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異変 1

 あれから半年が過ぎようとしていた。

 瑞希はミラルドのマーキングを受け、永い時を一緒に歩む決心をした。

 ミラルドの生業なりわいは医師である為、瑞希は保育士になる夢を止め、看護師の道を進む事にした。

 他の生徒よりもスタートが遅かったので毎日覚えなければならない事が山積みで、瑞希は勉教漬けの毎日を過ごしていた。

 冴子と流輝が結婚して、瑞希も含め、三人での生活を始めたけれど、流輝はウルフ族当主の執事なので、ミラルドの朝食の世話から掃除、洗濯、診療所の雑用をこなして、お風呂、夕食の後片付けまでしてから帰宅する。

 瑞希の家には、寝に帰っているようなものだった。


 黒樹との闘いの後、銀牙がミラルドの息子だと判明した。

 だからどうと云う訳では無いが、あの日からミラルドの様子がおかしいと感じていた。

 私の気のせいかも知れないけど、避けられてる気もする。

「銀牙君も変なんだよねぇ……」

 どうしたんだろう……

 変と言えば、私の体調もおかしい。めまいがしたり、貧血気味だし、体育の授業もきつくなってきた。健康だけが取り柄なのに、……どうしてだろう……

 ウルフ族になった事が関係しているのかな。

 ウルフ族になったら視力が上がったり握力が強くなったり身体能力が上がるって、葵ちゃんに聞いていたのになぁ。どう言うことだろう。


「はぁ……ただいまぁ」

 瑞希がけだるく玄関扉を開けると「おかえりなさいませ瑞希様」と流輝が出迎えてくれた。

「あれ? 今日は早いですね、って言うか、様は止めてください!」

「時間が空きましたので夕飯を作りに参りました。……様は気をつけます」

 「夕飯は私が作るのに」と、瑞希が自分の仕事を取られた事に抗議すると「今日は冴子様からリクエストがありましたので」と流輝は嬉しそうに応えた。

 「お母さんにまで様付けだし……」そう責めると、あっと短く声を出した後に申し訳ありませんと流輝は頭を下げる。

 瑞希は虐めでもしているようで居心地が悪くなり、逃げるように二階の自室に向かった。


 瑞希は部屋に入るとベッドに体を投げ出す。

「あぁぁぁぁぁっ! もう半年も経つのに、流輝さんとどう接したらいいのか分からないよぉぉぉっ」

 瑞希はクッションに顔を埋め叫んだ。階下に居る流輝には届かなかっただろう。

 私今までどう接してたっけ? どんな会話をしてた? あぁ距離感が掴めない。……困ったな……

 最近、考える事がたくさん、ある。

 瑞希はクッションを抱いたまま瞳を閉じた。興奮したせいか、胸の辺りが苦しい気がする。そんな時はいつも何も考えずに、こうして静かに過ごしてやり過ごす事にしている。

 ミラルドに言えばすぐにでも治療してくれるのだろうけど、いつも具合が悪い訳じゃないし、心配を掛けたくなかった。

「ただでさえ避けられてる気がするのにね……」

 瑞希は小さな声で呟いた。


 夕飯の時間になり、階下から冴子の声が聞こえる。

 瑞希を呼んでいるらしい。

 寝ていれば治るだろうと思っていた体調は一向に良くなる気配すらなく、瑞希は声を上げる事もできなかった。

 ドアがノックされ冴子が入って来る。

 そっと瑞希の顔を覗き込んで「寝てるのね」と呟いて静かに出て行った。

 寝てる訳じゃないんだけど。苦しいんだけど、と思っていても、それを伝えられらなくて。

 瑞希は体を丸めて苦しみに耐えた。


 翌朝。いつもの時間に瑞希は起きてこなかった。

 冴子は瑞希の部屋をノックした。

 返事はない。

「瑞希ったらお寝坊さんねぇ」

 と言いながら冴子はベッドに近づいた。

 瑞希の苦しげな声が聞こえる。

「み、瑞希? どうしたの?」

 冴子は声を掛けながら瑞希の顔を覗き込んだ。

 瑞希は体をくの字に曲げ大量の汗をかき苦しげに顔を歪ませていた。

「流輝さん!! 早く来て! 瑞希が!」

 冴子のただならぬ声に、流輝が慌ただしく部屋に駆けこんでくる。

「どうされましたか、冴子様!」

「瑞希の様子がおかしいの!」

 そう言われ流輝も瑞希のベッドに歩み寄った。

「これは……」

 そう言ったきり、流輝は口をつぐんだ。

 とにかくミラルド様の元へ参りましょうと、皆で診療室に空間移動した。


「ミラルド様! 瑞希様が大変でございます!」

 流輝は大声を張り上げた。

 何ごとかとミラルドが診察室に入ると、「さあこちらです」と凄い勢いで流輝に背中を押されて、瑞希の寝かされたベッドの前までやってきた。


「瑞希……?」

 苦しむ瑞希の姿を見てミラルドは呆然と立ち尽くした。

「これは……」そう呟く主の声を聞き流輝も俯いた。

「……何でこんな事に……どうして……」

「いつも傍にいながら、こんなことになるまで気づかずに、申し訳ありません」

 流輝はミラルドに深々と頭を下げた。




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