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訪問

人物紹介します。

ミラルド・クラウド

 ウルフ族当主

身長・178㎝ スレンダー

 髪・銀色。肩に掛かる長さ

瞳・ブルー

性格・優しくて争いが嫌い。



ラル・クラウド

ミラルドの子供の姿。

身長・126㎝

髪・茶色。短かめ。

瞳・深いブルー。

好物・ハンバーグ。

服装・いつも Yシャツ ジーンズ。大人になる時に首が締まる為。

 ここは三十年程前、都市開発事業で開拓された比較的新しい街だ。銀行員だった瑞希の祖父が、妻と幼い娘と一緒に越して来た。ありとあらゅる施設が整然と配置され、かなり住み良い街になっている。


 瑞希の母は 結婚して一旦はこの土地を離れたが、夫の死をきっかけに 娘と一緒に戻って来たのだった。実家に戻って来る様に声を掛けてくれた祖父母も、瑞希が中学の頃に病気で相次いで亡くなった。今は、母と娘の二人で住んでいる。


 インターホンが鳴る。は~いと、瑞希は勢い良く扉を開けた。そこには、ブルーの瞳を大きくしたラルが立っていた。

「いらっしゃい。ラル君。待ってたよ!」

 瑞希は、微笑みながらそう言った。


「こんにちは。遅くなってゴメン。もっと早く来ようと思ったんだけど……」

 ラルは、両手をもじもじさせる。

 昨夜、なかなか寝付けなかったラルは、寝過ごしてしまったのだった。


「良いのよ、来てくれたんだもの。さあ上がって!」

「うん。身体の調子はどう? だるい感じとか、熱っぽいとか無い? 薬ちゃんと飲んでる?」

「ふふっ。心配性ね。大丈夫よ。薬もちゃんと飲んでるわ」

「そっか、なら良いんだけど」

 ラルは、ほっと息をついた。


 さあ入ってと、リビングに通された。甘い香りが漂ってくる。ソファーに座って待っててと、瑞希は キッチンへ入って行く。

 ラルが珍しそうに部屋中をぐるりと見回していると。

 古い家でしょう? と瑞希が、トレイを手に戻って来た。焼き立ての、菓子とカップが乗っている。


「クッキーとマドレーヌ焼いてみたんだけど、お口に合うかな。食べてみて!」

 はいどうぞと、瑞希はラルの前に皿とカップを置いた。

 ラルは頂きますと元気に言って、クッキーを一枚口の中に頬張る。「ん! 美味し~い」と、ラルは大げさに言った。お世辞ではなく、本当に美味しかったからだ。

「良かった、喜んでもらえて。私、お菓子作るの好きなの」

 瑞希は嬉しそうに、にっこりと微笑んだ。


 ラルは、カップを持ち上げる。中身はココアのようだ。甘い物より紅茶の方がよかったが、せっかく淹れてくれたんだし、思い切って飲んでみた。甘くてほろ苦い味がする。コーヒーの香り? ラルは不思議な顔でカップの中を覗き込んだ。

