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診療所

いよいよ、本文スタートです!

 ―――――――――


 お姉ちゃん! お姉ちゃん 大丈夫? 大変だ……。流輝、早く来て。

 どうされましたかラル様……あっ、大変でございます。すぐにお運び致しましょう。


 ―――――――――


 ……大きくて青い瞳が見える……。赤茶の髪がまつ毛にかかって……なんて色の白い子どもだろう。……私の顔を覗き込んでる……私は寝転んでいるの? ……でも、どこに……?


 ―――――――――


 お力を使っては駄目です、ミラルド様。分かっているのですか、今の貴方は、ご自分の命を削って、力を引き出しているのですよ。

 医学で治せる物は、医学で治して下さい。決して、力をお使いにならないで下さい。……お願いですから……


 ……解った……


 ――――――――



「……ん……」

 ゆっくりと、瞼を開くと、ぼんやりと白い天井が見えた。

「気が付いたね、大丈夫?」

 ふいに、優し気な男の声が聞こえた。

「……こ・こ・は?」

 力無い声で少女は尋ねる。


「ここは、公園のすぐ近くに有る診療所だよ。覚えてる? 君は公園に倒れていたんだ。今は、熱は安定しているけど、脱水症状があるからね、まだ安心出来ないな」

 あ……そうだ……「私……昨日から熱っぽくて……それで公園通ってコンビニに……、薬買いに行こうと思って、そのまま……」気が遠くなって……

「ここに来てくれれば良かったのに。一応 病院なんだから」

 そんな事言ったって。三年ぐらい前に、気が付いたら建ってたオンボロ小屋が、診療所だなんて、知ってても来たくないじゃない。


「私は、ここの手伝いに来ているミラルドと言う者です。一応医者だよ。君、名前は?」

 男は、優しく微笑みを浮かべて自己紹介をする。

「私は、公園の向こう側に住んでいる杉本瑞希と言います」

 そう言いながら瑞希は、始めて自分を治療してくれた男に焦点を合わせた。肩にかかるストレートの髪。銀色の髪がさらりと揺れる。優しく細められる青い瞳。透き通るような白い肌。……ずっと憧れていた人……

「あっ……貴方は……」

「えっ 私が何か?」

「いっ、いえ、何でも……」

 俯いて、瑞希ははっとした。

「あっ、今、何時ですか? って云うか。何日の何時? 私どれくらい寝てました?」

「あ―どうしょう。学校に連絡してな―いっ!」

 ガバッと起き上がり、慌ててそう言った。途端に頭がクラクラして、瑞希は布団に倒れ込んだ。


「あっ、駄目ですよ。まだ熱が有るんですから。起き上がっては、駄目です。えっと、今日はニ十三日の、もう夕方だね」

「夕方……。あっ、ケータイ 取って貰えますか。先生に連絡しなきゃ」

「あぁ、それなら大丈夫ですよ。君の携帯、何度も鳴っていたから。失礼かとは思ったんだけど。出てみたら、高校の教師だって云うから。事情を説明しておいたよ。夕方には、見えられるはずだけど……」


 そう言い終わらない内に、インターホンが鳴った。暫くして、病室に男が入って来た。栗色の短髪に黒ぶちめがね。ひょろりと背は高いがスポーツマンらしく、半袖から覗く腕は筋肉質だ。

「杉本、大丈夫か」

 瑞希の姿を認め、男はベッドに歩み寄った。

「先生、連絡しなくて済みません」

「杉本は一人暮らしなんだから、気を付けないと駄目だろ」

「えっと、担任の方ですか? 私は、医者のミラルド・クラウドと申します。……先程はどうも……」

 ミラルドは、そんなやり取りを繰り返す二人の中に割って入る。


「あっ、電話では失礼してしまって、本当に申し訳有りませんでした。私、桜ヶ丘学園で教師をしております、飯田と云います。この度は杉本が大変お世話になり、有りがとうございます。」

