表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/62

《番外編》 狼

 今から、二百年程前の話し。

 それは、引越しの終わった次の日だった。

 いつも引越しは、広い空地で裏山の有る場所を選んでいた。

 流輝は、建物を空間移動する事で、力を使い果たしていた。これから先二週間は、力を使え無い。ラルは流輝の妖力が早く回復するようにと、流輝に紋章を貸していた。

 そんな日に限って、裏山を探検しようと思い立ってしまったのだった。


「わぁぁぁ凄い。こんなに薬草が生えてる。これは使えるぞ」

 ラルは一度家に戻り、大きな麻袋を持って外へと飛び出した。

「ラル様、どちらへ?」

 出掛けに流輝に呼び止められる。

「ちょっと出掛けてくる」

「そうですか。気を付けて、いってらっしゃいませ」

 ラルは行って来ます! と元気に言って迷い無く裏山に一歩踏み入れた。


「あっ、さっきのとは違う物だ」

 早速ラルは薬草を摘んで行く。

「あっ、あっちにも有る。凄い」

 耳を澄ますと、小川の流れる音が聞こえた。ラルはそちらの方へ進んで行く。

「へぇ、川か。川の側にも良いのが、生えていそうだな」

 川上に向かって歩き出した。

 何時間歩いただろう。子どもの足には険しく、高い雑草が行く手を遮る。

 ラルは自分よりも高い草を、掻き分け掻き分け進んだ。その先に広大な草原が広がる。一面には、見た事も無い美しい花が咲き誇っている。

「きれいだ……」

 一時の間、口をポカンと開けたまま立ち尽くし。それから、ラルは夢中に成って摘み始めた。

 両手一杯に花を摘み、腰にぶら下げていた。紐で束ねる。

 花束の完成。

 ……あげる人なんて無いんだけど……

 ラルは立ちあがり草原を見渡すと、花畑の向こうの雑草の中に真っ白い毛並みがチラリと見えた。

「ん? 何か居るのかな」

 ラルは近付いてみた。

 それは、子供の狼だった。二匹いる。

 「可愛いぃぃぃ」とラルは狼に近付きながら小さく叫んだ。

 自分の方がよっぽど可愛いだろ!(作者)と云う事は、置いといて。

 狼達は子供ながらに、警戒し唸り声を上げる。

「あぁ、大丈夫だよ。僕も仲間だよ」

 ラルは優しくそう言い、狼に手の届く処まで近付いた。

「お父さんと、お母さんは?」

 ク~ン.クン.クン。狼は、小さく鳴く。

「そうか、近付くの洞穴にいるの?」

 ク~ン.クン.ク~ン。

「病気のお母さんの為に、薬草探してたの? 僕が、治して上げようか?」

「僕は、ラルって言うの。宜しくね」

「お母さんの処に、案内してくれる?」

 狼は、ク~ン.と返信をし、ラルを背中に乗せて森の奥へ奥へと走って行く。

 子供だけど速いな。流石 、狼。


 暫く走り、洞穴の前に着いた。

「ここで待ってれば良いの? うん、分かった。僕はウルフ族で仲間だからって、ちゃんと伝えてね」

 ク~ン。と返信をし、二匹は穴の中へ駆けて行った。

「あ~。仲間だって認めて貰え無かったら、どうしよう」

 ドキドキする。

 暫く経ち、洞穴の中から足音が聞こえて来た。

「あっ、戻って来た」

 子供の狼より、二回りは大きい白い狼が現れた。

 ク~ンと、子供達が鳴く。

「お父さん? こっ、こんにちは。僕ウルフ族のラルって言います。お母さんが病気だって聞いて、治療しに来ました」

 緊張する。


 大人の狼は、ゆっくり近付いてラルの臭いを嗅ぎ始めた。

 わぁ、わぁ。僕、食べられちゃうの? と、ラルはしっぽをフリフリする。

 狼は、ワオォンと吠える。

「えっ、背中に乗れって? うん、分かった」

 三匹とラルは洞くつの中に入って行った。


 洞穴の奥に、グッタリと身体を横たえた狼がいる。

 今にも消え入りそうな命。これは、僕にも、覚悟が必要かも。

 ラルは、母狼に向かって両手をかざした。

