《 番外編 》 日常
この話しは、『銀牙』と『侵入者』の間のお話しでした。
入力に、余りに時間が掛かって居た為。
本編に関係無い話しだし、省いてしまえ~~
と、外した物です。
番外編として、載せてみました。
朝、目覚める。
今日は月曜か。小さく伸びをする。又いつもの日常がはじまる。ラルは眠い眼を擦る。
昨夜は、真夜中に急患があった。
子供が急に熱を出したと、慌てた母親が駆け込んで来たのだった。
狼狽える母親をどうにか宥め、直ぐ様子供の治療を始めた。
子供の病状は、大した物では無かった。
一昔前なら、三世帯同居が主で。病気に対する対応もそれ以外の事も、代々受け継がれて行く物なのだが。今は核家族が主流の為こう云う事態が起こる。
勿論。ただの風邪だからと言って、疎かにしてはいけない。
その子供の熱も下がって、今はもう落ち着いている。
昔からそうだ。母親の子供への愛情は、限り無く深い。
俺には母親はいなかったけど、母がもし生きていたなら同じ様に愛してくれたのかな……
ぼんやり考えながら階段を降りて行く。
「お早う御座いますラル様。今日はお早いですね。もう少しゆっくりされても宜しいのですよ」
流輝がにこやかに挨拶をする。流輝も同じ時間に寝たのだから眠いはずなのに、主よりも先に起きて朝食の支度をしている。
「お早う。夕べはあれから、余り眠れ無くてね」
顔洗って来ると地下に続く階段を下りて行く。
「では直ぐに、お食事の用意を致します」
クロワッサン、オムレツ、野菜サラダの朝食を終え。紅茶を口に運ぼうとした時、玄関のチャイムが鳴った。早くも患者がやって来たのだ。
「朝早くに申し訳ありません。主人の具合が急に悪く成ったものですから……」
と、初老の夫婦が立っていた。
随分苦しそうな表情をしている。
「それは、お辛いでしょう。さあ早く中へお入り下さい」
流輝はそう言って二人を招き入れ、直ぐ様診察の準備を始めた。
ラルは医者だ。だけど見た目は子供なので、診察は流輝に任せている。
患者が居る時は、必ず診察室に助手として入り、容態を見聞きし 流輝にこっそり指示を出す。
身体が小さいと云う事は、何かと不便である。
それでも。不便さを感じても、大人に成る事よりも子供でいる事を望んだ。
患者さんは、余り来ないけど。小さい身体で、ラルは懸命に働いた。
時々流輝は、優し過ぎるラルが心配に成る。
その内、心が潰れてしまうのでは無いかと思う。
あの事件以来、まだ一度も美鈴様の事を口になさらない。心の奥深くに、全ての感情を閉じ込めてしまわれたのだろうか。
私に、その場所に触れる勇気は無い。
触れる事によって、ミラルド様が本当に壊れてしまうかも知れ無い。そんな思いもあった。
ミラルド様には幸福に成って貰いたい。心からそう願った。
診療所が開いている時は、ラルは診察室から離れられ無いので、外へ出掛けられるのは夜だけに成る。
夜の公園はラルにとって、格好の息抜きの場に成っていた。
途切れ途切れに訪れていた患者達も、遂に途絶え、夕方に成った。
公園には、まだ沢山の人がいた。
「もう少し待つか」
ラルはそう言ってソファーに寝転んで、目を閉じた。
暫くして、ティーセットを持った流輝がやって来た。
「紅茶でも、いかがですか? 疲れが取れますよ」
「あぁ、有り難う。頂くよ」
そう言って、ラルは椅子に座りカップに手を伸ばした。
「お疲れに成られたでしょう。ほぼ徹夜でしたから」
そうだなと、ラルは短く応えた。
真夜中の患者も、昼過ぎには帰って行った。
もう一度、外を見てみる。人が疎らに成って来た。
「ちょっと 外に行って来る」
ラルを見送った後、夕飯の準備でもしますかと、流輝は中に入って行く。
診察室の掃除を終え、夕飯は何にしようかと考えていると、玄関のチャイムが鳴った。扉を開けると、瑞希が立っていた。
「おや、瑞希様。こんにちは。何かご用ですか?」
「こんにちは流輝さん。あの、これ。作り過ぎちゃって、食べて貰えませんか?」
と、瑞希は皿一杯のコロッケを差し出した。
「これは これは、美味しそうですね。丁度、夕飯は何にしようかと考えていた処なので、助かりました。有り難く頂きます」
そう言いながら、流輝は皿を受け取った。
「明日は、ミラルド様とデートですか?」
流輝は微笑みながら言った。
瑞希は頬を染めてはいと、小さく頷く。
明日は、ラル様からミラルド様に成られる日だ。大人に成る回数も、増えて来ている。それだけ、瑞希様がミラルド様に与える影響は大きいと言う事でしょう。このまま、上手く行って欲しい。
「あの…ラル君は、居ないんですか?」
「あぁ、ラル様は公園にいらっしゃる筈ですが。お呼び致しましょうか?」