 飯田は電話での詫びもあってか、深々と頭を下げた。

「家の者がたまたま通り掛かって。……大事に至らなくて良かったです。熱はまだ三十八度代ですが、安定しておりますし、ニ・三日入院すれば快復するでしょう」

「入院ですか?」

 二人は異口同音に聞き返した。


「ええ。だって一人暮らしなんですよね。看病してくれる人はいないのでしょう? それなら、ここにいた方が安心です。」

「私は、今日中には新都市の方に帰るのですが、後はこの流輝に引き継ぎますから大丈夫ですよ。」

 と、ミラルドは、ずっと傍にいた中年の男を紹介した。

「私がこの診療所の医師で、流輝と申します。後は私が引き受けますので、ご安心されて下さい」

 流輝は、そう言いながら、目元を細め人の良さそうな笑みを浮かべる。すらりと背が高く黒髪を短めにカットし、黒いスーツに身を包んでいる。年齢は四・五十代といった処か。医師と言うよりも秘書や執事といった印象を受けた。


「杉本の事、宜しくお願いします。何か有りましたら、こちらまでご連絡下さい。」

 担任の飯田は、ペコペコとお辞儀をしながら名刺を手渡す。

「悪いな杉本。これから部活なんだ。ゆっくり休んで、身体しっかり治せよ。先生方、後宜しくお願いします。」

 皆には入院するって伝えとくからな。と、飯田はそう言って慌ただしく帰って行った。

 ミラルドと流輝も、それに付き従うように出て行った。見送りにでも行ったのだろう。


 飯田先生はバスケの顧問をしている。そう言えばもうすぐ大きな大会があるって言ってたような気がする。皆、心配してるかな……それにしても、憧れてたあの人にこんな所で会えるなんて……私の寝顔見られたの? ……もう、なんて言うか、恥ずかしい……

