侵入者
人物紹介
山本銀牙 ウルフ族 凶族
身長 170㎝ スレンダー。
髪 茶色 短め。
瞳 茶色。
性格 楽しい事好き。
ホスト名 牙
年齢 28歳
髪 上は 短髪 後ろ長め
茶色に銀のまだら
橘 葵 瑞希の同級生。金持ち
身長 164㎝ スレンダー。
髪 黒 腰の長さ。
瞳 黒色。
性格 頭が良い。優しい
合気道 薙刀が得意。
夏休みも 一週間が過ぎた。銀牙は、ブラブラと街を歩き回っていた。
何か、面白い事無いかな……
いつも、適合者を見つける為に女の子達の瞳を誰かれ構わず覗き込んでいた。その強引さが受けて、休日になるとデートの申し込みが殺到するのだ。
今日も約束があったのだが、急な用事が出来たと、断りのメールが届いた。午前中は睡眠時間に充てるため、デートは必ず四時以降としていた。
高校に通う様になっても、収入が無くなるのは都合が悪いので、夜の仕事は続けている。
突然暇になってしまった。とは言え、仕事も、繁華街もまだ時間が早過ぎるので。今日は、気分転換に学園の方へと向かってみた。
ブラブラと歩いていると、桜の木が立ち並ぶ通りに出た。良く見ると、そこは公園だった。
「へ~公園か~。結構広いじゃん。遠くまで足を運んで正解だったな♪」
駐車場を通り抜け、公園の土の上に足を踏み入れる。
右手に砂場、目の前にジャングルジム、左手にはブランコや滑り台などの遊具がある。
こういう物は、めちゃくちゃ好きなタイプである。自然と身体がむずむずして来た。遊ばずにはいられない。
ブランコに飛び乗り、立ち漕ぎを始める。一番大きく揺れたところで、ジャンプ! 華麗に着地する。
それを子供達は、羨望の眼差しで見つめている。銀牙は、あっと云う間に子供達を子分に従え、滑り台やアスレチックで遊び出した。
無邪気だ。
終いには、ジャングルジムのてっぺんに立ちポーズを決める始末。猿山の大将と 言ったところか。
暴れ過ぎてお腹が減った銀牙は、子供達に手を振って別れ、公園の中を歩き出した。
芝生を踏みしめ、すり鉢状の園内を下って行く。
中央にある池の中を覗いてみる。沢山の魚が泳いでいた。近くの箱の中に有る餌を買い、池に投げ入れた。
水面が激しく波立つ。
それが楽しくて銀牙は餌を何度も投げた。
全ての餌が無くなると、今度は 下りて来た方とは 逆の方へと向かって歩き出した。
つつじの植え込みを抜け、遊歩道を突っ切って桜の木の下に立つ。ふと遠くを見つめると、補習帰りの瑞希を発見した。ラッキーと、銀牙は右頬を釣り上げニヤリと笑った。
瑞希は、つけられている事にも気付かずポケットから鍵を取り出し、家の錠を開け扉を開いた。それと同時に、無理矢理男が侵入して来た。余りに唐突で、踏ん張ることができず、二人共家の中に倒れ込む。イタタタタ…と頭を押さえ、瑞希は上体を起こし男を見た。
「あっ、山本銀牙!」
名を呼ばれ、銀牙はゆっくりと起き上がる。
「なっ、何よ。 何の用? 用事が無いなら早く出て行って!」
瑞希は扉を指差した。しかし、銀牙は 出て行くどころか、不適な笑みを浮かべて「この前の続きをしようか」と言って近づいて来た。
瑞希の顔が、見る見る強張る。
徐々に、瑞希は階段に追い詰められて行く。緩慢な動作から、急に跳び掛かって来た。それを、間一髪の所で交わす。
銀牙は本気だ……
二階に逃げるしか無い。 瑞希は階段を駆け上る。手近なドアに飛び込んだ。
瑞希はドアを閉め鍵を掛けた。はずだった。
銀牙は扉の隙間に手を掛け、物凄い力で開ける。
もう……逃げ場が無い……
瑞希はじりじりと後退った。
「そんなに恐い顔しないでさ、もう観念しろよ、な?」
銀牙は無表情で告げる。その顔がさらに瑞希の恐怖心を煽った。
又、一歩下がった所で瑞希はベッドにぶつかった。その途端素早く押し倒され、銀牙が馬乗りになった。
瑞希は、力の限り抵抗する。手足をばたつかせ、爪で引っ掻いたり、殴ったり。しかし、何の抵抗にも成らなかった。
銀牙は右手で瑞希の両手を捕み、頭の上に押さえつける。
「やっ、止めてよ……」
瑞希は、やっとの思いで絞り出す。銀牙の顔が近付いて来た。瑞希は顔を背ける。銀牙はそのまま瑞希の首筋に愛撫をした。
――――いやっ、止めて――――
恐怖で声が出ない。
銀牙は顔を上げ、瑞希のあごを人差し指と親指で挟み、唇を押し付けて来た。
瑞希はギュッと目をつぶる。(ファーストキスだったのに…こんな奴に奪われるなんて……)涙が滲んだ。
あろう事か銀牙の唇は、そのまま下の方に下がって行く。
ブラウスのボタンが 一つ又一つ 外されて行く。
「!!」
(いやっ、こんなの嫌!)