 暖かい光が狼の身体を包む。ラルは母狼に妖力を流し込んだ。

 妖力を、全て吸い取られている様だ。一時間経ったが母狼には何の変化も現れ無い。

 母狼を包んでいた光が弱く成る。

「あぁ、駄目だ……」

 ク~ン.クン.ク~ン。

「ご免ね。一辺に治す事は出来無い見たいだ。でも、僕頑張るから。お母さんが治るまでここに居るよ」

 ク~ン.ク~ン.クン.クン。

「お礼は、治ってからで良いよ。でも今日は、もう治療出来無いから、又、明日ね」


 お父さん狼が、食料を取って来てくれた。

 狩ったばかりの、鹿、当然だけど、死んでる……

 これを食べろと? ……生で……?

「……僕は、後で良いから。先に食べて下さい」

 父狼は、ワオ~ンと、吠える。

「えっ、お客様が先だって? いやいやいや。僕、本当に後で良いから! 先に子供達に上げて下さい。お願いですからっ!」

 この問答を、数回繰り返した後、子供達は漸く食事に有り付いた。

 皆さんが、食事をしている間、洞穴の外に出る。グロ過ぎて見てられ無い。

 もう夕暮れか、流輝、心配しているだろうな……。でも、患者さん助けるのが僕の仕事だ! 頑張らなきゃ。


 一方その頃診療所では、流輝が落ち着か無い時間を過ごしていた。

「ラル様遅いですね。もう、こんな時間です。もうすぐ日暮れですが、ラル様は道を迷われているのでしょうか……紋章も持っていませんのに……」

 取り敢えず、夕食の準備をしませんと……

 随分暗く成って来た。作業をする手元が見え無い。流輝は、ロウソクに火を灯した。

「ラル様……」

 流輝は提灯を手に外へ出て見る。月明かりの中、眼を凝らすがラルの姿は見え無い。

 私が力を使えたならば、飛んで行って差し上げる事が出来るのに……私は何と無力なのでしょう。

 こんな時にラル様のお役に立てないなんて……

 一人切りで、寂しい思いをしておられ無いでしょうか。ひもじい思いをしておられ無いでしょうか。涙を流しては、おられ無いでしょうか……

 流輝は、あの日の止めどもなく流れる涙を、思い出していた。

 早く捜し出さねば……



「あはははははっ……。止めろよ~。くすぐったいってばぁ」

 流輝が身を焦がしそうに心配していた頃、ラルは二匹の子ども達とじゃれ合っていた。

 ラルは、父狼が持って来てくれた木の実を、お腹一杯食べてくつろいでいた。

 ク~ン.クン.クン。

「えっ。仲間なのに、何で人間の姿をしているのかって?」

「それは……。僕はウルフ族なんだ。こう見えても、もう四百年生きているんだよ」

 クン.ク~ン

「そりゃあ見た目は子供だけど……。今は妖力が少なくて、こんな姿しているけど、昔は大人の姿していたんだよ。今でもたまに、大人に成れるんだ。その時は、狼の姿にも変化出来るよ」

 ク~ン.ク~ン。

「信じられないって? あぁそうだね今は紋章もないし、仕方ないか。でもお母さんは治してあげるからね。大丈夫だよ心配無い。治るさ」

 クン.ク~ン。

「えっ、俺を心配してくれてるの? 有り難う。大丈夫だよ」

 と、ラルは二匹を抱き締めた。

 その夜、三人? は、寄り添って眠りに着いた。


 翌朝流輝は、外が白み始めたのと同時に山の中へ入って行った。

 ラルの臭いを頼りに、草むらの中を奥へ奥へと入って行く。川沿いをずっと川上へ上がって行った。

「こんな険しい道を、良くあんな小さな身体で行かれたものだ」

 身体や顔に当たる草や枝を手で払いながら、先を急いだ。

 半日がかりで、色取り採りに咲き誇る草原に辿り着いた。

「わぁ。何と云う素晴らしい景色でしょう……」

 長い時間流輝も、その場に立ち尽くしていた。

「……あっ、いけません」

 えっとラル様の臭いは……

 流輝は我に返り、クン.クンと嗅いで行く。

「!!」

 これは……

 別の臭いも混ざっている。

 ラル様!

