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覚悟


書き忘れていましたが、



第二章の最終話に成ります。







 ドーン、ドーン、バキバキ、バキッ


 樹海に、けたたましい音が響き渡る。


 銀牙を倒せ無かった上に、ひ弱な女に負かされてしまった。


 気が立っている邪気がその鬱憤うっぷんを晴らす為に暴れているのだった。


「落ち着け、邪気」


「煩い! 好きにさせろ!」


 ドーン、ドーン、地響きがする。妖力を辺り構わずぶち当てているのだ。



「…それならば、ウルフ族の城を攻めてみてはどうだ」


 黒樹が提案した。


「それは良いアイデアだなぁ~」


 邪気は、新しい玩具を与えられたように目を輝かせニヤリと笑った。





 二人は城の前に立っていた。


 随分 久しぶりにこの場所に来た。五百年前までは何度も訪れていた場所。ウルフ族の記憶を操作し、有る物を無き物としてきた。…全てはもうすぐ実る計画の為に…。


 今は全てが巧くいってる。銀牙や邪気は只の伏線だ…


 黒樹は物思いにふける。



「何をしている。早く行くぞ」


 そう言うと、ズカズカと邪気は城の中へ入って行った。黒樹もその後に続く。




「何だお前達は」


「止まれ」


「中に入るな」


 城内の人達の静止も聞かず、どんどん中に入って行く。


 敵はたったの二人。しかし妖力はけた違いだった。



 踊る様に逃げる姿が楽しくて、逃げ惑う人々の足下に妖力を叩き落とす。邪気の機嫌もすっかり良くなった様だった。



「何をチマチマいたぶっているのだ。サッサと殺れ」


「ワハハハ。好きにさせろ」


 いたぶるのを止めない。


 黒樹は、苛々しながら攻撃の様子を見ていたが


「もう良いだろう」


 と、どす黒い妖気を叩き付けた。



 逃げ惑っていた者も、防御していた者も、瞬時に自由を奪われ地面に身体を押し付けられる。身体能力の高い者は辛うじて動けたが、そうで無い者は動け無いでいた。息絶えてしまった者もいた。



