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裏切り (1)

 暗闇の中フラフラと目的の場所へと向かう。負の妖力を全身に浴びたせいで気分が悪く目眩、頭痛もする。地面に這いつくばる様に先に進んだ。


 私は……私は……


 どうすれば良いのだろう。涼を助けたい。助けたいけど……その為に又、あの優しい当主を裏切るの?









 扉に何かがぶつかる音がした。何事かと流輝はドアを開けて見る。そこには美咲がぐったりと倒れていた。


「美咲さん、どうなさいました? 大丈夫ですか? 美咲さん?」


 意識が無いようだ。どうしましょう。兎に角中のベッドにお運び致しましょう。美咲をベッドに寝かせ、ミラルドに連絡を入れる。


「ミラルド様。美咲さんが玄関先で倒れられていて、意識が無い様です。瑞希様同様、襲われたのかも知れません。いかが致しましょう」


『そうだな。十分後に俺の所に来てくれるか?』


「はい。かしこまりました」


 電話を切り、直ぐにミラルドは誰も使用していない病室へと向かった。


 美咲はうなされながら涼の名前を呼んでいる。流輝は美咲の額に浮かぶ、玉の様な汗を優しく拭き取りながら、じりじりと時間が経過するのを待った。漸く十分経ち、ミラルドの気配を捜し出しそこに向かって空間移動した。


 突如現れた流輝の腕には、ぐったりと腕を垂らした美咲の姿があった。「早くベッドに」そう言われ「はい」と、美咲の身体をベッドに横たえる。


 熱は無い様だ。首筋を確認する。咬まれた痕は無いな……身体中も確認してみるが、どこにも咬まれた様な痕も傷も確認出来なかった。


 ミラルドは妖力を流し込み暫く様子を見る。症状は変わらないようだ。やはり駄目か。次に瑞希と同様の治療法を試す。暫くすると苦し気だった表情は穏やかになり、土色だった肌も透明度が徐々に上がる。「よし」ミラルドはそう言ってホッと息を吐いた。



 翌日美咲が目を覚ましたと報告を受けミラルドは病室を訪れた。


「美咲さん、気分はどうですか? 何があったか憶えていますか?」


 美咲は、ただ天井を見つめるばかりでミラルドの方を向こうとはしない。


 「憶えていないのですか?」の問いに、小さく掠れた声ではいと応えた。瑞希の時と同じだな。そうで御座いますね。二人の会話をBGMの様に聞き流す。


 どうすれば良いの? 美咲はその事しか考えられ無かった。


「涼の事だけど」


 その言葉にピクリと身体を震わせる。そして、そろそろと首を巡らせミラルドを見た。


「済みません。あちこち捜しているんだけど、まだ見つから無くて……」


 と頭を下げるミラルドに美咲はいいえと首を振る。あぁ何て優しい人なのかしら。私は又、この人を裏切らなければならない。美咲の目尻から一筋の涙が流れ落ち枕に吸いとられた。その三日後、美咲は退院して行った。


「美咲さん元気が無かったな」


「そうで御座いますね。やはり涼様の事で心を痛めておいでなのでしょう」


「そうだな。早く見付かると良いんだけど、俺は捜しに行けないしな。ここの所事件続きで、余り涼捜しに人員をけていないし」


 そう言えば涼から連絡が入ったんだったな……でも、あれは言え無いし……


「美咲さんには首筋に咬まれた痕が無かったな」


「そうで御座いますか?」


「直にウルフ族が狙われたって事か。でも美咲さんも強い筈だけど、黒樹に襲われたのかも知れ無いな」


「成る程。そうで御座いますね。彼ならばウルフ族など足元にも及ばない」


 直にウルフ族を狙い始めたとすると、パトロールのメンバーが心配だな。流輝の言う通り敵が黒樹だとすると、ひとたまりもない。


 どうするか……一旦退かせるか……。それが良いかも知れ無い。


「流輝、あっちに戻ってウルフ族の面々を呼び戻してくれるか? ゆっくりして貰ってくれ」


 かしこまりましたと、流輝は消えた。敵が見えないと言うのはやりにくいな、全てが後手後手に廻っている。患者も事前に食い止める術は無いし、涼の事だって……。涼は人質に取られていると言う事なのか……。でもそんな事しなくても黒樹は俺達を滅ぼす力を充分に持っている。だとしたら目的は何だろう……。あぁ駄目だ。ミラルドはイライラと頭を振った。疲れているのか、考えが上手く纏まらない。


 ……どうすれば良いんだ……









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