 流輝は、黒い毛並みの狼に変化し、駆け出した。


 ラル様は、他の群れに襲われたのでしょうか。

 連れ去られたのかも知れ無い。急が無ければ命が危ない。

 凄いスピードで、臭いを追って行く。

 しばらくして流輝は洞穴の前に着いた。

「ラル様の臭いがする」

 穴の中から足音が近付いて来る。流輝は身構えた直後、中から白い大きな狼が現れた。

 ウ゛ゥゥゥッ。

 お互いに唸り声を上げ、睨み合っている。今にも飛び掛かり、喧嘩が始まりそうだ。そこへ、ラルが現れた。

 ラルの姿を見て、狼の姿のまま流輝は、駆け寄った。

「ラル様! ご無事でっ……良かった。貴方にもしもの事が有ったら、先代にも、辰巳にも、……顔向けが出来ませんっ……」

 真っ黒い毛並みの狼を見て、ラルは首を傾げる。

「?、流輝?」

「はいっ」

「へぇ~。狼の姿、初めて見た」

「そんな事を言っている場合では有りません。さあ、帰りますよ」

 と流輝は、ラルを背中に乗せる。

「待って、流輝! まだ帰れ無いんだ」

「はぁ?」

 こんな所に何の用事があるのかと、流輝は怪訝な顔をした。

「母狼が病気で、治療しているんだ」

「えっ、そうなのですか? 私は、てっきり拐われたのかと、はぁ、良かった……」

 ラルを背から降ろし、流輝は人間の姿に成った。

 流輝の変身する姿を見て狼は驚いている。(と、思う)

「えっとね、この人流輝って言うの。ぼくの仲間だよ」

「初めまして、流輝と言います。先程は失礼しました」

 流輝は、真っ白い狼に深々と頭を下げた。

 「じゃあ僕、治療を続けるね」と穴の奥へ入って行くラルの後を待って下さいと、流輝は慌てて追い掛けて行った。

 洞穴の奥には、力なく横たわったままの母狼がいる。

「これでも、昨日初めて見た時よりも随分良く成っているんだよ」

 と言いながら、ラルは母狼を暖かい光で包みこんだ。


「あぁ、紋章をお返しするのを忘れておりました」

 そう言って流輝は紋章をラルに差し出した。ラルは母狼の治療する手を休めずに「まだいい」と紋章を受取ろうとしない。

「え……、なぜでございますか?」

 流輝の問いには応えず、ラルは治療に専念した。

 一時間治療しては休み、又一時間治療をする。ラルは何度も繰り返した。その間も、流輝は紋章を差し出したがラルは見向きもしなかった。母狼は今日も目覚る事は無かった。


「ラル様、なぜ紋章をお受け取りにならないのでございますか?」

「この母狼は紋章の力を借りずに、俺一人の力で治したいんだ」

 長い沈黙の後でようやくラルはそう口にした。

「それは無茶です。あなたはご自分の命と引き換えに母狼をお救いになるつもりなのですか?」

 流輝の言葉にラルは何の反応も示さない。

 ラル様はなぜ紋章で治癒される事を拒まれるのでしょうか。まさか、死を望んでいる? 冗談じゃない。こんな所で死なせてたまるものですか!

