表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/62

結婚 (2)

 披露宴での食事はとても美味しかった。橘グループ系列の式場だった為、葵の計らいで食事から何から最上の物を用意してくれた。


 ブーケトスは、あらゆる独身女性を押し退けて飛んで来るブーケに手を延ばし、見事冴子の手中に収まったのだった。


「二度目なんだから、遠慮すれば良いのに」と言う瑞希に「何事も全力よ!」と言ってのけたのだった。





 あの事故の後、一段落してからミラルドと流輝は、早朝に冴子に呼び出された。そして、「事故の日の話しをしなさい」と詰め寄られた。いくら誤魔化そうとしても逃げ道を与えられず、終いには観念して全てを打ち明けたのだった。


 その話しを聞いた後、冴子は呆然としていたが


「じゃあ、ラル君はミラルド君だったの?」


 と、聞いてきた。と言うか、呟いた。その言葉に二人共頷く。


 ふむふむ、…成程、成程…。だからか…。と独り言。


「だから流輝さんの誕生日の時に、何百年も生きてって…」


 はぁ~と溜め息を吐いて、ハッとする。


「銀牙君も? …葵ちゃんは?」


 その言葉にビクッとする。


「あっ‥葵ちゃんは…」


 冴子に、ぎろりと睨まれて「正直に話しなさい」と、半ば強制的に適合者の話しまでする羽目に成った。


「じっ…じゃあ…まさか、瑞希とミラルド君も…」


 そう訊かれ、即座に否定した。


「その事は瑞希には言ってません。この先、言うつもりもありません。…信じて下さい」


 ミラルドは必死に説明した。


「でも、愛し合っていればずっと一緒に居たいと思うものではないの?」


 冴子は試す様な視線を向ける。


「俺は、永遠に生きる事の辛さを知っています。瑞希にはそんな想いをさせたく無い」


 ミラルドは、耐える様に拳を強く握り締めた。ミラルドの覚悟を知った冴子は、それ以上何も言えなかった。


「そう…解ったわ…」





「それより。今ここで、ラル君に成って? 耳とシッポ付きで!」


 冴子は満面の笑みを浮かべている。


「えっ?」


 今……なんと?


 ミラルドと流輝はキョトンとする。


「だって、実際に見てみないと、やっぱり信じられないと言うか…」


 冴子は目を輝かせた。ミラルドは「うっ…」と呻く。


 そうだった…この人は止まらないのだった…。



「解りました…」


 仕方無くミラルドは変化する。


 目の前で、ミラルドの身体が見る見る縮んで行く。その過程で、頭上からは三角のフサッとした耳が、お尻の辺りからフサフサのシッポが生えてきた。冴子は、その様子を瞬きもせずに食い入る様に見ている。



「うわぁ~。凄~い。ホントに本当だったのねぇ!!」


 いたく感激している。まるで、少女の様だ。


「流輝さんも変化できるの??」


 冴子は流輝に向き直り瞳をキラキラさせながら訊く。


「わっ、私で御座いますか? ……はい。一応…」


「見たい」


「えっ?」


「見たぁ~い」


「………」


「見せて!!」


「…………」


 冴子に詰め寄られ、流輝は後退った。



「わっ、…私の変化は又 今度と言う事で…」


 と丁寧に断る。


「えええぇぇーーっ、どうして?? 今見たいのにぃぃーーっ」


 口を尖らし拗ねた顔をする。


「私のお願い。聞いて貰えないの?」


 今度は、色っぽくお願いしてみる。痛い処を突いてくる。惚れた弱味と言う物だ。その様子をラルはニヤニヤしながら見ていた。


 押し問答の結果、意外な事に流輝が勝利した。割と頑固なのだ。さすがの冴子もお手上げ状態だった。


 冴子が素直に諦めたのには訳がある。出張が、あの事故で二日後に変更に成った。冴子はこれから空港に向かわなければ成らないのだ。本当に惜しい事だが時間が無い。仕方無く諦めたのだった。




「そうだ、流輝。お前の力で送ってやれば良いじゃないか。ついでに搭乗時間までデートすれば良いだろ? 海を見に行ったり…」


 それを聞いた冴子は、爛々と瞳を輝かせ


「うん。それ良い! お願い出来る? 出来る?」


 冴子は、ぐいぐい迫ってくる。流輝は後退さりながら


「冴子様がお望みならば…」


 と小さく応えた。


「わあぁぁぁ、嬉しい!!」


 冴子は嬉しさのあまり、流輝に抱き付きキスをした。ラルは目をまん丸にして見ている。流輝は……茹で蛸の様だった……。



「じゃ、じゃあ。早速、今すぐ行きましょう。…私は、どうすれば良いの?」


「はい。そのままで宜しいのですよ」


 と優しく微笑む。その様子を今度はラルが暖かい目で見つめた。


「お荷物はこれで全部ですか? お忘れ物は御座いませんか?」


 そう訊かれ、冴子はハッとする。


「あっ!! 瑞希‥忘れてた」


 そう言って二階へかけ上がる。







「瑞希、起きなさい。お母さん、もう行くわよ!」


「んっ…。ふわあぁぁ~っ」


 瑞希は布団の中で、う~んと伸びをする。


「えっ?お母さん、もう行くの?」


「実はね、流輝さんに送ってもらうの。空間移動の力で!」


 言葉の語尾にハートマークでも付いている様な言い方だ。



「えっ?…どうしてその事知ってるの?」


「全部聞いたのよ。半ば無理矢理!」


 冴子は胸を張る。



「そっ…、それで。すぐに信じられたの?」


「手っ取り早く信じる為に、ミラルド君に変化して貰ったの。目の前で。耳とシッポ付きで!」


「………」


 やっぱり凄い人だわ、この人…


「それでね、流輝さんに送って貰って、デートするのよ!」


 冴子は、ふふっと笑っている。


「お母さん、流輝さんは本気なんだからね。気持をもてあそばないでよ!!」


「何言ってるの! 当たり前でしょ!!」


 怒られてしまった。


 話しをしながら着替えを済ませ、二人はリビングに下りてきた。


「うわぁ~っ。ラル君だ~。久しぶりっ!」


 瑞希は駆け寄り、思い切り抱き締める。


「みっ、‥瑞希。…苦しいよ」


「あっ‥、ご免 ご免。でも、耳とシッポ付きは久しぶりなんだもんっ」


 と瑞希は膨れる。冴子と流輝は、微笑ましく二人を見つめた。



「それでは冴子様。参りましょうか」


「じゃあ瑞希。行って来るわね」


「ラル君。瑞希の事、宜しくお願いします」


 冴子は深々と、頭を下げた。


「はい。任せて下さい」


「流輝。ちゃんと冴子さんを、エスコートしろよ」


 とラルにからかわれ、流輝は顔を赤らめる。


「解っております。おっ、お任せ下さい。」


 と言葉を残し、二人は光りに包まれ消えて行った。





「なんか、今の、懐かしかったな。夏もあんな風に挨拶して、外国へ行ったんだよな冴子さん。…順応性、高いよな…」


「本当よね。私なんて凄く時間掛かったのに…。そう言えば葵ちゃんも割とすんなり受け入れたよねぇ」


「あぁ……彼女には本当に驚かされる…」




 あの後の流輝は舞い上がって大変だった。一月始めに帰国してからと言うもの。休日の度に冴子にねだられ、力を使って色んな場所でデートしているらしい。その距離も俺達の住む街から徐々に離れて行っている。まだ日帰りだが、宿泊するように成るのも時間の問題かも知れない。


 巧く行ってくれると良いけど……。










評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