「ふふっ。それココアじゃ無いのよ、カフェモカって言うの。マイブームなの。お口に合わなかったかしら?」

「美味しいよとっても。この味好き!」

「そう? 良かった。気に入ってもらえて」


「瑞希、一人で住んでるんだよね。淋しくない? 僕なら淋しいな」

 一息ついて、ラルはそう訊いてみた。

「そうね。淋しくないって言ったら嘘になるけど。母は、私を育てる為に一生懸命働いてくれているから。少しは我慢しなきゃね」

 と、瑞希は少しだけ口角を上げた。

「ラル君のお父さんと、お母さんは?」

「うんとね。お母さんは僕を産んで産後の日だちが悪くて、すぐに死んじゃって。お父さんもずっと前に死んじゃった。」

 瑞希の問いに、ラルは他人事のようにあっけらかんと答えた。

 産後の日だちって、子どもが使う言葉じゃないわよね……


「そうなの……。ごめんね辛い事聞いて。ラル君も淋しい思いをしているんだね」

「うんん。流輝がいてくれるから、淋しいって思った事なんて無いよ」

「そう。流輝さんの事頼りにしてるんだね。お父さんみたいな存在かな?」

「そうだね……。僕の右腕って所かな?」

「みっ、右腕?」

「うん、そう。流輝の作る料理って凄く美味しいんだよ! 料理好きの瑞希と話しが合うかもね」

 と、ラルは無邪気に笑っている。


「そっ、そうね。ところで、流輝さんとラル君ってどういう関係なの?」

「えっ………。」

 不意に聞かれ、ラルは答えに詰まった。

「えっと、それは……。僕のお父さんの秘書だった人で、今は僕に付いていてくれてる。父が亡くなる時に俺の事を頼むって言ったらしくて……」

 ラルは俯いたまま、大人っぽい口調で話した。その顔があまりに綺麗で、瑞希は見入ってしまった。

「そう、秘書なんだ……」

 ラル君って不思議な子。大人っぽい顔をしたり、子供っぽい事言ったり……。でも秘書付きの六歳児って……


「ラル君って六歳だよね。幼稚園とか行かないの?」

「うん。楽しくないから行かない」

「でも幼稚園行ったら、お友達沢山出来るよ!」

「う~ん、だって話しが合わないし。ウザイじゃん。先生とか」

「そっ……、そう~」

 やっぱり子供っぽく無い。


「それにさ……」

 ふいに大人っぽい顔をする。

 ……生きる時間が違うから。「友達になっても」人間の方が先に死んじゃうじゃん。瑞希も俺より先に、いなくなるんだ……

 ラルは俯いて悲し気に微笑んだ。


「友達になっても、何?」

「……何でもない」


「そうだ。晩ご飯食べて行かない? 何が良いかな?」

「うーん。どうしようかな、ご馳走になろうかな。……ハンバーグ、食べたい」

 ラルは赤面して、俯きながらそう言った。

「よし、ハンバーグね。材料も揃ってるし。大丈夫。作れるよ! …それじゃ、手伝ってくれる?」

「うん良いよ!」


 ちょっと待っててねと、瑞希は二階に上がって行き、エプロンを手に戻って来た。瑞希は赤地に白いドット柄。ラル君はこれと、白のフリルがたっぷり使ってある。レースのエプロンを見せた。


 え゛っ。こっ、これ着けるの? と、ラルは二・三歩後ずさる。瑞希に身体を掴まれて、無理やり着せられた。恥ずかしいのに。あろうことか、それを写真に収めている。


 あぁ、何て事だ……


 気を取り直してハンバーグ作を作る。瑞希の指示で、ラルはテキパキ動いた。

「ラル君、凄い。いつも手伝ってるの?」

「うんん。いつもは何もしないけど、やろうと思えば出来るよ」

「そうなの? じゃあどうしてお手伝いしないの?」

「流輝が 嫌がるから。゛ラル様は何もなさらないで下さい!゛って言って、全部 自分一人で何でもやっちゃうんだよ」

 とラルは流輝への不満を口にした。


「へえ~、そうなんだ。そう云えば、ミラルドさんとラル君って兄弟?」

「うんん違うよ。従兄弟なんだ。えっとね、ハーフって言うの?」

 用意された答え。そんな風に訊かれたら、いつもこう答えるようにしていた。

「ふ~んそうなんだ。ミラルドさんとは何でも話すの?」

「うん。ミラルドの事なら何でも知ってるし、僕の事もミラルドは何でも知ってる。」

「そうなの、仲良しなんだね。じゃあラル君にとってミラルドさんは、お兄さんみたいなものかな?」

「ミラルドは僕にとって……分身……かな」

 ラルは、大人っぽい口調で寂しい気に言う。その言葉に瑞希は驚いた。

「分身? どう言う意味?」

「……なんでも無い。……そうだね。兄ちゃんかな。まっ、何でも良いじゃん。早く食べようよ!」

 ラルは、これ以上続けたくなかったのか、話題を変えた。

「あっ、そうだね。冷めちゃうね。食べようか」


 二人は戸棚から食器をだしその上に色どりよくおかずを盛り付けた。食卓に二人分の食器を並べ向かい合って席に着いた。

 頂きますと、ラルは一口頬張る。「うん。美味しい!」瑞希って天才だねと言って黙々とハンバーグを口に運んだ。

「天才は大袈裟だけど、嬉しいわ」

 と言って瑞希も食べた。

 食事を終え、片づけを済ませ、コーヒーの用意を始めると、ラルに紅茶がいいと言われた。インスタントしかない事を伝えると、インスタントでも構わないと言われた。お待たせと言いながら瑞希はカップを手渡す。

