修学旅行 (2)
人物紹介
飯田聡
三十歳
身長 176センチ
短髪 黒渕メガネ 細マッチョ
瑞希達の担任。サバサバした性格の為、生徒に人気。
相沢拓海
身長 175センチ
短髪 バスケ部 細身
瑞希達のクラスメート
優しくて男女問わず人気。
「は~、疲れた~」
「瑞希、凄く上達したね」
「教え方が良いのよ」
「そうかな」
「そうだよ。有り難う」
瑞希はニコッと笑いかける。ミラルドは自然と穏やかな顔に成った。
空腹を感じ、二人は店が込み合う前に食事を取る事にした。
ホテルは裏口から直接ゲレンデに出入り出来る造りに成っていて、ファーストフード店、スープバー、コーヒーショップなどが入店している。二人はカフェでサンドイッチとコーヒーを注文した。
食事を終え寛いでいると、ゲレンデの一角に人だかりが出来ているのが目に入った。
「どうしたのかしら…」
「そうだね、行ってみよう」
外に出た所で、誰かがタンカに乗せられてホテルに向かって来るのが見えた。桜ヶ丘学園の教師が付き添っている。
「飯田先生、どうしたんですか?」
声を掛けると、瑞希達の方へ小走りでやって来た。
「相沢が派手に転んでな。どうやら足を骨折してるらしい」
タンカに目をやると、相沢が苦し気に顔を歪ませている。
「私に治療させて下さい」
「あぁ、誰かと思えばクラウド先生じゃないですか。お久しぶりです。どうしてここに…」
飯田は、二人の顔を交互に見比べる。
「…杉本を追って来たんですか…」
「あっ、えっと、あの、そんな事より早く治療を…」
「あぁ、そうですね。…その事は、後でゆっくりと…」
「…はい…」
ミラルドは小さく肩を落とした。
「こっちです」
ホテルの従業員に誘導され、一行はそれに付いて行く。
「ベッドにそっと寝かせて下さい」
一二の三で、そろりとベッドに移動させる。
「後は任せて、皆さんロビーでお待ち下さい」
そう言われ皆は外に出た。
「あっ、瑞希は残って」
「えっ、あっ、はい」
呼ばれた瑞希は慌てて中に入った。
「俺の足…どうなるの?」
青白い顔で相沢が聞いてくる。
「大丈夫だよ。ミラルドさんは、腕の良い医師なの。だから安心してね」
瑞希は相沢の目線に成る様にしゃがみ込み、安心させる様に笑顔で言った。
痛みを取り除く為に、相沢の足に暖かな光りを当てる。
「…なんか…痛みが無くなって来た…」
「…えっと…麻痺しているから痛みを感じなく成ったんだよ」
「そっ、そうなの?…大丈夫かな…」
相沢は情けない顔をする。
「大丈夫だよ」
と瑞希は満面の笑顔で応えた。
これは、完全に治すとマズイよな…足、逆方向むいてるし…。う~ん…そうだ
ギブスの材料を探してみる。
…あった…
「瑞希、ちょっと来て」
返事をしてミラルドの傍に立つ。
「ミラルドさん、完全に治しちゃダメよ」
「解ってるよ、良い事考えたんだ。痛いのは可哀想だから、完全に治した上でギブスを巻いて、二週間位して俺の処に来て貰うって言うのはどうかな?」
「そうね…。うん、それ良い。そうしましょう」
ヒソヒソと二人で相談して、相沢に向き直った。
「治療するから麻酔で眠って貰うよ」
「えっ…、はい…」
「大丈夫よ、相沢君! ミラルドさんは名医なのよ」
不安気な相沢に、ニコニコと声を掛ける。相沢はその顔を見てホッとした様だった。
「うん、解った。宜しくお願いします」
と言った相沢に「じゃあ」と言って両手をかざす。
相沢が眠ったところで、癒しの光りで包み込んだ。
そっぽを向いていた右足がゆっくりと元の形に戻って行く。強かに打ち付けた腕も首も頭も、至る場所の痛みを全て取り除いた。
左手と右足にギブスを巻く。
「これで良いだろう」
「うん。これなら大丈夫だと思う」
「瑞希…看護師に成る気は無い?」
瑞希の姿をじっと見つめて、ミラルドが言った。
「えっ…、どうして?」
「あっ…えっと…、何となく…」
瑞希は首を傾げる。
