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記憶 (2)

 あの日デートをしようと出掛けたのに、忽然と消えてしまった。彼からは何の連絡も来なかった。あの日急患が無かったか施設に問い合わせてみたが無かったとの事だった。透視の力を使ってももやの様なものが映るだけで、涼の姿が映し出される事は無かった。


 美咲は思い付く限りの場所を探したが、全く手掛かりは得られ無かった。もちろんミラルドにも電話をしたが、来ていないと言う事だった。


 十日余り過ぎた頃、真夜中に、美咲の眠るベッドに突然涼が入って来た。


「涼! どこへ行っていたの? 捜したのよ。…会いたかった」


 美咲は涼の身体を力の限り抱きしめた。


「俺も…会いたかったよ…。連絡しないで済まなかったな」


 涼も抱きしめる。そのまま二人は唇を重ね、涼は美咲を激しく求めた。汗ばんだ身体をベッドに横たえ、涼は「俺と来るか?」と耳元で囁く。


「貴方とならどこへでも行くわ」


 美咲の応えにそうかと短く言い、もう一度唇を重ね二人は眠りについた。


 一時間程で、涼は目を覚ました。美咲の顔を愛しそうに眺める。


「やっぱりお前は連れて行けない。…危険な目には合わせられない…」


 そう呟いて、一人部屋を後にした。










 美咲はゆっくりと瞼を開けた。涼が目の前を歩いている。待って涼。手を伸ばすが届かない。美咲は堪らずに走り出した。


 おもむろに涼が振り向いた。来るな! その声で足が止まる。二人の間には深い亀裂が走り、危うく落ちるところだった。


 涼、どこに行くの? 私も連れて行ってくれるって言ったじゃ無い。涼は悲し気に微笑む。美咲……お前は連れて行けない。どうして? 一歩足を踏み出す。


 この亀裂、人間では無理だけど私なら飛び越えられる。待ってて涼。無駄だ、…こっちには来られない。涼は背を向け先に進んで行く。待って…、待って涼。美咲は助走を付け勢いよく飛び越えた。「成功した」そう思った。が、足下には地面が無かった。美咲ははっとした。暗く深い亀裂へ吸い込まれて行く。涼…涼…。美咲は手を伸ばす。


 涼……。 その姿は、闇に溶けて行った。








 美咲はハッと目を覚ます。そして辺りを見回した。……ここは……。美咲の住むマンションだった。ホッと息を吐く。夢。良かった。隣に目を向ける。涼、涼、どこ……どこへ……?


 美咲は両手で顔を覆った。






 ピンポーン。診療所のインターホンが鳴った。はいと流輝が出る。そこなは泣き濡れた美咲が立っていた。流輝は驚きつつも美咲を中に招き入れた。ソファーに座らせ紅茶を手渡す。


「どうされたのですか?」


「涼と喧嘩でもしたの?」


 二人の問いに、美咲は首を横に振る。


「いいえ…。…涼が…いなく成ったのです…」


「えっ?」


「いなく成ったとは?」


「二週間前に二人で出掛けて、そこで…いなく成ったんです」


 美咲の頬を又、涙が伝う。


「あの、透視の力は?」


 美咲はぶんぶんと首を横に振る。


「何も、映らないのです」


「そんな…」


 美咲はハンカチを握り締める。


「四日程前に一度戻って来たんです。一緒に行くかって聞かれて、…連れて行ってって言ったのに……でもっ、一人で行ってしまったんです」


 美咲は顔を覆った。


「涼はどこへ行くって言ってた?」


 美咲は分からないと首を振り、泣きじゃくるばかりだった。


「分かった。俺達も捜してみるから」


 そうなだめて、流輝にマンションまで送らせた。


 戻った流輝と共に、ウルフ族の棲む葵の屋敷へと向かう。


 「ミラルド様」「流輝様」とウルフ族の皆が集まって来た。


「皆、ここの暮らしはどうだい?」


「はい。葵様が、色々と気を配って下さり、皆、快適に過ごしております」


「そうか、それは良かった。所で護衛隊の者は居るかな」


「お久しぶりです。ミラルド様」


 話をしていると、後ろから野太い声がした。海道だ。


「海道久しぶりだな。皆を集めてくれるか? 頼みがある」


「解りました」


 葵のポケットマネーで建てられた、ウルフ族の屋敷の一室に護衛隊メンバーとミラルドと流輝が腰を落ち着ける。


「実は、涼が居なく成ったんだ。捜すのを手伝って貰えないだろうか」


「ご友人の、中西涼様ですか? 畏まりました」


「済まないな。これ写真だ。宜しく頼むよ」


「お任せ下さい」


 皆が口を揃えて言った。突然隼人がフフッと笑った。皆は、キョトンとする。


「どうした? 隼人」


「あっ、申し訳ありません。こうしてミラルド様のお役に立てるのは本当に久しぶりで。懐かしくて…嬉しく思ったもので」


 普段は、表情も言葉数も少ない隼人の発言に皆も穏やかに微笑み、本当にそうだなと口々に言った。ミラルドはもう一度宜しく頼むなと微笑んだ。










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