 ラルは、ありがとうと言って一口飲んだ。そして微妙な顔をした。


「ごめんね。インスタントしか無くて。今度 流輝さんに、ちゃんとした茶葉の入れかた教えて貰うね」

「うん。……これは、これで、美味しいよ」

「なら……良いけど……」

 と瑞希は、申し訳無さそうに言った。インスタントと本場の茶葉の違いが分かる子どもって、いったい……。瑞希は居たたまれなくなって、気を紛らせようと、テレビでも点けようか、とスイッチを入れた。

 テレビを点けると、二・三十年前に流行った歌番組が放送されていた。

 すると、うわ~懐かしい。と、ラルが歓喜の声を上げる。


「えっ、……懐かしいって……」

 ラルは、流れる曲 全てを一緒になって歌っている。

 なっ、何でこんなに歌えるの?私だって知らないのに……

「ねえラル君、どうしてそんなに古い曲を知ってるの?」

 えっ……、ラルははっとして、しまった―と思う。どっ、どうしよう……

「えっとね。う~んと。あっ、そうそう、流輝が良く歌ってたから。覚えちゃった」

「あぁ、そうなんだ~。凄いね、私知らない曲ばかりよ!」

 瑞希はすんなりと納得してくれたようだ。はー、助かった。ほっとする。


「僕、もうそろそろ帰るね」

 これ以上ぼろが出ないうちに退散しようと、ラルはソファーから立ち上がった。

 じゃあ送って行きましょうかと立ち上がる瑞希に、

「大丈夫だよ。一人で帰れる。それじゃあご馳走さまでした。ちゃんと薬を飲んで、暖かくして寝るんだよ!」


「あはははっ、心配性ね。ちゃんと薬飲んで寝るから。じゃあ気を付けて帰るのよ。流輝さんに宜しくね」

 うん。じゃあバイバイと、ラルは手を振って帰って行った。


 やっぱり、ラル君って変わった子。一緒にいて全然飽きないな。お風呂に入って、さっさと寝よう。じゃないと怒られちゃう。ラルの、怒った顔を想像してみる。うふふ……「怒った顔も可愛いんだろうな」と言って、家の中へ入って行った。


 ラルは、 公園の中を通って診療所へと向かって歩く。

 今日は楽しかったな。瑞希って、本当に料理上手だな。良いお嫁さんになれるかも。

 ……お嫁さんか……

 ……瑞希が、誰かの物になる……


 あの笑顔が、俺じゃない他の誰かに向けられる。そんな事になったら、俺はどうするだろう。


 黙って、見て いられるのか……


 俺は、……耐えられるのか……


 足取りが重くなる。胸が苦しい。ブランコに腰掛け、ぼんやりと考える。答えなんて、見つからない。出口の無いトンネルの中を、さ迷っている様だ。


 物思いに更けるその横顔は、とても子供とは思えない大人っぽさが伺える。


 首からぶら下げているペンダントを取り出し、月にかざしてみる。無色透明のはずが、薄いピンク色をしている。

 このペンダントは、ウルフ族当主だけが持つ事が出来る、紋章と云われる物で、愛情で満たされると真紅に染まる。ミラルドの父親が着けていた時には、黄金色に輝いていた。

 複雑な思いで 紋章を見つめる。


「ラル様 、もうお帰りでございますか。瑞希様のお宅は、いかがでしたか?」

 にこやかにそう言いながら近ずいて来る流輝が、ラルの手に握られている物を目にした。

「―――――それは―――――」

 そう言ったきり、流輝は口をつぐんだ。


「なあ、流輝……」

「はい。何でございますか?」


「この紋章。親父が着けていた時、それを受け継いだ時も、金色だったな。どうしてだ。……俺は、紋章に認められて無いと言う事なのか……」

 ラルは、ぼんやりと前を向いたまま流輝に問いかけた。


 それは……と、流輝は一時考えてから口を開いた。

「エルド様にお尋ねした事はございませんでしたが、……そうですね……。迷いなく誰かを愛する心。仲間を思う心。そして自分を愛する心。全てが揃った時に、 黄金色に輝くのではないかと考えます。」


「……そうかも知れないな……」


 俺はいつも迷ってばかりだ。自分の事も愛してはいない気がする。ただ、無駄に生きているだけ……


 ラルは、淋しい笑みを浮かべた。




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