はっ! もしかして、プロポーズ? ……でも……一緒に成ったって、私の方が先に死んじゃう…。私が居なく成ってもミラルドさんはずっと生き続けるんだわ…。そして又、誰かを好きに成って…私の事も忘れてしまうのよ…ね…
私の事も美鈴さんの様に何時までも憶えて居てくれるかな…
今まで目を背けてきた現実に直面し、不意に涙が零れそうになった。
「瑞希? どうしたの?」
「…何でも無い」
「俺さ、相沢君が目覚めるまで付いてて良いかな」
「うん良いよ、そうしてあげて」
と俯いたまま微笑んで、ローカに出た。目尻に溜まった物を指で拭い、溜め息を吐く。
「どうした杉本。相沢、そんなに悪いのか?」
「あっ、先生…いいえ相沢君は大丈夫ですよ。中にどうぞ。…寝てますけど…」
「そうか、解った」
医務室のドアをノックする。
「どうぞ」
「失礼します。クラウド先生、旅行先まで生徒がお世話に成りまして、有り難うございます」
「いいえ、医者なんですから当然の事です」
「杉本が浮かない顔をしていたので、相沢が良くないのかと思いました」
「瑞希が…ですか?」
「はい。…何か有りましたか?」
「いいえ、…別に」
どうしたんだろう、瑞希…
「瑞希、彼氏がね相沢君が目覚めたから、先にリフトに乗って上に行って待っててって言ってたよ。直ぐに行くからって」
「私達が一緒に行ってあげるから」
「本当? うん解った」
午後二時だった。友人二人と、リフトの所までやって来た。
「こっち、こっち」
と引っ張られ三人でリフトに乗る。そこは、上級者コースだった。
スキー場の一番上に降り立つ
「ここって上級者コースじゃない?」
「そうだけど…ここで待っててって言ってたわよ」
「私達、邪魔者は消えるわね」
と言って二人は滑って行く。あっと言う間に見えなくなった。瑞希は仕方無くそこで待つ事にした。
見渡す限り白い世界が広がる。時たま木々の緑が雪の間に幻のように見えた。
リフトの側には、コンクリートで出来た真四角の倉庫の様な物が建っているが、その他には何も無い。まるで、音も色も無い異世界に降り立ったようだった。
三十分経った。
あ~ぁ、ミラルドさん何やってるんだろう。…遅いな~
「電話してみよう」
携帯を取り出す。
「あれ?充電は満タンなのに、電波が…」
「う~ん」
どの位置に移動しても電波は繋がら無かった。
相沢が目覚めたので、後を教師に任せて、瑞希を捜していた。
「瑞希の彼氏さんですか?」
「そうだけど…」
「瑞希、午後からはお母さんと一緒に過ごすって言ってましたよ」
「でも、冴子さんは流輝と朝から出掛けているはずだけど」
「さっき迎えに来てましたよ。瑞希も行くわよって無理矢理引っ張って…。ねぇ」
「うん」
「じゃあ電話で確認を」と携帯を出そうとしたら
「私達にスキーを教えて下さい」
と目をランランと輝かせた女の子達に囲まれ、身動きが取れ無い。携帯を出そうとする手も押さえられ、どうする事も出来無かった。
仕方無い…。
彼女達を指導するはめに成ってしまった。
『ふふふ…。巧く二人を引き離す事が出来たな。当主と離れた隙に命を狙おうと思ったのだが、まさか全員で来るとは…。だが、巧くいった。ここなら総樹の邪魔も入るまい』
午後三時
瑞希はもう一度携帯を開いて観る。
「…あ~、駄目だ…。それにしても寒い。風も強いし…。この中に入っても良いかな…」
立ち入り禁止と書かれた重い扉を押し開ける。鍵は掛かっていなかった。
ギギギィィィィッ
コンクリートの壁に不気味な音を響かせる。中には資材が無造作に置かれていた。
「あ~っ、早く来ないかな…。もし来なかったら…私…どうなるの…?」
余りの寒さに意識が朦朧とする。更に、三時間が経っていた。
「…さむ‥いよ…ミラルド」
ご説明。
瑞希がリフトに乗って上級者コースに行きますが。瑞希に誰も気付かないのは、黒樹の妖力の為です。
携帯の電波は実際には解りませんが作品の中では、黒樹が妨害しています。