「他愛もない」


 黒樹はニヤリとしているが、邪気は機嫌が悪い。


「何故もっと遊ばせ無い! 一匹づつ狩って行くのが楽しいのだ。俺の邪魔をするな!」


 と言う。


 黒樹はうんざりした顔をする。



 ‥もういい加減邪気の相手をする事に嫌気がさしていた。賢く無い奴は嫌いだ…





 突然、ミラルド達が城壁の中に現れた。美咲の透視で知ったのだった。



 黒樹は舌打ちをして


「引き上げるぞ」


 と言うが、邪気は言う事を聞かない。



 動かなく成った者を二人抱えて、黒樹と共に消えた。







「大丈夫か、お前達」


 動けずにいる者達に、ミラルド、流輝、早苗、恭弥の四人が駆け寄る。


 城の異変に気付いた護衛隊の面々も戻って来た。



「これは…」


「何があった!」


「何て事だ」


「おい、しっかりしろ!」


 それぞれ、一人づつ揺さぶって行くが反応が無い。



 ミラルドは命の危険な者から、次々と治療して行く。



「この方達をここに置いておく事は出来ませんね、又襲って来るかも知れません。…しかし私共の診療所は、狭すぎますし…」


 その言葉にミラルドも困った顔で頷く。



「…あの…ミラルド様。葵様にお願いしてみましょうか?」


 早苗が遠慮がちに言う。



「そうか、葵ちゃんの所か。あそこなら広いけど、だけど…。こんなに大勢…」


「流輝様、葵様の元へ連れて行って下さい。ここの皆を一時的にでも泊めて頂けないか、お願いしてみます」


 ミラルドの言葉をさえぎって、早苗は言う。


 それを聞いて流輝は頷いた。







 早苗と流輝が診療所に戻って来た。葵は銀牙の傍に寄り添っている。


「葵様、銀牙さんはいかがですか?」


「一度目を覚ましたのですが、又眠ってしまいました」


「…そうですか…。あの、お願いが有るのですが…。こんな時に申し訳有りません」


「何ですか?」



「実は、ウルフ族のお城が襲われまして、多くの負傷者が出たのです。ここは狭いのでお屋敷へお連れしてはいけませんか?」


「お城の方達が襲われたのは美咲さんに聞いておりましたから…。解りました。流輝さん私を屋敷へ送って下さいますか?」


「はい。解りました」


「瑞希さん、銀牙さんに付いていて下さいますか?」


「うん、解った。任せて」


「先に屋敷に戻って色々と準備をして置きますので、いつ来られても大丈夫ですわ」


「本当に申し訳ありません」


「いいえ、私も仲間なのですから…」


「では参りましょうか」


 と三人は消えた。




 屋敷に戻った葵は直ぐ様、応接棟にマットや布団を運ばせた。それと同時にお風呂の手配と食事の用意を指示した。橘グループ系列のデパートに衣類やアメニティ用品、五十人分の物を持って来る様に連絡した。





 一時間程して、突然屋敷の庭に現れた大勢の人に、使用人達は驚きどよめいた。



「取り敢えず、この方々に休ませる場所を」


 と言われ、応接棟へ案内する。


 ミラルドがもう一度診察し、治療の終わった順にお風呂、食事の後、急ごしらえのベッドで休んで貰った。


 突然現れたその人達は随分と衰弱している者も多く、見るからに身なりも貧しかった。


 使用人達は「この方達は、どう言う人達なのか」と言う疑問を飲み込み自分の仕事をまっとうする。


 葵は今までも行き倒れている者や、路頭に迷っている者、家出をして来た者など誰彼構わず連れて来ていた。使用人の中にはそう言う者達も多く含まれて居るのだから、皆葵には感謝しているのだ。行き場の無い自分達に食事を与え、住まいを与え、仕事も与えてくれたのだから、葵のする事に文句をつける者など一人もいなかった。






「済まない葵ちゃん、迷惑を掛けて…」


 全員がベッドに休んだ後、ミラルドは葵に頭を下げた。


「いいえ。流輝さんにも言いましたが私も仲間なのですから、全く迷惑だなんて思っていませんわ」


 と葵は微笑んだ。






 ミラルドは後の始末を葵に任せ、診療所へと戻って来た。銀牙はまだ目覚め無い。


 涼も銀牙も深手を負ってしまった。涼は親友で、銀牙は仲間だ。俺は当主としてどうするべきなんだ。


 頭を抱える。


 解ってる…。もう覚悟を決めるべきなんだ。いつまでも逃げてばかりいられない。


 解ってる…。


 でも…。


 闘わなければ為らない。あんな理不尽な奴は倒さなければ為らない…。


 だけど俺は医者なんだ。傷付いた者を治療し、助けるのが俺の仕事だ…。


 俺は奴の命を奪わなければ為らない。奴にはもう何十人もの命を奪われている。ウルフ族だけじゃ無く、人間までも…。つい最近まで百名以上いた仲間が先の攻撃で半分程に減ってしまった。