「お忘れですか。あなたはウルフ族の当主なのですよ。たとえ私が命を落としたとしても、誰よりも最後まで生きのこらなければならないお方です」

 流輝の言葉にラルは身体を震わせた。

 俺を一人にさせる気かとラルはその両目に涙をいっぱい浮かべる。

「私はラル様をお一人には致しません。ですからラル様も無茶はされないでください。そうでなければ私はエルド様にも辰巳にも顔向けできません」

 お願いですからと流輝は頭を下げた。

「……分かった。紋章の力で治療するよ」

 そう言ってラルは倒れ込んだ。流輝は慌ててラルを抱き起こし、紋章をラルの首に掛けた。そしてラルを抱き上げ洞穴の外の風通しの良い木陰に横たえた。


 目を閉じるラルの横に静かに座っていると、父狼が近づいて来た。口にくわえていた物を地面に下ろす。よく見るとそれは、小動物のようだった。これは? と流輝が尋ねると、父狼に食べろと言われた。父狼は食事を持って来てくれたのだと流輝は気付いた。けれど。

 あぁ、そうでございますね。野生の狼は煮炊きしませんから、当然生食ですよね……

「えっと、ご厚意は嬉しいのですが食事は私がご用意いたしますので、それは皆さんで召し上がってください」

 父狼は、今日はねばることなく小動物を再びくわえ、洞穴の中に消えて行った。

 ラル様は昨夜もあの様な物を出されたのだろうか。まさか口にしたのでしょうか……生で?……いや、まさか……

 流輝が一人で思い悩んでると、ラルがもぞもぞと小さく身動きをした。目覚めたばかりのラルに問い詰めるように流輝は尋ねた。

「……昨日は、鹿だった……」

 目を見開く流輝にラルは木の実取って来てくれたからそれを食べたよと安心させるように早口で言った。それを聞いて「そうですか」と流輝はほっとした表情を浮かべた。


「では、食料を取って参りますのでお待ち下さい」

「俺も行くよ」

「ラル様は、お疲れでしょうから 一人で参ります」

「……うん、じゃあ頼むな」

「はい。お任せ下さい」


「これ位あれば良いかな。えっと」

 手持無沙汰のラルはふらふらと辺りを歩き回り、柔らかい枯れ草と細い枝を拾い集めた。そして腰に下げてある袋の中を探る。有った。

 ラルは火打石を袋の中から取り出し、枯れ草に近づけてそれを打った。何度も打ち付けると火花が飛んで枯れ草に燃え移りやがて暖を取れるほど大きな炎になった。

「やっぱり火が有ると暖かいな」

 ラルは、火の側に座りほっとする。そこへ流輝が帰って来た。

「ラル様 お待たせ致しました。魚を捕って参りました」

 流輝は捕って来た魚を小枝に刺し、ラルの起こした火で焼いていく。暫くすると、香ばしい薫りが漂って来た。

「焼けましたよ」

 どうぞと、流輝はラルに香ばしく焼けた美味しそうな魚を一本差し出した。ラルはそれを受け取り有り難うと言って、一口かじった。

「ん! 美味しい。流輝も食べろよ」

 ラルに進められ流輝も一本手に取り食べ始めた。二人は食事を終え、デザートの木の実を食べた。

「この実、美味しいな」

「そうで御座いますね。家に帰る前にもう一度、摘んで参りましょう」

 そうだなと呟きながら、不意にラルが俯いた。

「俺達も」

「何で御座いますか?」

「……俺達も……狼として生きていたら……」

「やっぱり、何でも無い」

「そうで御座いますね。しかし、今更無かった筈の人生の話しをしても、仕方無いのでは?」

「……そうだな……」

「さあ、明日も治癒を続けられるのでしょう? 早く休みましょう。ラル様が回復しなければ、母狼を治して差し上げられません」

 そうだなと言って、ラルは洞穴の中へ入って行った。流輝もその後に続いた。



「やった!! 目を覚ました!」

 次の日、母狼は目覚めた。

「あとは、食欲が出て来れば一安心だな」

「そうで御座いますね」

 子供達も、母狼に近付き身体を舐め合っている。そして、ラルと流輝の事を説明した。母狼は、ワオ~ン と弱々しく吠える。

「いいえ。お礼なんて良いんですよ。治ってくれる事が お返しです。身体を早く治して、元気に成って下さい」

 母狼は、こくりと頷いて目を閉じた。

 それから更に 数日が経ち、母狼は 歩ける様に成った。父狼や、子供達が狩って来た小動物も、少しづつ食べられる様に成り、日に日に体調が良く成った。そして別れの日がやって来た。


