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黒樹 (3)

 黒樹が消滅した後に残ったのはミラルド達と紅樹だけだった。


「涼、大丈夫か?」


「俺の事は良いから、美咲を頼む。あの洞窟の中に……」


 ミラルドは隼人に涼を任せ、流輝と共に涼が指し示した洞窟に向かった。


 薄暗い洞窟の中をひたひたと進む。先程の妖力のぶつかり合いで洞窟の入り口のバリアのような物は吹き飛んでしまったようだ。陰湿な空気がザワリと背を撫でた様で気持ちの良い物では無かった。


 ふたりは手分けして幾つもある牢の中を慎重に見て行った。



「ミラルド様、こちらにおられます」


 反対側を確認していた流輝の方が先に見付けた様だ。牢の中には力なく倒れる美咲の姿がある。


 一瞬だけ大勢の者たちが牢の中にひしめき合っている幻が見えた。


「……うっ……」


 ミラルドは目を閉じ頭を振る。


「どうかなさいましたか?」


 流輝に訊かれ何でも無いと応えた。なぜそんな幻が見えたのか、ミラルドには全く解らなかった。


「こんな処を隠れ家にしていたのか」


 突然の声に二人はびくりと振り返る。そこに立っていたのは紅樹だった。


「黒樹の妖力は手に終えぬであろうから、我が出張った」


 そう言い、紅樹は牢屋に施されているバリアのような物も易々と解いていく。美咲の傍に立ち紅い妖力の中に包み込んだ。そこに隼人に支えられた涼もやって来た。


「丁度よい。そちもここへ来るがよい」


 十歳くらいの少年にそう言われ違和感はあったが涼は素直にその言葉に従った。


 涼も紅い光に包まれて行く。目を閉じると自分の中にあった記憶がガラガラと崩れ落ち新たな記憶が蘇って行く。逞しい父、銀髪の長い髪を持つ優しい母。


「そなた達もこちらへ」


 そう紅樹にいざなわれミラルド達も牢内に入り紅い妖力に包まれた。穴だらけだった記憶の欠片が埋まっていく。昔からの記憶が走馬灯のように押し寄せて流れていった。




「これで良い」


 その言葉と同時に紅い光は消えた。



「リヨルド……様?」


 流輝が涼に問いかける。あぁと涼は短い返事をした。


「なんと言う事だ! リヨルド様が生きておられた!!」


 見れば隼人も同じような反応をしている。


「どう言う事だ。分かるように説明してくれ」


「我から説明しよう」


 困惑するミラルドの問いに答えたのは紅樹だった。


「遥か昔から黒樹はウルフ族の城が見渡せる樹の上に立ち、在るものを無き様に暗示を掛けて来たのだ。エルドとその妻にはリヨルドと言う名の子が居た。黒樹はリヨルドをかどわかし邪気の弟として育てさせた。皆には子供は居なかったと暗示を掛けた。そしてミラルドが産まれた。ミラルド、そなたにも美鈴との間に銀牙と言う名の子が、記憶の中に居るだろう」


「じゃあ、銀牙も同じように拐われて記憶を操作されたのか」


 紅樹はこくりと一つ頷いた。


「銀牙は……その事を知っているのか?」


「さあな……その者の記憶も元に戻しておこう」


 そう言うと紅樹はさっさと消えてしまった。


 ――銀牙が俺と美鈴の子――


 美鈴の柔らかく微笑んだ顔が今でははっきりと思い出される。


 ――美鈴――


 ミラルドは何とも言われぬ感覚に襲われた。美鈴と瑞希が瓜二つ。瑞希は美鈴の生まれ変わりなのか……俺は瑞希の中に美鈴を求めていたのか……。なんて事だ。俺はこれから瑞希にどう接すれば良いんだ……俺は……俺は……


 ミラルドは顔を覆った。








「その者の記憶を元に戻そう」


 一足先に診療所に戻った紅樹は、そう言いながら銀牙に近付いた。


「記憶?」


 首を傾げる銀牙を紅い優しい妖力が包み込んだ。途端に銀牙の中にあった記憶が崩れ新しい記憶が組み上がっていく。


 ――――銀牙待って――――


 優しい母の声。



 ――――こっちだぞ銀牙――――


 ミラルドの笑顔。



 あぁ……やっぱりミラルドが俺の父親だったのか……


 銀牙は嬉しくて自分自身を抱きしめた。母は……母の顔は……。そこで銀牙は困惑した。


 瑞希? ……俺の母親が瑞希って、どう言う事だよ……


「我の役目は終わった。帰る」


「待って下さい!」


 今にも消えようとする紅樹を引き留めたのは瑞希だった。紅樹は鋭い眼光を声の主に送る。


「あの、ミラルドさん達はどうなりましたか? 無事ですか?」


「……無事だ……」


 短く応え紅樹は消えた。


 紅樹が消えて暫くしてから、ミラルド達が戻って来た。幸い皆無事だ。紅樹の妖力であらかた治療が済んでいた様だが、念のために涼と美咲には一晩入院してもらう事にした。




「ミラルドさん、良かった。無事だったのね」


 駆け寄る瑞希を抱きしめるミラルドの動きは、ぎこちないものだった。


「心配かけて悪かったね。……俺は大丈夫だから……。でも、少し疲れたかな。……悪いけど、ちょっと休んでくるな」


 そう言ってミラルドは疲弊した様子で二階に上がって行った。ミラルドの態度がよそよそしい気がする。そう思った瑞希だったが、疲れているのだろうと余り深くは考えなかった。
















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