 瑞希はベッドの中で悶絶した。


 しばらくして二人が戻ってきた。流輝の手には盆が握られている。お盆には、小ぶりの土鍋と、お椀とレンゲと、飲み薬と水の入ったグラスが乗っていた。

「食事をと思ったけど、おかゆだけど食べられるかな?」 

 お腹がすいていた瑞希は、迷わず「有り難うございます」と言って素直に受け取り、食べはじめた。

「えっと、杉本さん? 一人暮らしって言ってたけど、家族の方に連絡した方が良いよね。」

「いいえ、良いんです。父は、私が幼い頃に病気で亡くなって、母は仕事で海外へ……。だから……」

「でも、一人だと心配だね。そうだ、元気になっても遊びにおいでよ。なっ流輝」

「はい。もちろんでございます。ラル様も きっと、お喜びになります」

 ミラルドは軽く流輝を睨む。

「ラル?」

「最初に、貴方を見つけた子供ですよ」


「あぁ、そう言えば、あの時子供の声が聞こえて、深いブルーの瞳が見えて、とても綺麗だなって思って。それから暖かい光に包まれて……」

 同時に二人は、ドキッとする。

「覚えて……いるのですか?」

「いいえ。意識がはっきりしていなかったので、所々、断片的になんです。ラル君はいないんですか? お礼を言いたいんですけど」

「ラルは……。明日の朝帰って来ると思います。今日は、友人の家に泊まって来るそうで……」

「そうですか、解りました。明日は、会えるんですね。楽しみだな」

「……ラルに会うのが楽しみなんですか?」

「はい。はっきり見てないけど。とても可愛いらしかったから、又会いたいと思って」

「そうですか……。ラルも凄く心配してましたよ。でも約束があったので、遊びに行ってしまいましたけど……」

「子供なんだもの、仕方無いですよ」

 そんなミラルドと瑞希の掛け合いを、流輝は微笑ましく見つめた。そして、気を利かせて、「食器を片づけてきます」と邪魔者は退参した。


「さあ、もう眠った方が良い」

 そう言いながら、布団を掛けるミラルドの白衣の隙間からネックレスが覗いた。

「綺麗なペンダントですね」

「あぁ、これですか?」

 服の下から取り出したペンダントには、不思議な模様が描かれてガラスの様に透明だった。

「水晶ですか?」

「えっと、ただの硝子ですよ」

「とても綺麗」

「……御守りなんだ……」

「彼女からの、プレゼントですか?」

「違うよ。そんな人がいたら、こんな所に手伝いになんて来ないよ」

「それもそうですね」

 二人は同時に笑った。

 瑞希は少しホッとする。


「今日は、本当に有り難うございました」

「良いんだよ、そんな事。……こっちは仕事なんだし……」

「そう……ですね……」

 瑞希は肩を落として目を伏せた。他意がないことぐらい分かってる。初めて会った私に、好意を持ってくれるはずはないもんね……

「何かあったら、そこのボタンを押して知らせてくださいね」

 お休みの挨拶をして、ミラルドは病室を出て行く。


 瑞希は目を閉じた。なんだか不思議……。ずっと会いたいと思っていた。

 二年前に公園で見かけて、それから毎日の様に夜の公園に出掛けて。ぼんやりと座って……。会えないかなって思ってた。

 ……夢みたい……

 でも明日には、もう会え無いんだ……。もっと話し……すれば良かった……


 食後の飲み薬が効いたのか、瑞希はそれ以上の思考を続けられず、深い眠りに落ちていった。



 翌朝。

 太陽の光で目を覚ました瑞希が眠るベッド脇に、小さな男の子が立っていた。赤茶の髪と、大きなくりくりとした青い瞳。幼稚園生くらいの小さな体は透き通るように白い。間違いなく昨日瑞希を助けてくれた少年だ。

「おはよう。良く眠れた?」

「おはよう。……ラル君?」

「うん」

「昨日は、私の事助けてくれて有り難う」

「助けたのは、お兄ちゃんだよ」

 ラルは、自分はまだ何の役にも立っていないから、お礼を言われるのはおかしいとでも言いた気だ。

「でも、私を見つけて、流輝さんを呼んでくれたでしょう?」

「……うん……」

「だから、有り難う」

「うん!」

 ラルは、今度は嬉しそうに返事をした。


「あのね。ご飯食べられそう? あっ、その前に熱、計ってね。それから血圧計っと……はい、ここに腕を通してね」

 ラルは機会を操作し、計測器のボタンを押す。

「凄いね。難しい事出来るんだね」

「うん。僕は、流輝の助手なんだよ! 何でも出来るよ」

 と、ラルはせっせと動き廻っている。

 本当に可愛いな……


 でも。

 この頭上の耳と、ふさふさしたシッポは何?