「元気に成って、本当に良かった。治療した甲斐が有ったよ」

 狼たちは、ワオ~ン.ク~ン.ク~ンと、それぞれにお礼を言ってる。

「良いんだよ。……僕達、帰るね。それじゃあ、元気で」

 紫色の木の実を袋一杯に詰め、流輝の力で家へと帰った。


「わぁ~。何か凄く懐かしい」

 家の中に降り立った、ラルが言った。

 川の水ばかりだったのでお風呂の準備を致しますと流輝は、お風呂の支度を始めた。

 あの時摘んだ薬草は、良い具合に乾燥していた。それを乳鉢で擦り潰し、粉状にして行く。

 これは解熱剤。これはお腹の薬。えっと、こっちは化膿止め。

 これ、何だっけ? 茎が縛って有る。……花? 花の薬草ってあったっけ…?

 ラルが考えている所に流輝が戻って来た。

「どうか、されましたか?」

「うん……」

 と話しながら、ラルは花であっただろう残骸を見せる。

「そう云えば、綺麗な花畑が有りましたね」

「あっ、そうだ。花を摘んだんだった、忘れてた」

 と、ラルは、枯れてしまった花をそっと撫でた。

「綺麗だったな」

「見事でした」

 二人は草原に想いを馳せた。


 それから毎日、薬草を取りに行ったり、村へ行って病気の人は居ないか見回ったりして、診療所を訪れる人も少しづつ増えて来た。

 代金の代わりに村人は、野菜や果物、薬草や魚、時には しし肉を持って来てくれた。

 そんなある日。ク~ンと、犬の鳴き声が聞こえた気がした。

 外へ出て見ると、あの時の狼の子供達がいた。口には、木の実を枝ごとぶら下げている。

「あっ、君達。どうしたの? 良くここが分かったね」

 ク~ン.ク~ン.クン

「えっ、いっぱい探したの? 会いたかったからって? 嬉しい。僕もだよ」

 ラルは、二匹を抱き締めた。

「お父さんもお母さんも元気?」

 クン.ク~ン.クン.クン

「そっか、良かった。さあ入って」

「そっか。僕を探す為に、何度も里に降りて来たんだ。 もう僕達の臭いも消えていただろうしね」

 ラルは紫色の実を一粒頬ばる。


「木の実有り難う、美味しいよ。でもお父さん達心配してるでしょう?」

 クン.ク~ン

「里に降りる度に、怒られたって?」

 ク~ン.ク~ン

「人間は、怖い動物か……そうかも知れ無いね」

「山羊のミルクが有ったので、いかがですか?」

 二匹の前に皿を置く。ピチャピチャと舐めて、一心に飲み出した。

「ははっ。そんなに美味しかった?」

「気に行って貰えて良かったです」

 流輝も目を細めた。


「気を付けて帰るんだよ。お父さん達に、宜しくね。」

 暫くして子供達は山に帰って行った。



 次の日。診療所に、患者さんがやって来た。

「ねえ先生。最近、狼がこの辺うろついているの、見た事無いですか?」

「えっ……いえ、全く」

「そうですか。物騒ですよね。男の人達が見回りするって言っていましたよ。家畜を襲い出したらいけないからって。先生も狼見掛けたら、知らせて下さいね」

 村の娘はそう言って、診察を終え帰って行った。

「あの子達大丈夫かな。もうここには、来ない方が良いんじゃないかな」

「そうで御座いますね」


 次の日から、村では見回りの人が目に付く様に成った。

「狼たちに、ここに来ないようにって言いに行こう」

「その方が宜しいかも知れませんね。では参りましょう」

 流輝の力で、二人は洞穴の前に立った。

 二人の臭いを嗅ぎ付けて四匹の狼が穴の中から出て来た。

「こんにちは。 わあ、お母さん元気に成りましたね。良かった」

 ワオ~ン.ク~ン。二匹が飛び付いてラルの顔を舐めて来る。