 皆、皆…、殺されてしまった…


 心の中に、どろどろとしたモノが溢れて来る。


 でも俺は…、憎しみで動きたく無い。やっぱり誰かを守る為に行動うごきたい。


 流輝、冴子、銀牙、葵、涼、美咲、鉄雄、護衛隊の皆…


 …瑞希…


 皆の笑顔が次々と浮かんで来る。


 俺は、この人達を守りたい。自分の持てる全ての力で守り抜きたい。そう強く願った。



 するとどうした事か、胸に下がる紋章がミラルドの想いを受け取った様に、銀色に輝き出した。


 力が沸き上がって来る。紋章が力を分け与えてくれている様だ。


 もう迷わない。ミラルドは静かに決意した。






 部屋に籠っていたミラルドが降りてきた。闘いを決意したのだ。引き締まった顔をしている。



「ミラルド様…覚悟を決められたのですね」


「あぁ…」


 短く返事をする。



 只ならぬ緊張感が部屋中に伝わる。



「ミラルドさん…どうしたの。…どこかへ行くの?」


「…涼と銀牙をあんな目に合わせた奴と、… 闘いに行く」


 瑞希の瞳がこれ以上無い程大きくなる。


「そんな…危ない事‥しないで…」


 消え入りそうな声で懇願する。


「これはウルフ族当主としての闘いなんだ。アイツだけは野放しに出来無い。ウルフ族の為にも人間の為にも、…奴を仕留めなければ為らない。…解ってくれ…」


 瑞希は、両手を口元にあて涙を流した。人を傷付ける事を嫌がるミラルドがここまで言うのだ、相当な決意だろう。それ以上何も言えなかった。




 美咲に透視の力で邪気を映してもらう。奴は目の前を通過しようとしているバスを眺めていたが、おもむろに走り出しバスの前に立ちはだかった。


 バスは急ブレーキと、急に切ったハンドルのせいで横転してしまった。乗客は一様に傷付いて、身動きが取れない状態だ。


 邪気は、バスに近付き運転手の頭をわしづかみにし、そして高々に持ち上げぶら下げた。


 そこには、空港へ向かう冴子も乗っていた。



 それを見ていたミラルドと流輝は、直ぐ様邪気の元へ飛んだのだった。







 ミラルドは、素早く邪気に近付き男性を奪い返す。その人をバスに乗せ、流輝はバスごと空間移動させた。


 流輝は、大学病院に急患がいる事を伝えに走った。医師達は横転したバスに驚きつつも、中の人達の救助をする。


 早くミラルドの元へ戻りたいが、当主の求めるものは、傷を負った人達の治癒だ。それを見届けなければ主の元には戻れない。



 中から大勢の人達を外に運び出し、冷たい路上に寝かせて行く。腕や足、頭から血を流した人達の中に冴子も居た。



「冴子様、大丈夫ですか? お怪我は?」


「私は平気よ、ちょっとぶつけただけで…」


「そうですか‥怪我が無くて何よりです」


 とホッと胸を撫で下ろした。


「それより」


 と流輝を睨む。


「何…ですか‥?」


 流輝は、ジリッと後退る。


「空港に‥向かっていた筈なのに…」


 冴子は流輝の目を見つめる。


「それは…」


 流輝はたじろぐ


「…いきなりバスが横転して‥バスの外に、貴方とミラルド君が現れて…」


「はぁ…」


「…その…、どうやったの?」


「……何を…ですか‥?」


 流輝は恐る恐る聞いてみる。


「光りに包まれたと思ったら、今度は病院の前に居る。…貴方が…やったんでしょう?」


「………」


 見られていたのか……


「あの‥後日ご説明致しますので、今は診察を受けて下さい」


 と、院内へ連れて行く。



「私は平気よ!どこも悪く無いわ。早く説明して頂戴!」


 凄いけんまくだ。


「…っ、いけません。事故に遭われたのですから、きちんと診て頂いて下さい。でないと私は心配でたまりませんから…。お願い致します」


 そう言ってイスに座らせた。



「分かったわ。じゃあ、いつ教えてくれるの?」


 冴子はしつこく食い下がる。


「…………」


 う~ん。何と説明致しましょう…


「えっとですね。それは…ミラルド様と、ご相談の上で…」


「それはいつ?」


「うっ…」


 本当にしつこい…



「これは…記憶を消すしか無いか…」


 ボソリと呟いた小さな声は、冴子の地獄耳にはしっかりと届いていた。



「記憶を消すですって…そんな事も出来るの?」


「…はっ…」


 流輝は慌てて口を押さえた。


「…私の記憶は消さないで頂戴。そんな事したら…嫌いに成るわよ」


 鋭い眼光で睨まれ、地を這うように出て来た声に観念して、流輝は長い溜め息を吐いた。


 そして「分かりました」と答えるしか道は無かった。









 ミラルドは邪気と対峙した。


「今度は逃げないのかミラルド。やっと俺に殺られる覚悟が出来たのか」


 ふんと鼻で笑う。



「もう逃げない。残された仲間を守る為に、俺はお前を倒す」


 ミラルドは応戦の形を取る。


 意外な応えに驚きつつも、邪気はまだミラルドをあなどっていた。


「大した力も無い青二才が…、生意気な…。ただ紋章を持って居ると言うだけで、当主だと?…笑わせるな! 俺の方が実力も何もかも上なんだ。当主には俺が成るべきなんだ! 俺の方が相応しい。それなのに…なぜ分からない! なぜ俺を崇め無い! 頂点に立つのは俺だ。お前みたいな、へなちょこでは無い。今こそ俺の実力を見せ付けてやる」


