攻撃 (3)
「あれ? 二人共寝ちゃったんだね」
「そうですわね。そんなに疲れてはいないはずなのに変ですわ」
「やっぱり私の護衛なんて無理だったんだよ。葵ちゃん、もう止めても良いんだよ。ミラルドに言おう?」
「いいえ、いけませんわ。総樹様の夢枕なのでしたら警戒すべきですわ」
「……そうかな」
「そうですわ」
お茶煎れて来るねと瑞希はキッチンに入り、暫くしてトレイを手に戻って来た。
はいどうぞとカップをテーブルに置きながら、「葵ちゃん…」と躊躇いがちに声を掛ける。何ですか? と訊かれ「私……」そう言って瑞希は俯いた。
「どうかなさいましたか?」
葵に促され、意を決した様に瑞希は口を開いた。
「ミラルドさんと銀牙君は、ウルフ族よね」
「はい。そうですわ」
葵は頷く。
「永遠の命を持っている」
「ええ…それが何か?」
「葵ちゃんは銀牙君のものだつて言ってたけど、…私達の方が先に死んでしまうでしょ? いつかは離れなくちゃいけない。そう思ったら私……何て言うか……」
葵は一つ頷く。
「仰りたい事は解りますわ」
「葵ちゃんはそう思わない? 不安じゃ無い?」
瑞希はすがる様に葵に訴える。
「そう…ですわね……。そこまで考えておりませんでしたわ」
瑞希さんはまだ適合者の話を知らないのでしたわ。これは銀牙さんに相談しなければ……。
「同じ立場の葵ちゃんにしか相談出来無いと思って……」
「有難うございます。」
そう言われ、瑞希はえっ? と顔を上げる。
「私に相談して下さって。一緒に考えて行きましょう」
と葵はニコリと微笑んだ。
「うん。心強い!」
と瑞希も笑顔に成った。
騙してるみたいで心苦しいですわ。でも今はどうしようも無い事ですわね。一刻も早く相談しなければ……
数日後、学校帰りの瑞希の前に涼が現れた。
「涼さん! どうしたんですか? 皆心配して捜してたんですよ! 美咲さんも心配して……」
あぁ…このセリフ、二回目だな……
今日は瑞希は一人で下校している。痺れを切らした黒樹が葵達に暗示を掛け、瑞希が一人に成る状況を作り出したのだった。
「ゴメンネ瑞希ちゃん」
と謝る涼に、私じゃ無くて美咲さんに言って下さい。と同じ事を言われる。涼はフッと笑って診療所まで一緒に行こうかと歩き出した。
「涼さん、何か雰囲気が違うと思ったらメガネしていないんですね」
と瑞希に言われ、コンタクトだよと苦笑いする。同じ会話をするって何か疲れるなと思っていると
「今までどこに行ってたんですか?」
と、新しい質問をされる。涼は「おぉ~」と感動し、「ちょっとね……山の中かな?」と応えた。
「山の中? どうしてそんな所に?」
瑞希の質問は更に続く。それはね。う~んと、何て言えば良いのかな~と、いつもの調子で涼は応えた。そうこうする内に二人は診療所の近くまで帰って来た。
「ゴメン瑞希ちゃん。本当にゴメン。ミラルドにちゃんと治して貰うんだよ」
と、涼は頭を下げる。
「えっ? 何を? …どうしたんですか?」
と、軽くパニックになる瑞希に涼は素早く近付く。ミラルドご免なと、心の中で手を合わせ瑞希の首に唇を這わせる。歯を剥き出しにし、白い首筋に牙を食い込ませた。
ゆっくりと瑞希から離れ、全てを忘れる様に暗示をかける。気を失い崩れ落ちる身体を素早く抱き上げ、診療所の前に歩み寄る。
「ミラルドご免な。瑞希ちゃんを治してくれよ」
と、瑞希をそっと玄関前に寝かせ、インターホンを鳴らしてからその場を立ち去った。
「はい」と返事をしながら、流輝が玄関扉を開けてみると瑞希が力無く横たわっている。
「瑞希様? どうなさったのですか? 大変で御座います。ミラルド様にご連絡しなければ。あぁそれよりも早くベッドに……」
と、流輝は慌てて瑞希の身体を抱き上げて家の中に消えて行く。それを、少し離れた所から涼は見ていた。ミラルド居ないのか……、そう思っている所に黒樹が現れた。
「ふふふ…巧く行ったようだな」
その声にビクッとして「あぁ」と短く応える。
「早く他の人間も襲うのだ。混乱させるのだ。はははは……」
黒樹は、楽しくて堪らないと言った感じで笑っている。涼は苦々し気に黒樹を睨んだ。
診療所に向かう、涼と瑞希の会話です。
***
「瑞希ちゃんは土の子って知ってる?」
「えっ? 土の子ですか? あの蛇みたいで体が短くて、幻の生き物の事ですか?」
「そうそう。その土の子が発見されたって聞いて、捜してたんだよ~」
「えぇ~っ! それで山に入ったんですか?」
「う~ん。まあ、そう言う事に成るかな~」
「何考えてんですか! 美咲さんが可哀想!!」
「まぁまぁ。そんなに怒らないで。ねっ!」
「それで……見付かったんですか?」
「ま~さ~か~。そんなに簡単に見付かる訳無いじゃ~ん」
***
こんな会話があったとか無かったとか……