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総樹





何時もは、お茶らけている銀牙も、色んな思いを抱えて生きて来たのですね。

敵ながら、憎めない人です。

幸せに成って欲しいです。










 桜ヶ丘学園の二年生は、毎年、総統山の湖畔でキャンプ行なう事が恒例行事と成っていた。

 新都市を通り過ぎ、山道を登って行く。

 山の頂きには、総樹様が祀られた祠が建っており。その山の中腹に広い湖がある。そのキャンプ場を、学園が四日間貸し切りにしている。ここで三泊する予定のなっている。


 湖までは道路が通っているのだが。瑞希達は山の麓でバスを降りて、そこから登山道を歩き、湖を目指す事になる。

 この日の為に十一台のバスを貸し切った。クラスごとに乗り込んで行く。



「なぁ銀牙、こんな話し知ってるか?」

 隣の席に乗り込んで来た友人が、銀牙に話し掛けて来る。

「どんな話し?」

「今日行く総統山ってさ、総樹って神様が住んでるんだって」

 ……総樹……

「嘘かまことか。その昔人間に恋をした狼が、その人と添い遂げたいが為に総樹様に頼んで、人間の姿に変えて貰ったんだそうだ」

「その人と添い遂げられ無かったら、死ぬ事を条件に。でも、完全な人間には成れなくて、妖怪に成ったんだって。今もどこかで、生きてるかもよ~って話し」

 銀牙は、頬を引きつらせる。

「へっ、へぇ。そんな嘘っぽい話し信じてるんだぁ~」

「いやぁ、信じてる訳じゃ無いけどさ。小っちゃい頃から聞いてた話しだからさぁ。まぁ、信じてるって言うかぁ」

 そう言った友人は、ばつが悪くなって、他の友人と話し始めた。


 ゆっくりとバスは、発進した。目的地に向かう途中で、樹海を通る。

 銀牙は頬ずえをついて、通り過ぎる森をぼんやりと眺めていた。

 銀牙の眼に、チラリと男の姿が映った。

 ……あれは……お頭? そう思ったのもつかの間。その男の姿は、すぐに見えなくなってしまった。

「ちょ、ちょっと、バス止めてくれ!」

 と運転席に駆け寄り、バスを急停止させた。

「おい、ちょっと 山本!! 待て!」

 呼び止める教師を無視して、銀牙は森の中へ走って行ってしまった。

 すかさず葵も、バスの出口に駆け寄る。

「山本さんの事は、私に任せて下さい。二人は、不参加と云う事でお願いします」

「しかし、橘!」

「大丈夫ですわ。後ろから私の家の車が、付いて来ておりますので」

 葵はそう言うとバスを降りてしまった。

 暫くバスは停車していたが「頼んだぞ、橘!」と教師が叫ぶとすぐに発進した。

 葵はバスの後ろに止まっている、自家用車に乗り込んだ。

「山本銀牙さんが、居なく成りました。探しに行きたいけれど、ここは樹海。車の中で待ちましょう」


 銀牙は森の中を探し回ったが、お頭を見つけ出す事は出来無かった。

 やっぱりあれは、見間違いだったのか……

 銀牙は、肩を落とす。

 そうだよな。お頭は五百年前に死んだ筈だ……

 そう思いながら、来た道を戻ろうとした時、目の前に黒ずくめの男が現れた。

『お前の役目は、ミラルドに復讐し、その紋章を奪う事だ』

『今からお前に、五百年前の全てを見せよう』

 その男はそう言うと、霧のスクリーンに 昔の映像を映し出した。


 目の前の風景が、五百年前の光景に変わる。

 至る処で、切り刻まれる仲間達。本家の者達の、殺戮を楽しむ顔。その中に、あの流輝とミラルドの顔も合った。

「あっ、お頭」

 幼い頃の俺を庇いながら、ミラルド達の攻撃を交わしている。最後は俺を身体で覆い、全ての攻撃を一人で受けて動かなくなった。

「この野郎……止めろぉぉぉ」

 そう叫びながら駆け出し、自分も闘いに加わろうとするが。

 仲間も敵も全て、銀牙の身体をすり抜けて行く。全ては、過去の事なのだ。

 ……涙が……止まらない。お頭は、俺を庇って死んだのか……。怒りが込み上げて来る。

『さあ、今こそミラルドを倒すのだ。お前の手で!』

 森の中から、お頭の声がする。銀牙はもう迷わ無い。

 ミラルドを倒す。例え刺し違えても……