 と妖力を爆発させた。



 憎しみや邪心に満ちた悪意の妖力だ。バリアで塞いでも、凄まじい力が込もっている事が解る。だがミラルドも紋章の力を借りて、今までに無い力を手にして居る。仲間の為にも負ける訳には行かない。こちらも全力で妖力を叩き付けた。



 一瞬、邪気の身体がぐら付く。純粋なミラルドの力は、邪な力を浄化する様に邪気の力を奪っていく。



 邪気は、接近戦に切り換えた。妖力勝負では部が悪いと思った様だ。




 鋭く延びた爪を何度も交え、跳ね返される。体格のせいかミラルドは押されぎみだ。


 傷だらけに成りながらも、懸命に立ち向かって行く。仲間の為に。愛する者の為に。長い時間、攻防は続いた。



 漸く。少しずつではあるが、ミラルドの、清らかな妖力を纏った攻撃が当たる様に成ってきた。




 黒樹は、木の上から見物している。



「なぜだ! なぜ力を貸さない、黒樹!」



「お前に力を与える義理は無い。お前は我の力をあてにし過ぎだ。たまには、自分だけの力で勝ってみろ」


 手を貸そうと言う気は、毛頭無いらしい。



 おのれ…黒樹め、俺をおちょくりやがって…。憶えていろ、コイツを始末したら次はお前だ‥絶対に生かしちゃおかねぇ…。


 どんなに睨み付けても、どこ吹く風、黒樹は涼しい顔を崩さない。




 邪気の気が散っている。今がチャンスだ。



 ここぞとばかりに、溜め込んだ妖力を一気に放出する。防御したが間に合わず、かなりな爆風に煽られ、邪気は吹き飛ばされてしまった。


 土煙で視界が遮られる。



 とても敵わないと知り、どさくさに紛れて、邪気は逃げ出した。










 怪我人を病院へ送り届け、流輝は主の元へと戻って来た。



「ミラルド様、ご無事ですか?」


 流輝が駆け寄る。


「あぁ。バスの乗客は?」


「はい。皆様負傷されていましたが、全員治療を受けて頂きました。冴子様もご無事です」


「そうか、良かった。でも…邪気を逃してしまった。又、誰かが襲われ無い様に注意しなければ…」


 ミラルドは悔し気に顔を歪ませる。


「俺は‥奴を仕留めるつもりだったんだ…。なのに…」


 拳を握る。血が滴る。



「ミラルド様がご無事だった事が何よりです」



 悔しそうな主の顔を見て


「いずれ又、対戦する事に成るでしょう。その時に万全で居られる様に、今はご自分の治癒に専念して下さい」


 そう言った。



「そうだな…」


 納得の行かない顔で、ミラルドは頷く。










 瑞希は戦闘の様子を、美咲の透視でハラハラしながら、時には目を覆いながら観ていた。


 冴子の乗ったバスが襲われたと知り、バスの様子も映して貰った。母には流輝さんが付いて居てくれるし、大した怪我も無い様だ。


「良かった…母さん無事で…。それより、ミラルドさんは?」


 その言葉に頷き、再び樹海を映す。




 二人の闘いは接近戦に移っていた。ミラルドの顔や身体が次々に斬られ、赤い筋が増えていく。そこから血が滴り落ちている。


「ミラルドっ」


 瑞希は両手を胸の前で組み『ミラルドをお救い下さい』と懸命に祈った。


 その想いが通じたのか、徐々にミラルドの攻撃も当たる様に成ってきた。色黒の邪気の腕や頬に赤い筋が見える。


 ミラルドは苦し気に表情を歪ませている。やっぱり敵でも、人を傷付ける事に抵抗があるのかも知れ無い。



 …ミラルド…



 突然、ミラルドの妖力が爆発した。枝や砂ぼこりが舞っている。何も見えない。



「何?どうなったの? ミラルドさんは無事なの…?」



 視界がクリアに成るまでジリジリと待つ。食い入る様に覗き込むが、影か一つ見えるだけで誰なのかはっきりしない。



 …ミラルド…




 暫くして視界がはっきりしてきた。その中に立っていたのは、ミラルドだった。



「あぁ…良かった…」