「こらぁ、止めろよ。 くすぐったいってぇ」

 あははは。と笑うラルに父狼が話しかける。

「えっ、子供達がお世話に成ったって? いいえ、そんな事無いですよ」

「でも。村の人達が、狼の事良く思っていないみたいで……」

「村に来たら危ないから、もう来ない方が良いって、言いに来たんだ」

 ク~ン.ク~ン.クン。

「えっ、どうしてって。人間達は、狼が家畜を襲うんじゃ無いかって思ってるんだ」

 それを聞いて狼達は、怒って吠えたてた。

「ご免、ご免、分かってるよ。僕には皆がそんな事しないって分かってるよ。でも人間達は、そう思っているんだ。だから皆が傷付けられ無いように、こうして」

 分かってくれとラルは、悔し気に顔を歪めた。

 ワオ~ン.ワオ….ワオ~ン

「……分かった、二度と来ない。だから、里には降りて来ないでくれ……」

 さようならと二人はその場から消えた。



 それからも村の見回りは 続いていた。手には、すきやくわや弓矢を持っている。

「まだ、狼は出るの?」

 患者さんにそれと無く聞いてみる。

「白い狼がうろついてたって聞いたわ」

「隣村では、黒い狼を見たって噂よ」

 それを聞いて横目で流輝を見る。

 その視線に気付き、流輝はブルブルと首を横にふる。

「わ、私ではありません」

 流輝は小声で否定した。


 何日か過ぎた朝だった。子供達が来た。

「どうしたの? とにかく入って!」

 誰にも見られ無い様に、家の中へ入れた。

 ク~ン.ク~ン。

「会いたかったの? 僕も会いたかったけど、でも見つかったら危ないから―――」

 ラルの声を遮り、狼たちは飛び付いて顔を舐める。

「あはははっ、こら、止めろってば」

「良く聞いて。本当に危ないんだ。弓矢を持ってる人もいるから、見つかったら殺されるかも知れ無い。心配なんだよ。だから分かって!」

 ラルの懸命な説得に狼たちは、寂しそうな顔をして吠いた。

「ご免ね。ご免ね」

 ラルは何度も謝った。

 診療所の中の様子を、村人達に見られていた。


「さあ、もうお帰り。誰にも見つから無い内に」

 暫くして皆で外へ出てみると、矢を構えた村人達に取り囲まれていた。

「!!」

 どうして……

「狼がこの家に入って行くのを見た。かくまっていたのか」

「そうじゃ無いけど……この子達は、家畜を襲ったりし無い。だから、傷付け無いで!」

 下手な事は言え無い。いつ矢が放たれるか分から無い。

「黙れ。お前達も同罪だ」

 そうだそうだと、方々から石が飛んで来る。

 数個がラルの小さな身体に当たった。頭や手から血が流れ出る。

「ラル様、大丈夫ですか?」

「大丈夫だ」

 流輝に訊かれ、手の甲で血を拭いながらラルは応えた。

 狼達は唸り声を上げ、飛び掛かろうと体制を低くした。

「駄目だよ。落ち着いて」

 ラルは狼たちを落ち着かせようと声を掛ける。弓矢を構えていた内の一人が、その矢をいった。

 矢は、狼の足数センチ先に刺さった。狼は、堪え切れずに飛び掛かった。

 それを合図の様に、狼目掛け、矢が一斉に放たれる。

「止めろ!!」

 思わずラルも、飛び出していた。

 矢の先が身体に触れる寸前に、流輝の力によってラルたちはその場から消えた。


 降り立ったのは、洞穴の前だった。

「大丈夫か」

 ラルは、二匹を抱き寄せる。

 狼たちは、混乱しているようだった。

「……俺達の事は、忘れた方が良い」

 ラルと流輝は、二匹を連れて洞穴の奥へ入って行く。親たちも、そこにいた。親狼はラルの姿を見てうなり声を上げる。