「あっ、いいえ。用事が有る訳では有りませんから。でも、帰りに公園探して見ます。ラル君と話すのって、楽しいですから」
と言って、瑞希は公園の方へ駆けて行った。その姿を、流輝は微笑ましく見送る。
「あの方なら、どんな事実でも受け入れてくれるかも知れ無い。そう思わせる何かが有る」
瑞希の後ろ姿を見ながら、流輝はそう考えていた。
ラルは公園のブランコに小さく揺られていた。
「ラル君!」
後ろから瑞希の声がした。
ラルが身体をひねって振り向くとそこには瑞希が立っていた。
「何しているの?」
「……考え事……」
「ふ~ん。ふふふっ」
「ん? 僕、何か面白い事言ったかな?」
ラルは眉間にしわを寄せ首を傾げた。
「うんん違う。相変わらず大人っぽい事言うなと思ってね」
「そっか。子供らしく無かったかな」
「うん。少しね」
瑞希は笑いながら応えた。
「今日はコロッケ作り過ぎちゃって、コロッケ好き?」
「うん。好きだよ」
「ラル君の家にも、持って行ったのよ。後で流輝さんと一緒に食べてね」
「うん。有り難う」
「さっ、もう暗く成ったから、帰ろうね」
ラルが、大きく頷く。
又ねと瑞希が手を振ると、バイバ~イとラルも大きく手を振って、診療所に駆けて行く。その姿を見送って、瑞希も家に帰って行った。
診療所に帰ったラルは、急いで手を洗って食卓に着いた。
次々と、美味しそうな料理が並べられる。その中に、コロッケも有った。
「公園で瑞希様と、お会いに成られましたか?」
流輝が、微笑み掛ける。
「あぁ、会ったよ。少しだけ話した」
ラルは優しい顔をしている。
「コロッケを持って来て下さいました」
「聞いた」
早く食べたいのに……
それを察知した流輝が頂きましょうかと、手を合わせる。「頂きます」そう言って、ラルはコロッケを一口頬張った。
サクサクとした歯応え。芳ばしい香り。ふっくらとした ジャガイモが、口一杯に広がる。ラルは頬を緩めた。
明日は、大人に成れる日だ。自然に笑みが零れる。食事を終え、お風呂に入り、ラルは早目に布団に入る。
明日が楽しみだと考える。意識が遠のいて行った。
朝の光で目覚め、ラルは小さく伸びをする。ベッドから抜け出し、ラルは大きめのバスローブをズルズルと引き摺りながら階段を降りて行く。
ソファーに身を沈めた直後、身体に変化が現れた。
徐々に身体が大きく成って行く。それに伴い、頭上の耳も、お尻の辺りの尻尾も、小さく縮んで、終いには身体の中に吸い込まれて行った。
あんなにブカブカだったバスローブも、袖は短く、裾も膝あたりまでしか無い。
ミラルドはゆっくりと立ち上がり、二階へ着替えに向かった。
昔は着物だったから、子供から大人に成っても脱着は簡単だったけど、洋服に成ってからは大変だった。
ハイネックのセーターは大人に成るに連れ首が絞まって来て、本当に死ぬかと思った。流輝が直ぐ様ハサミで切ってくれたから助かったけど……
そんな事が何度もあったなぁ。
ミラルドは苦笑する。
それからだな。ワイシャツしか着なく成ったのは。
いつまで、こんな生活が続くんだろう。……そんなの解りきってる。
そうだ……永遠に、だ……
終わりなど来ない。
「死ぬまで、か……」
ミラルドは寂しく笑って呟いた。
診療時間。玄関のドアが開いた。
患者は皆、流輝の事を医師だと思っていたが、月に一.二度の割合でやって来る若くて格好良い先生。その日だけは、物凄い数の患者が押し掛けた。
その どれもが、「貴方を見て、心臓が」「貴方を見て、目眩が」「貴方を見て、高熱が」と言った感じの物ばかり。他には、突き指、かすり傷、足を挫いたとか、トゲが刺さったなど。休憩する暇も無い。
はぁぁぁっ。つっ……疲れたぁ。
ミラルドはベッドに倒れ込む。
余りの忙しさに、診察は流輝に代わって貰った。
かすり傷や、突き指なら流輝でも対応出できる。
「流輝、今日は済まなかったな」
ミラルドはソファーに身を沈めたまま流輝に言った。
「いいえ、構いませんが……流石に今日は疲れました」
流輝もソファーに身を沈めたままで応えた。
今日は瑞希と逢う約束をした日だ。六月に初めて会ってから、夜の公園デートも四回目。ミラルドは二週間に一回位の割合で、大人に成れる様に成っていた。
ミラルドは夜だけだが、瑞希と逢えるのをとても楽しみにしていた。
一日中そわそわと落ち着かないミラルドを見て、流輝はとても微笑ましかった。
ミラルド様が少しづつでも、変わって行って下されば。それだけで私は幸せだ。
童話??で
『神様の種』
って云うお話し載せてみました。
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