「いやぁぁぁぁ!!」
ラルは、診療所での午後の診察を早めに切り上げ、瑞希の家にやって来た。
今日は瑞希に、夕飯を招待されたのだ。
「瑞希、いるかな~」
ラルは、インターホンを押そうとして手を止めた。
玄関の扉が少し開いている。
……泥棒?……
泥棒なら、扉はちゃんと閉めるよな……
「お邪魔しま~す」
ラルは、用心しながら中に入る。
「瑞希、僕だよ。ラルだよ。いないの?」
呼び掛けた時に、瑞希の 悲鳴が 聞こえて来た。
二階からだ!
慌てて駆け出す。
ラルは、部屋の扉を開けて中に入った。瑞希が見知らぬ男に襲われている。
「何してる! 止めろ!」
銀牙は、チラリとラルに目を向けたが、再び瑞希の首筋に顔を埋める。たかが子どもと、ラルの事など相手にしていないようだ。
ラルは悔しげに唇を噛む。
「僕、誰か呼んで来る!」
とっさに、そう叫んで外に飛び出た。
銀牙は、「チッ」と舌打ちすると、慌てて後を追って外へ出た。
その姿を 見送って、扉の影に 隠れていたラルが顔を出す。
「瑞希……大丈夫? けがはない?」
瑞希は、ベッドの上で身体を小さくして、自分自身を抱く様にして 泣いていた。
ラルはベッドによじ登り、小さな両腕を精一杯伸ばして、震える身体を抱きしめた。
「……ラル……」
瑞希は小さなラルの身体を抱き寄せ、すっぽりと両腕で包み込んだ。そしてひとしきり泣いた後「助けてくれて…… 有り難う……」と言った。
ラルは、小さく頷く事しか出来なかった。
……僕が大人の姿なら、瑞希を両腕に包み込んで抱きしめてあげられるのに……
……助けを呼びに行かなくても、あんな奴殴り飛ばしてやれるのに……
やり場のな無い怒り。
どうにも出来ない悔しさ。
今日程、大人に成れない自分が、情け無いと思った事はなかった。
瑞希を守りたい。心から、そう願った。
しばらくして、瑞希が落ち着きを取り戻した。ラルは紅茶を差し出す。
有り難うと瑞希は、両手で カップを受け取った。
「……温かい……」
「飲んで、落ち着くよ。美味しいかどうかは、分から無いけどね」
うん。と言って瑞希は一口飲んだ。
「……美味しい……」
「僕が付いているから、少し眠ったら?」
「うん……そうさせて貰うね……」
そう言って、瑞希は泣き濡れた瞳を閉じて、眠りに付いた。
インターホンが鳴った。出てみると流輝が立っていた。
「なかなかお帰りになりませんので、お迎えに 参りました。」
「流輝、悪いけど、今日は帰れない。」
「どうか……されたのですか」
「あぁ……。今は瑞希を一人に出来ない。訳は、聞かないでくれ」
「では、明日の診療は休業致しますか?」
「そうだな、そうしてくれ」
「かしこまりました。では、私は戻ります。」
「お休み」
ラルは、再び二階に上がり瑞希の眠る部屋へと向かった。ベッドの脇に移動させた椅子に、ちょこんと座る。
瑞希の寝顔、今日初めて見る。けど、前にもどこかで見た様な……
駄目だ、思い出せ無い……頭痛がする。
五百年前の事件……
あの頃の記憶が曖昧で……、何かとても大事な事も、忘れてる気がする。
美鈴の顔でさえ、はっきりと 思い出せ無い。
