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狂犬病 (2)

 ミラルドは海外の狂犬病の専門医と紹介された。挨拶もそこそこに、鉄雄はミラルドを患者の元へ連れていく。


「宜しく頼むよ」


 と言われ患者の元へ歩み寄る。どの患者も高熱にうなされている。中には錯乱し、突然怯え出す者もいる。特に症状の重い者から順に治療を開始した。


 妖力で包み込んでみるが、中々効果がみられない為、瑞希に施した様に妖力を流し込み吸い上げてみた。暫くすると、錯乱状態にあった者の瞳孔が定まり、胸部も一定のリズムで動き出した。休む間も無く次々と治療を施して行く。


 その昔。発病した人に何度か遭遇した事があったので、勿論狂犬病の事は承知している。ミラルドは子どもの姿だったが、紋章の力を借りて人知れず治療をしていた。だが、それとは少し症状が異なる気がする。患者には犬に咬まれた様な傷は誰にも見られ無かった。ミラルドは首を捻る。その事を鉄雄にも言ってみた。


「それは私も気付いてはいたが、通常は一ヶ月から三ヶ月の潜伏期間が、二年と言う前例もあるからな」


「だけど、皆二年間も潜伏期間があったとは考え難い」


「そうだな。患者が話せる様に成ったら、色々と訊いてみよう」


 鉄雄の言葉にミラルドはそうだねと呟いた。


「クラウド先生。新しい患者さんが搬送されて来ます」


 看護師がミラルドを呼びに来た。解ったと看護師の後に付いていく。でも、この患者の数は尋常じゃ無い。考えながら歩く。


 ……もしかして、ウルフ族が関係しているのか? あの爆破事件と何か関係があるのだろうか。そう言えば。あれ以来、爆発騒動は起こっていないな。


 ……どうい事だ……


 凶族の者が俺達を混乱させる為に、騒動を起こしているとしたら……。有り得るな。患者数は十名を超えた。患者はいずれも若い女性ばかりだ。ミラルドはもう一度全ての患者を診察する。思った通り患者の首筋には咬まれた様な傷跡が二つある。それに皆、倒れる前の記憶が無かった。邪気が黒樹に指示され、騒動を起こしているのか、それとも新たな敵が現れたのか……









「よっ、ミラルド」


 自動販売機の前で、声を掛けられた。


「こっちでさ、パトロールしてたから様子を見に来たんだ」


「そうか。銀牙にも手伝わせて、済まないな」


「良いって、水臭い事言うなよ」


 ミラルドは自分の考えを銀牙に話した。


「そうかもな。目的は混乱の為か……。でも、どうして解毒出来るんだ? ウルフ族当主だけが治療出来るって言ってたな」


「あぁ。でも、自分のマーキングは解毒出来ないらしいんだ。自分の命と引き替えに救うしか無いらしい」


「そうなのか?……お前は躊躇なく助けるんだろうな」


 と銀牙は俯く。


「当然だろ? 銀牙だって葵ちゃんがそうなったら助けるだろ? 同じ事だよ」


 そういう奴だよな…と銀牙は淋し気に笑う。


「何だどうした?」


 やっぱり俺の父親かな……敵わないな……


「いや何でも無い……。俺は…長生きして欲しいかな……なんて」


 その言葉を聞いてミラルドはフッと笑う。


「もう充分行きただろ? 俺達は」


「うん…そうだな」


「どうしたんだよ銀牙。いつものお前らしく無いな」


「いつもの俺って…どんなだよ」


「う~ん。元気とか、ムードメーカー的なそんな感じかな」


 そっか。俺がさ…そのーなんだ。と銀牙は言いにくそうに口をモゴモゴと動かすと、はっきりと言え! と急かされる。


「だからさ、その…俺がミラルドの子供だったら……どう思う?」


 銀牙の突拍子の無い言葉に、ミラルドは唖然としている。


「たっ、例えばの話だよ!!」


 赤面する銀牙を見ながら、う~んそうだなぁとミラルドは考える。


「そうだな、俺の子供だったら…もっと大人しくて、賢くて、カッコイイだろうな」


 と言う。銀牙はその言葉を聞いて、そっか…と、がっかりと肩を落とした。


「うそだよ。お前が俺の子供だったら、楽しいだろうな。可愛い所もあるし」


 えっ…と顔を上げて唖然とした後、カーッと身体が熱くなる。嬉しくて恥ずかしくて、顔はニヤニヤと締まりが無くなるし、銀牙は慌てて下を向いた。そんな銀牙の頭をポンポンと叩いてミラルドは病室に入って行った。


「畜生…嬉しいじゃ無いか…」


 一人残された銀牙は、真っ赤な顔を腕で覆いながらそう言った。









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