嫁、誕生 4
「……?」
ビデオカメラのスイッチに手をかけようとした研一が振り向けば、それまで何の反応も見せなかった心電図が『嫁』の心臓の鼓動を記録し始めていた。
「ま、まさか………」
研一は撮影中のビデオカメラをそのまま放置して、カプセルに駆け寄る。
心電図は『嫁』の心臓が規則正しく動いている事を示し、同じく脳波計も『嫁』の脳神経組織が活動を開始した事を告げていた。
「や、やった……ついにやったんだ……!」
長年の研究と努力がようやく実を結び、研一は踊り出したい気分だった。
だが、これで終わりではない。
むしろ、まだ始まってすらいないのだから。
研一は制御用コンソールのキーボードを操作し、カプセル内から培養液を排出する。
カプセル内の培養液が排水溝を通して排出されていくと、それまで培養液の中で海中のクラゲやクリオネのように浮かんでいた『嫁』の肉体が、重力に従ってカプセル内の床へと静かに落ちていった。
カプセル内の培養液が全て排出されたのを確認し、研一はキーボード操作でカプセルの蓋を開ける。
開け放たれたカプセルに研一が駆け寄ると、カプセルの中央に『嫁』がうずくまるような形で横たわっていた。
『嫁』の全身は培養液に浸かって黄緑色に濡れており、その女神のような美しさと豊満な肉体と合わさって、妖しげな色気を漂わせていた。
自らの『嫁』が放つ妖しい色気に唾を飲みながら、研一はうずくまる『嫁』に話しかける。
「や、やぁ……こんにちは」
「………」
緊張の入り交じった第一声。
しかし『嫁』は何の反応も返さない。
「……ううう」
すると『嫁』は唸り声のようなものを出し始める。
「……ん?な、何?どうしたの?」
『嫁』の反応に研一の頭は混乱気味だ。
そして………
「……オギャア!オギャア!」
「……えっ!?」
なんと『嫁』は、産まれたばかりの赤ん坊のように泣き始めたのだ。
「オギャア!オギャア!オギャア!」
全身が液体まみれで、かつ全裸という状態でうずくまりながら泣き声をあげるその姿は、まさに『赤ん坊』そのものだった。
しかし……『生まれたての赤ん坊のような行動』を『外見が20代くらいの女性』がやっているというのは、かなり奇妙な光景ではあった。
「オギャア!オギャア!オギャア!」
「…………」
赤ん坊のように泣き続ける『嫁』の姿に研一は呆気に取られるも、すぐに我に返ってビデオカメラに近寄る。
ビデオカメラがまだ録画撮影を続けている事を確認し、研一は実験記録を再開する。
「………『理想のお嫁ちゃん』製造実験、第10回。成功した。ついに私は『自分だけの理想のお嫁ちゃん』を造り出す事に成功したのだ」
研一は三脚に載せられたままのビデオカメラを自分の『嫁』に向ける。
「オギャア!オギャア!オギャア!」
ビデオカメラは今まさに赤ん坊のように産声を上げている研一の『嫁』の姿を、無機質に記録していく。
「ただ想定外な事に………どうもお嫁ちゃんの知能というか、精神のレベルは通常の人間における『新生児』と同じようだ。『たった今生まれたばかり』なのだから、当たり前と言えば当たり前ではあるが……」
予想外の結果となってしまい、研一の声には少なからず『困惑』が混ざっていたが………同時にそれ以上の『歓喜』がこもっていた。
「………だが、生きている!私はついに、長年の『夢』を実現させた!『私だけのお嫁ちゃん』を!この手で生み出したのだ!!この『お嫁ちゃん』には、旧約聖書における『最初の人間の女性』にちなみ、『イヴ』と名付けよう!『布良木イヴ』……う~ん♪実に、良い響きだぁ~♪」
「オギャア!オギャア!オギャア!」
『自分だけの嫁』を誕生させた事を喜ぶ研一のすぐ横で、『嫁』改めイヴは赤ん坊のように泣き続けるのだった………。
とりあえず、ここまで。
続きはまだ未完成ですので、次回投稿をお楽しみにしていて下さい。
m(_ _)m