「今度こそさよならだ。元気でね……」

 二人は両手を前にかざし、催眠を掛けた。狼たちは意識を保てずに、倒れ込んだ。

「目覚めた時には、俺達の事なんて一つも憶えていないだろうけど」

「僕は忘れ無いよ。ずっと忘れ無いから。さようなら――――――」

 そう言って、子ども狼の身体を撫でて、二人は消えた。


 家へ戻ると、村人達が待ち構えていた。

「お前達は、何者だ!」

「なぜ、急に消えた」

「狼達はどうした!」

 次々に、問い詰められる。二人は黙って俯いていた。

「何、黙ってるんだ」

「何とか言え」

「答えろ!」

「狼の仲間か」

「分かりました。説明しますので、日暮れまでに村長の家に皆さんを集めて下さい」

 それから、ずっと見張りを付けらた。そして若者達に連れられ、村長の家へやって来た。

 ラルたちは上座に座らされる。やがて、一人、又一人と、村人が集まって来た。

 お年寄りから、子供まで集まった。

「これで全員ですか?」

「あぁ、そうじゃ」

「そうですか。では、始めましょう」

 二人は両手を前にかざす。

「お世話に成りました。さようなら」

 と言って、催眠を掛けた。全員眠りに付いている。

「これで、全員の記憶消せたな」

「これから、どうなさいますか?」

「そうだな。まず家に帰って食事をして、風呂に入って、ゆっくり寝て、それから新しい土地へ行こう。そんなに遠く無くて良いさ。それなら、余り流輝も疲れ無いだろう?」

「そうで御座いますね」


 たっぷり寝むって、二人は目覚めた。

「さて、下見に参りますか」

「僕も行くよ」

「では、ご一緒に」



 狼の子供達は、木に向かって、一心にジャンプしていた。

『よし! 上手く行った』

『本当だね。父さんに見せよう!』

 二匹は、洞穴に向かった。

『ほら見て、父さん!』

 二匹は、得意顔だ。

『お前達、そんな木の実をどうするんだい?』

『!!』

 二匹は、ハッとした。

『あれ? 僕達どうして、こんな木の実、一生懸命取ったんだろう?』

 それは紫色の綺麗な実だった。

『綺麗な色だから、取ったのかな?』

『う~ん、分かんない』

『この中、別の臭いがする。俺達が居ない間に、誰か入ったのかも知れ無い。引越すぞ』

『えぇっ! ここ住み易かったのにぃ』

『仕方無いでしょ。行きますよ』

『待ってよぉ』

 母狼に促され、子供達は木の実を放り投げて駆けて行った。


「さあラル様。新しい土地です」

「よし。僕、薬草摘んで来る」

「余り遠くへは、行かないで下さい」

「分かってる」

 ラルは麻袋を手に裏山に入って行く。雑草の中の薬草を摘みながら、進んで行った。

 草村の中に真っ白い毛並みが見えた。

 ん? あれは。前にも見たような……。

 やっぱり狼だった。警戒している。

 あの子供達だ!

 ラルは嬉しく成った。

「こんにちは。始めまして。僕、ラルって云うの。仲間だよ、宜しくね!」

 ラルは、笑顔で狼たちに近付いた。






話しを考えながらって云うのは、時間が掛かりますね。


書き始めは、ラルが迷子に成って、狼に保護されて

毎日、生肉を食べさせられ

「わぁ~ん、流輝~。迎えに来てよ~」

チャン・チャン♪


みたいな感じで進むつもりだったのですが…。


思った以上に、話しは膨らみ…。

時間が掛かってしまいました。



次からは、いよいよ 第二章 スタートです!









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