 瑞希は、目の前で左右に揺れるシッポを思わず掴んでしまった。

 ラルは、ひゃっと飛び上がり、手にした物を取り落とす。

「なっ……なっ……何をっ……」

 ラルは赤面し、がばっと振り返った。

「あっ……ごめんなさい。えっと、このシッポと耳は何かな~と思って……」

「……えっと……コスプレ……」

「コスプレ?」

「そう、コスプレ。気に入ってるんだから、絶対に取らないの。触っちゃダメ!!」

「ごっ……ごめんなさい」

 ラルのあまりの剣幕に、瑞希は慌てて頭を下げた。

「熱、計った?」

 「はい」と、瑞希は体温計を差し出す。三十七度八分か。う~ん、まだ下がらないな……。脱水症状は改善されているようだけど……。

「流輝に食事を持って来させるから、待ってて」

 そう言ってラルは、病室を出て行った。


 あ~ぁ。怒らせちゃった。でも、そんなに怒る事かなぁ。機嫌直してくれないかなぁ。お兄ちゃんて言ってたけど、兄弟かな? う~ん、解らない事だらけ。

 そんなことをつらつら考えていると、病室に流輝が入って来た。


「お食事をお持ち致しました。まだ、粥でございますが、デザートにフルーツヨーグルトをお付け致しました」

「わ~っ。有り難うございます」

「お好きなのですか?」

 瑞希は「はい」と勢いよく返事をした後で、すぐに俯いた。

「あの……ラル君、機嫌悪かったですか?」

「ラル様でございますか? いえ、いつもと変わりありませんが。どうかされたのですか?」

「えっと、私シッポを掴んじゃったんです。そしたら、凄く怒らせちゃったみたいで」

 それを聞いた流輝は、唖然と口を開いたまま固まっていた。

「あの、流輝さん?」

 呼ばれて流輝は、はっと我に帰る。

「シッポを掴まれたのですか?」

 こくりと頷き、瑞希はシュンと俯いた。

「はあ~そうですか。……大丈夫です。怒ってはおりませんでしたから。あの、用事が出来ましたので、私はこれで失礼致します。」

 瑞希の返事も聞かず、流輝は足早に病室を出て行った。リビングに戻ると、ラルはソファーに寝そべっていた。


「ラル様……大丈夫ですか?」

「何が?」

「その……。シッポを掴まれたと、お聞きましたので」

「あぁ。いきなり、ガシッて掴まれて、マジで焦った。力が抜けて、へたり込む所だった。」

「何ともありませんか?」

「うん平気。力も入る様になったし」

 と、ラルはシッポを振ってみせる。


「気を付けて下さい。シッポを掴まれ続けたら、眠ってしまわれるのですから」

「いつもは帽子かぶって、シッポも服の下に隠しておくんだけど。失態だった。以後気を付けるよ。」

 ラルは、こくりと頷きながらそう言った。

「その……。シッポの事。聞かれたのですか?」

「あぁ」

「なんとお応えになられたのですか?」

「コスプレって言った」

「なるほど。今の時代は便利ですね」

「そうだな。でも、ボロが出ない様に用心しないとな」

「はい」

 流輝は頬を引き締めて、しっかりと頷いた。




 病状はなかなか改善されず、瑞希が入院してから、一週間が過ぎようとしていた。


「なかなか熱下がらないね」

「うん、三十七度台を うろちょろと。食欲は有るんだけど、どうしてかしらね。」

「知り合いが、大学病院に勤務しているから、血液検査して貰おうか」

 ラルは、少し考えた後で、瑞希にそう告げた。

「そうでございますね。細菌がいたら大変でございますし」

「えっ、血液中に細菌って。まずいんじゃ……」

「偶にあるんだ。心配する事は 無いよ」

 流輝はラルに睨まれて、小さくなっている。

「もっ、申し訳有りません。動揺させる様な事を、口にしてしまいました」

 流輝は、深々と頭を下げた。

「いいえ。そんなにかしこまらないで下さい。それにしても、ラル君、お医者様みたいね」

 瑞希に言われ、二人はびくりとする。

「えっと、昔から……流輝やミラルドと一緒にいたから、色々と覚えたんだよ」

 ラルは、アハハハと笑いながら苦しく言い逃れた。よし、上手くごまかせた。小さくガッツポーズをした。


「昔からって。ラル君まだ六歳ぐらいでしょう?」

 ラルの言葉を聞いて、瑞希は不思議そうに尋ねる。

「えっ。そうそう。六歳ぐらいだよ」

 ラルの体を冷や汗が伝う。

「そう云えば、ミラルドさんて、どこの病院に勤務してるんですか?」

「えっ……。ミラルドの病院?」

 瑞希は頷く。

「う~んとね。……大学病院の……研究員、……してるんだよ」

 ラルは、汗を拭った。

「今度はいつ来られるのかな……」

 瑞希は頬を染めながらそう訊いた。

「えっ、え~っと……。あんまり休めないって言ってたから……。1ヶ月後ぐらいじゃないかな~?」

 瑞希は「そう」と言って肩を落とした。


 何でミラルドの事ばかり聞くんだよ!! ラルは、訳が分からず、焦って、焦って、どっと疲れたのだった。 


「瑞希様は、なぜミラルド様の事ばかりお尋ねになるのですか?」

「それは……」

 流輝に、不意に聞かれ答えに詰まる。「好きだからに決まってるじゃない」とは言えない。

「えっと……。素敵な人だな~と思って……」

 瑞希は体が熱くなるのを感じた。

 赤い顔をした瑞希を見て、流輝ははっとしてラルを見た。ラルの顔も火が吹き出さんばっかりに真っ赤だ。

 もしや、これは両想い? これで、これでやっとミラルド様も幸福になられる。あ~もう、感無量でございます。


 一人でやり切った感を出している流輝をギロリと睨み、ラルはその腕を掴んで廊下に引っ張って行く。

「流輝! 何だその顔! その生暖かい顔、止めろ!」

「なぜですか? 瑞希様はミラルド様に、好意を持っておいでです。受け入れられても良いのでは? ……奥様も亡くなられて五百年経ちますし、もう新しい恋をされても良いのでは……」

