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第0話 あるところに、こんな話がありました

あるところに、小さな雑貨屋がありました。

古い街並みの中でも、ひときわ古びた佇まいのその店は、いつからそこにあるのか誰も知りませんでした。色あせた看板、軋む扉、曇ったガラス。通りを行く人々の多くは、そこが今も営業しているのかさえ気づかずに通り過ぎていきました。

けれど、店先のショーウィンドーには、いつもひとりの男の子の人形が飾られていました。

学校の帰り道、その人形の前を通るたびに、ひとりの女の子は不思議な気持ちになるのでした。

人形がこちらを向いているわけではありません。むしろ、視線は少し斜め下を向いています。けれど、まるで"見つめられている"ような気がしてならないのです。胸の奥が、ざわざわと波立つような感覚。まるで、遠い昔に忘れてしまった何かを、人形が覚えているかのように。

最初は気のせいだと思いました。

でも、日が経つにつれて、その感覚は強くなっていきました。人形の前を通り過ぎるたび、足が少しだけ遅くなる。振り返りたくなる。ショーウィンドーに映る自分の姿が、まるで知らない誰かのように見える。

ある日、女の子はとうとう我慢できなくなりました。

冬の夕暮れ、空が薄紫色に染まる頃。女の子は震える手で、雑貨屋の古びた扉を開きました。真鍮の取っ手は冷たく、扉は重く、軋んだ音を立てて開きました。

店内は薄暗く、埃の匂いがしました。棚には色とりどりの小物が並んでいましたが、どれも時代を感じさせる古いものばかり。店の奥には、年老いた店主の女性が静かに座っていました。

「あの……」

女の子が震える声で人形のことを尋ねると、店主はゆっくりと顔を上げました。皺の深い顔に、穏やかな笑みが浮かびます。

「その子が、あなたを呼んだのですよ」

店主はそう言って、にっこり笑ったといいます。

その言葉の意味を、女の子は理解できませんでした。でも、なぜか、ああそうなんだ、と納得してしまったのです。まるで、ずっと前から知っていたことを思い出したかのように。

その日を境に、女の子は姿を見せなくなりました。

学校にも、家にも、戻ってきませんでした。誰も彼女がどこへ行ったのか知りませんでした。けれど、不思議なことに、探す人は誰もいなかったのです。まるで、最初からそんな女の子などいなかったかのように。

ただ、ショーウィンドーには新しい人形がひとつ増えていました。

それが、あの女の子にそっくりだったという噂もあります。同じ髪の色、同じ制服、同じ少し寂しげな表情。男の子の人形の隣に、まるで寄り添うように飾られていたそうです。

街の人々は噂しました。あの店の老婆は魔女なのだと。人形に魅入られた者は、人形にされてしまうのだと。だから、あの店には近づいてはいけないのだと。

やがて、その話は童話として語り継がれるようになりました。「人形に呼ばれた少女」の物語として。

……でも、この話には続きがあります。

童話として語られなかった"もうひとつの真実"が。

それは、誰も知らない少年の物語。量子と重力波と、二つの心が織りなす、科学と運命の物語。

これから語られるのは、童話の裏側に隠されていた、本当の物語です。

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