 銀牙は、一晩中 過去の映像の中をさ迷い歩いた。

 朝に成り、倒れる様に歩道へ出て来た身体を、葵が抱き止めた。

「どう……して……ここに……」

 銀牙はそう言った切り、意識を失った。

 急いで車に乗せ、病院へ向かう。大学病院の一室で銀牙は目覚めた。


「あ……おい……」

「気が付かれたのですね。良かった、心配したのですよ」

「心配 ……俺を?」

「えぇ」

「そうか……心配してくれたのか……」

 銀牙は葵に優しく笑い掛けた。

 葵は、銀牙が愛しく成って優しく抱き締めた。銀牙は驚いた表情を浮かべている。

「……銀牙さんが戻って来てくれて良かった。あのまま居なく成ったら、と思ったら、生きた心地はしませんでした」

「本当に帰って来てくれて良かった」

 葵は涙を浮かべている。

「……葵……」

 葵を引き寄せキスをした。


 コンコン。開いたままの病室のドアをノックする音。

「邪魔して悪いんだけど、応診させて貰って、良いかな?」

 そう断りながら、医師が入って来た。

 葵は真っ赤な顔をして「どうぞ」と言って、ベッドを離れた。

 医師は、銀牙の身体を診察する。聴診器を当てて、驚いた顔をしている。

「ふむふむ。……う~ん……」

 と、首をかしげている。

「あの、先生。どこか悪いんでしょうか?」

 葵は不安な表情を浮かべる。

「いや、特には。ちょっと君、席を外して貰えるかな」

「あっ、君も」

 医師はそう言って、葵と看護師を外に出してしまった。


「俺、どこか悪いのか?」

 医師は首を横に振る。

「君は、もしかして、……ウルフぞくか?」

 医師は銀牙に、静かに聞いた。

「なっ、何で、その事を?」

「俺には、ウルフ族の友人が居るからな。診察すれば判るんだよ。でもウルフ族って、身体は丈夫なのにな。何かあったのか?」

「い、いや、別に。お前には、関係の無い事だ」

「まぁ、そうだな。でも、何か困った事があったら、俺の所に来い」

 医師はそう言って、名刺を渡して病室を出て行った。


「何か言われたのですか?」

 葵が心配そうな顔で、戻って来た。

「いや、知り合いだったから。ちょっと、世間話し」

 と言いながら銀牙は、名刺を確認した。

 “内科医 中西涼”か……

 最近、ウルフ族ってばれてばかりだな。そんなに、判り易いかな、俺。


 銀牙は、負の妖力で創り出された幻影の中に一晩中浸かっていたので、妖力が元に戻らず回復しないのだった。

 銀牙は、原因が判らない為に何日か入院する事に成った。



 瑞希は、毎日眠れない夜を過ごしていたので、バスの中は眠るには丁度良い揺りかご状態だった。

 すやすやと眠る瑞希は、バスの中での出来事には全く気付かず。目的地に着いてから始めて銀牙と葵の事を知ったのだった。

「あぁあ。葵ちゃんいないのかぁ」

 少し、気落ちする。

 気付かない内に、葵は瑞希の親友に成りつつあった。


 これから、総樹湖の有る 山の中腹まで登らなければ成らない。

 瑞希は気を取り直し、登山の列に加わる。

 何も考えずに済む様に、ただひたすらに山の中腹を目指す。

 ようやく、目的の湖に着いた。澄んだキラキラと輝く湖が、目の前に広がっている。

「わぁ、綺麗……」

 総樹湖には、初めて来たけど。こんなに綺麗な場所だったなんて、知らなかった。

 湧き水が上流から流れ込んで来てる。一口救って飲んでみる。

「柔らかい水。凄く美味しい……」

 湧き水が流れ込んでいるから、こんなに澄んでいるのか……

「ほら。テントの準備とか、毛布運んだり。色々有るでしょ!」

 他のクラスの教師に注意された。

 は~い。と返事をして、瑞希は自分の班に戻って行った。


 次の日。

 総樹様が祀られた祠に、生徒の半数が登る。残りの半数はオリエンテーリングをする。

 その次の日は、残りの半数が祠に登る。瑞希は、二日目に祠を目指した。

 長い階段が続いている。その数、千五百段。

 やっと頂上に着いた。もうヘトヘトだ。

 でもこの景色、凄い。三百六十度見渡せる。絶景だ。樹海の深い緑。この森を、海と表現した最初の人は凄いな。ピッタリなネーミングだ。