「うるさい、黙れ。俺はもう誰も愛さないと誓ったんだ。この手の話しは二度と口にするな。」

 何かに耐える様に拳を握り締め、唇も噛み締めて、ラルは、悲し気に表情を歪ませそのまま階段を駆け降りて行った。


 ラル様はあの事件以来、心を閉ざしてしまわれた。私では、そのお心を溶かして差し上げる事は出来ない。やはり異性の方でなければ……。


 ラル様の時は、五百年前のあの日に止まったままなのかもしれない。





 あれから、何度か瑞希の担任が友人を連れて、お見舞いに来ていた。

「杉本、まだ良くならないのか」

 今日は担任の飯田一人だ。

「はい。熱がなかなか下がらなくて。今、血液を大学病院で調べて貰っている所です。」

「そうか」

「あの、先生。ずっと気になっている事が有るんですけど」

「何だ?」と、瑞希の話をよく聞こうと飯田は身を乗り出す。

「一番始めに来た時に、ミラルドさんにもの凄く謝っていた様な気がするんですけど。どうして? 電話で何かあったんですか?」

 あぁ、あの事か。と、飯田は頭をかきながら話し始めた。


「あの日、杉本にいくら電話しても連絡が取れないし。昼休みに家にも行ってみたけど誰も居なくて。もしかして、誘拐かと思っていた所に、男が電話に出てさ。もの凄く疑った訳だ。その。変質者かと……」

「それであんなに腰が低かったんだ」

「あぁ。先生には、本当に失礼な事を言ってしまって、申し訳無かったと思っている」

「心配かけて済みませんでした」

 瑞希は自分のせいで二人がそんな気まずいやり取りをしたのかと、申し訳なくて頭を下げた。なにより、素敵なミラルドが変質者に間違われたなんて、考えたくもなかった。


「あっ忘れる所だった。杉本、単位が足りない分は、夏休みに補習するからな。そんじゃ。早く治せよ。」

「え~、そんな~」

 と嘆く瑞希を残し、帰って行った。




 ミラルドの同期に血液の分析を依頼し、それに合った抗生剤を調合し、投与した。瑞希は、あっという間に良くなった。


 三日後。


「流輝さん、ラル君。色々お世話になりました。」

 瑞希は、二人に深々と頭を下げた。


「そうだ。ラル君、ウチに遊びにおいでよ。急に一人になると寂しいもん。明日土曜日だし、美味しい物 用意しておくから。ねっ?」

「それは良いですね。是非そうされてはいかがですか?」

「えっ……」

 あ~、流輝め。やっぱり生暖かい目で見てる。……何かムカつく。

「うっ、うん……」

 ラルは、横目で流輝を見ながら、瑞希に返事をした。




 その夜、ラルはなかなか寝付けなかった。緊張、しているのか。

 ……なぜ?……

 俺は、もう誰も愛さないとあの時誓ったんだ。……だから……

 ラルは拳を握る。


 瑞希を初めて見たのは二年前。一目で好きだと思ってしまった。なぜだか分からないけど惹かれてしまった。

 毎晩公園のベンチに腰掛けて、物思いに更けるその横顔に。月を見上げるその瞳に。近づきたいと思っていた。近づいては、いけないと思っていた。言葉を交わしたら引き返せない。そう思っていた。

 その思いは、正しかった……


 美鈴。俺はどうすれば良い?

 どうしたら良い?


 美鈴、お前は俺の記憶からもいなくなってしまった。

 あんなに愛していたのに、……どうして……俺は……

 ラルは両手で顔を覆った。


「俺は誰も愛さない。俺は誰も愛さない。俺は誰も愛さない。俺は誰も――――――」


 ラルの部屋から、呪文の様に繰り返される言葉が聞こえた。流輝は悲し気に俯いた。




もう既に、両想いじゃんと思っているかも…ですが。

生暖かい目で見守って下さい!

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