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決意 (3)

 銀牙は葵と瑞希と共に再び診療所を訪れた。ミラルドに瑞希とちゃんと向き合って欲しいと考えての行動だった。


 こんにちはと声をかけると慌てたような流輝の声が聞こえて来た。その声を頼りに進んで行くと、倒れ込んだミラルドの姿があった。


「ミラルドさんどうしたの?」


 ミラルドは流輝に身体を揺さぶられ顔を歪める。ゆっくりと目蓋を開け「油断した」と呟いたのだった。


「何があったのですか」


 焦った流輝の声を聞き「涼がウルフ族で――」と涼に聞いた話を語り始めた。


 ミラルドの口から語られた事実は余りに衝撃的で、誰も口を開け無かった。



「涼先生、玉砕覚悟で黒樹に挑むつもりなのか……」


「美咲さんは適合者では無いので…勝てる見込みは……」


 流輝はそう言ってかぶりを振る。


「葵にマーキングした俺でも、ミラルドと互角ってとこなのに、……勝てる気がしないよな……」


 俯いてそう呟いた銀牙だったが、ハッとした顔でミラルドにつめ寄る。


「ミラルドなら勝てるんじゃないのか。マーキングすれば当主の力はスッゲ~事になるって聴いた事があるぞ!!」


 皆の視線がミラルドに集まる。


「どうだろう。それでも勝てるとは思えない」


 皆が軽快に進める会話に葵も相づちを打つ。マーキング? 適合者って何? 瑞希だけ置いてけぼりを食ったみたいで疎外感を感じた。




「ねぇ。適合者って、なに?」


 ポツリと呟いた瑞希の言葉に、皆はハッとし静まり返った。


「皆は知っているの? 私だけ知らないって事? ねぇ、どうして私にだけ内緒なの? 私にも教えて!!」


 瑞希はミラルドに詰め寄る。ミラルドは顔を背けながら、それは……と言いにくそうに言葉を濁した。



「俺達には、瞳の奥に模様が見えるんだ。自分と同じ模様の人が適合者。適合者にマーキングする事で普段の数倍の力を手にする。当主だけはとてつもない力を手にするって聴いた。ミラルドなら黒樹と互角に闘えるかも知れない」


 ミラルドの代わりに銀牙が説明する。ミラルドはそれを恨めしそうに見ていた。


「私は適合者じゃないの? ミラルド達の役に立てないの?」


 瑞希がすがる様にミラルドの服にしがみつく。ミラルドは何も応えない。


「瑞希様はミラルド様の適合者で御座います」


 今度はミラルドの代わりに流輝が応えた。


「私が適合者なら何でもする! それで涼さんと美咲さんが助かるのなら……ねぇ、ミラルド!!」


「……他の方法を考える」


「どうして? 涼さん達を助けたくはないの?」


 瑞希に詰め寄られミラルドは奥歯を噛み締めた。


「お待ち下さい瑞希様。マーキングしてしまいますと瑞希様はウルフ族になってしまわれるのです。永遠の命を与えてしまう事をミラルド様は躊躇っておられるのです」



 それを聞いて瑞希は言葉を失い、わなわなと拳を震わせた。


「ミラルドさんは、私と一緒に居たくはないの? 私が死んだら又違う誰かを愛するの? 私は……それだけの存在だったの?」


 瑞希は床に座り込み両手で顔を覆った。


「ちっ、違う……そうじゃ、無いんだ……」



「もう観念しろよ。ミラルドだって離れたく無いんだろ?」


 俺は――――俺は――――




 泣きじゃくる瑞希をどう宥めようかと考えるミラルドの携帯が、不意に鳴った。隼人からだった。


「隼人。見付けたか?」


『あっ、いえ。お雪はまだですが、涼様を発見致しました。連れ戻した方が宜しいですか?』


「いや。……済まないがそのまま尾行してくれ。……気付かれない様にな」


『御意』




「流輝、隼人の所に飛ばしてくれ」


 電話を終えそう言うミラルドの前に泣き止んだ瑞希が立ちはだかる。


「待って! お願い。マーキングして下さい。私貴方と居られるならウルフ族になっても構わない。だからお願い。……ずっと一緒に居させて」


 ミラルドは俯いたまま暫く思考した後で解ったと言った。そして瑞希の手を取り自室に向かった。



 本当に良いのかと訊くミラルドに、瑞希は意思の籠った強い瞳で見つめながら大きく頷く。ミラルドは観念した様に大きく息を吐き、解ったよと諦めた声を出した。



「瑞希、愛しているよ。これからも末永く、宜しくな」


 ミラルドの改まった声を聞き、瑞希の顔が赤くなる。


 これって、もしかして……プロポーズ?!


「わっ、私もミラルドさんの事、愛してる。……後悔なんてしない。ずっと傍にいる」


 そう言ってミラルドの胸に顔を埋めた。


 二人の唇が重なる。ミラルドはそのまま瑞希の首筋に唇を移動させ白い歯を宛がいゆっくりと牙を食い込ませた。何とも謂われぬ痛みに瑞希は小さな声をもらす。少量注ぎ込まれた液体が身体中を駆け巡る。徐々に身体が火照りだし、瑞希は未だ経験した事も無い快感に襲われた。


 余りの快感に足腰の力が抜ける。自力で立っていられない瑞希の身体を支え、ゆっくりとベッドに横たえた。


「瑞希はここで休むと良い。行ってくるから」


 そう言うミラルドを瑞希は潤んだ瞳で見上げ、気を付けてねと送り出した。


 ミラルドは身体から迸る程の力を得て階下に降りて行く。そして流輝と共に隼人の元に飛んだ。










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