頭痛が 激しくなって来た。ラルは両手で頭を押さえ、椅子の中で小さくうずくまる。
「……ラル……」
名前を呼ばれて顔を上げる。瑞希がベッドに座っていた。
「あっ、瑞希。気分はどう? 大丈夫?」
「うん、大丈夫よ、ずっと付いていてくれたの? ……有り難う……」
ぐぅぅぅっ。
「!!」
ラルのお腹が鳴った。
すでに、夜中の一時を回っている。
「ごめんね。夕飯、食べ損なっちゃったね。遅くなったけど、何か作ろうか?」
ラルは顔を赤くして頷いた。
キッチンに入り、瑞希は手早く焼きそばを作ってくれた。
「ごめんね、こんなもので」
「うわぁ、美味しそう。僕、焼きそば大好きだよ! いっただきま~す」
瑞希は、口一杯に頬ばって食べるラルの姿を微笑んで見ている。
「瑞希は食べないの?」
「うん。食欲が無いし、こんな時間に食べたら太っちゃう」
そう言って瑞希は一口も食べなかった。あんな事があった後だ。食欲も湧かないだろう。ラルが食事を終えると、それを待っていた様に瑞希はシャワーを浴びに 行った。
「ラル君、今日は有り難う。凄く心強かった。……もう遅いし、帰って良いよ……流輝さんも心配してると思うし……」
シャワーを終えて、戻って来た瑞希が言った。
「大丈夫だよ! 流輝には今日は泊まるって言ってあるし、それに何より、俺が瑞希と一緒にいたいんだ!!」
「……有り難う。ラル君……」
瑞希は 涙ぐんだ。
「じゃあ、遅いし 寝ようか」
「うん」と言って、二人は二階に上がって行く。
瑞希がベッドに先に入って、掛け布団を持ち上げる。
「さっ、ラル君もどうぞ」
「えっ、……一緒に寝るの?」
「ラル君ってば おませさんね、サッサと入って」
瑞希は笑いながら、ラルを無理矢理ベッドに引っ張り上げた。
「分かったよぉ」
と、ラルは渋々布団に潜り込んだ。
朝日が、カーテンの隙間から部屋の中に差し込む。
ラルは眠い目を擦る。あんな横顔見ながら眠れる訳がない。結局、一睡も出来なかった。
朝食を終え、ラルは瑞希を公園へと連れ出した。深呼吸をして、朝の澄んだ空気で肺を満たす。園内を、ゆっくりと時間をかけて散歩した。
「昨日は有り難う。ラル君がいてくれて良かった。……あの後……私一人だったら、不安で、恐くて、……どうなっていたか分からない……」
「僕は、別に大した事なんてしてないよ。……何もして上げられなかった」
ラルは、ギリギリと奥歯を噛み締める。
「そんな事ない。ラル君は私の、頼もしいナイトよ!」
瑞希は笑顔で言ってすぐに、不意に俯いて、
「ラル君。昨日の事は、誰にも言わないで。……もちろんミラルドにも……」
沈んだ声でそう言った。
「うん、分かってる。誰にも言わないよ」
しかし、困ったな。瑞希の側にずっといてあげたいけど、仕事が あるし……。そうだ!!
「ねえ、瑞希」
「何?」
「今日からしばらくの間、僕の家に泊まりなよ!」
「えっ、でも、迷惑だから……」
「僕が、瑞希の側にいたいんだ。お願い、一緒に診療所に行こう!」
「……有り難う……」
瑞希は潤んだ瞳で微笑んで、「じゃあ、着替えとか準備しなくちゃ」と言って、嬉しそうに駆け出した。
次回 ミラルドの友達 出ます。
居たんですね~ 友達!