結婚 (2)
披露宴での食事はとても美味しかった。橘グループ系列の式場だった為、葵の計らいで食事から何から最上の物を用意してくれた。
ブーケトスは、あらゆる独身女性を押し退けて飛んで来るブーケに手を延ばし、見事冴子の手中に収まったのだった。
「二度目なんだから、遠慮すれば良いのに」と言う瑞希に「何事も全力よ!」と言ってのけたのだった。
あの事故の後、一段落してからミラルドと流輝は、早朝に冴子に呼び出された。そして、「事故の日の話しをしなさい」と詰め寄られた。いくら誤魔化そうとしても逃げ道を与えられず、終いには観念して全てを打ち明けたのだった。
その話しを聞いた後、冴子は呆然としていたが
「じゃあ、ラル君はミラルド君だったの?」
と、聞いてきた。と言うか、呟いた。その言葉に二人共頷く。
ふむふむ、…成程、成程…。だからか…。と独り言。
「だから流輝さんの誕生日の時に、何百年も生きてって…」
はぁ~と溜め息を吐いて、ハッとする。
「銀牙君も? …葵ちゃんは?」
その言葉にビクッとする。
「あっ‥葵ちゃんは…」
冴子に、ぎろりと睨まれて「正直に話しなさい」と、半ば強制的に適合者の話しまでする羽目に成った。
「じっ…じゃあ…まさか、瑞希とミラルド君も…」
そう訊かれ、即座に否定した。
「その事は瑞希には言ってません。この先、言うつもりもありません。…信じて下さい」
ミラルドは必死に説明した。
「でも、愛し合っていればずっと一緒に居たいと思うものではないの?」
冴子は試す様な視線を向ける。
「俺は、永遠に生きる事の辛さを知っています。瑞希にはそんな想いをさせたく無い」
ミラルドは、耐える様に拳を強く握り締めた。ミラルドの覚悟を知った冴子は、それ以上何も言えなかった。
「そう…解ったわ…」
「それより。今ここで、ラル君に成って? 耳とシッポ付きで!」
冴子は満面の笑みを浮かべている。
「えっ?」
今……なんと?
ミラルドと流輝はキョトンとする。
「だって、実際に見てみないと、やっぱり信じられないと言うか…」
冴子は目を輝かせた。ミラルドは「うっ…」と呻く。
そうだった…この人は止まらないのだった…。
「解りました…」
仕方無くミラルドは変化する。
目の前で、ミラルドの身体が見る見る縮んで行く。その過程で、頭上からは三角のフサッとした耳が、お尻の辺りからフサフサのシッポが生えてきた。冴子は、その様子を瞬きもせずに食い入る様に見ている。
「うわぁ~。凄~い。ホントに本当だったのねぇ!!」
甚く感激している。まるで、少女の様だ。
「流輝さんも変化できるの??」
冴子は流輝に向き直り瞳をキラキラさせながら訊く。
「わっ、私で御座いますか? ……はい。一応…」
「見たい」
「えっ?」
「見たぁ~い」
「………」
「見せて!!」
「…………」
冴子に詰め寄られ、流輝は後退った。
「わっ、…私の変化は又 今度と言う事で…」
と丁寧に断る。
「えええぇぇーーっ、どうして?? 今見たいのにぃぃーーっ」
口を尖らし拗ねた顔をする。
「私のお願い。聞いて貰えないの?」
今度は、色っぽくお願いしてみる。痛い処を突いてくる。惚れた弱味と言う物だ。その様子をラルはニヤニヤしながら見ていた。
押し問答の結果、意外な事に流輝が勝利した。割と頑固なのだ。さすがの冴子もお手上げ状態だった。
冴子が素直に諦めたのには訳がある。出張が、あの事故で二日後に変更に成った。冴子はこれから空港に向かわなければ成らないのだ。本当に惜しい事だが時間が無い。仕方無く諦めたのだった。
「そうだ、流輝。お前の力で送ってやれば良いじゃないか。ついでに搭乗時間までデートすれば良いだろ? 海を見に行ったり…」
それを聞いた冴子は、爛々と瞳を輝かせ
「うん。それ良い! お願い出来る? 出来る?」
冴子は、ぐいぐい迫ってくる。流輝は後退さりながら
「冴子様がお望みならば…」
と小さく応えた。
「わあぁぁぁ、嬉しい!!」
冴子は嬉しさのあまり、流輝に抱き付きキスをした。ラルは目をまん丸にして見ている。流輝は……茹で蛸の様だった……。
「じゃ、じゃあ。早速、今すぐ行きましょう。…私は、どうすれば良いの?」
「はい。そのままで宜しいのですよ」
と優しく微笑む。その様子を今度はラルが暖かい目で見つめた。
「お荷物はこれで全部ですか? お忘れ物は御座いませんか?」
そう訊かれ、冴子はハッとする。
「あっ!! 瑞希‥忘れてた」
そう言って二階へかけ上がる。
「瑞希、起きなさい。お母さん、もう行くわよ!」
「んっ…。ふわあぁぁ~っ」
瑞希は布団の中で、う~んと伸びをする。
「えっ?お母さん、もう行くの?」
「実はね、流輝さんに送ってもらうの。空間移動の力で!」
言葉の語尾にハートマークでも付いている様な言い方だ。
「えっ?…どうしてその事知ってるの?」
「全部聞いたのよ。半ば無理矢理!」
冴子は胸を張る。
「そっ…、それで。すぐに信じられたの?」
「手っ取り早く信じる為に、ミラルド君に変化して貰ったの。目の前で。耳とシッポ付きで!」
「………」
やっぱり凄い人だわ、この人…
「それでね、流輝さんに送って貰って、デートするのよ!」
冴子は、ふふっと笑っている。
「お母さん、流輝さんは本気なんだからね。気持を弄ばないでよ!!」
「何言ってるの! 当たり前でしょ!!」
怒られてしまった。
話しをしながら着替えを済ませ、二人はリビングに下りてきた。
「うわぁ~っ。ラル君だ~。久しぶりっ!」
瑞希は駆け寄り、思い切り抱き締める。
「みっ、‥瑞希。…苦しいよ」
「あっ‥、ご免 ご免。でも、耳とシッポ付きは久しぶりなんだもんっ」
と瑞希は膨れる。冴子と流輝は、微笑ましく二人を見つめた。
「それでは冴子様。参りましょうか」
「じゃあ瑞希。行って来るわね」
「ラル君。瑞希の事、宜しくお願いします」
冴子は深々と、頭を下げた。
「はい。任せて下さい」
「流輝。ちゃんと冴子さんを、エスコートしろよ」
とラルにからかわれ、流輝は顔を赤らめる。
「解っております。おっ、お任せ下さい。」
と言葉を残し、二人は光りに包まれ消えて行った。
「なんか、今の、懐かしかったな。夏もあんな風に挨拶して、外国へ行ったんだよな冴子さん。…順応性、高いよな…」
「本当よね。私なんて凄く時間掛かったのに…。そう言えば葵ちゃんも割とすんなり受け入れたよねぇ」
「あぁ……彼女には本当に驚かされる…」
あの後の流輝は舞い上がって大変だった。一月始めに帰国してからと言うもの。休日の度に冴子にねだられ、力を使って色んな場所でデートしているらしい。その距離も俺達の住む街から徐々に離れて行っている。まだ日帰りだが、宿泊するように成るのも時間の問題かも知れない。
巧く行ってくれると良いけど……。