結婚 (3)
式が終わり、二人はヨーロッパへ新婚旅行に旅立った。美咲は望まなかったが、涼の家族に薦められ行く事にした。
空港。
「気を付けて行って来いよ」
「楽しんで来て下さいね」
「お土産たのむよ先生」
「この時期のヨーロッパは、過ごし易い気候で宜しかったですわ」
「涼様、美咲さん、気を付けて行ってらっしゃいませ」
口々に見送りの挨拶をする。
「皆、見送り有難うな。楽しんでくるよ」
「行って参ります。お土産沢山買って参りますので楽しみにしていて下さい」
そう言って、二人は搭乗ゲートに消えて行った。五人は屋上に上がり、飛行機の離陸まで見送った。
「どの飛行機かな」
「あれじゃない? 一番でっかいイジャンボ!」
「いや違うよ、そこの中くらいのだよ!」
いや、あれだって。とミラルドと銀牙の二人は言い合っている。
「何をなさっているんですか? もう飛び立ってしまいましたよ。ほらあそこに」
と指差す西の空を、両翼を広げた鉄の塊が小さくなって行くのが見えた。
「あっ‥」
と、二人でそれを見送る。あぁあ―行っちゃった……とお互いを見つめ「お前のせいで」と言い合いを始めた。
「何してるの? 帰りましょう」
もう既に、皆は階段を降りている。又二人は「あっ‥」と、声を上げ急いで後を追ったのだった。
「流輝、先に帰っても良いよ。冴子さんと約束があるんだろ?行けよ」
「ですが‥ミラルド様」
「えっ? デート?」
銀牙がニンマリする。
「早く行かないと、お母さん機嫌が悪く成っちゃいますよ!」
「そうですわ、皆様は家の車でお送り致しますから、心配要りませんわ」
皆の言葉で心を決めた流輝は
「では、お言葉に甘えまして。お先に失礼致します。」
と深々と頭を下げて、足早に去って行った。
「流輝さん嬉しそうだな。」
「あぁ、幸せに成ってくれればと思うよ」
「うん私も。毎日お母さんも楽しそうで嬉しいわ」
「このまま旨く行って下さると宜しいですわね」
「……うん……」
「この後どうする?」
「う~ん、そうだな…」
と話しながら歩いていると、騒がしく人だかりが出来ている場所があった。何事かと四人はそちらに行ってみた。
「本当なんだって! 四・五十代の人がトイレの個室に入って行ったんだけど、中々出て来ないからさ、声掛けても何の返事も無いし…。そんで下から覗いてみたら…居なかったんだ‥消えたんだよ煙の様に…。本当なんだ。信じてくれよ!!」
その人は、「だから~」と、もう何度も同じ説明を繰り返していた様だった。四人はゆっくりとその場を離れた。
「いくら急いでいたとはいえ、あんな場所を選ぶなんて。他にも場所は幾らでもあっただろ!」
「電機室とか空調室とか」
「トイレでも、掃除用具入れとかな」
「うん、そうそう」
皆で頷き合う。
「何であんな場所で…!」
「…それだけ急いでいたのよ」
「頭が回らなかったのですわ、きっと」
「流輝さんを責めないであげて下さいね」
「……………分かってる!!」
それからミラルドと銀牙は、さっきの場所に戻り、あの場にいた全員の記憶を操作し空港を後にしたのだった。
「ただいま…」
「お帰りなさいませミラルド様」
流輝は満面の笑みで出迎える。
「お前なぁー」
「駄目よミラルドさん。怒らないって言ったでしょう?」
「だって、アイツはあんな騒ぎを起こしておいて、ヘラヘラと…」
気負い立つミラルドの身体を瑞希が必死に押さえる。
「えっ? 私で御座いますか? 何か失礼な事を致しましたか?」
まだニコニコしている。
「…………もう、いい! 寝る!」
「あっ‥ミラルド‥」
ミラルドは足音をドタドタと立てながら二階に上がって行ってしまった。
「あの…瑞希様、私何かしましたでしょうか?」
と流輝はしょんぼりしている。
「えっと…うんん。何でもないわ。それより、お母さんとのデート楽しかった?」
途端に流輝は頬を染める。
「はい…。とても‥」
俯いて、手をもじもじと動かして恥じらっている。まるで乙女の様だ。それを見て瑞希も微笑んだ。
「そう、良かった。…じゃあ私帰りますね」
「お休みなさいませ」
はぁ…私‥気付かない内にミラルド様に失礼な事をしたのでしょうか…。
今日は百万ドルの夜景を観に行ったのだ。そこで感激した冴子にキスをされたのだった。それを思い出し又流輝は赤く成る。……あぁ、冴子様……愛しい方。溜め息をついた。
※気負い立つ:抑えがきかない程、意気込む。
本当は『いきり立つ』と書きたかったのですが、携帯の辞書には載って居なかったので、やめました。残念。