 瑞希は、その場に経たり込んだ。




 その姿を見ながら


 これは口にしてはいけないと流輝様に言われたけれど、本当に美鈴様とそっくりだわ…


 と美咲は思っていた。




「ちょっと、銀牙君見て来ます」


 瑞希はホッとして、銀牙の病室へ向かう。


 美咲も涼の傍らに寄り添う。


 …涼…





 瑞希は、そっと銀牙の眠る部屋のドアを開けた。



「…瑞希…」


「あっ、銀牙君、目覚めてたんだね。調子はどう?」


「…うん…」


「お水飲む?」


「少し…」



 水差しの水をグラスに注いで、銀牙を座らせて手渡した。



「葵は?」


 一口飲んでから銀牙は尋ねた。


「葵ちゃんは…」


 躊躇う瑞希の顔を見て


「何かあったのか?」


 と銀牙は腰を浮かせる。



「あっ、違うの。ウルフ族のお城に敵が攻め込んで来て、大勢の人が怪我をしたの。それで葵ちゃんの家に避難させる事に成って、その手配の為に自宅に戻ってるの」


「………」


 …お頭が…



「銀牙君の事とても心配していたんだけど、私に頼んで屋敷へ向かったの」


「……そうか……」


「もう少し眠ったら?」


「ミラルドは?」


「……えっと……」


「何かあったのか?」


 まさか…


「うん…その敵と闘う為に、…樹海に…」


「ミラルドがお頭と?…俺も行く」


 ベッドから降りようとする銀牙を、瑞希が止める。



「きっと、もう終わってるわ」


「えっ!?」


「さっきまで、美咲さんの透視で観ていたの」


「そっ、それで?」


 銀牙は身を乗り出す。


「帰って来なきゃ解らないんだけど、ミラルドさんしか居なかった」


「……そうか……」


 …お頭は負けたのか…









 ミラルドと流輝が帰って来た。瑞希と美咲が駆け寄る。



 透視で一部始終を観ていたので無事だとは解っている。でも、やっぱり自分の目で確かめるまでは安心出来なかった。




 瑞希はミラルドに抱き付いた。


「良かった…無事で。本当に良かった…」



「瑞希…。心配掛けたね。もう大丈夫だよ」


 ミラルドは微笑んでそう言った途端に倒れてしまった。



「ミラルドさん?…ミラルド!!」



「ベッドで休んで頂きましょう」


 三人でベッドへ連れて行く。




「おそらく、急激に妖力をお使いに成られたので、妖力不足では無いかと…」



「怪我は?」


「かすり傷だけです」


「……そう……」




 瑞希はタオルを濡らし、土煙で汚れたミラルドの顔や手をそっと拭う。傷が痛々しい。タオルは土と血で赤黒く色を変えていく。洗ったタオルで又、そっと拭く。数回繰り返し、元の美しい顔に戻った。でも傷は残ったまま…



 瑞希はベッド脇の椅子に座り涙を流した。



 良かった…。無事で良かった…。本当に良かった。


 いつもの様にミラルドの両手を握り、早く良くなってねと祈るのだった。










 命からがら逃げ出して来た邪気の前に、黒樹が立ちはだかった。


「お前…よくも裏切ったな。あの時力を与えてくれたら、あんな奴には負けなかった。赦さねぇ」


 と、黒樹に向かって行く。



「やれやれ…困ったものだ…」


 緩慢な動作で、突進して来る邪気に手を翳し、力を放出した。



 黒樹の放った不の妖力に包まれ、邪気は跡形も無く消されてしまった。




 我に向かって来なければ、もう少し生きられた物を…。


 手駒が無く成ってしまった。


「フフッ」


 又、新しいモノを用意するか…



 そう言い残し、森の中へと姿を消した











第二章終了しました。



次は、番外編


高科たかしなの事情』


を載せます。







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