身体を震わせる。

「本当に話してしまって良かったのでしょうか」

 流輝はもう一度繰り返す。

「良いんですよ。気にしないで下さい。余り自分を責め無いで――――」

 そう言いながら瑞希はチラリと時計を見る。

 いけない、早く帰らなきゃ。

「すみません、流輝さん。一度家に帰ります」

「では、朝食はいかがなさいますか?」

 家で食べます。それじゃあ又~。と、慌てて出て行った。

 あ……言葉をお掛けする暇も有りませんでした……


 流輝は仕方なくリビングに引き返した。その直後にミラルドが降りて来た。

「おはよう御座います、ミラルド様」

 流輝は平静を装いミラルドに声を掛ける。

「おはよう。……瑞希の声がしてたみたいだけど……」

「あっ、はい。一度家に戻られると申されて、出て行かれました」


「あの、ミラルド様。昨日は差し出がましい事を致しまして、本当に申し訳有りませんでした」

 流輝は、深々と頭を下げる。

「……過ぎた事を言っても、仕方無いだろう」

 ミラルドのいら立ちを含んだ声音に、流輝は更にこうべを垂れた。

「別に、流輝を責めている訳じゃ無い。もう済んだ事だ」

 はぁ、しかし。と応える流輝に「ちょっと出て来る」とミラルドは診療所を出て行った。

 やっぱり私は、取り返しの付かない事をしてしまったのですね……と、流輝は又眉根を寄せた。



 瑞希は家に帰ると、すぐに食パンと牛乳で朝食を取った。食パンを口に頬張りながら思い出す。

 何か、夕べは凄く良い夢見たのよねぇ。ミラルドさんに抱かれてキスされる夢……。私の願望が夢となって現れたのかしら……。あぁっ、恥ずかしいっ!! その前は凄く怖い夢を見てた様な気がするんだけど……。ん~思い出せ無い。まあ良い夢だけ覚えていれば良いか。う~ん、幸せ~。と、瑞希は赤面して身もだえた。

 瑞希は、はっと我に返り、こんな事してる場合じゃないわと食パンを牛乳で流し込む。自室に籠りベッドに洋服を何枚も広げ選びはじめた。なかなか決まらない。

 あぁ~っ、間に合わないよぉ~。


 瑞希が焦っている頃、ミラルドは公園を歩きながら思考の中に身を置いていた。

 今日は瑞希とデートか。楽しみにしてたのに。昨日あんな話しを聞いて、デートどころじや無いよな。瑞希は平気かな……

 瑞希が俺の過去を知ってるって事を、俺は知らない事になっている。勿論ラルも……

 あぁ、ややこしい。今日は、出来るだけ瑞希を楽しませなきゃ。どこに連れて行こうか。

 ……映画にでも誘ってみるか。コメディ系の、楽しい物にしょう。


 約束の時間は十時。瑞希は少し遅れて、診療所へやって来た。

「ご免なさい。お待たせしてしまって」

 今日は花柄のワンピースだ。瑞希のカールした髪が、ふわふわと揺れている。

「あ、の、 似合っていなかったですか?」

 瑞希を凝視したまま固まったミラルドに瑞希は俯きそう訊いた。

「とんでもない、とても良く似合ってるよ。その服も、その髪型も……。見とれてしまったよ」

 そこまで言って、ミラルドは言いすぎたかと一気に赤面した。ゴホンと咳払いし、俺も今来たところだよ。えっと、今日は映画にでも行く? とごまかすように行き先を確認する。瑞希ははにかみながら頷いた。その姿にミラルドは又固まる。瑞希に名を呼ばれ我に返り「じゃあ、のんびりと歩いて行こうか」と、二人は歩き出した。


 昨日流輝さんの言葉を聞いて、余り良く眠れ無かった。

 ……良い夢は見たけど……

 今日も心は沈みがちだが、ぶんぶんと頭を振って悪い事を追い出す。今日は目一杯楽しもう! 夏休み最後の休日なんだから! 瑞希はガッツポーズを作る。

「ん? どうかしましたか?」

 ミラルドにそう訊かれ、何でもありません。と瑞希は赤面して俯いた。

 桜ヶ丘学園の前を通り掛かる。

「ここ、私の通ってる学校なんですよ!」

「へぇ、大きい学校だね」

「そうですね、広いですよ!」

 学園を通り過ぎ、今度は葵の屋敷の前に来た。

「ここが、私のクラスメートの橘葵さんの家です。こっち側の斜面の森も、全て葵さんの家の物なんですって! 一度お邪魔しましたけど、凄く広くて。迷子になりそうでした」

 瑞希が楽しそうに話すと、ミラルドがあいずちを打つ。

 瑞希は、はっとして

「ご免なさい。私一人で話しちゃって」

「良いんだよ、色々な事が聞けて楽しいよ」

「そうですか?」

 と言って、瑞希はホッとした。

 そうこうする間に、目的地に着いた。


 どんな映画にしょうかと二人で決めかねていると「これにしようか」と、ミラルドが指を差した。

 えっ、この映画って今話題の お笑い芸人が監督をした『笑う門には、ふぐちょうちん』という映画。馬鹿にしたタイトルだ。ロマンチックとは、大分掛け離れている。

 恋人同士が見る物じゃ無いよね……

 ミラルドさんにとって私ってどの位置に居るんだろう……友達かな……?