 このまま樹海に倒れてしまいそうな、吸い込まれそうな。何とも壮大な景色。

 ゆっくり見渡して、祠の前に立つ。

 余りに ゆっくりし過ぎて、皆はもう降り始めていた。

 何人かの男子が残っていて、総樹様の御神体を握り締めて、あろうことか山から投げ捨てようとしていた。

「ちょっと! 何してるの? 止めなさいよ!」

 瑞希が注意したら、ご神体をその場に投げ捨て逃げて行った。お供えやら、花やらも荒らされて倒れている。

「もう、何考えてるのよ!」

 と、ぶつぶつ文句を言いながら瑞希は整えて行く。御神体も両手で大事に持って、元の場所に戻した。

 そして改めて、両手で合掌をし眼を閉じ心の中で話し掛けた。

 総樹様、私はどうしたら良いのでしょうか。ミラルドの事。彼が何者なのか解らない。不安な事も有る。でも彼の事、愛しているんです。私は、彼の何を知っても平気でいられるのかな……葵ちゃんみたいに……

 思い悩んでいると

『大丈夫ですよ、そなたの思うままに受け止めれば良い』

 どこからともなく、声が聞こえて来た。

「えっ、何? 誰?」

 辺りを見回すが、誰もいない。

 もしかして、総樹様?

 ……有り難う御座います……

 空を見上げて、そう心の中で呟き、瑞希は湖へと降りて行った。


 自由時間を其々楽しみ、班ごとに夕飯を作り皆で食べる。

 お風呂に入り、その後はテントで過ごす。たわいの無い話しに花を咲かせ、十時頃、寝袋に入った。


 瑞希は、ゆっくりと瞼を開いた。あれ? 私、テントの中で寝た筈なのに、ここは?瑞希は、森の中の大きな樹の前に立っていた。

 何この樹、岩みたいに大きい。高さは天にも届く大きさだ。

「…………」

 ずっと上を見上げていた。

 瑞希の前に、光が浮かび上がった様に感じた。瑞希は視線を落とし、光を見つめる。

 その光は、徐々に人の形を取って行った。

 髪は白く長く、足首程も有り。たっぷりとした口髭と顎髭を蓄えている。

 物語に出てくる仙人みたい……


『娘。久しいな』

 えっ? 私、こんな人知らないけど……

『そうか、そなたはまだ我を知らぬか』

「あの、貴方は?」

『我の名は、総樹』

「昼間の声の、総樹様……」

『是は、今の時代より、およそ二千年前』

 総樹が両手をかざすと、小さな竜巻が沢山現れた。

 それ等は、それぞれに色が付いている。赤、黄、緑、青――――――虹色? でもその下に、黒い物が見え隠れする。

 まるで、他の色が黒い物を抑えている様な……


『是等は、我の下べ。人の一生は 我の瞬き一つ程の長さ。しかし、そなたは 此の瞬きの中には 収まり切らない』

 瑞希は、首をかしげる。

「あの、それって どう云う」

『あれは』

 総樹は虹色の竜巻を指しながら言う。

『目覚めれば。そなたの運命に関わる者を、滅ぼそうとする。今は我等の楔によって、閉じ込めている。が、其れも限りが有る。いずれは中の者が解き放たれるであろう』

『我等の力で収めるつもりでは有るが、力が及ばぬ時は、そなたの力を借りる事となる』

「えっ? 私の力って。ただの人間なんですが……」

『時が来れば、おのずと答えが出る』

『約束出来るか? 力を貸すと誓えば、そなたの過去も未来も守り行こう』

 そう言って、虹色の竜巻だけ残して全て消えた。

 抑えられていた黒い竜巻が、徐々に力を増し。そして、色の付いた物は全て弾け飛んだ。

 その中に佇む人影は、黒い光を宿し、邪魔に満ちていた。



 瑞希は、眠りから覚めた。

 まだ夜中だ。起き出している者はいない。

「今のは……何?」

 静寂の中の、自分が発した声がやけに大きく聞こえて、少し驚いた。

 今のは…何? 心の中でもう一度呟やいた。











次回。第一章の 最終話です。

銀牙は、復讐を実行するのか?辞めるのか?

こんなに、取っ散らかってて。話しは、まとまるのか?まとまら無いのか?

色々と疑問も、お有りでしょうが。

まぁ、成るようにしか 成らないと言う訳で…。宜しく、お待ち下さい!









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