 瑞希は深い溜め息を吐いた。

「ん? この映画じゃ駄目だった? 楽しい物が良いかなと思ったんだけど……」

 うんん。私も、これ観たかったの。と瑞希は笑顔を向けた。

 ……本当は、恋愛物が良かったんだけど……

 映画は予想通り、笑いあり涙ありのとても楽しい物だった。


「面白かったね。久し振りに、あんなに笑った」

 二人して、思い出し笑いをする。

「遅くなったけど、お昼 どうする?何か食べたい物 ある?」

「カフェで良いわ。軽食で」

「じゃあ。ちょっと歩くけど『HAPPY』に行こうか」

「はい。私、友達と良く行くのよ!」

「へぇそうなんだ。俺は余り来た事が無いんだ」

「そうなんですね。じゃあ私が色々と案内しましょうか?」

「そうして貰おうかな」

 と、ミラルドが楽しそうに笑った。



 瑞希とミラルドを見送った後、家事を済ませ。昼食後に流輝は公園を散策していた。

 瑞希の家の前に男が立っているのが見える。

 あれは確か、瑞希様のクラスメートの山本銀牙と言う人ではないでしょうか。前に一度、集合写真を見せて頂いた事が御座います。

 山本銀牙の話しは、度々瑞希様の口から出て参ります。気になる事も言っておいでだった。

 私の気のせいなら良いのですが……

 流輝はどうしても、山本銀牙の事が気になり、後をつける事にした。

 山本銀牙は、ただ何をするでも無く。ぶらぶらと街を歩き廻っていた。

 尾行と言う物を、初めて致します。とても緊張致します。見つから無い様に、気を付けなければ。

 と、流輝はわくわくする気持ちをお押さえながら、銀牙の後を追ったのだった。



 表通りに面したカフェに入る。ミラルドと瑞希はテラス席に案内された。

 ランチが済んだ後も、珈琲を飲みながら暫く二人は会話を楽しんでいた。

 良かった。瑞希は明るい感じだ。昨日の事は気にしていないみたいだ。ミラルドは安堵する。

 そこへ男が近付いて来た。

 瑞希は何気なく、その男に目を向けた。

「……山本……銀牙……」

 瑞希の身体が、小刻みに震え出す。

 ミラルドも、その男を見た。

「あいつは……あの時の……」

 ミラルドは素早く銀牙に近付くと、有無を言わさず殴り付けた。その拳が銀牙の左頬にヒットする。

 瑞希だけを視界に入れていた銀牙は、手前に座っていた男の突然の動きに反応出来ず、テーブルや椅子を薙ぎ倒しながら身体ごと吹き飛んでいく。

「お前は、よくもあんな事を!! 瑞希に謝れ!」

 殴り倒した相手にミラルドは怒りのこもった声で言った後、もう一度殴り掛かった。

 銀牙は、ニ発目を素早避け、殴り掛かって来た相手の顔を見た。

「何すんだ。テメー。おっ、お前はウルフ族当主……。ミラルド! 見つけたぁ。やっと見つけたぞぉ」

 その言葉を聞いてミラルドは、はっとした。

 ……こいつは……

「もしかして、分家の者か……」

 ミラルドの顔色が変わる。瑞希の手を引いて、一目散に駆け出した。



 流輝は事の成り行きを、大勢の取り巻きの中から見つめていた。

 信じられ無い。まさか、ミラルド様が訳も無く人間を傷付けるなんて……

 そう思っていたら、出遅れてしまった。

「あっしまった。見失ってしまいました」

 そう言って、流輝はミラルドの気配を探る。



 これは、まるであの時と同じじゃないか。

 銀牙の攻撃を、妖力で弾き飛ばす。

 ウルフ族の追っ手から逃げる。

 走って、走って、心臓が飛び出しそうだ。

 苦しくて、過去と現在が交錯する。フラッシュバックしそうだ。

 妖力が……もう限界だ……

 ミラルドが倒れ込んだ。瑞希が駆け寄る。

「君は、君だけは 逃げてくれ……。今度は、俺の犠牲に成らないで……俺の為に死ぬなんて駄目だ。美鈴……逃げてくれ……」

 ミラルドは薄れる意識の中で、そう言った。

 この人は、この人の中には、今も私じゃ無い大切な人が住んでいる。まだ、過去に縛られている。

 私には、入り込め無いの? 私には……無理なの? 彼を救う事は、出来無いの?

 呆然としゃがみ込む瑞希と倒れたミラルドの元に、物凄い勢いで迫る銀牙。三人の間が詰まる。

 もう駄目かと思われた時、両者の間に立ちはだかる影があった。

「遅くなって 申し訳有りません。お二人共御無事ですか?」

 現れたのは流輝だった。

「流輝さん、ミラルドさんが」

 瑞希が両目に涙をいっぱい溜めて流輝に訴える。流輝はお任せくださいとが両手を前にかざした。

 強い閃光が放たれた。途端に別の空間に放り出されていた。


 ここは?

 瑞希は辺りを見回す。診療所の前?

「大丈夫ですか?瑞希様」

「私は平気。それより、ミラルドさんは?」

「はい。ここに……」

 流輝はラルを抱いていた。

 えっ、ラル君? ……どう云う事なの?

 ミラルドさんはラル君で。ラル君がミラルドさん?








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